青く光っている
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筑波のレースの後しばらくして、弓射くんから呼び出された。「今家の前なんだけど、ちょっと話せる?」家の前って、うちの家ってことだよな。とりあえずスニーカーを履いて(弓射くんのちょっとは時として10キロにもなる)玄関を出るといつもの装備の弓射くんがいた。
いつもの道を自転車を押しながら歩いて、弓射くんはなかなか話し出さない。私から話をふった方がいい感じかな。私と違って弓射くんは何も決まってないのに私を呼び出したりしない。きっと考えて考えて、結論を出した上で今ここにいる。昔は今程社交的じゃなくてもじもじしたりすることもあったのだけど、今じゃ見る影もなし。立ち姿の背景にドン!の書き文字が見える。初登場シーンはきっと、MTBでウィリー決める見開きだったに違いない。
「急にどうしたの」と問えば、沈黙はわずか。弓射くんは来年のロードのインハイ「も」優勝するって言った。とんでもない話だが、納得した。坂道くんと出会ったのなら、弓射くんにその道が……ロードの世界が開かれたとしてもおかしくない。むしろそれしかない。それに「私」が「追ってきた」今までの2年間を思えば、坂道くんがMTB編を経てやっぱり気が変わって……MTBに専念することはないだろう。
「オレがロードもやるって言ったら……名前ちゃんは応援してくれる?」
「そんなの当たり前でしょ!別にMTB乗ってるからって理由だけで応援してるわけじゃないよ」
「だよね」
「弓射くんだからだよ」
少し先を歩いてた弓射くんが振り返って笑った。ああ、多分、この掲載回の決めゴマはここだろうなと思った。……それから、自分が弱虫ペダルの登場人物な訳ないと思い直す。弓射くんは特別な人間だ。見ればわかる。出会った頃からずっと特別で、光って見えた。
少し歩いて追いついて、互いに無言でそのまま歩く。タイヤの回る音とカエルの声だけが響いている。
ロードにも手を出すって、今までなら弓射くんが 山の皇帝 なんて呼ばれて高校生MTB界隈じゃ敵なしだからって思ってただろう。今は違う。弓射くんが小野田くんに出会って、弓射くんの物語が動き出したのだ。やっと。今までの弓射くんの大活躍は……今年の筑波山のレースより前は、きっと回想で語られる彼の過去の偉業にすぎない。それはちょっと残念だけど、次の夏にそれを上回る展開が待っているのだろう。私はせいぜい名無しモブ……「弓射くんのMTB時代からの熱心な追っかけ」としてコースの脇で歓声をあげよう。そして見知らぬ沿道の観客に過去の彼の功績を、 山の皇帝 の名を刷り込もう。それだ。それしかない。
千葉は遠い。そしてこの世界で自転車に乗る男の子は結構多い。自転車乗りの高校生同士でチームを組んで試合に出れるし、インターハイともなれば観光地の道路を片側封鎖できる。人気のスポーツなのだ。そんな中である意味他人に興味がない、2年連続優勝者同士が巡り合うなんて、奇跡みたいだ。でもいくつもの歯車があって、それらが奇跡的に噛み合って、物語が動いている。私の友達は、やっぱり特別な存在だった。神様に愛された才能、努力する根性、見ず知らずの相手にも優しく、勝利を渇望する欲があって、物語を彩るに相応しい特別な姿かたちをしている。
私は、一緒に走ってあげられなかった。当たり前だ。私では、あんな危険だらけの種目に付き合えない。MTBに乗るのはひとりでできるし、弓射くんはひとりで走るのに慣れている。それもあって試合で強い。焦りを飼い慣らして自分のために、勝利のために頑張れる。ずっとそばにいたのに一緒に走ってあげられなかった、私の後悔なんて弓射くんの傷にもならない。
次の夏、小野田坂道はきっと前人未到の3連覇を成し遂げるだろう。坂道くんの2年間の戦いを追ってきた私は知っている。ロードレースは、敵を侮らず勝利を信じたものが勝つ。弱虫ペダルだけの特別ルールだ。よその世界はどうかなんて知らないが、そういうことになっている。
だから、MTBインハイ2連覇、負けなしの 山の皇帝 。弓射くんでは勝てない。間違いなく。いずれかのゼッケンなら取れるかもしれない。勝利以外の他の手段でもって、その渇望を癒すことはできるかもしれない。でも、総合優勝だけは無理だ。
でもそんなこと、弓射くんに言っても闘争心を煽るだけ。私は「総合優勝は無理だと思うよ」の言葉を飲み込んで、笑顔を作る。
「弓射くん、私来年はインハイ2回見にいくからね。両方で優勝、楽しみにしてるよ」
嘘つきの名前。裏切り者。弓射くんは何も言わずに笑った。強気な表情、それから勝負の目。見透かすような視線は、私の考えなんて知らないはずなのに。
「勝つよ。名前ちゃんに言われなくたって」
ああ、それでこそ雉くんだ。私は確信する。君が、君こそが。小野田坂道の3連覇を阻止するため、MTB界から送り込まれた最強のライバルだって。
いつもの道を自転車を押しながら歩いて、弓射くんはなかなか話し出さない。私から話をふった方がいい感じかな。私と違って弓射くんは何も決まってないのに私を呼び出したりしない。きっと考えて考えて、結論を出した上で今ここにいる。昔は今程社交的じゃなくてもじもじしたりすることもあったのだけど、今じゃ見る影もなし。立ち姿の背景にドン!の書き文字が見える。初登場シーンはきっと、MTBでウィリー決める見開きだったに違いない。
「急にどうしたの」と問えば、沈黙はわずか。弓射くんは来年のロードのインハイ「も」優勝するって言った。とんでもない話だが、納得した。坂道くんと出会ったのなら、弓射くんにその道が……ロードの世界が開かれたとしてもおかしくない。むしろそれしかない。それに「私」が「追ってきた」今までの2年間を思えば、坂道くんがMTB編を経てやっぱり気が変わって……MTBに専念することはないだろう。
「オレがロードもやるって言ったら……名前ちゃんは応援してくれる?」
「そんなの当たり前でしょ!別にMTB乗ってるからって理由だけで応援してるわけじゃないよ」
「だよね」
「弓射くんだからだよ」
少し先を歩いてた弓射くんが振り返って笑った。ああ、多分、この掲載回の決めゴマはここだろうなと思った。……それから、自分が弱虫ペダルの登場人物な訳ないと思い直す。弓射くんは特別な人間だ。見ればわかる。出会った頃からずっと特別で、光って見えた。
少し歩いて追いついて、互いに無言でそのまま歩く。タイヤの回る音とカエルの声だけが響いている。
ロードにも手を出すって、今までなら弓射くんが
千葉は遠い。そしてこの世界で自転車に乗る男の子は結構多い。自転車乗りの高校生同士でチームを組んで試合に出れるし、インターハイともなれば観光地の道路を片側封鎖できる。人気のスポーツなのだ。そんな中である意味他人に興味がない、2年連続優勝者同士が巡り合うなんて、奇跡みたいだ。でもいくつもの歯車があって、それらが奇跡的に噛み合って、物語が動いている。私の友達は、やっぱり特別な存在だった。神様に愛された才能、努力する根性、見ず知らずの相手にも優しく、勝利を渇望する欲があって、物語を彩るに相応しい特別な姿かたちをしている。
私は、一緒に走ってあげられなかった。当たり前だ。私では、あんな危険だらけの種目に付き合えない。MTBに乗るのはひとりでできるし、弓射くんはひとりで走るのに慣れている。それもあって試合で強い。焦りを飼い慣らして自分のために、勝利のために頑張れる。ずっとそばにいたのに一緒に走ってあげられなかった、私の後悔なんて弓射くんの傷にもならない。
次の夏、小野田坂道はきっと前人未到の3連覇を成し遂げるだろう。坂道くんの2年間の戦いを追ってきた私は知っている。ロードレースは、敵を侮らず勝利を信じたものが勝つ。弱虫ペダルだけの特別ルールだ。よその世界はどうかなんて知らないが、そういうことになっている。
だから、MTBインハイ2連覇、負けなしの
でもそんなこと、弓射くんに言っても闘争心を煽るだけ。私は「総合優勝は無理だと思うよ」の言葉を飲み込んで、笑顔を作る。
「弓射くん、私来年はインハイ2回見にいくからね。両方で優勝、楽しみにしてるよ」
嘘つきの名前。裏切り者。弓射くんは何も言わずに笑った。強気な表情、それから勝負の目。見透かすような視線は、私の考えなんて知らないはずなのに。
「勝つよ。名前ちゃんに言われなくたって」
ああ、それでこそ雉くんだ。私は確信する。君が、君こそが。小野田坂道の3連覇を阻止するため、MTB界から送り込まれた最強のライバルだって。
