去る春、君の声だけが在る2.5
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場所は京都、外資系高級ホテル。大きなショーケースの前で私は頭を悩ませていた。
視線の先には有名店の色とりどりのマカロン。大好きなんだけど、予算的に3つが限界……限定フレーバーは買うとして、あと2個……
なぜ私が京都にいるかと言うと、父の単身赴任先だから。年明け1月、進級したら受験生だし最後のインターハイが来るし……ということで忙しくなる前に、入試休みを利用してひとりで遊びに来た。
入試休み中は校内に入れないから、部活は休養日になる。せっかくだから今回は自転車を持ってきて、父の社宅を拠点に好き勝手フラフラしている。
年明けすぐ、御堂筋に「入試休みに京都行くんだ〜」と浮かれたメッセージを送ったら返事が全然こなかった。別に、遊ぼうよって誘ったわけじゃないけどムカついて「うどん食べたい」「なんか穴場の寺とかない?」「大福休みの日は並ぶってほんと?」「ねーお土産おすすめある?」と怒涛の連投を仕掛けたら、ウザいと判断したのか受信拒否された。友達甲斐のないやつ!
かと思えば。
「自転車持ってくるん」
「うん、交通費浮くし……時間ないからあちこち見たいし」
急に電話がかかってきたりする。出会ったばかりの頃、1年生の夏よりは全然まともなラリーがでている。
自分で自転車を輪行袋に入れられるようになったので、今回は自転車で回ろうと思っているのだ。恐る恐るやってた頃より格納スピードも上がって、大成長したと自負している。
電話越しにためいき。
「やめとき。ドンクサの名前ちゃんには無理や」
「そんな道狭い?一応私、部内じゃ交通ルール守った安全走行に定評があるんだけど」
「市バスに轢かれるのがオチやね」
「ふーんだ……」
市バスに轢かれるのはやだな……閑散期だから大丈夫だと思うんだけど。市バスの運転手さんもそこまで乱暴な運転はしないだろう。だから、大丈夫!
「せっかく自転車あるし、蹴上の方とか行っちゃうし〜あと川沿いも走っちゃお!あ、そうだ。御堂筋がよく行くのって嵐山の方のサイクルパークだっけ」
「営業停止中ですゥ」
「えっ!?いつまで」
「未来永劫やね」
「ちょっと!」
そしてブチンと切られる。こ、こいつ……本当にこいつ……別に偵察しようとかそういう気持ちで言ったのではなく。滞在中毎日京都伏見高校周辺を走り回ってやろうか?
そんな感じなので京都滞在中もひとりでそこらじゅう見て回るつもりだったのだ。本当に友達甲斐のないやつ。箱根に遊びにきても案内してやらないから!
悩みに悩んで、マカロンをなんとか3つ選ぶ。パティスリーを出ようとしたその時、着信が入った。まさか寮でトラブルか?と思って画面を見る。
……御堂筋?
「もしもし、名前だよ」
「どこや」
「え?」
「今どこおるん」
「えーっと京都だよ、遊びに来てるよ」
「そんなん知っとる」
え?もしかして……遊んでくれる感じ?やったー!私は慌てて頭の中の地図を思い返す。
「えーーーっと、市役所のとこ……?」
「……その辺おるから、橋渡って川上って来ぃや」
「川!?川のぼって?」
「あるやろ、東側に川」
「ねえそれって鴨川のこと!?御堂筋、今この辺にいるの?」
突然の呼び出しに、私は慌ててサーヴェロを回収に走る。ホテルの奥まったところ、高級ホテルにふさわしく今まで見た中でもいちばんオシャレな駐輪場だ。
停めるところがわからなくて、結局従業員の人に聞いたし、ドアの開け方も分からなくて人に開けてもらった始末。
「上るって、どれくらい?私今日走る装備じゃない!」
「……橋渡ってそのまま待っとき」
「えー」
めんどくさくなって自己完結したな。私が走るより御堂筋のが速いし体力あるし、いっか。
何がなんだかわからないが、とりあえず橋を渡って上流方向に向かえばいいんでしょ。私はリュックに優しくマカロンの小箱を押し込み、大慌てで出発した。割れたら御堂筋のせいだ。
御堂筋の言うところの「東側に川」はすぐ見つかった。川沿いをトロトロ走っていると前の方から見覚えのある長身がやってくる。本当に近くにいた感じ?運命じゃん!
おーい!と手を振っても無視された。だけど、しっかり私の前で止まって自転車を降りる。シートポストを目いっぱい伸ばした、愛車。
「どうしたの、やっぱり気が変わって遊んでくれる気になった!?」
「キモッ!これ渡そ思っただけや」
「?ありがとう」
御堂筋に押し付けられた小さい袋。中身を見て私は悲鳴をあげた。このプラスチックパックに押されようとも潰れない、柔らかなフォルム!
「豆大福!!!!!!」
「喧し」
「買ってくれたの?並んで?」
「戻りしなに通りがかっただけや。たまたま列もなくて、誰かさんの、くだらん事でピーギャー喚く顔が思い浮かんで……」
「ピーギャーって何?」
「よく言うとるやろ、ピーギャー」
言ってないし。まあ日頃ピーギャー騒いだおかげで並ばずに豆大福が手に入ったのだから良しとしよう。
「1個食べる?」
「いらん。食い意地のはった人のために2個買うてきたんや。食べえ」
「本当に?本当に?後で返せとか言わない?」
「しつこい」
「あ、お金払うね。えっと財布……」
とにかく、風というか空気が冷たい。京都の冬は底冷えというけど、これのことかってくらい冷たい。悴む手でサコッシュのコインポーチを漁るが、頭上から降ってきた声がそれを止めた。
「いらんわ」
「なんで?奢ってくれるの?貸しみたいでヤなんだけど……」
「貸しって、キミ……」
「何?」
御堂筋の黒い目玉が私を見下ろしていた。たぶん、髪伸びたな。今、髪型どうなってるんだろう。インターハイ3日目の衝撃からもう5ヶ月くらい経った?岸神とかも髪伸びたんだろうか。
御堂筋が口を開く。
「3日目」
「なに?インハイの話?」
「……何にも言うとらんわ」
「なんだそれ!絶対言った!」
「名前ちゃん、頭だけやなくて耳も悪いん?可哀想に」
「ピー!!ギャー!!」
威嚇の意味でピーギャー喚いてみたが、御堂筋はちっともこたえていない。
3日目……って何?我々の中で3日目と言ったら、インハイの3日目でしかない。たぶんそのはずだ。急になんの話?
こうなると絶対答えてくれないのはわかってるので、私は話題を変えることにした。京伏の派手なサイジャ。流石に真冬とあって長袖仕様だ。二度のインハイの印象が強すぎて、黒い袖で腕が覆われているのは新鮮に見える。
「今日、自主練?」
「そやね」
「戻り中って言ってたよね、急ぎ?」
「別にィ」
「じゃあさ、ね!そこでおやつ食べよ!あたしさっきマカロン買ったから」
「……」
「イヤそうな顔!!仮にも友達相手にそんな顔するな!」
「ボクはキミィのこと、友達やと思ったことないけど」
「……友達でもない人間に豆大福買ってくれたの?親切だね!御堂筋、悪い女に引っかからないようにね」
「その心底心配ですゥみたいな顔、やめえや」
御堂筋は頑として、河原で休憩を拒否したので、私は立ったままリュックからマカロンの箱を取り出した。
御堂筋は黙って、物がとにかく詰め込んであるリュックからマカロンが出てくるのを眺めていた。景色見ろや!と思ったけど、地元民は見慣れているのかも。贅沢だな。
「わざわざ何しに来たん。こんな寒い時期に」
「え、普通に……家族に荷物届けに」
「宅急便の方が安くて早くて静かやないの」
「そうだけど……うちのパパも娘に偶には会いたいらしいし。年末会わなかったし……」
「……」
「何?」
「べぇつにィ」
今にも「帰るわ」と言い出しそうな雰囲気だったので、慌ててマカロンの箱を開ける。よかった、手荒に扱ったけど割れてない。
「抹茶、フランボワーズ、ジャスミン!どれがいい」
「なにこれ」
「フランスの菓子」
「それくらい知っとるわ」
……じゃあ何?
「待って、抹茶は京都限定だから違うのにして」
「抹茶」
「あーーーーーもう」
「嘘に決まっとるやろ」
御堂筋はやたらに長い指先でマカロンをひとつ選び取った。フランボワーズ。
綺麗に並んだ歯が、マカロンを齧って、「甘っ」と呟いた。わかってないな、そこがいいんだよ。
視線の先には有名店の色とりどりのマカロン。大好きなんだけど、予算的に3つが限界……限定フレーバーは買うとして、あと2個……
なぜ私が京都にいるかと言うと、父の単身赴任先だから。年明け1月、進級したら受験生だし最後のインターハイが来るし……ということで忙しくなる前に、入試休みを利用してひとりで遊びに来た。
入試休み中は校内に入れないから、部活は休養日になる。せっかくだから今回は自転車を持ってきて、父の社宅を拠点に好き勝手フラフラしている。
年明けすぐ、御堂筋に「入試休みに京都行くんだ〜」と浮かれたメッセージを送ったら返事が全然こなかった。別に、遊ぼうよって誘ったわけじゃないけどムカついて「うどん食べたい」「なんか穴場の寺とかない?」「大福休みの日は並ぶってほんと?」「ねーお土産おすすめある?」と怒涛の連投を仕掛けたら、ウザいと判断したのか受信拒否された。友達甲斐のないやつ!
かと思えば。
「自転車持ってくるん」
「うん、交通費浮くし……時間ないからあちこち見たいし」
急に電話がかかってきたりする。出会ったばかりの頃、1年生の夏よりは全然まともなラリーがでている。
自分で自転車を輪行袋に入れられるようになったので、今回は自転車で回ろうと思っているのだ。恐る恐るやってた頃より格納スピードも上がって、大成長したと自負している。
電話越しにためいき。
「やめとき。ドンクサの名前ちゃんには無理や」
「そんな道狭い?一応私、部内じゃ交通ルール守った安全走行に定評があるんだけど」
「市バスに轢かれるのがオチやね」
「ふーんだ……」
市バスに轢かれるのはやだな……閑散期だから大丈夫だと思うんだけど。市バスの運転手さんもそこまで乱暴な運転はしないだろう。だから、大丈夫!
「せっかく自転車あるし、蹴上の方とか行っちゃうし〜あと川沿いも走っちゃお!あ、そうだ。御堂筋がよく行くのって嵐山の方のサイクルパークだっけ」
「営業停止中ですゥ」
「えっ!?いつまで」
「未来永劫やね」
「ちょっと!」
そしてブチンと切られる。こ、こいつ……本当にこいつ……別に偵察しようとかそういう気持ちで言ったのではなく。滞在中毎日京都伏見高校周辺を走り回ってやろうか?
そんな感じなので京都滞在中もひとりでそこらじゅう見て回るつもりだったのだ。本当に友達甲斐のないやつ。箱根に遊びにきても案内してやらないから!
悩みに悩んで、マカロンをなんとか3つ選ぶ。パティスリーを出ようとしたその時、着信が入った。まさか寮でトラブルか?と思って画面を見る。
……御堂筋?
「もしもし、名前だよ」
「どこや」
「え?」
「今どこおるん」
「えーっと京都だよ、遊びに来てるよ」
「そんなん知っとる」
え?もしかして……遊んでくれる感じ?やったー!私は慌てて頭の中の地図を思い返す。
「えーーーっと、市役所のとこ……?」
「……その辺おるから、橋渡って川上って来ぃや」
「川!?川のぼって?」
「あるやろ、東側に川」
「ねえそれって鴨川のこと!?御堂筋、今この辺にいるの?」
突然の呼び出しに、私は慌ててサーヴェロを回収に走る。ホテルの奥まったところ、高級ホテルにふさわしく今まで見た中でもいちばんオシャレな駐輪場だ。
停めるところがわからなくて、結局従業員の人に聞いたし、ドアの開け方も分からなくて人に開けてもらった始末。
「上るって、どれくらい?私今日走る装備じゃない!」
「……橋渡ってそのまま待っとき」
「えー」
めんどくさくなって自己完結したな。私が走るより御堂筋のが速いし体力あるし、いっか。
何がなんだかわからないが、とりあえず橋を渡って上流方向に向かえばいいんでしょ。私はリュックに優しくマカロンの小箱を押し込み、大慌てで出発した。割れたら御堂筋のせいだ。
御堂筋の言うところの「東側に川」はすぐ見つかった。川沿いをトロトロ走っていると前の方から見覚えのある長身がやってくる。本当に近くにいた感じ?運命じゃん!
おーい!と手を振っても無視された。だけど、しっかり私の前で止まって自転車を降りる。シートポストを目いっぱい伸ばした、愛車。
「どうしたの、やっぱり気が変わって遊んでくれる気になった!?」
「キモッ!これ渡そ思っただけや」
「?ありがとう」
御堂筋に押し付けられた小さい袋。中身を見て私は悲鳴をあげた。このプラスチックパックに押されようとも潰れない、柔らかなフォルム!
「豆大福!!!!!!」
「喧し」
「買ってくれたの?並んで?」
「戻りしなに通りがかっただけや。たまたま列もなくて、誰かさんの、くだらん事でピーギャー喚く顔が思い浮かんで……」
「ピーギャーって何?」
「よく言うとるやろ、ピーギャー」
言ってないし。まあ日頃ピーギャー騒いだおかげで並ばずに豆大福が手に入ったのだから良しとしよう。
「1個食べる?」
「いらん。食い意地のはった人のために2個買うてきたんや。食べえ」
「本当に?本当に?後で返せとか言わない?」
「しつこい」
「あ、お金払うね。えっと財布……」
とにかく、風というか空気が冷たい。京都の冬は底冷えというけど、これのことかってくらい冷たい。悴む手でサコッシュのコインポーチを漁るが、頭上から降ってきた声がそれを止めた。
「いらんわ」
「なんで?奢ってくれるの?貸しみたいでヤなんだけど……」
「貸しって、キミ……」
「何?」
御堂筋の黒い目玉が私を見下ろしていた。たぶん、髪伸びたな。今、髪型どうなってるんだろう。インターハイ3日目の衝撃からもう5ヶ月くらい経った?岸神とかも髪伸びたんだろうか。
御堂筋が口を開く。
「3日目」
「なに?インハイの話?」
「……何にも言うとらんわ」
「なんだそれ!絶対言った!」
「名前ちゃん、頭だけやなくて耳も悪いん?可哀想に」
「ピー!!ギャー!!」
威嚇の意味でピーギャー喚いてみたが、御堂筋はちっともこたえていない。
3日目……って何?我々の中で3日目と言ったら、インハイの3日目でしかない。たぶんそのはずだ。急になんの話?
こうなると絶対答えてくれないのはわかってるので、私は話題を変えることにした。京伏の派手なサイジャ。流石に真冬とあって長袖仕様だ。二度のインハイの印象が強すぎて、黒い袖で腕が覆われているのは新鮮に見える。
「今日、自主練?」
「そやね」
「戻り中って言ってたよね、急ぎ?」
「別にィ」
「じゃあさ、ね!そこでおやつ食べよ!あたしさっきマカロン買ったから」
「……」
「イヤそうな顔!!仮にも友達相手にそんな顔するな!」
「ボクはキミィのこと、友達やと思ったことないけど」
「……友達でもない人間に豆大福買ってくれたの?親切だね!御堂筋、悪い女に引っかからないようにね」
「その心底心配ですゥみたいな顔、やめえや」
御堂筋は頑として、河原で休憩を拒否したので、私は立ったままリュックからマカロンの箱を取り出した。
御堂筋は黙って、物がとにかく詰め込んであるリュックからマカロンが出てくるのを眺めていた。景色見ろや!と思ったけど、地元民は見慣れているのかも。贅沢だな。
「わざわざ何しに来たん。こんな寒い時期に」
「え、普通に……家族に荷物届けに」
「宅急便の方が安くて早くて静かやないの」
「そうだけど……うちのパパも娘に偶には会いたいらしいし。年末会わなかったし……」
「……」
「何?」
「べぇつにィ」
今にも「帰るわ」と言い出しそうな雰囲気だったので、慌ててマカロンの箱を開ける。よかった、手荒に扱ったけど割れてない。
「抹茶、フランボワーズ、ジャスミン!どれがいい」
「なにこれ」
「フランスの菓子」
「それくらい知っとるわ」
……じゃあ何?
「待って、抹茶は京都限定だから違うのにして」
「抹茶」
「あーーーーーもう」
「嘘に決まっとるやろ」
御堂筋はやたらに長い指先でマカロンをひとつ選び取った。フランボワーズ。
綺麗に並んだ歯が、マカロンを齧って、「甘っ」と呟いた。わかってないな、そこがいいんだよ。
