去る春、君の声だけが在る2
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今日の私の持ち場は最後の登り、残り3キロ看板の付近。バンを1人で降りて、その先まで……ゴール付近へ部員を運ぶ車を見送った。
車道の外が開けていて、背の低い草むらで、選手が近づいてくるのを確認しやすい位置。先頭が来るまで時間があるので、チャットルームを複数渡り歩いて情報収集する。
やがて総北はスプリンターが2枚欠け、こっちは。スマホの通知音で一瞬、息が止まる。通知を確認するのには勇気がいる。
部員から個人連絡だった。第……いくつか忘れたけど、ともかく「ここだ」って救護テント付近で張っていた部員から。
何が「ここ」って、それは。
「銅橋落ちた!回収済みです。一緒に救護テント来たけど、今は話もできる感じで大丈夫そう」
息を吐く。無事ならそれでいい……嘘、すっごい動揺した。わかってたのに。
脱落の報告は、2年生になっても慣れない。去年と同じ、心臓が締め上げられるような、冷えるような感覚。
でも、それに「慣れなくていい」って言われた。「いっぱい動揺して、それでも、頑張ったねって言ってくれ」って。誰が?……隼人くんだよ。つくづく先回りがうまい。2年生になっても、3年生になっても、私が未熟なのをわかっていたみたい。
「連絡ありがとう。そちらはよろしくお願いします」
「心配すんなよ、残り3キロも任せた」
どうやら、部員にもばれている。私が気を揉んでるんじゃないかと連絡をくれたらしい。重大な怪我とかじゃなくてよかった……と思うことにする。
全員完走できるようなレースじゃないことは最初からわかっている。今朝のレース計画でも確認したことだし、本人も「その時が来たらやってやるよ」という心づもりでいた。
……わかってるよ。勝てるのは一人きりで、みんなその一人のために、チームのために走って、託して、送り出すものだって。
箱根学園のスプリンターの名に恥じぬ走りは遠く離れていても伝わった。意識ぶっ飛ばす寸前の限界状態で走って、チームを勝負に送り出した。
しかも最後に一緒に走れたのはあの「オレンジ」……鏑木だったというのだから、これ以上なく良い走りができたに違いない。「気に食わない」とか言いつつ、初日2日目と関わったことで、彼に惹かれているのはバレバレだったから。
初出場で期待以上の働きをしてみせた。それ以上に、成長の余地が見えた。
唯一無二のライバルに出会えたことは……バシさんは素直に認めないかもしれないけど、間違いなく大きな収穫だった。たったひとりとの出会いであんな風になるなんて、ちょっと妬けちゃうくらい。
「あんなぽっと出の男に夢中になって!妬けちゃうんだけど!」って言ったらバシさんは「気持ち悪ぃ言い方すんな!」って怒るだろうな。笑いが漏れて、肩の力が抜ける。
知っていたことだ。わかっていた。多分最後までは完走できないし、本人もそれを目標にしていないと。
大丈夫だと、言い聞かせる。バシさんは生きてるし、ひとり落ちたからって、チームの負けが決まったわけじゃない。
何のために落ちたのか、この局面で相手を削った……その価値はわかっているつもりだ。
去年よりずっと、そのあたりは割り切って受け入れられる。……はずだ。私はきっと「すごかったね、お疲れ様」って、「一緒にインターハイに来てくれてありがとう」って笑って言える。
スマホの画面を消して、もう1台に持ち変える。選んだのは、気心知れた同期たち……比較的動きの遅い2年チャットルーム。ここから先、過度な情報はきっと私の正常な思考を奪う。情報は必要な分だけでいい。
緊張感の中通過した、スプリントライン。コースはその先山岳ルートにさしかかる。箱根学園はこの先のために……ゴールを狙うために、クライマーの手札を大事に残してきた。
だからこの先、どうなるのか。今日のリザルトは然程重要視していないはずだ。御堂筋も、総北のキャプテン手嶋も……
私が知りたいのは、各校のカードが残り何枚あるのか、トップは。秒差は。勝機は。それだけ。
何度も言い聞かせ、そうだとわかっていたのに……いや、頭ではわかっていたつもりだった。それほどバシさんの脱落は私にショックを与えた。息が詰まる。選手がしているだけの覚悟を自分ができていなかったと気づかされる時、どうしようもなく惨めで泣きたい気持ちになる。
これ以上、正確な情報をリアルタイムで追って、冷静でいられる気がしなかった。それでは役目を果たせない。電話が来た時のために通知音だけマックスにしてポケットにしまう。
私は、レースが全て終わった後、「お前も頑張ったな」って言ってもらえるように、ちゃんと仕事をしたい。頭を振って、嫌な想像を振り払う。今のままじゃ全然だめだ。
車道の外が開けていて、背の低い草むらで、選手が近づいてくるのを確認しやすい位置。先頭が来るまで時間があるので、チャットルームを複数渡り歩いて情報収集する。
やがて総北はスプリンターが2枚欠け、こっちは。スマホの通知音で一瞬、息が止まる。通知を確認するのには勇気がいる。
部員から個人連絡だった。第……いくつか忘れたけど、ともかく「ここだ」って救護テント付近で張っていた部員から。
何が「ここ」って、それは。
「銅橋落ちた!回収済みです。一緒に救護テント来たけど、今は話もできる感じで大丈夫そう」
息を吐く。無事ならそれでいい……嘘、すっごい動揺した。わかってたのに。
脱落の報告は、2年生になっても慣れない。去年と同じ、心臓が締め上げられるような、冷えるような感覚。
でも、それに「慣れなくていい」って言われた。「いっぱい動揺して、それでも、頑張ったねって言ってくれ」って。誰が?……隼人くんだよ。つくづく先回りがうまい。2年生になっても、3年生になっても、私が未熟なのをわかっていたみたい。
「連絡ありがとう。そちらはよろしくお願いします」
「心配すんなよ、残り3キロも任せた」
どうやら、部員にもばれている。私が気を揉んでるんじゃないかと連絡をくれたらしい。重大な怪我とかじゃなくてよかった……と思うことにする。
全員完走できるようなレースじゃないことは最初からわかっている。今朝のレース計画でも確認したことだし、本人も「その時が来たらやってやるよ」という心づもりでいた。
……わかってるよ。勝てるのは一人きりで、みんなその一人のために、チームのために走って、託して、送り出すものだって。
箱根学園のスプリンターの名に恥じぬ走りは遠く離れていても伝わった。意識ぶっ飛ばす寸前の限界状態で走って、チームを勝負に送り出した。
しかも最後に一緒に走れたのはあの「オレンジ」……鏑木だったというのだから、これ以上なく良い走りができたに違いない。「気に食わない」とか言いつつ、初日2日目と関わったことで、彼に惹かれているのはバレバレだったから。
初出場で期待以上の働きをしてみせた。それ以上に、成長の余地が見えた。
唯一無二のライバルに出会えたことは……バシさんは素直に認めないかもしれないけど、間違いなく大きな収穫だった。たったひとりとの出会いであんな風になるなんて、ちょっと妬けちゃうくらい。
「あんなぽっと出の男に夢中になって!妬けちゃうんだけど!」って言ったらバシさんは「気持ち悪ぃ言い方すんな!」って怒るだろうな。笑いが漏れて、肩の力が抜ける。
知っていたことだ。わかっていた。多分最後までは完走できないし、本人もそれを目標にしていないと。
大丈夫だと、言い聞かせる。バシさんは生きてるし、ひとり落ちたからって、チームの負けが決まったわけじゃない。
何のために落ちたのか、この局面で相手を削った……その価値はわかっているつもりだ。
去年よりずっと、そのあたりは割り切って受け入れられる。……はずだ。私はきっと「すごかったね、お疲れ様」って、「一緒にインターハイに来てくれてありがとう」って笑って言える。
スマホの画面を消して、もう1台に持ち変える。選んだのは、気心知れた同期たち……比較的動きの遅い2年チャットルーム。ここから先、過度な情報はきっと私の正常な思考を奪う。情報は必要な分だけでいい。
緊張感の中通過した、スプリントライン。コースはその先山岳ルートにさしかかる。箱根学園はこの先のために……ゴールを狙うために、クライマーの手札を大事に残してきた。
だからこの先、どうなるのか。今日のリザルトは然程重要視していないはずだ。御堂筋も、総北のキャプテン手嶋も……
私が知りたいのは、各校のカードが残り何枚あるのか、トップは。秒差は。勝機は。それだけ。
何度も言い聞かせ、そうだとわかっていたのに……いや、頭ではわかっていたつもりだった。それほどバシさんの脱落は私にショックを与えた。息が詰まる。選手がしているだけの覚悟を自分ができていなかったと気づかされる時、どうしようもなく惨めで泣きたい気持ちになる。
これ以上、正確な情報をリアルタイムで追って、冷静でいられる気がしなかった。それでは役目を果たせない。電話が来た時のために通知音だけマックスにしてポケットにしまう。
私は、レースが全て終わった後、「お前も頑張ったな」って言ってもらえるように、ちゃんと仕事をしたい。頭を振って、嫌な想像を振り払う。今のままじゃ全然だめだ。
