去る春、君の声だけが在る2
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最終日、想定していなかったかと言われれば、していた事態……箱根学園との協調。もちろん先頭と合流したいという考えに異論はない。大人しくチームの司令塔に従い走る。
隊列の先頭に来た序でに隣の人間をチラリと見る。キッチリ並んだ箱根学園。ずーっと言いたいことがあった。名前ちゃんのことで。言うなら今しかないが、別にレース中の今言わなくてもいいこと……
でも、4月の大事な時期にうまいこと言い負かされた身としては、腹落ちしない。
「転校しろ」だの「総北って2年も3年も後輩の面倒を見れるの?」だの、散々言ってくれた。しかも、インターハイのここまで2日で「名前ちゃんの言うこともちょっとは当たってたな」と思わなくもないところが更にムカつく。やっぱり今言うといた方がええんちゃうか。
よし、チクろう。相手は名前ちゃんの手綱をうまいこと握っているらしい、ハコガクの3年生達に決めている。名前ちゃんは悪いことしでかしてはしょっちゅう怒られてるらしい。
で、その中でも名前ちゃんがいっちゃん尊敬しているとかいう。この人。去年はやり合ったけど、戦況的に今年はその機会もなかった。マツゲくん。名前ちゃんの「イズミダさん」。
視線に気づいてこちらに振り向く、澄ました顔。「どうかしたかい」と尋ねるその口調は落ち着いてる。……普通に走ってれば、普通の人なんやけどな。ほんならまずは軽くジャブからいこか。口を開く。
「おたくの名前ちゃんのことなんやけどな」
「……うちのマネージャーが何か?」
声こっわ!!なるべく気安く声かけたこっちの気使いを無駄にするなや!「や、別に大したことないんやけど」と大阪人らしからぬ遠慮言葉まで挟んでしまう。こっわ!こっちに気い使わせるなや!名前ちゃん、おたくの先輩の情緒はどうなってんねん。今日はどこで何してるのかもしれない他校の友人を思い浮かべる。
「……名前ちゃん、スッゴく性格悪く育ったなあ。1日目、うちの古賀さんと杉元が名前ちゃんにおもくそ煽られて、泣かされて帰ってきたわ」
「へえ」
それは聞いていなかったな、と呟く表情はお世辞にも穏やかでない。ごめん、名前ちゃん。ワイいらんこと言ったかも。いや、4月新入生を迎える目前のナイーブな時期にあれだけ言われたのだ、これくらいの仕返しは……
1年前のインターハイを思い返す。初日のゴール地点、各校のテントからも離れた場所で何やら人だかりができていた。興味本位で背伸びすれば、突発的に選手同士の交流が発生していたらしかった。いろんなジャージが入り乱れ、選手だけでなくサポートと思しき人なんかもおって、みんなケータイ片手に今日の活躍を語り合って、賑やかやった。
ぎょーさんおる選手達、そのド真ん中にいたのは、王者ハコガクのマネージャー。ポニーテールを揺らし、呑気にニコニコ笑顔を振り撒いてた女の子。当時1年生の名前ちゃん。人垣のいっちゃん外から覗いてたワイを見つけて、「総北の!見てたよー」って、目えキラキラさせて声かけてきよった。
その場で連絡先を交換して(一緒にいた小野田くんはカツアゲみたいな勢いで連絡先を奪われていた。スカシも)、インハイの後もメールでやり取りが続いて、久しぶりに顔をあわせた時には髪が短くなっとった。イメチェンかいなと思って指摘すれば、「『一生懸命』の気持ちの、表明のつもり。他の人には内緒ね」と笑った、あの子。
「去年はあない可愛かったのに……」
「今年は可愛くないって?」
……やっぱり名前ちゃんのあの煽り方はこの人由来やないか。高圧的かつマウンティングを取るような物言い。名前ちゃんが言うところの、「いかにも」って感じ、「陰湿自転車王国」の箱根学園にふさわしい。
「……ワイが思うにな、名前ちゃんは尊敬するセンパイを真似してああなっとんねん」
「へえ」
「いやほんまに、絶対間違いないわ」
気づいとるんやろ、「イズミダサン」。名前ちゃんの真似をしたわざとらしい呼び方はしっかりカンにさわったらしい。ぴくりと眉を跳ね上げ、その声音はますます剣呑に。
「へえ?ボクのせいだと」
「……絶対そうや。あんな性格の悪いタカビーな煽りするやつ、他に手本おらんわ」
「……そうかもね」
「何わろとんねん……」
「いや?慕ってくれる後輩は可愛いものだろう?」
「本当そういうとこ、あんた譲りや……間違いない……」
本当か演技か、心底嬉しそうに微笑む、その根性は間違いないわ。間違いなく、マツゲくん譲りやわ。げんなり。砂糖吐きそう。名前ちゃんは「そういうのじゃない」って言っとったけど、これは流石のワイも砂吐くわ。
大きな目玉がゆっくり瞬きする。覗いた視線は、妙な闘志を感じるというか、でもいつものスプリントとは違うような。
「なんやその視線」
「いや?アブだよ」
全っ然わからん。一生わからんわ。なんやねん「アブだよ」って。
仮にハコガクには他にも名前ちゃんのお手本になるような性格の悪いやつがぎょーさんおるとしたら、転校を勧めてきた名前ちゃんはほんまに見る目がない。それにしてもおそろしっ!ワイみたいなカラッとした男には理解しがたい感性!
「鳴子、前代わろう」
「あ、ハイ」
交代の指示で後ろに下がる。先頭に残る人の、「いったい何をやったんだ名前……」という、不穏な呟きは聞こえなかったことにした。……何も聞こえなかったんや!
ワイはこれ以上、陰湿王国の揉め事には関わらんと決めたんや!なんたって、ワイは千葉代表総北高校の鳴子章吉やからな!転校するわけでもないのに、他校の内輪の揉め事まで関わってられんわ。……これ、フラグやないで。
隊列の先頭に来た序でに隣の人間をチラリと見る。キッチリ並んだ箱根学園。ずーっと言いたいことがあった。名前ちゃんのことで。言うなら今しかないが、別にレース中の今言わなくてもいいこと……
でも、4月の大事な時期にうまいこと言い負かされた身としては、腹落ちしない。
「転校しろ」だの「総北って2年も3年も後輩の面倒を見れるの?」だの、散々言ってくれた。しかも、インターハイのここまで2日で「名前ちゃんの言うこともちょっとは当たってたな」と思わなくもないところが更にムカつく。やっぱり今言うといた方がええんちゃうか。
よし、チクろう。相手は名前ちゃんの手綱をうまいこと握っているらしい、ハコガクの3年生達に決めている。名前ちゃんは悪いことしでかしてはしょっちゅう怒られてるらしい。
で、その中でも名前ちゃんがいっちゃん尊敬しているとかいう。この人。去年はやり合ったけど、戦況的に今年はその機会もなかった。マツゲくん。名前ちゃんの「イズミダさん」。
視線に気づいてこちらに振り向く、澄ました顔。「どうかしたかい」と尋ねるその口調は落ち着いてる。……普通に走ってれば、普通の人なんやけどな。ほんならまずは軽くジャブからいこか。口を開く。
「おたくの名前ちゃんのことなんやけどな」
「……うちのマネージャーが何か?」
声こっわ!!なるべく気安く声かけたこっちの気使いを無駄にするなや!「や、別に大したことないんやけど」と大阪人らしからぬ遠慮言葉まで挟んでしまう。こっわ!こっちに気い使わせるなや!名前ちゃん、おたくの先輩の情緒はどうなってんねん。今日はどこで何してるのかもしれない他校の友人を思い浮かべる。
「……名前ちゃん、スッゴく性格悪く育ったなあ。1日目、うちの古賀さんと杉元が名前ちゃんにおもくそ煽られて、泣かされて帰ってきたわ」
「へえ」
それは聞いていなかったな、と呟く表情はお世辞にも穏やかでない。ごめん、名前ちゃん。ワイいらんこと言ったかも。いや、4月新入生を迎える目前のナイーブな時期にあれだけ言われたのだ、これくらいの仕返しは……
1年前のインターハイを思い返す。初日のゴール地点、各校のテントからも離れた場所で何やら人だかりができていた。興味本位で背伸びすれば、突発的に選手同士の交流が発生していたらしかった。いろんなジャージが入り乱れ、選手だけでなくサポートと思しき人なんかもおって、みんなケータイ片手に今日の活躍を語り合って、賑やかやった。
ぎょーさんおる選手達、そのド真ん中にいたのは、王者ハコガクのマネージャー。ポニーテールを揺らし、呑気にニコニコ笑顔を振り撒いてた女の子。当時1年生の名前ちゃん。人垣のいっちゃん外から覗いてたワイを見つけて、「総北の!見てたよー」って、目えキラキラさせて声かけてきよった。
その場で連絡先を交換して(一緒にいた小野田くんはカツアゲみたいな勢いで連絡先を奪われていた。スカシも)、インハイの後もメールでやり取りが続いて、久しぶりに顔をあわせた時には髪が短くなっとった。イメチェンかいなと思って指摘すれば、「『一生懸命』の気持ちの、表明のつもり。他の人には内緒ね」と笑った、あの子。
「去年はあない可愛かったのに……」
「今年は可愛くないって?」
……やっぱり名前ちゃんのあの煽り方はこの人由来やないか。高圧的かつマウンティングを取るような物言い。名前ちゃんが言うところの、「いかにも」って感じ、「陰湿自転車王国」の箱根学園にふさわしい。
「……ワイが思うにな、名前ちゃんは尊敬するセンパイを真似してああなっとんねん」
「へえ」
「いやほんまに、絶対間違いないわ」
気づいとるんやろ、「イズミダサン」。名前ちゃんの真似をしたわざとらしい呼び方はしっかりカンにさわったらしい。ぴくりと眉を跳ね上げ、その声音はますます剣呑に。
「へえ?ボクのせいだと」
「……絶対そうや。あんな性格の悪いタカビーな煽りするやつ、他に手本おらんわ」
「……そうかもね」
「何わろとんねん……」
「いや?慕ってくれる後輩は可愛いものだろう?」
「本当そういうとこ、あんた譲りや……間違いない……」
本当か演技か、心底嬉しそうに微笑む、その根性は間違いないわ。間違いなく、マツゲくん譲りやわ。げんなり。砂糖吐きそう。名前ちゃんは「そういうのじゃない」って言っとったけど、これは流石のワイも砂吐くわ。
大きな目玉がゆっくり瞬きする。覗いた視線は、妙な闘志を感じるというか、でもいつものスプリントとは違うような。
「なんやその視線」
「いや?アブだよ」
全っ然わからん。一生わからんわ。なんやねん「アブだよ」って。
仮にハコガクには他にも名前ちゃんのお手本になるような性格の悪いやつがぎょーさんおるとしたら、転校を勧めてきた名前ちゃんはほんまに見る目がない。それにしてもおそろしっ!ワイみたいなカラッとした男には理解しがたい感性!
「鳴子、前代わろう」
「あ、ハイ」
交代の指示で後ろに下がる。先頭に残る人の、「いったい何をやったんだ名前……」という、不穏な呟きは聞こえなかったことにした。……何も聞こえなかったんや!
ワイはこれ以上、陰湿王国の揉め事には関わらんと決めたんや!なんたって、ワイは千葉代表総北高校の鳴子章吉やからな!転校するわけでもないのに、他校の内輪の揉め事まで関わってられんわ。……これ、フラグやないで。
