去る春、君の声だけが在る2
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道路規制が近づき、緊張も高まる中。やってきた車に「田所パン」の文字。あっ!もしや、総北のたどころっち先輩!と思ったら、後部座席の窓が開いて、涙が出るほど懐かしい先輩の声がした。
「苗字!」
「荒北さん!?」
後部座席の窓から身を乗り出し目も口もでっかく開けたその姿……間違いなく我らが!我らが!我らが先輩!えーっ!荒北さんだ!
お顔を見るのは退寮日以来!座ってた地べたから飛び上がるほど嬉しい。ぴょんぴょんと飛んで手も振った。
「本物!本物だ!やったー!」
「偽物に会ったことあんのかよ」
「ないです!」
車が速度を落としてくれたので、駆け寄った。こんな路上で止まってもらうわけにはいかないので、そのまま走って並走する。
車に乗っていたのは、荒北さん入れて4人。他はやっぱりというか、卒業した総北の先輩達だった。荒北さん、超アウェーじゃん。ご挨拶しとこう。
「お疲れ様です!箱根学園2年の苗字です!荒北さんの後輩です!」
「後輩には悪いが、センパイ借りてるぜ」
そう言ってニヤっと笑ったのがドライバー、たどころっち先輩でしょ、それから助手席の金城キャプテン。荒北さんの隣に、気まずそうなピークスパイダーのマキチャン!
「体調どうだ?バテてねーかヨ」
「私の!?それよりみんな荒北さんのこと、待ってたんですよ!この後絶対トップで来るんで!ゴールは頼みます!」
「そういうのは現役生がやんだよ!」
「やだやだやだ先輩来てくれるの、みんなで楽しみにしてたのにー!」
「ウッセ!どーせ行っても嫌がられるだけだろ!」
「そんなことないっ!大歓迎です!黒田さんがね!きっと会いたかったーって」
『一般車、走行してください!』
駄々をこねるも、すぐに審判車が追いついてきてさっさと走れと催促される。しかし運転手のたどころっち先輩も、助手席の金城キャプテンもあまりこたえていない様子。肝が据わっている。さすがレジェンド。
審判車が来たってことは、道路規制が始まって、選手ももうすぐ来るってことだ。
「会えて嬉しかったです。規制始まっちゃうから、これで」
「もう行ってください」の意味で走る速度を緩めようとした時、荒北さんの腕が伸びてきた。手荒く肩を叩かれる。
「諦めんなよ」
「え?」
「最後までだ。ちゃんと見届けろ」
静かで怖い、先輩の声。私はぎゅうと拳を握る。諦める?この局面で?そう見える顔をしてたなら、今教えてもらってよかった。
私は、結局葦木場さんが山岳でどんな激戦を繰り広げたのか、後方に流れた悠人に何があったのか、知らないけど。ふたりが最後に出られないっていうなら、残る人たちが出ないといけない。黒田さんと真波。多分、部内で一二を争う諦めの悪さ。
私は口角を上げて、にっこり笑顔を作って見せて。
「そんなの当然ですよ!荒北さん、私が、怖くて、逃げ出すとでも?」
「ハッ頼もしいこって」
荒北さんの嬉しいような困ったような、何かを飲み込むような、表情。ハッとする。もしかしてこの人たち、山岳見てから来てる?それで、こんなにギリギリに走行してるの?トップは手嶋純太だった。葦木場さんが僅差で通って、3位とタイムが開いていたから多分ふたりで出た……と思われる。もしかして。
「荒北、時間切れだ」
「わーってるよ!」
「あ、ちょっと荒北さん!!マジで頼みますよ!上!お願いします!私が行けない分!」
「チッ……」
「荒北さぁん!」
だってまだ言質とってない!
荒北さんが私の顔をじっと見た。何を?別に、先輩が卒業した5ヶ月前と大して変わらないはずだ。ひいひい走って酷い顔だろう。でも、荒北さんは嬉しそうに笑って。
「わーったよ!上は任せな」
「荒北さぁーん!」
「敏腕マネージャー、なったんだろ!情けねえ顔すんなよ、名前チャン!」
「ハイ!」
普通に泣いた。まだレースも終わってないのに。大好きな先輩、頼もしくて、怖くて、優しい先輩。
最後は後ろの審判車にかなり急かされて、ほぼ懇願するような念押しだった。でも「わかったよ」って言ってくれた。尊敬する先輩の「わかった」ほど頼もしいものはない。
私は走るのをやめて、道の脇に逸れる。膝に手をついて、息を整えて。車……せっかく会えて話したいこといっぱいあったのに、全然会話できなかったな……しかしなんでこんな規制ギリギリに、たどころっち先輩の車で……もうちょっと余裕もって来てくれれば……
走って、叫んで、ゼエハアしながら車を見送る。今日は見送ってばっかりだ。これから選手も見送ることになるし……結構センチメンタルな気持ちになるので来年3日目はここ嫌だな。3日目だけでもゴールがいい……
それにしても、にぎやかな大学生御一行。いいなあ、夏休みにみんなでインハイ応援……楽しそうだったな。
……荒北さん大学行っても友達いるんだなと、失礼なことを考える。いるか。呉南の待宮さんもおんなじ大学らしい。本当に、自転車の上で築かれる友情の厚いことよ。
それに大学生になったら離れ離れって思ってたけど、総北の先輩達は仲良さそうだった。なーんだ、って感じだ。みんな進学先が違って、巻島さんなんてイギリスに住んでいるというのに。
田所パンの車はどんどん小さくなっていく。毎日一緒にいなくても続く友情があり、新しく生まれる友情もある。私たちも、いつか今年のインハイも来年のインハイも終わって、その先も仲良しでいれたらいいなと思った。
いやしかし、その前に来年のインターハイ、それより前に今日のゴール。汗を拭きながらのろのろ歩いて、待機場所に戻る。
荒北さんが来てくれて、本当によかった。ゴールしてきた部員を迎えるなら、きっと気心知れた大好きな先輩がいい。どんな結果でも「頑張ったな」ってその成果を褒めてもらえたら、それだけで。だって、黒田さんは荒北さんに憧れて、追いつきたくて、負けたくなくてここまで来た。戦績綺麗なままこの夏を迎えたのは、自分が憧れる先輩たちの正しさを証明するためだ。
「ちょっとちょっと!『どんな結果でも』って箱根学園が負けるみたいじゃん!」
はっとして自分の頬を叩く。弱気になってる場合じゃない。
御堂筋は岸神を切り離し、総北だって山岳で手嶋が落ちて、ついさっき鳴子も……手札の条件では同じようなもの。ここに来た時にどんな戦況かはわからないけど、残り3キロ、限界決死の走りをする選手の応援をするのが私の……敏腕マネージャーを目指す、私の役目なんだから。
「苗字!」
「荒北さん!?」
後部座席の窓から身を乗り出し目も口もでっかく開けたその姿……間違いなく我らが!我らが!我らが先輩!えーっ!荒北さんだ!
お顔を見るのは退寮日以来!座ってた地べたから飛び上がるほど嬉しい。ぴょんぴょんと飛んで手も振った。
「本物!本物だ!やったー!」
「偽物に会ったことあんのかよ」
「ないです!」
車が速度を落としてくれたので、駆け寄った。こんな路上で止まってもらうわけにはいかないので、そのまま走って並走する。
車に乗っていたのは、荒北さん入れて4人。他はやっぱりというか、卒業した総北の先輩達だった。荒北さん、超アウェーじゃん。ご挨拶しとこう。
「お疲れ様です!箱根学園2年の苗字です!荒北さんの後輩です!」
「後輩には悪いが、センパイ借りてるぜ」
そう言ってニヤっと笑ったのがドライバー、たどころっち先輩でしょ、それから助手席の金城キャプテン。荒北さんの隣に、気まずそうなピークスパイダーのマキチャン!
「体調どうだ?バテてねーかヨ」
「私の!?それよりみんな荒北さんのこと、待ってたんですよ!この後絶対トップで来るんで!ゴールは頼みます!」
「そういうのは現役生がやんだよ!」
「やだやだやだ先輩来てくれるの、みんなで楽しみにしてたのにー!」
「ウッセ!どーせ行っても嫌がられるだけだろ!」
「そんなことないっ!大歓迎です!黒田さんがね!きっと会いたかったーって」
『一般車、走行してください!』
駄々をこねるも、すぐに審判車が追いついてきてさっさと走れと催促される。しかし運転手のたどころっち先輩も、助手席の金城キャプテンもあまりこたえていない様子。肝が据わっている。さすがレジェンド。
審判車が来たってことは、道路規制が始まって、選手ももうすぐ来るってことだ。
「会えて嬉しかったです。規制始まっちゃうから、これで」
「もう行ってください」の意味で走る速度を緩めようとした時、荒北さんの腕が伸びてきた。手荒く肩を叩かれる。
「諦めんなよ」
「え?」
「最後までだ。ちゃんと見届けろ」
静かで怖い、先輩の声。私はぎゅうと拳を握る。諦める?この局面で?そう見える顔をしてたなら、今教えてもらってよかった。
私は、結局葦木場さんが山岳でどんな激戦を繰り広げたのか、後方に流れた悠人に何があったのか、知らないけど。ふたりが最後に出られないっていうなら、残る人たちが出ないといけない。黒田さんと真波。多分、部内で一二を争う諦めの悪さ。
私は口角を上げて、にっこり笑顔を作って見せて。
「そんなの当然ですよ!荒北さん、私が、怖くて、逃げ出すとでも?」
「ハッ頼もしいこって」
荒北さんの嬉しいような困ったような、何かを飲み込むような、表情。ハッとする。もしかしてこの人たち、山岳見てから来てる?それで、こんなにギリギリに走行してるの?トップは手嶋純太だった。葦木場さんが僅差で通って、3位とタイムが開いていたから多分ふたりで出た……と思われる。もしかして。
「荒北、時間切れだ」
「わーってるよ!」
「あ、ちょっと荒北さん!!マジで頼みますよ!上!お願いします!私が行けない分!」
「チッ……」
「荒北さぁん!」
だってまだ言質とってない!
荒北さんが私の顔をじっと見た。何を?別に、先輩が卒業した5ヶ月前と大して変わらないはずだ。ひいひい走って酷い顔だろう。でも、荒北さんは嬉しそうに笑って。
「わーったよ!上は任せな」
「荒北さぁーん!」
「敏腕マネージャー、なったんだろ!情けねえ顔すんなよ、名前チャン!」
「ハイ!」
普通に泣いた。まだレースも終わってないのに。大好きな先輩、頼もしくて、怖くて、優しい先輩。
最後は後ろの審判車にかなり急かされて、ほぼ懇願するような念押しだった。でも「わかったよ」って言ってくれた。尊敬する先輩の「わかった」ほど頼もしいものはない。
私は走るのをやめて、道の脇に逸れる。膝に手をついて、息を整えて。車……せっかく会えて話したいこといっぱいあったのに、全然会話できなかったな……しかしなんでこんな規制ギリギリに、たどころっち先輩の車で……もうちょっと余裕もって来てくれれば……
走って、叫んで、ゼエハアしながら車を見送る。今日は見送ってばっかりだ。これから選手も見送ることになるし……結構センチメンタルな気持ちになるので来年3日目はここ嫌だな。3日目だけでもゴールがいい……
それにしても、にぎやかな大学生御一行。いいなあ、夏休みにみんなでインハイ応援……楽しそうだったな。
……荒北さん大学行っても友達いるんだなと、失礼なことを考える。いるか。呉南の待宮さんもおんなじ大学らしい。本当に、自転車の上で築かれる友情の厚いことよ。
それに大学生になったら離れ離れって思ってたけど、総北の先輩達は仲良さそうだった。なーんだ、って感じだ。みんな進学先が違って、巻島さんなんてイギリスに住んでいるというのに。
田所パンの車はどんどん小さくなっていく。毎日一緒にいなくても続く友情があり、新しく生まれる友情もある。私たちも、いつか今年のインハイも来年のインハイも終わって、その先も仲良しでいれたらいいなと思った。
いやしかし、その前に来年のインターハイ、それより前に今日のゴール。汗を拭きながらのろのろ歩いて、待機場所に戻る。
荒北さんが来てくれて、本当によかった。ゴールしてきた部員を迎えるなら、きっと気心知れた大好きな先輩がいい。どんな結果でも「頑張ったな」ってその成果を褒めてもらえたら、それだけで。だって、黒田さんは荒北さんに憧れて、追いつきたくて、負けたくなくてここまで来た。戦績綺麗なままこの夏を迎えたのは、自分が憧れる先輩たちの正しさを証明するためだ。
「ちょっとちょっと!『どんな結果でも』って箱根学園が負けるみたいじゃん!」
はっとして自分の頬を叩く。弱気になってる場合じゃない。
御堂筋は岸神を切り離し、総北だって山岳で手嶋が落ちて、ついさっき鳴子も……手札の条件では同じようなもの。ここに来た時にどんな戦況かはわからないけど、残り3キロ、限界決死の走りをする選手の応援をするのが私の……敏腕マネージャーを目指す、私の役目なんだから。
