去る春、君の声だけが在る2.5
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リハーサル、軍資金は1,000円。これで好き勝手遊ぶのではなく、部員の接客練習になるようにメニューを選ばなければいけないのが難しいところだ。
レイさんに教室のドアを開けてもらって、待ち構えていたのはフリフリエプロンの選手たち!圧巻。夢に見そう。展示としていつもは部室にある大きな旗と過去のレース写真を飾り、自転車も1台持ってきて、なんとか「自転車競技部サイクルカフェ」としての体裁は保っている。写真コーナーがほぼ東堂さまコーナーなのは客の需要を加味した結果だ。
「いらっしゃーせー」と運動部式やけっぱちの挨拶の後、顔の死んでる荒北さんが「1名さまご案内ー」と迎え入れてくれた。先導する後ろ姿は頼もしすぎる箱根学園のジャージ姿……にフリフリエプロン。それから清々しいまでのガニ股である。
壁側の席、ゼッケンを模した席表が貼ってありここは1番。私が座るには気がひける、王者の席だ。
そんなことを気にした様子もなく荒北さんが椅子(普段は授業で使ってるやつだ)を引いてくれて、一言。
「どーぞ、お嬢様」
「ちょっと荒北さん!うちはメイドカフェじゃないんですけど!」
「注文が多いんだよ!」
荒北さんはキレながらもちゃんとメニューを説明してくれて、そのあたりは問題なさそうだった。
「えーっと、ジュース注ぐ練習はしてもらった方がいいので、まず100円……」
「パーッと使っちまえよ」
「うるさいな……あ、ジュース苗字用で1本持って来てるのでそこからついでください。本番用の2リットル開けるの勿体無いので」
「え?あのカルピス差し入れかと思って飲んじゃった」
「真波……!!名前書いといたでしょうが!!」
いつも通りヘラヘラしてるが、真波もフリフリエプロンである。ふらふらするとそれに合わせて揺れるリボン結びもフリフリも、その顔立ちのおかげか「いちばん事故ってない」「天使のようだ……」「3年まで天使でいてくれ……」などと言われ、数多の部員を狂わせていた。そのくせ「えーやだなあ……写真も残るし……」などと言っていちばんギリギリまで渋っていたのは、やはり好きな女の子に見られるのが嫌だったのかも。着せたが。
「えーてっきり飲んでいいやつかと」
「真波……自販機で買ってこい」
東堂さんが呆れ顔で廊下を指差すが、しかしその姿もフリフリエプロンである。
「外出るなら脱いでから行けよ」と声をかけた隼人くんもフリフリエプロン。寿一くんがいないな、と思ったらチェキカメラを持って参戦。当然フリフリエプロン。仁王立ちでテーブルサイドに着くと、腕組みのままひとこと。
「予算は」
「フクよ、うちは押し売り色恋なしの掛けなし現金決済健全商売だ」
「……本番はテーブルごとに時間の管理だけしてもらって、会計の方は裏方に任せたほうがいいですかね……」
「わかった」
「威圧感がすごくて、注文の強要とも取られかねません」の言葉はギリギリ飲み込んだ。東堂さんが額を抑えているので同感なのかも。
「私の今日の予算は1,000円です!本番のお客さんも時間的にそれくらいになるんじゃないかな。とりあえず、ジュースと補給1ずつお願いします」
「飲み物は何になさいますか」
「えーっとあるやつでお願いします」
「今買いに走らせてるので少々お待ちください」
「本番は品切れ注意ですねー」
マニュアル通りのセリフが言えてるので、寿一くんも荒北さんも大丈夫そうだ。失礼ながら接客ができるのかという点ではかなり心配していたので、一安心。
荒北さんがフリフリエプロンのポケットから不似合いなストップウォッチを取り出し「残り25分」と呟く。時間管理用のストップウォッチもいつも練習に使ってるやつだ。備品の有効活用。「首からかけてもかわいいと思います!」と言ったら「かわいいの感覚が狂ってんだよ」と黒田さんに睨まれた。
「飲み物待つ間にチェキいいですか」
「どうぞ!お客様とのツーショットは300円になります。ぜひ、このスリーピングビューティーをご指名ください!」
「へー、私はいらないので、選手同士のツーショットがいいんですけど、それはできますか?」
「もちろんです!同じく300円で、選手2人とのスリーショットだと400円です」
商売モードの東堂さんは安定しすぎてて、問題がない……どころかいつも険しい顔と高笑いばかり見てるから、ちょっとこわい。っていうか完璧すぎて部員の練習にならない。
「じゃ、私フクトミセンパイとアラキタセンパイのツーショがほしいなー」
「チッ」
「荒北、チッしない!」
「お客様、スリーショットでなくてよろしいですか?」
「はい、ぜひ選手のツーショットで!」
「チッ」
「荒北さんチッしないでください!」
荒北さんから2発も舌打ちをくらってしまったが、明日からの本番ではこれくらいの無茶振りはたくさんされるだろうから、慣れてもらわないと。なので私は何も知らないふりをして更なる注文をつける。
「チェキってぇ、ポーズは指定できるんですかあ?」
「おいコラ苗字!」
「荒北さんこれくらいでキレてたら明日からどうするんですか」
「わかってやってるからタチが悪ぃんだよ!」
「わざとですって!」
「お客様すみませんポーズの指定は……」
「ほら寿一くんがしっかりやってるんだから荒北さんも頑張ってくださいよ!」
「じゃオレが撮るかな」
隼人くんが年季の入ったチェキカメラを慎重な手つきで取り上げた。フリフリエプロンの憧れの先輩ふたりをフリフリエプロンの幼馴染が撮影する光景。こんなの生涯に一度しか見れない光景だ。
他の部員たちと一緒になってのんびり眺めていたが、リハーサルなのを思い出し、「かわいー」「もっと笑ってー」などと野次を飛ばしてみる。意図を把握した東堂さんも「笑顔固いぞー」と煽る。目視ではっきりわかるほど荒北さんのこめかみが脈打つ。寿一くんは至って平静、野次にも屈さずいつも通りの顔だ。強いな。
無事にカメラが真っ白の紙を吐き出し、そのままペンでメッセージを書いてもらう。あ、荒北さんに酷い文言書かれそう。ま、これも思い出ということで……「おらよ」と渡されたチェキには「オレは強い」といつもの文句(勿論「とりあえずこれを書いておけば間違いない」という東堂さんの入れ知恵だ)、それから「覚えてろよ」と恐ろしい文言が書かれていた。怖!
「あと200円残ってるだろ。どうする?」
隼人くんはしっかりお金を数えていたらしい。えらい。ただ、注文の強要とも取られかねないので本番は控えてもらわないと。全く、ふたりして売上至上主義にも程がある……これ以上言うと黒田さんに「誰のせいだ誰の!」と怒られるからやめておこう。
普通にやり口か健全商売じゃなさすぎて幼馴染としては心配だが。明日も戦力として期待できる。青い目が楽しそうに笑みを作る。
「ジュース、オレらに奢るか?」
「うちは健全商売なの!……せっかくなので200円追加して3ショットお願いします!」
「おー珍しく財布の紐が緩んだな」
「誰にしますか?3年か……っておい、2年のやつらはどこ行ったんだ」
「ストライキか?」
「泉田は実行委員の集会に行ったぜ」
「黒田さんはすっごく怒ってたからストライキかも……篠崎さん金子さんお願いします!」
「オレぇ!?」
「ちょちょちょオレエプロン着てないけど」
いつもお世話になってる頼れる一個上のアニキ。挟まれるならここがいい。いつも優しくて、厳しくて、大好きな先輩の貴重なフリフリエプロンだから!
「金子さんエプロン7番でしたっけ?今7番着てる人から追い剥ぎしてもらって」
「7番誰だ?」
「黒田」
「わーよかったですね、黒田さんエプロン回避ですか?いいなー」
飲み物を仕入れてきた真波に煽られて、黒田さんは青筋を立てる。フリフリエプロンと「ゆき」の手作り名札のせいで怖さは半減しているけど。
「よかねえよ!!」
「わ、ちょっとちょっと!黒田さん、大事に脱いでくださいよ!」
「知るか!お前いつか地獄に落ちるぞ」
「金の亡者という点ではレイさんと仲良く落ちる予定なのでお気遣いなく!」
「チッ」
「もー黒田さんまでチッしないでください!」
私はお客様役のはずが、慌てて黒田さんのリボン結びを解く羽目に。一応しっかり縫いつけてはあるけど、工業製品みたいに強くないのだ。「回って〜肩のとこ抜いて〜」と手を貸して、フリフリエプロンを黒田さんから取り払う。こうして黒田さんは見慣れたかっこいいハコガクジャージ姿に。
「金子さんどーぞ」
「かねやんご指名?いーなー」
「よくねえ!」
「3年の目が怖えよ」
「そうだよ苗字、3年指名しろよ最後だろ」
「えー無理言って着せたので、写真までは……悪いかなって」
「そう思うならエプロンの時点で思いとどまれよ」
シノさん金子さんにこんなに怒られるのは久しぶりだな。最近は部活にも仕事に慣れて、怒られるようなことも減ったのに。
あ、そうだ。仕事……リハーサル!
「……篠崎さんと金子さんに挟まれたい場合はいくらなんでしたっけ」
「お前言い方な」
「あっすみません」
「うーんスリーショットは通常300円のところ、400円になりますー」
文句たらたらの2年の先輩方もマニュアルは頭に入ってるらしい。よかった。あとは本番お客さん相手に凄まないかだけ。大丈夫だと信じる。
「そろそろ予算オーバーか?」
「オーバーだけど払います!チッ……それにしてもコスい商売だな!」
「お前が料金設定したんだろーが!」
「ユキちゃん、どうどう」
葦木場さん専用2メートル越えのエプロンは無事どうにかなって良かった。長さの分フリフリも多くて圧倒の風格である。頑張ってよかった、エースのフリフリエプロン。一方、フリフリエプロン脱ぎ捨たのにキレてる黒田さん。
「塔一郎呼び戻せ!んで新開さんと挟ませろ!コイツ止めるならそれしかねえだろ!」
「く、黒田無茶言うなって」
「そうだよ、塔ちゃん実行委員会の集合かかって喜んで出てったのに……」
泉田さんは呼び出しかかった途端に「拓斗!ユキ!すまないがあとは任せたよ」「すまないの顔じゃねえ!」「塔ちゃんの裏切りもの……」というやり取りをして、エプロン脱ぎ捨て出ていってしまったらしい。なので今日はまだお目にかかれていない。
しかもバシさんまで脱走した。「クラスの展示担当が……」とか言って。フリフリエプロンがそんなに嫌か!?!?しかも「お前にだけは見せたくねえ」とか言って頑張って縫った(葦木場さんほどじゃないけどデカい人が着るので時間がかかった)8番エプロンの試着も見せてくれない徹底ぶりだった。「見られたくない」ですらなく「見せたくない」には流石の私も傷ついた。そのエプロンは私が縫ったんだけど!?ねえ!?納得いきません。
「みんなそんなにフリフリエプロンが嫌かよ……」
「いやだよ」
冷たい視線、真波のマジレス。「箱根学園が誇るふわふわの王子様」すらこの顔だ。すずこちゃんは「委員長、自転車部は絶対見にきちゃダメだからね」と強く言われたらしい。そんなに嫌かね。
まあ、来年はもうちょっと考えるよ……考えた末にフリフリエプロンかもしれないけど。だってサイジャカフェ、準備が簡単だし当日も難しくないし集客が見込めるしでいいことずくめなんだよ……
レイさんに教室のドアを開けてもらって、待ち構えていたのはフリフリエプロンの選手たち!圧巻。夢に見そう。展示としていつもは部室にある大きな旗と過去のレース写真を飾り、自転車も1台持ってきて、なんとか「自転車競技部サイクルカフェ」としての体裁は保っている。写真コーナーがほぼ東堂さまコーナーなのは客の需要を加味した結果だ。
「いらっしゃーせー」と運動部式やけっぱちの挨拶の後、顔の死んでる荒北さんが「1名さまご案内ー」と迎え入れてくれた。先導する後ろ姿は頼もしすぎる箱根学園のジャージ姿……にフリフリエプロン。それから清々しいまでのガニ股である。
壁側の席、ゼッケンを模した席表が貼ってありここは1番。私が座るには気がひける、王者の席だ。
そんなことを気にした様子もなく荒北さんが椅子(普段は授業で使ってるやつだ)を引いてくれて、一言。
「どーぞ、お嬢様」
「ちょっと荒北さん!うちはメイドカフェじゃないんですけど!」
「注文が多いんだよ!」
荒北さんはキレながらもちゃんとメニューを説明してくれて、そのあたりは問題なさそうだった。
「えーっと、ジュース注ぐ練習はしてもらった方がいいので、まず100円……」
「パーッと使っちまえよ」
「うるさいな……あ、ジュース苗字用で1本持って来てるのでそこからついでください。本番用の2リットル開けるの勿体無いので」
「え?あのカルピス差し入れかと思って飲んじゃった」
「真波……!!名前書いといたでしょうが!!」
いつも通りヘラヘラしてるが、真波もフリフリエプロンである。ふらふらするとそれに合わせて揺れるリボン結びもフリフリも、その顔立ちのおかげか「いちばん事故ってない」「天使のようだ……」「3年まで天使でいてくれ……」などと言われ、数多の部員を狂わせていた。そのくせ「えーやだなあ……写真も残るし……」などと言っていちばんギリギリまで渋っていたのは、やはり好きな女の子に見られるのが嫌だったのかも。着せたが。
「えーてっきり飲んでいいやつかと」
「真波……自販機で買ってこい」
東堂さんが呆れ顔で廊下を指差すが、しかしその姿もフリフリエプロンである。
「外出るなら脱いでから行けよ」と声をかけた隼人くんもフリフリエプロン。寿一くんがいないな、と思ったらチェキカメラを持って参戦。当然フリフリエプロン。仁王立ちでテーブルサイドに着くと、腕組みのままひとこと。
「予算は」
「フクよ、うちは押し売り色恋なしの掛けなし現金決済健全商売だ」
「……本番はテーブルごとに時間の管理だけしてもらって、会計の方は裏方に任せたほうがいいですかね……」
「わかった」
「威圧感がすごくて、注文の強要とも取られかねません」の言葉はギリギリ飲み込んだ。東堂さんが額を抑えているので同感なのかも。
「私の今日の予算は1,000円です!本番のお客さんも時間的にそれくらいになるんじゃないかな。とりあえず、ジュースと補給1ずつお願いします」
「飲み物は何になさいますか」
「えーっとあるやつでお願いします」
「今買いに走らせてるので少々お待ちください」
「本番は品切れ注意ですねー」
マニュアル通りのセリフが言えてるので、寿一くんも荒北さんも大丈夫そうだ。失礼ながら接客ができるのかという点ではかなり心配していたので、一安心。
荒北さんがフリフリエプロンのポケットから不似合いなストップウォッチを取り出し「残り25分」と呟く。時間管理用のストップウォッチもいつも練習に使ってるやつだ。備品の有効活用。「首からかけてもかわいいと思います!」と言ったら「かわいいの感覚が狂ってんだよ」と黒田さんに睨まれた。
「飲み物待つ間にチェキいいですか」
「どうぞ!お客様とのツーショットは300円になります。ぜひ、このスリーピングビューティーをご指名ください!」
「へー、私はいらないので、選手同士のツーショットがいいんですけど、それはできますか?」
「もちろんです!同じく300円で、選手2人とのスリーショットだと400円です」
商売モードの東堂さんは安定しすぎてて、問題がない……どころかいつも険しい顔と高笑いばかり見てるから、ちょっとこわい。っていうか完璧すぎて部員の練習にならない。
「じゃ、私フクトミセンパイとアラキタセンパイのツーショがほしいなー」
「チッ」
「荒北、チッしない!」
「お客様、スリーショットでなくてよろしいですか?」
「はい、ぜひ選手のツーショットで!」
「チッ」
「荒北さんチッしないでください!」
荒北さんから2発も舌打ちをくらってしまったが、明日からの本番ではこれくらいの無茶振りはたくさんされるだろうから、慣れてもらわないと。なので私は何も知らないふりをして更なる注文をつける。
「チェキってぇ、ポーズは指定できるんですかあ?」
「おいコラ苗字!」
「荒北さんこれくらいでキレてたら明日からどうするんですか」
「わかってやってるからタチが悪ぃんだよ!」
「わざとですって!」
「お客様すみませんポーズの指定は……」
「ほら寿一くんがしっかりやってるんだから荒北さんも頑張ってくださいよ!」
「じゃオレが撮るかな」
隼人くんが年季の入ったチェキカメラを慎重な手つきで取り上げた。フリフリエプロンの憧れの先輩ふたりをフリフリエプロンの幼馴染が撮影する光景。こんなの生涯に一度しか見れない光景だ。
他の部員たちと一緒になってのんびり眺めていたが、リハーサルなのを思い出し、「かわいー」「もっと笑ってー」などと野次を飛ばしてみる。意図を把握した東堂さんも「笑顔固いぞー」と煽る。目視ではっきりわかるほど荒北さんのこめかみが脈打つ。寿一くんは至って平静、野次にも屈さずいつも通りの顔だ。強いな。
無事にカメラが真っ白の紙を吐き出し、そのままペンでメッセージを書いてもらう。あ、荒北さんに酷い文言書かれそう。ま、これも思い出ということで……「おらよ」と渡されたチェキには「オレは強い」といつもの文句(勿論「とりあえずこれを書いておけば間違いない」という東堂さんの入れ知恵だ)、それから「覚えてろよ」と恐ろしい文言が書かれていた。怖!
「あと200円残ってるだろ。どうする?」
隼人くんはしっかりお金を数えていたらしい。えらい。ただ、注文の強要とも取られかねないので本番は控えてもらわないと。全く、ふたりして売上至上主義にも程がある……これ以上言うと黒田さんに「誰のせいだ誰の!」と怒られるからやめておこう。
普通にやり口か健全商売じゃなさすぎて幼馴染としては心配だが。明日も戦力として期待できる。青い目が楽しそうに笑みを作る。
「ジュース、オレらに奢るか?」
「うちは健全商売なの!……せっかくなので200円追加して3ショットお願いします!」
「おー珍しく財布の紐が緩んだな」
「誰にしますか?3年か……っておい、2年のやつらはどこ行ったんだ」
「ストライキか?」
「泉田は実行委員の集会に行ったぜ」
「黒田さんはすっごく怒ってたからストライキかも……篠崎さん金子さんお願いします!」
「オレぇ!?」
「ちょちょちょオレエプロン着てないけど」
いつもお世話になってる頼れる一個上のアニキ。挟まれるならここがいい。いつも優しくて、厳しくて、大好きな先輩の貴重なフリフリエプロンだから!
「金子さんエプロン7番でしたっけ?今7番着てる人から追い剥ぎしてもらって」
「7番誰だ?」
「黒田」
「わーよかったですね、黒田さんエプロン回避ですか?いいなー」
飲み物を仕入れてきた真波に煽られて、黒田さんは青筋を立てる。フリフリエプロンと「ゆき」の手作り名札のせいで怖さは半減しているけど。
「よかねえよ!!」
「わ、ちょっとちょっと!黒田さん、大事に脱いでくださいよ!」
「知るか!お前いつか地獄に落ちるぞ」
「金の亡者という点ではレイさんと仲良く落ちる予定なのでお気遣いなく!」
「チッ」
「もー黒田さんまでチッしないでください!」
私はお客様役のはずが、慌てて黒田さんのリボン結びを解く羽目に。一応しっかり縫いつけてはあるけど、工業製品みたいに強くないのだ。「回って〜肩のとこ抜いて〜」と手を貸して、フリフリエプロンを黒田さんから取り払う。こうして黒田さんは見慣れたかっこいいハコガクジャージ姿に。
「金子さんどーぞ」
「かねやんご指名?いーなー」
「よくねえ!」
「3年の目が怖えよ」
「そうだよ苗字、3年指名しろよ最後だろ」
「えー無理言って着せたので、写真までは……悪いかなって」
「そう思うならエプロンの時点で思いとどまれよ」
シノさん金子さんにこんなに怒られるのは久しぶりだな。最近は部活にも仕事に慣れて、怒られるようなことも減ったのに。
あ、そうだ。仕事……リハーサル!
「……篠崎さんと金子さんに挟まれたい場合はいくらなんでしたっけ」
「お前言い方な」
「あっすみません」
「うーんスリーショットは通常300円のところ、400円になりますー」
文句たらたらの2年の先輩方もマニュアルは頭に入ってるらしい。よかった。あとは本番お客さん相手に凄まないかだけ。大丈夫だと信じる。
「そろそろ予算オーバーか?」
「オーバーだけど払います!チッ……それにしてもコスい商売だな!」
「お前が料金設定したんだろーが!」
「ユキちゃん、どうどう」
葦木場さん専用2メートル越えのエプロンは無事どうにかなって良かった。長さの分フリフリも多くて圧倒の風格である。頑張ってよかった、エースのフリフリエプロン。一方、フリフリエプロン脱ぎ捨たのにキレてる黒田さん。
「塔一郎呼び戻せ!んで新開さんと挟ませろ!コイツ止めるならそれしかねえだろ!」
「く、黒田無茶言うなって」
「そうだよ、塔ちゃん実行委員会の集合かかって喜んで出てったのに……」
泉田さんは呼び出しかかった途端に「拓斗!ユキ!すまないがあとは任せたよ」「すまないの顔じゃねえ!」「塔ちゃんの裏切りもの……」というやり取りをして、エプロン脱ぎ捨て出ていってしまったらしい。なので今日はまだお目にかかれていない。
しかもバシさんまで脱走した。「クラスの展示担当が……」とか言って。フリフリエプロンがそんなに嫌か!?!?しかも「お前にだけは見せたくねえ」とか言って頑張って縫った(葦木場さんほどじゃないけどデカい人が着るので時間がかかった)8番エプロンの試着も見せてくれない徹底ぶりだった。「見られたくない」ですらなく「見せたくない」には流石の私も傷ついた。そのエプロンは私が縫ったんだけど!?ねえ!?納得いきません。
「みんなそんなにフリフリエプロンが嫌かよ……」
「いやだよ」
冷たい視線、真波のマジレス。「箱根学園が誇るふわふわの王子様」すらこの顔だ。すずこちゃんは「委員長、自転車部は絶対見にきちゃダメだからね」と強く言われたらしい。そんなに嫌かね。
まあ、来年はもうちょっと考えるよ……考えた末にフリフリエプロンかもしれないけど。だってサイジャカフェ、準備が簡単だし当日も難しくないし集客が見込めるしでいいことずくめなんだよ……
