去る春、君の声だけが在る2
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草津町手前の九十九折りを超えて、「最後の」2.5キロに至った。
そこは、インターハイ最後の、平坦2.5キロ。学年チャットが動く。あー、ついに来ちゃったな。もっとしんみりその時を迎えるはずが、やいのやいの騒がしい学年チャットのせいで、情緒が台無しだ。まあ、ここでひとりシクシク泣くわけにもいかないから、いいんだけど……
学年チャットは黒田さんの作戦が無事発動したことで盛り上がりを見せる。入念にシミュレーションした黒田さんが取ったのは、この距離をエーススプリンターに引かせるという選択。
これは流石のレイさんも「黒田さんにしかできない奇策だ」と唸っていた。ライバル達がが早々に切った、スプリンターのカードを残しておいた意味……ここで生きるか、それとも。
「作戦決行だにゃー」
「なお他校を出し抜き、無事成功した模様」
「そりゃココ休めだからJK」
「黒田さんの立案がJKだったことある?」
「ないにゃ〜」
「常に奇策」
「何食ったらあの作戦思いつくの?」
「寮のメシもりもり」
「葦木場さんってまだ背伸びてる?」
「しらん 自称202センチだから」
「3食おんなじもの食ってるのになぜ、オレは頭脳も身長も恵まれないのですか?」
「泣くなよ」
「現地おれ、主将がガンガンに引いて去っていく後ろ姿で流石に爆笑」
「笑ってる場合か サポートしろや」
「一瞬で去ってったんだよ!目から汗が止まらん」
「泣くなよ」
「2日走って、今日も登ってきたってのに、まだ引く!?ヤバ」
「クライマーおれ、マジで自信無くすぜ」
「この差ってなんですか?」
「そりゃ主将の意地でしょ」
「史上初のスプリンター主将!」
「最初大反対だったのにね 今やコレよ」
「スプリンターは最後に指示を出せない〜だろ」
「今のこの人の前でそれ言える?」
「無理にゃ〜ん」
「まさか最後ここで来るとはね」
「ここの標高ご存知?山だぜ」
「意地!意地!意地!!って感じ」
「終わった!700メートル」
「ななひゃく!?」
「エグ!」
「エグすぎ負けました」
「その距離でその差つける人おるん?」
「おる うちのキャプテン」
朝のレース計画を聞いた時点で分かっていた、まさに計画通りの結末だった。ここまで黒田さんの思惑通りに展開していることには驚かされるが、無事に達成されたことには安堵する。
3年間の道のりと比べて、この2.5キロはあまりにも短すぎるが、黒田さんが参謀として「最後の1枚のカードを切るなら」、そして友人として「花道とするなら」ここしか無いと判断したのなら、これ以上ない舞台だった。そしてその案を受け入れ、本人がここが最後と決めて走ったのなら、後輩にできるのはその成果を喜ぶことだけ。
画面から顔を上げて、選手が走る遠くの道を思う。ここまで来るのは、まだまだ先。
しかし700メートルの差はこの後どれだけのアドバンテージになるだろう。ゴールを狙う選手達が最終盤の局面を捉えるにはまだ早い。
そして、チームから離れた選手も、自身の最終局面を選択しなければならない。リタイヤか、あるいは単独でゴールを目指すかの2択。
泉田さんはきっと、ひとりで山を登るだろうと思った。それが箱根学園史上初のスプリンター主将に相応しい姿だと信じているだろうから。……こんなこと言って、力尽きてたらどうしよう。道の上で力尽きても連れて帰るなんて啖呵切ったけど、あの辺の救護テントで待機してる部員に託すしかない。
少し目を離した隙にも、チャットは速度を落としていない。下方向へ高速スクロール、その手が止まった。路上待機の部員のメッセージ。
「おい救護第四テントより朗報!主将来ない!走ってるぽい」
「ゴールすんの?」
「じゃここから単独山登り?」
「エグ ほんまに」
「ここ山だぜ?」
「オレの代わりに現地組応援して」
「現地勢いねえな フォローかも」
ということは、ここまで来るんだ。本当に完走する気でいるんだ。……本当に?泉田さんがこの先を目指している?私は選手がこれから来るだろう道の先を見つめ、それから振り返って選手たちが目指すゴール地点を見上げた。距離的には3キロだけど、遥か上に見える。本当に?
私は呆然として周囲を見渡した。先頭が来るにはまだ早いが、観客は集まり始めている。ここで起こるだろう、最後のデッドヒートに期待して、皆浮き立つような雰囲気でいる。青い顔で周囲を見渡し、脚が震えているのは私だけ。
なんで、私こんなに動揺してるんだ。泉田さんはリタイアじゃなくて、走り続けているっていうのに。尋ねようにも、レイさんも他の頼りになる部員たちも、ここにはいない。箱根学園の関係者は私ひとりだ。
どうしよう。やっと気づいたけど、私はここにいても選手にかける言葉が、何もない。「頑張って」も「勝って!」も「負けないで」も、選手に言うつもりがないのに、どうしてここにいるんだろう。
何を思って、部員は皆、この重要なゴール前3キロ地点を私に託したんだろう。私は、ここで何ができるんだろう。
そこは、インターハイ最後の、平坦2.5キロ。学年チャットが動く。あー、ついに来ちゃったな。もっとしんみりその時を迎えるはずが、やいのやいの騒がしい学年チャットのせいで、情緒が台無しだ。まあ、ここでひとりシクシク泣くわけにもいかないから、いいんだけど……
学年チャットは黒田さんの作戦が無事発動したことで盛り上がりを見せる。入念にシミュレーションした黒田さんが取ったのは、この距離をエーススプリンターに引かせるという選択。
これは流石のレイさんも「黒田さんにしかできない奇策だ」と唸っていた。ライバル達がが早々に切った、スプリンターのカードを残しておいた意味……ここで生きるか、それとも。
「作戦決行だにゃー」
「なお他校を出し抜き、無事成功した模様」
「そりゃココ休めだからJK」
「黒田さんの立案がJKだったことある?」
「ないにゃ〜」
「常に奇策」
「何食ったらあの作戦思いつくの?」
「寮のメシもりもり」
「葦木場さんってまだ背伸びてる?」
「しらん 自称202センチだから」
「3食おんなじもの食ってるのになぜ、オレは頭脳も身長も恵まれないのですか?」
「泣くなよ」
「現地おれ、主将がガンガンに引いて去っていく後ろ姿で流石に爆笑」
「笑ってる場合か サポートしろや」
「一瞬で去ってったんだよ!目から汗が止まらん」
「泣くなよ」
「2日走って、今日も登ってきたってのに、まだ引く!?ヤバ」
「クライマーおれ、マジで自信無くすぜ」
「この差ってなんですか?」
「そりゃ主将の意地でしょ」
「史上初のスプリンター主将!」
「最初大反対だったのにね 今やコレよ」
「スプリンターは最後に指示を出せない〜だろ」
「今のこの人の前でそれ言える?」
「無理にゃ〜ん」
「まさか最後ここで来るとはね」
「ここの標高ご存知?山だぜ」
「意地!意地!意地!!って感じ」
「終わった!700メートル」
「ななひゃく!?」
「エグ!」
「エグすぎ負けました」
「その距離でその差つける人おるん?」
「おる うちのキャプテン」
朝のレース計画を聞いた時点で分かっていた、まさに計画通りの結末だった。ここまで黒田さんの思惑通りに展開していることには驚かされるが、無事に達成されたことには安堵する。
3年間の道のりと比べて、この2.5キロはあまりにも短すぎるが、黒田さんが参謀として「最後の1枚のカードを切るなら」、そして友人として「花道とするなら」ここしか無いと判断したのなら、これ以上ない舞台だった。そしてその案を受け入れ、本人がここが最後と決めて走ったのなら、後輩にできるのはその成果を喜ぶことだけ。
画面から顔を上げて、選手が走る遠くの道を思う。ここまで来るのは、まだまだ先。
しかし700メートルの差はこの後どれだけのアドバンテージになるだろう。ゴールを狙う選手達が最終盤の局面を捉えるにはまだ早い。
そして、チームから離れた選手も、自身の最終局面を選択しなければならない。リタイヤか、あるいは単独でゴールを目指すかの2択。
泉田さんはきっと、ひとりで山を登るだろうと思った。それが箱根学園史上初のスプリンター主将に相応しい姿だと信じているだろうから。……こんなこと言って、力尽きてたらどうしよう。道の上で力尽きても連れて帰るなんて啖呵切ったけど、あの辺の救護テントで待機してる部員に託すしかない。
少し目を離した隙にも、チャットは速度を落としていない。下方向へ高速スクロール、その手が止まった。路上待機の部員のメッセージ。
「おい救護第四テントより朗報!主将来ない!走ってるぽい」
「ゴールすんの?」
「じゃここから単独山登り?」
「エグ ほんまに」
「ここ山だぜ?」
「オレの代わりに現地組応援して」
「現地勢いねえな フォローかも」
ということは、ここまで来るんだ。本当に完走する気でいるんだ。……本当に?泉田さんがこの先を目指している?私は選手がこれから来るだろう道の先を見つめ、それから振り返って選手たちが目指すゴール地点を見上げた。距離的には3キロだけど、遥か上に見える。本当に?
私は呆然として周囲を見渡した。先頭が来るにはまだ早いが、観客は集まり始めている。ここで起こるだろう、最後のデッドヒートに期待して、皆浮き立つような雰囲気でいる。青い顔で周囲を見渡し、脚が震えているのは私だけ。
なんで、私こんなに動揺してるんだ。泉田さんはリタイアじゃなくて、走り続けているっていうのに。尋ねようにも、レイさんも他の頼りになる部員たちも、ここにはいない。箱根学園の関係者は私ひとりだ。
どうしよう。やっと気づいたけど、私はここにいても選手にかける言葉が、何もない。「頑張って」も「勝って!」も「負けないで」も、選手に言うつもりがないのに、どうしてここにいるんだろう。
何を思って、部員は皆、この重要なゴール前3キロ地点を私に託したんだろう。私は、ここで何ができるんだろう。
