去る春、君の声だけが在る2.5
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1月。受験勉強もラストスパートの時期。
雪の降る中自転車乗って転んで骨折るわけにもいかないので、外乗りは控え、勉強漬けの日々を送っている。
年が明けてからは、昼休みもわずかな緊張感が漂っている。恐る恐るといった様子で教室の引き戸が開いた。名前。
「失礼しまーす……」
「おーよく来たな!」
ユキちゃんがウキウキで迎え入れる。何を隠そう、今日はユキちゃんが呼び出したのだ。
名前はカップ春雨を手にちょこんと椅子に腰掛ける。ユキちゃんが購買で買ってきたフルーツサンドを贈呈して、名前は恭しくそれを受け取った。
「じゃ、始めましょうか……」
レース前の作戦会議並に重苦しい空気だが、バレンタインで何を作ってもらうかの話し合いである。ユキちゃんの悲願、マネージャーの手作りチョコ。
塔ちゃん曰く、「足が速いとモテる」の定説にのっとり、ユキちゃんは小学生の時からたくさんチョコをもらっていたらしい。自転車部の副主将になった去年は後輩女子を中心にモテていた。
その一方で、「憧れの」女子マネージャーが部活で配ったチョコレート風味プロテインはユキちゃんを大いにガッカリさせた。男子高校生、強豪運動部、寮暮らし……環境のせいで中学生の時からの憧れは次第に加速していき、同じクラスの柔道部のやつらに「自転車部はマネージャーからチョコ……あ、ないの?仕方ないよな、部員多いし……」って憐れまれたことで、ついに爆発した。
一個上の先輩達は名前にチョコをあげて、交換で友達にあげる用の手作りチョコをもらったらしい。「こっちからあげる」という発想がなかったユキちゃんは頭をかかえていた。
とにかく、本当に悔しかったみたいで。そんなわけで、ユキちゃんは今年のバレンタイン、ラストチャンスに命をかけている。巻き込まれた名前には悪いけど。
フルーツサンドを完食して名前が一言。
「正直なところ、市販のチョコのが嬉しくないですか?」
「お願いですから成仏させてください」
ユキちゃんは恥も外聞もなく頭を下げた。男子高校生の純情を弄び、持ち上げて落とすような真似……本人はそういうつもりはないけど、鬼の所業だ。塔ちゃんは呆れてふたりのやり取りを見ている。
「とりあえず、それらしい感じでやりますけど……」
名前の前には小さいノートがあって、ユキちゃんのリクエスト通りに「マネージャーからのバレンタイン」の詳細がメモしてある。多分、その前のページは塔ちゃんの誕生日に作ったシフォンケーキ、その隣のページはオレの誕生日に作ったアップルパイのメモだ。
名前はオレの誕生日、リクエストの通りに立派なアップルパイを焼いてくれた。塔ちゃんの誕生日は……ふたりの間で多少やりとりしたようで最後は、「いちばん得意なやつで勝負させてください」と名前が泣きを入れた。料理漫画でも始まるのかと思ったが、出来上がったのはスパイスの入った生地に軽やかなクリームを添えたシフォンケーキだった。「食べたことない味なら評価も多少甘くなるのではないかと……」という名前の思惑通り、食べたことのない味だったけどとても美味しかった。
そう、どうやら塔ちゃんと名前は和解したらしい。和解っていうのも、喧嘩してたわけじゃないし変な言い方だけど。
去年の秋、塔ちゃんがキャプテンとしての覚悟を告げた日。名前がどんな顔をしてたか、きっと塔ちゃんは見てなかったんだろう。オレは後ろでふたりを見てたけど、止められなかった。インターハイで勝つにはそれだけの覚悟がいるんだってわかったから。それからふたりはずっとその蟠りを解消できず、塔ちゃんが引退した後にようやく話し合いの場を得た……らしい。中身は聞いてないけど、ふたりともスッキリした顔をしてた。だから、和解。
今回だってユキちゃんが「塔一郎もほしいよな!?」と同意を求めて、うんって返事してた。素直になった……とは違うけど、キャプテンの荷を下ろして気持ちの余裕が生まれた……みたいに見える。多分。
それからユキちゃんの誕生日の前に悠人の誕生日もあったけど、どうやらそれはメモの範囲外らしい。悠人は「名前ちゃんはオレ相手にそんな手の込んだことしませんから、今年も『おまかせ』ですよ」と言ったけど、その表情は緩んでいた。幼馴染同士の意思疎通があれば、事前調査は不要ということらしい。冬休み中とあって名前は悠人好みの手の込んだホールケーキを作りあげたそうだ。
それもあってユキちゃんは今年のバレンタインで勝利を確信していた。去年自分を憐れんだ柔道部の奴らに見せつけてやるつもりでいる。名前は変なことに巻き込まないでくださいよ〜と困った顔をしたけど、ユキちゃんの悲願に付き合わされることに嫌とは言わなかった。
「じゃ、バレンタインの方はリクエスト通りにチョコの小さいケーキに生クリーム絞って苺のせる……でいきますので。よろしくお願いします」
「まじで頼むぜ……」
「黒田さん、あの、もうちょっと気楽な感じのアレでお願いしたいんですけど……」
「こっちはラストチャンスに賭けてんだよ」
「ひー」
名前は必死な様子のユキちゃんに怯え、「……苺のおいしさを信じましょう」と、責任転嫁した。苺のケーキをリクエストされてから、名前は「ごくごく小さい土台に大きめの苺をのせるので、味の責任は7割くらい苺にある」と言い張っている。聞いたことのない理屈だ。流石に無理があると思う。
名前は神妙な面持ちで頷く。
「お誕生日は、ロールケーキでいいんですよね。これも果物のおいしさを信じましょう」
「心配すんな、『飢え』こそ最上のスパイスってんならオレは高校3年間で飢えに飢えて、餓死寸前だからな……」
「黒田さんをそこまで変えてしまう、『マネージャーの手作りお菓子』という概念が私は恐ろしいです」
恥も外聞もないユキちゃんはぐっと親指を立てて見せ、名前は青い顔で「ロールケーキの味の責任は果物が5割だから大丈夫」と呟いた。新ルールだ。そうなの?
名前は救いを求めるようにチラッと塔ちゃんの方を見たが、「諦めてくれ」というように首を振られる。そして当然のように名前はオレを見上げたが、残念ながらオレにも無理。頼る宛のないことを悟った名前はがっくり項垂れて、ノートを片付けた。
「いや本当に、どっちも作ったことあるので、多分大失敗はないと思うんですけど……本当に、期待せずにお願いします。『かわいい後輩補正』多めにかけといてくださいね」
名前は「これ、賄賂です。よろしくお願いします」とブレザーのポケットから出したメルティーキッスをくれた。普通のと、苺味と。かわいい賄賂だ。塔ちゃんが首を傾げる。
「よろしくお願いしますって頼むのは、ボクらの方な気がするけど」
「これ以上プレッシャーかけられたら爆発するのでやめてください」
かわいい後輩を爆発させるわけにはいかないので、オレたちはそれぞれ神妙な顔でメルティーキッスを受け取った。
名前は肩につくくらいになった髪を揺らして立ち上がる。
「そうだ、苺は真波が買ってくるので、祈っといてくださいね」
「祈……?どういうこと」
オレらは顔を見合わせる。何を?「楽しみにしてて」の間違いじゃなく?ユキちゃんが名前を止めて。
「待て待て待て、もうちょっと説明してけよ」
「お誕生日とバレンタインの苺、真波が直売所で買ってきてくれることになってるので……」
「……下のビニールハウスのとこ?」
「そうです、真波山岳って、そういうのオマケしてもらいやすい男なので……」
学校の少し下ったところに観光農園がある。冬は苺狩りを売りにしているけど、たくさん雪が降ると観光客は来ないので苺が余る。苺が余ると農家も困る。去年新開さんがよくおまけしてもらってたのは、オレも覚えてる。名前もそこに目をつけたのだろう。
「……無理じゃないか?」
「一応揺れ対策したリュック背負わせますので」
「そういう高度な芸当ができるのは東堂さんくらいだろ」
「本人は『大丈夫だと思う』って言ってました。乞うご期待!」
「絶対大丈夫じゃないやつだ……」
慎重に漕いでくれることを祈るばかりだ。かわいい後輩マネージャーの手作りおやつが楽しみなのは、ユキちゃんだけではないので。
「それでは、うちの頼もしい真波キャプテンが先輩のために買ってきた苺、お楽しみに〜」
名前は失礼しますと頭を下げて、今度こそ教室を出た。制服のスカートは翻り、下ろした髪はふわふわ揺れる。
……その後ろ姿が頼もしくも、なんだか寂しくもあり。
「うちの頼もしいキャプテンだってよ」
ユキちゃんは拗ねたように呟いた。
「いいことだよ。またあのふたりがギクシャクしたら、部が回っていかないからね」
塔ちゃんは何もかも心得ている風に頷いた。塔ちゃんは最近、結構こういう感じ。物分かりよく、介入しすぎず、なるべく素直を心がけているみたい。オレとユキちゃんは顔を見合わせる。
「……無理してるよな?」
「……」
返事なし。
「してるんだ!」
オレとユキちゃんはわあっと盛り上がった。福富さんと比べて思い悩む姿は知っているけど、まさか真波相手にするなんて。
娯楽の少ない受験生活、面白そうなことにはどうしたって飛びつきたくなってしまう。
「……飲み物を奢る約束をしてたんだった」
「おう、何杯でも買ってやれよ」
「そうだよ、卒業する前になるべく距離を縮めておかないと」
「そういうのじゃないから」
多分約束なんてしてなくって、これ以上の追求から逃げたかったんだと思う。でも多分、名前を自販機には誘うんだろうな。ユキちゃんはニヤニヤしながら「楽しみだな」ってオレに同意を求めた。そうだね、オレも楽しみにしてるよ。
雪の降る中自転車乗って転んで骨折るわけにもいかないので、外乗りは控え、勉強漬けの日々を送っている。
年が明けてからは、昼休みもわずかな緊張感が漂っている。恐る恐るといった様子で教室の引き戸が開いた。名前。
「失礼しまーす……」
「おーよく来たな!」
ユキちゃんがウキウキで迎え入れる。何を隠そう、今日はユキちゃんが呼び出したのだ。
名前はカップ春雨を手にちょこんと椅子に腰掛ける。ユキちゃんが購買で買ってきたフルーツサンドを贈呈して、名前は恭しくそれを受け取った。
「じゃ、始めましょうか……」
レース前の作戦会議並に重苦しい空気だが、バレンタインで何を作ってもらうかの話し合いである。ユキちゃんの悲願、マネージャーの手作りチョコ。
塔ちゃん曰く、「足が速いとモテる」の定説にのっとり、ユキちゃんは小学生の時からたくさんチョコをもらっていたらしい。自転車部の副主将になった去年は後輩女子を中心にモテていた。
その一方で、「憧れの」女子マネージャーが部活で配ったチョコレート風味プロテインはユキちゃんを大いにガッカリさせた。男子高校生、強豪運動部、寮暮らし……環境のせいで中学生の時からの憧れは次第に加速していき、同じクラスの柔道部のやつらに「自転車部はマネージャーからチョコ……あ、ないの?仕方ないよな、部員多いし……」って憐れまれたことで、ついに爆発した。
一個上の先輩達は名前にチョコをあげて、交換で友達にあげる用の手作りチョコをもらったらしい。「こっちからあげる」という発想がなかったユキちゃんは頭をかかえていた。
とにかく、本当に悔しかったみたいで。そんなわけで、ユキちゃんは今年のバレンタイン、ラストチャンスに命をかけている。巻き込まれた名前には悪いけど。
フルーツサンドを完食して名前が一言。
「正直なところ、市販のチョコのが嬉しくないですか?」
「お願いですから成仏させてください」
ユキちゃんは恥も外聞もなく頭を下げた。男子高校生の純情を弄び、持ち上げて落とすような真似……本人はそういうつもりはないけど、鬼の所業だ。塔ちゃんは呆れてふたりのやり取りを見ている。
「とりあえず、それらしい感じでやりますけど……」
名前の前には小さいノートがあって、ユキちゃんのリクエスト通りに「マネージャーからのバレンタイン」の詳細がメモしてある。多分、その前のページは塔ちゃんの誕生日に作ったシフォンケーキ、その隣のページはオレの誕生日に作ったアップルパイのメモだ。
名前はオレの誕生日、リクエストの通りに立派なアップルパイを焼いてくれた。塔ちゃんの誕生日は……ふたりの間で多少やりとりしたようで最後は、「いちばん得意なやつで勝負させてください」と名前が泣きを入れた。料理漫画でも始まるのかと思ったが、出来上がったのはスパイスの入った生地に軽やかなクリームを添えたシフォンケーキだった。「食べたことない味なら評価も多少甘くなるのではないかと……」という名前の思惑通り、食べたことのない味だったけどとても美味しかった。
そう、どうやら塔ちゃんと名前は和解したらしい。和解っていうのも、喧嘩してたわけじゃないし変な言い方だけど。
去年の秋、塔ちゃんがキャプテンとしての覚悟を告げた日。名前がどんな顔をしてたか、きっと塔ちゃんは見てなかったんだろう。オレは後ろでふたりを見てたけど、止められなかった。インターハイで勝つにはそれだけの覚悟がいるんだってわかったから。それからふたりはずっとその蟠りを解消できず、塔ちゃんが引退した後にようやく話し合いの場を得た……らしい。中身は聞いてないけど、ふたりともスッキリした顔をしてた。だから、和解。
今回だってユキちゃんが「塔一郎もほしいよな!?」と同意を求めて、うんって返事してた。素直になった……とは違うけど、キャプテンの荷を下ろして気持ちの余裕が生まれた……みたいに見える。多分。
それからユキちゃんの誕生日の前に悠人の誕生日もあったけど、どうやらそれはメモの範囲外らしい。悠人は「名前ちゃんはオレ相手にそんな手の込んだことしませんから、今年も『おまかせ』ですよ」と言ったけど、その表情は緩んでいた。幼馴染同士の意思疎通があれば、事前調査は不要ということらしい。冬休み中とあって名前は悠人好みの手の込んだホールケーキを作りあげたそうだ。
それもあってユキちゃんは今年のバレンタインで勝利を確信していた。去年自分を憐れんだ柔道部の奴らに見せつけてやるつもりでいる。名前は変なことに巻き込まないでくださいよ〜と困った顔をしたけど、ユキちゃんの悲願に付き合わされることに嫌とは言わなかった。
「じゃ、バレンタインの方はリクエスト通りにチョコの小さいケーキに生クリーム絞って苺のせる……でいきますので。よろしくお願いします」
「まじで頼むぜ……」
「黒田さん、あの、もうちょっと気楽な感じのアレでお願いしたいんですけど……」
「こっちはラストチャンスに賭けてんだよ」
「ひー」
名前は必死な様子のユキちゃんに怯え、「……苺のおいしさを信じましょう」と、責任転嫁した。苺のケーキをリクエストされてから、名前は「ごくごく小さい土台に大きめの苺をのせるので、味の責任は7割くらい苺にある」と言い張っている。聞いたことのない理屈だ。流石に無理があると思う。
名前は神妙な面持ちで頷く。
「お誕生日は、ロールケーキでいいんですよね。これも果物のおいしさを信じましょう」
「心配すんな、『飢え』こそ最上のスパイスってんならオレは高校3年間で飢えに飢えて、餓死寸前だからな……」
「黒田さんをそこまで変えてしまう、『マネージャーの手作りお菓子』という概念が私は恐ろしいです」
恥も外聞もないユキちゃんはぐっと親指を立てて見せ、名前は青い顔で「ロールケーキの味の責任は果物が5割だから大丈夫」と呟いた。新ルールだ。そうなの?
名前は救いを求めるようにチラッと塔ちゃんの方を見たが、「諦めてくれ」というように首を振られる。そして当然のように名前はオレを見上げたが、残念ながらオレにも無理。頼る宛のないことを悟った名前はがっくり項垂れて、ノートを片付けた。
「いや本当に、どっちも作ったことあるので、多分大失敗はないと思うんですけど……本当に、期待せずにお願いします。『かわいい後輩補正』多めにかけといてくださいね」
名前は「これ、賄賂です。よろしくお願いします」とブレザーのポケットから出したメルティーキッスをくれた。普通のと、苺味と。かわいい賄賂だ。塔ちゃんが首を傾げる。
「よろしくお願いしますって頼むのは、ボクらの方な気がするけど」
「これ以上プレッシャーかけられたら爆発するのでやめてください」
かわいい後輩を爆発させるわけにはいかないので、オレたちはそれぞれ神妙な顔でメルティーキッスを受け取った。
名前は肩につくくらいになった髪を揺らして立ち上がる。
「そうだ、苺は真波が買ってくるので、祈っといてくださいね」
「祈……?どういうこと」
オレらは顔を見合わせる。何を?「楽しみにしてて」の間違いじゃなく?ユキちゃんが名前を止めて。
「待て待て待て、もうちょっと説明してけよ」
「お誕生日とバレンタインの苺、真波が直売所で買ってきてくれることになってるので……」
「……下のビニールハウスのとこ?」
「そうです、真波山岳って、そういうのオマケしてもらいやすい男なので……」
学校の少し下ったところに観光農園がある。冬は苺狩りを売りにしているけど、たくさん雪が降ると観光客は来ないので苺が余る。苺が余ると農家も困る。去年新開さんがよくおまけしてもらってたのは、オレも覚えてる。名前もそこに目をつけたのだろう。
「……無理じゃないか?」
「一応揺れ対策したリュック背負わせますので」
「そういう高度な芸当ができるのは東堂さんくらいだろ」
「本人は『大丈夫だと思う』って言ってました。乞うご期待!」
「絶対大丈夫じゃないやつだ……」
慎重に漕いでくれることを祈るばかりだ。かわいい後輩マネージャーの手作りおやつが楽しみなのは、ユキちゃんだけではないので。
「それでは、うちの頼もしい真波キャプテンが先輩のために買ってきた苺、お楽しみに〜」
名前は失礼しますと頭を下げて、今度こそ教室を出た。制服のスカートは翻り、下ろした髪はふわふわ揺れる。
……その後ろ姿が頼もしくも、なんだか寂しくもあり。
「うちの頼もしいキャプテンだってよ」
ユキちゃんは拗ねたように呟いた。
「いいことだよ。またあのふたりがギクシャクしたら、部が回っていかないからね」
塔ちゃんは何もかも心得ている風に頷いた。塔ちゃんは最近、結構こういう感じ。物分かりよく、介入しすぎず、なるべく素直を心がけているみたい。オレとユキちゃんは顔を見合わせる。
「……無理してるよな?」
「……」
返事なし。
「してるんだ!」
オレとユキちゃんはわあっと盛り上がった。福富さんと比べて思い悩む姿は知っているけど、まさか真波相手にするなんて。
娯楽の少ない受験生活、面白そうなことにはどうしたって飛びつきたくなってしまう。
「……飲み物を奢る約束をしてたんだった」
「おう、何杯でも買ってやれよ」
「そうだよ、卒業する前になるべく距離を縮めておかないと」
「そういうのじゃないから」
多分約束なんてしてなくって、これ以上の追求から逃げたかったんだと思う。でも多分、名前を自販機には誘うんだろうな。ユキちゃんはニヤニヤしながら「楽しみだな」ってオレに同意を求めた。そうだね、オレも楽しみにしてるよ。
