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アイナナウエハースの77弾が出た。
ウエハースは過去に箱買いしたこともあるが、消費があまりに大変なので、一度苦しんでからは買わないことに決めたのだ。どうしても欲しければ、同じ絵柄がメタカで出た時に回せばいいと思って。
が、突如販売決定したウエハース77弾!箔押しはバースデー2025!前代未聞のシクレはアイナナ手書きメモ!
三月!大和お気に入りのひじきごはんのレシピ!
環!テスト勉強の一部!落書き付き!
壮五!メッゾの新曲の歌詞メモ!
おいおいおい2025バースデーはŹOOĻもTRIGGERも白フリフリかよ!予約不可避。買います。これは夢か?(夢です)
しかもシクレはアイナナの7枚だが、裏面のコードを読み込むと、AR機能で動画が見れる。壮五に至ってはデモテープが再生できる。次弾以降で他グルで何が出るか期待が膨らむ、ウエハース初の試み。これが食品付きランダムとあって、アイナナ界隈は荒れに荒れた。そりゃそうだわ。
いや、改めて見ても、バッカじゃねーの!!
こんなんウエハースで売るな!!食への冒涜!!ウエハースやめろ!ラムネとかにして!!そんなもの食品付きランダムで出すな!!
オレは……もうウエハースは買わないって決めたんだよ!!私は叫ぶ。オレは栄養には詳しいんだ、いや詳しくないけどわかる。こんなんシクレと箔押しコンプ目指したら、糖尿病まっしぐらだって。
店頭にはウエハースの箱が山と積まれていた。そして、私は財布の中にクレカがあることを確認して。
……さ、3箱買った。愚かにも。だって、ウエハースは1箱じゃコンプリートできない仕様だから。ドクターインピンクを揃えるために、かなり苦労して、二度と買わないと決めた。が、だってデモテープ……壮五の新曲歌唱……
どーしよう……ウエハースが3箱も入ったビニール袋は重い。会社でおやつにするしかない。10時と15時に1枚ずつぼりぼり食べよう。コーヒーで流し込んで。あー本当に好きじゃないんだよな。これ……バニラ味……
「どうした、こんな道端で」
「とっ東堂様!」
あわててウエハースの入ったビニール袋を背中に隠す。ハコガクのエースクライマー、鋼メンタル、巻ちゃんのベストライバル。よりによって、オタクに理解のなさそうな陽キャが!
しかしこの、眩しい赤色のジャージ。耳にはピアス。私は動きが止まる。待てよ。これ、もしかして、ハコガクじゃなくて、筑士波の……
「はるばるつくば森までどうしたんです。仕事は」
「じっ実はカクカクシカジカで……」
「なるほど」
私はどうやら、はるばるつくば森市まで来てしまったらしい。毎日推しの足跡を辿るべくGoogleマップを眺めすぎたかしら。うっかりこんなところまで来てしまうなんて……うちからは車で高速道路に乗るか、電車を何個も乗り継ぎ乗り継ぎしないと来れない地なのに。
「そういうことなら、うちの部員が喜んで食べる。たまには顔を見せたらどうだ」
「えっそのいや、すみません中のカードは欲しいんです」
……なんで東堂様にこんな情けないこと言ってるんだろう。ウエハースはいらないが中身は欲しいと、オタク以外には意味のわからない発言だろうに、東堂様はあっさり頷いてプレハブ棟を指差した。
「開封するなら部室を貸してやろう。今日はミーティングで部員も皆集まる予定で……」
「えっとえっと」
「その茶菓子に出せば、修作が喜んで食べるだろうからな」
「お世話になります!」
そうだ、修作。修作に食ってもらうか……迅くんがいるならそっちにも協力を依頼して。
「あのですね東堂様」
「なんです」
「実は……さ、3箱もあるんですけど」
「ご心配なく。うちには飢えた男子大学生が4人いるからな」
「ん?」
4人?立ち上げ直後の筑士波大学自転車部は、東堂尽八、田所迅、糸川修作の3人だったはずだ。
まさか。
「エッ今もしかして、かのひと、留学中ですか!?」
「は?巻ちゃんならとっくに帰ったよ」
「留学編後ってことですか!?」
「留学編……?ともかく、ヤツはイギリスに戻った。お前も、巻ちゃんに会えなくて残念だったな。また今年も来てくれると、祈るしかあるまいよ」
憐れむような、惜しむような。遠くにいる友を思って東堂様は瞼を伏せる。深く、物憂げに息を吐いて。
「こ、今年……?」
今年って、今年って、つまり東堂尽八大学2年生ってことッ!?!?!?
そんな、都合が良すぎる……!と聞いたばかりのセリフを吐こうとしたが、彼にとってはもう少なくとも半年以上前のことなのだ。
「ね、念のためにお伺いしますけど」
東堂様はすでに部室のドアに手をかけている。あれが、この、東堂様が、ただひとりのために、立ち上げた自転車部の。感動する暇はない。なんならもう逃げ出す準備を始めている。
「なんです、今更怖気づいたなどと言う気ではあるまいな」
「そのまさかです、あの、もしかして……今、部室には……」
彼がいますか。舌がもつれて言葉にならない。なんなら体は重く、あるはずの自転車部の表札も読めず、指先の感覚すら不確かだ。
聞く前に東堂様が眉を跳ね上げる。随分と意味深な仕草だ。
「ああ、そのことなら」
ピシッと立てた1本指。きらりと光る、紫の視線。声音は口上を述べるかのように高らかに。揶揄うような演技かかったわざとらしい手つきで部室を指し示す。
「ご紹介しますよ、我が部の有望な新入部員を」
「ぎゃー」
「健気にもこの山神を追って、進学してきた後輩……よくご存じのはずだ」
まずいまずいまずい!!やっぱりこれ『進級後』!?坂道3年目!?てっきり留学編かと!
まずい!じゃあ4人目って、やっぱり、我が推しじゃないですか!つくばの地の水があっているのか、健やかにぐんぐんまつ毛の伸びた!大学生の推し!
まずい!それってつまり、新情報だ!インターハイを終えて、「引退後は少しゆっくりしようかな」などと言ったその先、実際どうだったのか私は知らないのだ!そもそも進学理由すら!
知ってるのは5月、卒業して2ヶ月も経たないのに、寂しくなっちゃった銅橋が、憧れの先輩を追ってはるばるつくば森市を訪れたという!その初日の回想だけ!!
「それはまずい!帰らせていただきます!」
「なぜ!?泉田に会ってからでもいいだろう!?」
「ぎぇー!なぜって!」
そして何より、このウエハースのおまけカードは!あべしの声を!再生する機能がついてるからですよ!!!それはまずいッテ!!
推しに自分と同じ声がするアイドルの歌が再生されるカード(なんだそりゃ)を持ってるところを見られるわけには!いかない!!私は!!絶対ヘンな顔される!何ですかこれ?って顔される!!それに恥ずかしいじゃん!!!!ウエハースたくさん持ってるの見られるって!
「いや東堂様すみません、私、帰る……っていうか今日平日だわ、仕事行かないと……大遅刻だ、無断欠勤になってしまう」
「……無断欠勤してこっちに来たんですか?」
「ぎ、ぎ、ぎ……」
背後から!散々聞いた声!この不審げな声音はグローリーラインで散々聞いた!具体的に言うなら対葦木場芦ノ湖回想!対コマリ2日目スプリントリザルト!聞き覚えしかない、あべしの声!!
そこにいるのか推しよ!会いたくはなかったな!私は振り向くことができない。
カチューシャであらわになっている額を、東堂様が「あちゃー」の顔で抑えている。
ビニール袋の中のウエハースは、幸い未開封。推しに逢坂壮五のデモテープ聞かせる事態は回避。何?声帯あべしのキャラにあべしの別キャラの歌聞かせる事態をなぜ私はこんなにビビっている?別に推しも歌は歌えるのに。
私が高校生だった時とか全然歌ってたし(当時大問題すぎて話題だったし)、なんならカラオケの十八番まで公開されてるし。あれ明らか嘘のやつもあるけど(コラボで出たものを嘘呼ばわりしている。でも嘘でしょ。巻ちゃんとか明らか嘘だもん。逆に鳴子章吉とかはマジのテッパン持ち歌だと思う)、正直最高すぎた。
だから、別に聞かれても困らないのでは?逢坂壮五とかいう、声のよく似てるアイドルの存在くらい、知られてもセーフでは?逆に知ってもらうことで、メイビーをカラオケの持ち歌にする推しが生まれるかもしれない。ム、悪くない……いやいや、まずいッテ!!何がって、全部!
私は「じゃ、東堂様これで失礼します」の一言でくるりと踵を返し、無事逃走に成功した。
背後の「お前なー!時差が無い関係に感謝するべきだぞ!」という騒がしい悲鳴は聞かなかったことにして。東堂様は時差無視してスカイプしまくってるものだと思っていたが。ふたりは自転車以外は、案外遠慮しあう関係性なのかもしれない。そうでもなきゃ、待望の「留学編」の表紙であんな顔しないか……
私は階段の手すりに手をかけて躊躇なく飛び降り、知らない大学の構内を、それから知らない街を駆ける。
銅橋は「道が広くて走りやすい」と喜んでいたけど、実際は大学周辺はそうでもないという話も聞く。あれは特別整備された世界線なのか、それとも走りにくい道も憧れの先輩と再会した喜びで無視されたのか……気になるところだ。
自転車以外の運動はからっきしだとかいう人は追ってこなかった。よかった、愛車を持ち出されたら絶対に勝てないから。ここまで段差の大きい道を選んだ甲斐があった。
やれやれ、推しの捏造新情報、無事回避。それはやっぱり、本誌で見たいもん。私は足を止めずに「とりあえず会社に欠勤連絡入れないとな……」とため息をついた。
ウエハースは過去に箱買いしたこともあるが、消費があまりに大変なので、一度苦しんでからは買わないことに決めたのだ。どうしても欲しければ、同じ絵柄がメタカで出た時に回せばいいと思って。
が、突如販売決定したウエハース77弾!箔押しはバースデー2025!前代未聞のシクレはアイナナ手書きメモ!
三月!大和お気に入りのひじきごはんのレシピ!
環!テスト勉強の一部!落書き付き!
壮五!メッゾの新曲の歌詞メモ!
おいおいおい2025バースデーはŹOOĻもTRIGGERも白フリフリかよ!予約不可避。買います。これは夢か?(夢です)
しかもシクレはアイナナの7枚だが、裏面のコードを読み込むと、AR機能で動画が見れる。壮五に至ってはデモテープが再生できる。次弾以降で他グルで何が出るか期待が膨らむ、ウエハース初の試み。これが食品付きランダムとあって、アイナナ界隈は荒れに荒れた。そりゃそうだわ。
いや、改めて見ても、バッカじゃねーの!!
こんなんウエハースで売るな!!食への冒涜!!ウエハースやめろ!ラムネとかにして!!そんなもの食品付きランダムで出すな!!
オレは……もうウエハースは買わないって決めたんだよ!!私は叫ぶ。オレは栄養には詳しいんだ、いや詳しくないけどわかる。こんなんシクレと箔押しコンプ目指したら、糖尿病まっしぐらだって。
店頭にはウエハースの箱が山と積まれていた。そして、私は財布の中にクレカがあることを確認して。
……さ、3箱買った。愚かにも。だって、ウエハースは1箱じゃコンプリートできない仕様だから。ドクターインピンクを揃えるために、かなり苦労して、二度と買わないと決めた。が、だってデモテープ……壮五の新曲歌唱……
どーしよう……ウエハースが3箱も入ったビニール袋は重い。会社でおやつにするしかない。10時と15時に1枚ずつぼりぼり食べよう。コーヒーで流し込んで。あー本当に好きじゃないんだよな。これ……バニラ味……
「どうした、こんな道端で」
「とっ東堂様!」
あわててウエハースの入ったビニール袋を背中に隠す。ハコガクのエースクライマー、鋼メンタル、巻ちゃんのベストライバル。よりによって、オタクに理解のなさそうな陽キャが!
しかしこの、眩しい赤色のジャージ。耳にはピアス。私は動きが止まる。待てよ。これ、もしかして、ハコガクじゃなくて、筑士波の……
「はるばるつくば森までどうしたんです。仕事は」
「じっ実はカクカクシカジカで……」
「なるほど」
私はどうやら、はるばるつくば森市まで来てしまったらしい。毎日推しの足跡を辿るべくGoogleマップを眺めすぎたかしら。うっかりこんなところまで来てしまうなんて……うちからは車で高速道路に乗るか、電車を何個も乗り継ぎ乗り継ぎしないと来れない地なのに。
「そういうことなら、うちの部員が喜んで食べる。たまには顔を見せたらどうだ」
「えっそのいや、すみません中のカードは欲しいんです」
……なんで東堂様にこんな情けないこと言ってるんだろう。ウエハースはいらないが中身は欲しいと、オタク以外には意味のわからない発言だろうに、東堂様はあっさり頷いてプレハブ棟を指差した。
「開封するなら部室を貸してやろう。今日はミーティングで部員も皆集まる予定で……」
「えっとえっと」
「その茶菓子に出せば、修作が喜んで食べるだろうからな」
「お世話になります!」
そうだ、修作。修作に食ってもらうか……迅くんがいるならそっちにも協力を依頼して。
「あのですね東堂様」
「なんです」
「実は……さ、3箱もあるんですけど」
「ご心配なく。うちには飢えた男子大学生が4人いるからな」
「ん?」
4人?立ち上げ直後の筑士波大学自転車部は、東堂尽八、田所迅、糸川修作の3人だったはずだ。
まさか。
「エッ今もしかして、かのひと、留学中ですか!?」
「は?巻ちゃんならとっくに帰ったよ」
「留学編後ってことですか!?」
「留学編……?ともかく、ヤツはイギリスに戻った。お前も、巻ちゃんに会えなくて残念だったな。また今年も来てくれると、祈るしかあるまいよ」
憐れむような、惜しむような。遠くにいる友を思って東堂様は瞼を伏せる。深く、物憂げに息を吐いて。
「こ、今年……?」
今年って、今年って、つまり東堂尽八大学2年生ってことッ!?!?!?
そんな、都合が良すぎる……!と聞いたばかりのセリフを吐こうとしたが、彼にとってはもう少なくとも半年以上前のことなのだ。
「ね、念のためにお伺いしますけど」
東堂様はすでに部室のドアに手をかけている。あれが、この、東堂様が、ただひとりのために、立ち上げた自転車部の。感動する暇はない。なんならもう逃げ出す準備を始めている。
「なんです、今更怖気づいたなどと言う気ではあるまいな」
「そのまさかです、あの、もしかして……今、部室には……」
彼がいますか。舌がもつれて言葉にならない。なんなら体は重く、あるはずの自転車部の表札も読めず、指先の感覚すら不確かだ。
聞く前に東堂様が眉を跳ね上げる。随分と意味深な仕草だ。
「ああ、そのことなら」
ピシッと立てた1本指。きらりと光る、紫の視線。声音は口上を述べるかのように高らかに。揶揄うような演技かかったわざとらしい手つきで部室を指し示す。
「ご紹介しますよ、我が部の有望な新入部員を」
「ぎゃー」
「健気にもこの山神を追って、進学してきた後輩……よくご存じのはずだ」
まずいまずいまずい!!やっぱりこれ『進級後』!?坂道3年目!?てっきり留学編かと!
まずい!じゃあ4人目って、やっぱり、我が推しじゃないですか!つくばの地の水があっているのか、健やかにぐんぐんまつ毛の伸びた!大学生の推し!
まずい!それってつまり、新情報だ!インターハイを終えて、「引退後は少しゆっくりしようかな」などと言ったその先、実際どうだったのか私は知らないのだ!そもそも進学理由すら!
知ってるのは5月、卒業して2ヶ月も経たないのに、寂しくなっちゃった銅橋が、憧れの先輩を追ってはるばるつくば森市を訪れたという!その初日の回想だけ!!
「それはまずい!帰らせていただきます!」
「なぜ!?泉田に会ってからでもいいだろう!?」
「ぎぇー!なぜって!」
そして何より、このウエハースのおまけカードは!あべしの声を!再生する機能がついてるからですよ!!!それはまずいッテ!!
推しに自分と同じ声がするアイドルの歌が再生されるカード(なんだそりゃ)を持ってるところを見られるわけには!いかない!!私は!!絶対ヘンな顔される!何ですかこれ?って顔される!!それに恥ずかしいじゃん!!!!ウエハースたくさん持ってるの見られるって!
「いや東堂様すみません、私、帰る……っていうか今日平日だわ、仕事行かないと……大遅刻だ、無断欠勤になってしまう」
「……無断欠勤してこっちに来たんですか?」
「ぎ、ぎ、ぎ……」
背後から!散々聞いた声!この不審げな声音はグローリーラインで散々聞いた!具体的に言うなら対葦木場芦ノ湖回想!対コマリ2日目スプリントリザルト!聞き覚えしかない、あべしの声!!
そこにいるのか推しよ!会いたくはなかったな!私は振り向くことができない。
カチューシャであらわになっている額を、東堂様が「あちゃー」の顔で抑えている。
ビニール袋の中のウエハースは、幸い未開封。推しに逢坂壮五のデモテープ聞かせる事態は回避。何?声帯あべしのキャラにあべしの別キャラの歌聞かせる事態をなぜ私はこんなにビビっている?別に推しも歌は歌えるのに。
私が高校生だった時とか全然歌ってたし(当時大問題すぎて話題だったし)、なんならカラオケの十八番まで公開されてるし。あれ明らか嘘のやつもあるけど(コラボで出たものを嘘呼ばわりしている。でも嘘でしょ。巻ちゃんとか明らか嘘だもん。逆に鳴子章吉とかはマジのテッパン持ち歌だと思う)、正直最高すぎた。
だから、別に聞かれても困らないのでは?逢坂壮五とかいう、声のよく似てるアイドルの存在くらい、知られてもセーフでは?逆に知ってもらうことで、メイビーをカラオケの持ち歌にする推しが生まれるかもしれない。ム、悪くない……いやいや、まずいッテ!!何がって、全部!
私は「じゃ、東堂様これで失礼します」の一言でくるりと踵を返し、無事逃走に成功した。
背後の「お前なー!時差が無い関係に感謝するべきだぞ!」という騒がしい悲鳴は聞かなかったことにして。東堂様は時差無視してスカイプしまくってるものだと思っていたが。ふたりは自転車以外は、案外遠慮しあう関係性なのかもしれない。そうでもなきゃ、待望の「留学編」の表紙であんな顔しないか……
私は階段の手すりに手をかけて躊躇なく飛び降り、知らない大学の構内を、それから知らない街を駆ける。
銅橋は「道が広くて走りやすい」と喜んでいたけど、実際は大学周辺はそうでもないという話も聞く。あれは特別整備された世界線なのか、それとも走りにくい道も憧れの先輩と再会した喜びで無視されたのか……気になるところだ。
自転車以外の運動はからっきしだとかいう人は追ってこなかった。よかった、愛車を持ち出されたら絶対に勝てないから。ここまで段差の大きい道を選んだ甲斐があった。
やれやれ、推しの捏造新情報、無事回避。それはやっぱり、本誌で見たいもん。私は足を止めずに「とりあえず会社に欠勤連絡入れないとな……」とため息をついた。
