去る春、君の声だけが在る2.5
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箱根学園の学生寮も流石に年末年始は閉鎖される。今年もなんだかんだうまいこと言いくるめられ、昨日のうちに悠人と地元に帰ってきた。……新開家に。
かわいい幼馴染のおねだりと、突然の電話……「成績のことは聞いたよ」という隼人くんの優しい声で、私の「だーれもいない実家でおひとりさまパーティー」計画は頓挫した。来年は受験生だから、今年しかチャンスはなかったのに……!
今日は隼人くんが帰ってくるので、隼人くんのママは駅までお迎えに元気に出かけて行った。「お昼食べてくるけど、ふたりはどうする?」と聞かれて悠人がわずかに息を止めて。私はなるべくのほほんと「私たちはふたりで何か好きなもの食べようかな、いってらっしゃい!」と送り出した。昨日のカレーに温玉とチーズ乗せてドリアを食べた。悠人は「うまい?」って聞いたら「うまい」って言ってた。その表情は、朝より少しマシだった。
隼人くんと悠人が走っても、この家のすべての問題が片付いたわけではないのだと思い知る。先は長い。
で、キッチンが空いてるうちに正月料理の仕込み。隼人くんが帰ってきたら、自転車と勉強に追われる予定なので、今のうちにやろうと思って。
肉なんかの大物は例年通り隼人くんのママにお願いするとして、野菜のものとか魚系は私も任せてもらえるようになった。料理上手な人に習うレシピは間違いがないので、習う側としてもありがたい。大根を切り甘酢であえて、あと野菜と芋を煮て、それからエビ……ここのうちはなぜか年末年始に豪華なエビチリを食べる家なので、どこかのタイミングで立派なエビがやってくるはずだ。悠人と隼人くんがふたりがかりで剥くことになるだろう。たぶん、1,000グラムくらい。想像するだけで恐ろしい。
「悠人、電気もういっこつけてー」
昼過ぎ、日が翳ってキッチンが暗い。手が汚れてるから悠人に頼もうと顔を上げる。いない。部屋に戻ったのか?
「悠人?」
返事の代わりにスマホのシャッター音。パシャ。カウンターになってる向かいから悠人が顔を出した。
「もー悠人!」
「名前ちゃん、もうちょっと姿勢良くして可愛い顔で切って」
「無茶言うな!写真撮るな!」
電気をつけようと悠人はカウンターを回って中に。実家なので迷いなく電気をつけて、これで手元も良く見えそう。写真は論外だけど。
悠人が手元を覗き込む。
「せっかく来たなら塩はかってよ。小さじ1、大きい方のボウルは2入れて」
「えー」
「違った、その前に写真。消して」
「消さないけど。先輩たちに名前ちゃんがフリフリエプロンでご飯作ってくれるんですよって言ったら絶対写真撮ってこいって。先に謝っとこーかなって」
「文化祭の恨み2年分ってことね!消せ!」
「無理だよ、葦木場さんと休み前に練習で賭けた分だから」
「未来のエース候補が負けてんじゃないわよ!」
「そんなにすぐに勝てるようにはならないんだよ……」
フリフリエプロンは私の趣味ではない。隼人くんのママが色々持っててそれを借りてるだけ。
悠人が気分で選んでくれることも多くて、今日は悠人が「これにしたら?」と勧めるままに白くてひらひらしたやつを選んだ。汚したらシミ抜きが面倒だなと思ったけど、せっかく選んでくれたのでいつものようにそれを借りた。
エプロンの中でも私が「これ借りるね」と選ぶのはラインナップの中でもなるべく若げな色柄で、奥の方にかけてある出番の少ないやつ。間違っても隼人くんのママがレギュラーで着てるやつは選ばない……それから思い出があって大事にとってあるやつも。流石にその辺りのラインナップの見極めはここのうちの次男の方が詳しい。適当に選んで「あら、それ……」とヒヤリとする一言をもらいたくないので。難しいんだよ、そのあたり。
なので、エプロン選びは悠人任せだったんだけど。まさか賭けのネタにされるとは。
そんなに嫌だったのか、文化祭……「揶揄うネタを見つけた」とほくそ笑む黒田さんの邪悪な笑みが目に浮かぶ。受験期でストレスも溜まっているのだろう。
「もう二度と悠人の選んだエプロンは着ない!」
「じゃあ自分で選ぶの?」
「……隼人くんに選ばせる」
「ちょ、それはズルでしょ」
「ズルじゃない!もう二度とこれは着ない!」
「可愛いのに……」
「悠人が着ればいいじゃん」
「オレはもう文化祭で着たから」
「着たからなに?何回でも着ていいんだよ。似合ってたじゃん」
「え、マジ?……でも、これはいいや」
恒例となり果てた(黒田さんに言わせてみれば「なり果てた」が正しいらしい)サイジャカフェ、悠人は1年生らしく可愛らしいと大人気でチェキ王の座を真波から奪うほどの大活躍だった。真波がシフトサボって時間が短かったことも理由のひとつだけど。「もー超カワイイ」「新開くんこっちもチェキお願い!」とモテにモテていた。まあ、背は高いし足はバキバキだけど、普通に可愛かったからな。
今年はレギュラー陣はクライマー多めのはずが全体的にデカくて(昨年天使のようにカワイイと評判だった真波が思いの外2年になって可愛さを失ったことも大きい)、悠人の売れっ子ぶりには助けられた。やはり東堂さん の卒業は痛かったな。売上の面で。
「ただいまー」
そんなこんなで揉めてる間に玄関の方で隼人くんの声がした。悠人が嫌そうな顔をして、さっさと塩をボウルにはかり入れる。塩を棚に戻して、スマホを持ち逃走準備万端。
「オレ、部屋戻るから」
「逃げなくてもいいでしょ。兄弟ふたり水いらずで語り合えばいいじゃん。私抜きで走ってきなよ」
「気まずっ!絶対やだ」
「絶対やだって……悠ちゃんあなたね……」
悠人は口を尖らして、「名前ちゃんもちょっとは隼人くんと話した方がいいよ」なんて生意気なことを言う。
そのままキッチンを出ていってしまって、バタバタ階段を登っていく足音と「おかえり」「……隼人くんも」なんてカワイイやり取りが聞こえる。これを聞けただけで、ここのうちに遊びにきた甲斐があった。私はこの後待ち受ける、隼人くんのスパルタ勉強アンド自転車特訓の存在を一時忘れて和んだ。
かわいい幼馴染のおねだりと、突然の電話……「成績のことは聞いたよ」という隼人くんの優しい声で、私の「だーれもいない実家でおひとりさまパーティー」計画は頓挫した。来年は受験生だから、今年しかチャンスはなかったのに……!
今日は隼人くんが帰ってくるので、隼人くんのママは駅までお迎えに元気に出かけて行った。「お昼食べてくるけど、ふたりはどうする?」と聞かれて悠人がわずかに息を止めて。私はなるべくのほほんと「私たちはふたりで何か好きなもの食べようかな、いってらっしゃい!」と送り出した。昨日のカレーに温玉とチーズ乗せてドリアを食べた。悠人は「うまい?」って聞いたら「うまい」って言ってた。その表情は、朝より少しマシだった。
隼人くんと悠人が走っても、この家のすべての問題が片付いたわけではないのだと思い知る。先は長い。
で、キッチンが空いてるうちに正月料理の仕込み。隼人くんが帰ってきたら、自転車と勉強に追われる予定なので、今のうちにやろうと思って。
肉なんかの大物は例年通り隼人くんのママにお願いするとして、野菜のものとか魚系は私も任せてもらえるようになった。料理上手な人に習うレシピは間違いがないので、習う側としてもありがたい。大根を切り甘酢であえて、あと野菜と芋を煮て、それからエビ……ここのうちはなぜか年末年始に豪華なエビチリを食べる家なので、どこかのタイミングで立派なエビがやってくるはずだ。悠人と隼人くんがふたりがかりで剥くことになるだろう。たぶん、1,000グラムくらい。想像するだけで恐ろしい。
「悠人、電気もういっこつけてー」
昼過ぎ、日が翳ってキッチンが暗い。手が汚れてるから悠人に頼もうと顔を上げる。いない。部屋に戻ったのか?
「悠人?」
返事の代わりにスマホのシャッター音。パシャ。カウンターになってる向かいから悠人が顔を出した。
「もー悠人!」
「名前ちゃん、もうちょっと姿勢良くして可愛い顔で切って」
「無茶言うな!写真撮るな!」
電気をつけようと悠人はカウンターを回って中に。実家なので迷いなく電気をつけて、これで手元も良く見えそう。写真は論外だけど。
悠人が手元を覗き込む。
「せっかく来たなら塩はかってよ。小さじ1、大きい方のボウルは2入れて」
「えー」
「違った、その前に写真。消して」
「消さないけど。先輩たちに名前ちゃんがフリフリエプロンでご飯作ってくれるんですよって言ったら絶対写真撮ってこいって。先に謝っとこーかなって」
「文化祭の恨み2年分ってことね!消せ!」
「無理だよ、葦木場さんと休み前に練習で賭けた分だから」
「未来のエース候補が負けてんじゃないわよ!」
「そんなにすぐに勝てるようにはならないんだよ……」
フリフリエプロンは私の趣味ではない。隼人くんのママが色々持っててそれを借りてるだけ。
悠人が気分で選んでくれることも多くて、今日は悠人が「これにしたら?」と勧めるままに白くてひらひらしたやつを選んだ。汚したらシミ抜きが面倒だなと思ったけど、せっかく選んでくれたのでいつものようにそれを借りた。
エプロンの中でも私が「これ借りるね」と選ぶのはラインナップの中でもなるべく若げな色柄で、奥の方にかけてある出番の少ないやつ。間違っても隼人くんのママがレギュラーで着てるやつは選ばない……それから思い出があって大事にとってあるやつも。流石にその辺りのラインナップの見極めはここのうちの次男の方が詳しい。適当に選んで「あら、それ……」とヒヤリとする一言をもらいたくないので。難しいんだよ、そのあたり。
なので、エプロン選びは悠人任せだったんだけど。まさか賭けのネタにされるとは。
そんなに嫌だったのか、文化祭……「揶揄うネタを見つけた」とほくそ笑む黒田さんの邪悪な笑みが目に浮かぶ。受験期でストレスも溜まっているのだろう。
「もう二度と悠人の選んだエプロンは着ない!」
「じゃあ自分で選ぶの?」
「……隼人くんに選ばせる」
「ちょ、それはズルでしょ」
「ズルじゃない!もう二度とこれは着ない!」
「可愛いのに……」
「悠人が着ればいいじゃん」
「オレはもう文化祭で着たから」
「着たからなに?何回でも着ていいんだよ。似合ってたじゃん」
「え、マジ?……でも、これはいいや」
恒例となり果てた(黒田さんに言わせてみれば「なり果てた」が正しいらしい)サイジャカフェ、悠人は1年生らしく可愛らしいと大人気でチェキ王の座を真波から奪うほどの大活躍だった。真波がシフトサボって時間が短かったことも理由のひとつだけど。「もー超カワイイ」「新開くんこっちもチェキお願い!」とモテにモテていた。まあ、背は高いし足はバキバキだけど、普通に可愛かったからな。
今年はレギュラー陣はクライマー多めのはずが全体的にデカくて(昨年天使のようにカワイイと評判だった真波が思いの外2年になって可愛さを失ったことも大きい)、悠人の売れっ子ぶりには助けられた。やはり
「ただいまー」
そんなこんなで揉めてる間に玄関の方で隼人くんの声がした。悠人が嫌そうな顔をして、さっさと塩をボウルにはかり入れる。塩を棚に戻して、スマホを持ち逃走準備万端。
「オレ、部屋戻るから」
「逃げなくてもいいでしょ。兄弟ふたり水いらずで語り合えばいいじゃん。私抜きで走ってきなよ」
「気まずっ!絶対やだ」
「絶対やだって……悠ちゃんあなたね……」
悠人は口を尖らして、「名前ちゃんもちょっとは隼人くんと話した方がいいよ」なんて生意気なことを言う。
そのままキッチンを出ていってしまって、バタバタ階段を登っていく足音と「おかえり」「……隼人くんも」なんてカワイイやり取りが聞こえる。これを聞けただけで、ここのうちに遊びにきた甲斐があった。私はこの後待ち受ける、隼人くんのスパルタ勉強アンド自転車特訓の存在を一時忘れて和んだ。
