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バレンタイン当日に少し早いが、荒北さんと会う約束をしていた。荒北さんの部屋……一人暮らしの部屋。さすが静岡県、窓から見える富士山がとにかく大きい。
バレンタインのお楽しみは、やっぱりチョコレート。今年は大学生になったから、試験終わってすぐに催事バイトを入れた。バイトの休憩時間に試食したり、色々買ってみて、1番美味しかったやつを選んだ。高校生の時とはひと味違う、憧れの海外ショコラトリーチョコ。
「自分で色々買ったり食べたり」がメインイベントなのは当然荒北さんにバレている。べ、別に先輩へのチョコがおまけというわけでは……ちゃんとこっちもメインイベントですよ。
それで、ふたりで布団に入って、会ってなかった期間の話なんかして。2月もまだ大学に行くって荒北さんが言って、それだけはちょっとがっかりだった。私の方はとっくに試験も終わって、自由な春休みを満喫している。正直暇だ。
荒北さんは2月も大学に行くってことは、そのまま春はレース三昧で、大忙しの春休みになるだろう。放ったらかし確定。はーあ……だめだめ、そういう「めんどくせェ」彼女にはならないって決めたんだから。
私がウンウン唸り始めたのが気になるのか、荒北さんは私の髪を触ったり、顔をつついたりしてきた。「構って」?そういう意図のカワイイ仕草じゃないと思う。だって、荒北さんだから。
「名前」
「ちょっと荒北さん!私今考え事してるから、邪魔しないで!」
ちょいちょいと頬を突かれるので、布団を引っ張り上げて顔を隠す。でもでも……春休みだし?私も大学生になったし?せめて日帰り旅行くらい……遠距離恋愛の彼女って大学じゃ存在感薄いし、先輩が言い寄られてても助けに行けないからだからせめて旅行とか行って、先輩のSNSアイコンをそれらしいものに変えて……あーあ、私も頑張って洋南行けばよかった……二月も大学行くってことは、チョコとかもらっちゃってさ、「試合頑張ってね♡」とか言われちゃってさ……ぐるぐる思い悩んだ末、私の口から出たのは「めんどくせェ」と言われそうな一言。
「……荒北さん、今年もチョコいっぱいもらうんでしょ。あーやだなー。先輩、名前にもらったやつ見せないでね。落ち込むから……」
「ねえよ、そんなモン」
「気使わなくていいんですよ、先輩」
「……マジでないっつーの」
重いというか、真剣めな声のトーン。このトーンの時はいつも、大体「中レベル」くらいの大事な話をされるのだ。慌てて掛け布団から顔を出す。先輩は何とも言えない顔で私を見ていた。え?これは、期待していいやつ?
「えっ!名前がいるから、本命断ってくれるってことですか!」
「今年も普通にゼロ個だっつの!ちげーな、名前ちゃんで一個か」
……フツーニゼロコ?理解した瞬間、掛け布団を跳ね除けて起き上がる。
「捲んな!バァカ!寒ィだろーが!」
「嘘でしょお!?なんで?去年はッ?」
「なんでって……去年も変わらず一個だわ」
「いち!?その一個あげたの、どこの誰!?」
「名前ちゃん」
「私かぁ……」
……確かにあげました。大学入試の前に、先輩がわざわざ会いにきてくれて、チョコあげたわ……大雪の箱根にわざわざ来てくれて、ちょっと少女漫画ぽくて普通にときめいた。
「先輩、ほ、本当に……貰わなかったんですか?なんで?」
「ア?もらわなかったっつーか、もらえなかったっつーか……」
「名前が嫉妬するから黙ってるんですか?」
「……え、嫉妬すんの?」
「ど、どちらかと言えば……?でもね、本当に、名前に気い使わなくていいですから。先輩がすっごくモテるのなんて……名前わかってますから」
「どちらかと言えば」なんて言ってはみたが、正直なところ、結構嫉妬する方だと思う。だから、こんなに不安なんですよ。半泣きで先輩の服を掴む。冬用のスウェット。
息を吸う。ここで泣いたらますます「めんどくせェ」彼女になるので、覚悟を決めた。
「さあ言ってください、受け止めますから!」
荒北さんはものすごく言いたいことのありそうな顔でこちらを見下ろした。いつも大きい声が出る口が、今日は小さく動いて。
「……から」
「え?なんですか。よく聞こえな」
「普通に大学で、モテねーから、つったんだヨ!!!!」
「えっ」
「ったく、何が嬉しくて態々ンなこと言わなきゃなんねーんだよ」
先輩は鼻息荒く吠えた後、こっわーい顔で私を見た。それ、絶対彼女に向ける顔じゃない。そのまま「そこ、正座ァ!」と布団の上を指差され、私は半ば反射で「ハイ!」と返事してから正座した。強豪運動部時代に身についた上下関係は未だに染み付いている。2個上の先輩というのは偉大で尊敬できる憧れの存在であり、それと同時に、何年経ってもものすごく恐ろしい。
荒北さんも掛け布団を完全に避けてしまって、それから正座した。私は困惑しまくりのまま、身振り手振り交えて弁明する。
「え?いやだって、マジのやつ?え?おかしいでしょう、そんなの……!もしかして学部の男女比、ゼロジューとかですか?」
「流石にニーハチくらいじゃねぇの」
「に、2割の女性は皆荒北さんよりカッコいい彼氏をお持ちとか?いや、そうとしか考えられない……」
私の取り乱しようがだんだんおもしろくなってきたのか、荒北さんはニヤニヤこちらを眺めている。早々に正座を崩して、「さっさと認めろよ、物好き」と宣った。も、物好き……
「だ、だって……高校の時バカほどモテてたじゃないですか」
「あれはァ……部活補正、つーか……新開とかのおこぼれだろ、義理ってやつ」
「バッ……殺されますよ!忘れたんですか!荒北さん、めちゃくちゃ本命もらってたくせに!知ってるんですよ、私!1年の時、先輩が校舎裏に呼び出されて告白されてるの見たもん!」
「名前ちゃんがオレに彼女できたと思って泣いたやつネー」
「……や、やっぱり忘れてください!」
「どっちだヨ」
墓穴掘った。恥ずっ!そういや、そんなこともあった。私も1年生でピュアだったんですよ、あの頃は……卒業目前の憧れの先輩、部活も引退してカノジョ作って遠くに行っちゃうんじゃないかって……勘違いしたわけ!「卒業したら二度と会えない」くらいに思ってたから。寂しくもなるでしょう!
「わかった、大学の人達みんな知らないんだ……高校んときみたいに自転車乗ってるとこ見てないから……かわいそう、乗ってる時の先輩がいちばんカッコいいのに……っ」
「……名前ちゃんは自転車パワーに期待しすぎなんだよ」
「だって、先輩の洋南ジャージ、本当にすごいのに……あんなにかっこいいのに!」
「あーハイハイ、わかったわかった。いっぱい褒めてもらって満足したわ。わかったからもう寝な」
「わかってない!世界の損失ですよ!」
よくない、よくないんだけど……しかし、ちょっと待てよ。冷静になってみれば、「よかった」のかも。
確かに荒北さんは顔は怖いし、口悪いし、すぐ怒るし、意地悪言うし、オヒメサマ扱いとかできないし、百貨店チョコのありがたみもよくわかってないし。でも、たまーに優しいし、尊敬できるし、後輩からは慕われるタイプだし、動物には優しいし、笑うとかっこいいし、それに彼氏になってからは、ちょっとは甘いところもあって……それに、それに……
告白を受け入れてくれた日、大雪の中会いに来てくれた日、初めてキスした日、それから、それから……走馬灯のように今までの思い出が巡る。
結論。
「やっぱモテなくていいです……」
「なんだそりゃ」
「お願いですから、一生名前以外からモテないままでいてください」
「名前ちゃん、顔真っ赤だけど。何考えてんの」
「うるさ!先輩うるさ!私もう寝ます!」
荒北さんはハイハイって布団を捲ってくれて、誘導されるままにそこに潜る。布団の中に溜まっていた暖かい空気はすっかり抜けてしまっていた。足先が冷たい。
「せ、先輩寒くないですか」
「別に。名前ちゃんは」
「……寒い」
期待の混じった声になったのは仕方ないだろう。試験期間で全然会えなくて、最後に会ったのは年始だ。無意味に心臓がうるさい。無意味だ。だって、いや、そんな期待するようなこと……何も。きょ、今日はチョコ渡しに来ただけだし!
「……じゃ、くっついて寝るかア」
微妙な沈黙のあと、背中に荒北さんの体温が。気まずい。顔は絶対赤いし、なんだか耳まで熱い。見られるわけにいかない。再び掛け布団に顔を埋めると、呆れたような笑い声が降ってきた。ひどい!もうこうなったら一生死ぬまでモテない呪いをかけてやる……!
バレンタインのお楽しみは、やっぱりチョコレート。今年は大学生になったから、試験終わってすぐに催事バイトを入れた。バイトの休憩時間に試食したり、色々買ってみて、1番美味しかったやつを選んだ。高校生の時とはひと味違う、憧れの海外ショコラトリーチョコ。
「自分で色々買ったり食べたり」がメインイベントなのは当然荒北さんにバレている。べ、別に先輩へのチョコがおまけというわけでは……ちゃんとこっちもメインイベントですよ。
それで、ふたりで布団に入って、会ってなかった期間の話なんかして。2月もまだ大学に行くって荒北さんが言って、それだけはちょっとがっかりだった。私の方はとっくに試験も終わって、自由な春休みを満喫している。正直暇だ。
荒北さんは2月も大学に行くってことは、そのまま春はレース三昧で、大忙しの春休みになるだろう。放ったらかし確定。はーあ……だめだめ、そういう「めんどくせェ」彼女にはならないって決めたんだから。
私がウンウン唸り始めたのが気になるのか、荒北さんは私の髪を触ったり、顔をつついたりしてきた。「構って」?そういう意図のカワイイ仕草じゃないと思う。だって、荒北さんだから。
「名前」
「ちょっと荒北さん!私今考え事してるから、邪魔しないで!」
ちょいちょいと頬を突かれるので、布団を引っ張り上げて顔を隠す。でもでも……春休みだし?私も大学生になったし?せめて日帰り旅行くらい……遠距離恋愛の彼女って大学じゃ存在感薄いし、先輩が言い寄られてても助けに行けないからだからせめて旅行とか行って、先輩のSNSアイコンをそれらしいものに変えて……あーあ、私も頑張って洋南行けばよかった……二月も大学行くってことは、チョコとかもらっちゃってさ、「試合頑張ってね♡」とか言われちゃってさ……ぐるぐる思い悩んだ末、私の口から出たのは「めんどくせェ」と言われそうな一言。
「……荒北さん、今年もチョコいっぱいもらうんでしょ。あーやだなー。先輩、名前にもらったやつ見せないでね。落ち込むから……」
「ねえよ、そんなモン」
「気使わなくていいんですよ、先輩」
「……マジでないっつーの」
重いというか、真剣めな声のトーン。このトーンの時はいつも、大体「中レベル」くらいの大事な話をされるのだ。慌てて掛け布団から顔を出す。先輩は何とも言えない顔で私を見ていた。え?これは、期待していいやつ?
「えっ!名前がいるから、本命断ってくれるってことですか!」
「今年も普通にゼロ個だっつの!ちげーな、名前ちゃんで一個か」
……フツーニゼロコ?理解した瞬間、掛け布団を跳ね除けて起き上がる。
「捲んな!バァカ!寒ィだろーが!」
「嘘でしょお!?なんで?去年はッ?」
「なんでって……去年も変わらず一個だわ」
「いち!?その一個あげたの、どこの誰!?」
「名前ちゃん」
「私かぁ……」
……確かにあげました。大学入試の前に、先輩がわざわざ会いにきてくれて、チョコあげたわ……大雪の箱根にわざわざ来てくれて、ちょっと少女漫画ぽくて普通にときめいた。
「先輩、ほ、本当に……貰わなかったんですか?なんで?」
「ア?もらわなかったっつーか、もらえなかったっつーか……」
「名前が嫉妬するから黙ってるんですか?」
「……え、嫉妬すんの?」
「ど、どちらかと言えば……?でもね、本当に、名前に気い使わなくていいですから。先輩がすっごくモテるのなんて……名前わかってますから」
「どちらかと言えば」なんて言ってはみたが、正直なところ、結構嫉妬する方だと思う。だから、こんなに不安なんですよ。半泣きで先輩の服を掴む。冬用のスウェット。
息を吸う。ここで泣いたらますます「めんどくせェ」彼女になるので、覚悟を決めた。
「さあ言ってください、受け止めますから!」
荒北さんはものすごく言いたいことのありそうな顔でこちらを見下ろした。いつも大きい声が出る口が、今日は小さく動いて。
「……から」
「え?なんですか。よく聞こえな」
「普通に大学で、モテねーから、つったんだヨ!!!!」
「えっ」
「ったく、何が嬉しくて態々ンなこと言わなきゃなんねーんだよ」
先輩は鼻息荒く吠えた後、こっわーい顔で私を見た。それ、絶対彼女に向ける顔じゃない。そのまま「そこ、正座ァ!」と布団の上を指差され、私は半ば反射で「ハイ!」と返事してから正座した。強豪運動部時代に身についた上下関係は未だに染み付いている。2個上の先輩というのは偉大で尊敬できる憧れの存在であり、それと同時に、何年経ってもものすごく恐ろしい。
荒北さんも掛け布団を完全に避けてしまって、それから正座した。私は困惑しまくりのまま、身振り手振り交えて弁明する。
「え?いやだって、マジのやつ?え?おかしいでしょう、そんなの……!もしかして学部の男女比、ゼロジューとかですか?」
「流石にニーハチくらいじゃねぇの」
「に、2割の女性は皆荒北さんよりカッコいい彼氏をお持ちとか?いや、そうとしか考えられない……」
私の取り乱しようがだんだんおもしろくなってきたのか、荒北さんはニヤニヤこちらを眺めている。早々に正座を崩して、「さっさと認めろよ、物好き」と宣った。も、物好き……
「だ、だって……高校の時バカほどモテてたじゃないですか」
「あれはァ……部活補正、つーか……新開とかのおこぼれだろ、義理ってやつ」
「バッ……殺されますよ!忘れたんですか!荒北さん、めちゃくちゃ本命もらってたくせに!知ってるんですよ、私!1年の時、先輩が校舎裏に呼び出されて告白されてるの見たもん!」
「名前ちゃんがオレに彼女できたと思って泣いたやつネー」
「……や、やっぱり忘れてください!」
「どっちだヨ」
墓穴掘った。恥ずっ!そういや、そんなこともあった。私も1年生でピュアだったんですよ、あの頃は……卒業目前の憧れの先輩、部活も引退してカノジョ作って遠くに行っちゃうんじゃないかって……勘違いしたわけ!「卒業したら二度と会えない」くらいに思ってたから。寂しくもなるでしょう!
「わかった、大学の人達みんな知らないんだ……高校んときみたいに自転車乗ってるとこ見てないから……かわいそう、乗ってる時の先輩がいちばんカッコいいのに……っ」
「……名前ちゃんは自転車パワーに期待しすぎなんだよ」
「だって、先輩の洋南ジャージ、本当にすごいのに……あんなにかっこいいのに!」
「あーハイハイ、わかったわかった。いっぱい褒めてもらって満足したわ。わかったからもう寝な」
「わかってない!世界の損失ですよ!」
よくない、よくないんだけど……しかし、ちょっと待てよ。冷静になってみれば、「よかった」のかも。
確かに荒北さんは顔は怖いし、口悪いし、すぐ怒るし、意地悪言うし、オヒメサマ扱いとかできないし、百貨店チョコのありがたみもよくわかってないし。でも、たまーに優しいし、尊敬できるし、後輩からは慕われるタイプだし、動物には優しいし、笑うとかっこいいし、それに彼氏になってからは、ちょっとは甘いところもあって……それに、それに……
告白を受け入れてくれた日、大雪の中会いに来てくれた日、初めてキスした日、それから、それから……走馬灯のように今までの思い出が巡る。
結論。
「やっぱモテなくていいです……」
「なんだそりゃ」
「お願いですから、一生名前以外からモテないままでいてください」
「名前ちゃん、顔真っ赤だけど。何考えてんの」
「うるさ!先輩うるさ!私もう寝ます!」
荒北さんはハイハイって布団を捲ってくれて、誘導されるままにそこに潜る。布団の中に溜まっていた暖かい空気はすっかり抜けてしまっていた。足先が冷たい。
「せ、先輩寒くないですか」
「別に。名前ちゃんは」
「……寒い」
期待の混じった声になったのは仕方ないだろう。試験期間で全然会えなくて、最後に会ったのは年始だ。無意味に心臓がうるさい。無意味だ。だって、いや、そんな期待するようなこと……何も。きょ、今日はチョコ渡しに来ただけだし!
「……じゃ、くっついて寝るかア」
微妙な沈黙のあと、背中に荒北さんの体温が。気まずい。顔は絶対赤いし、なんだか耳まで熱い。見られるわけにいかない。再び掛け布団に顔を埋めると、呆れたような笑い声が降ってきた。ひどい!もうこうなったら一生死ぬまでモテない呪いをかけてやる……!
