去る春、君の声だけが在る2.5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
忘れもしない昨年末。朝晩の厳しい走り込みと悠人の受験勉強。だから今年は実家でのんびりしようと思っていたのだ。
「なんで?うちくればいいのに」
「いやー帰るよ、実家全然帰ってないし……」
当然来るよね?と言わんばかりに話題を振った悠人。私の断り文句を聞いて口を尖らせた。
「隼人くんも帰ってくるのに?」
「ちゃんと新年の挨拶には行きますよ」
「そうじゃなくて、泊まればいいのに」
「遠慮します」
「なんで!」
なんでって、それは。邪魔になるからだよ。
追い出しライドで、悠人と隼人くんの関係は少しばかり前進したらしかった。最前線で戦ったふたりに対して、私はふたりが飛び出すのを見送って早期離脱。
だから直接目にしたわけではないが、すっきりとした表情で悠人が戻ってきたことから事情は察せられた。「星」を取られたことには不満そうだったけど、ずいぶんと男前になって。私は安堵のあまりちょっと泣いた。もちろん陰で。
ほとんど会話のないような、距離感を探り合うような関係性は一度決着ついたらしい。せっかく兄弟ふたりで過ごせるのだから、ゆっくり話し合ったほうがいい。そう、たとえば朝晩仲良く自転車なんか乗ったりして。勉強見てもらったりして。
「名前ちゃんち、休みの間ママもいないって聞いたけど」
「情報が早いな」
「あったりまえでしょ。オレの方が名前ちゃんのママとラインしてるよ」
「うげっ!余計なこと言ってないよね!?」
「言ってないし。名前ちゃんは感謝が足りない」
「はい……」
そんなこと言ったら私の方が隼人くんのママと連絡取り合ってるけどね。しかし新開家の仲を取りもててるとは言い難いので大人しく黙る。
転勤続きで日本じゅう飛ばされている父は今現在京都にいる。母は「せっかくだから京都で正月を迎えたい」と年末年始は京都に行くことにしたらしい。私は……誰もいない実家で気楽に過ごすことを選んだ。不登校をめぐる言い争いが尾を引いて、我が家は家族全員揃うと未だギクシャクしている。なので、ひとりで過ごすことは全然問題ない。
「何が嫌?」
「な、何が嫌も何も……2年連続でお世話になるのはちょっと」
「えーオレこの1年ちょっと頑張ったと思うんだけど。それくらいご褒美があってもいいよね?」
「悠人の頑張りはそんなもんじゃなかったよ!」
「そう?」
悠人はそう、なんて気取って顔を逸らしたけど、その耳が赤いのはバレバレだった。多分、マジ?って食いつきそうになったのをなんとか押さえつけて。どんどん大人になって幼馴染離れしていく悠人にもまだまだかわいいところがある。
悠人の頑張りはちょっとどころではない。1年生ながら代表選手に選ばれインターハイを走り、代替わりの後は次期エース候補として立派にやっている。背も伸びたし、精神的にも成長して幼馴染としてはその成長ぶりを全力で褒めたい。こっそり悠人の活躍を隼人くんに送っているのは秘密だ。バレたら絶対怒るから。
だからこそ、今年の年末年始は兄弟ふたり、水入らずで……という思いがある。話したいこと、話すべきことがたくさんあるはずだから。
少し離れて座っていた悠人(これが常識的な男女の距離感らしい)は一気に距離を詰めて。赤い瞳がいたずらっぽくこっちを見ていた。室内灯の光を受けてきらりと光る。
「名前ちゃん、今年もうちで練習したほうがいいんじゃない?自転車」
「げっ」
「勉強も隼人くんに見て貰えば?」
「こらっ悠人っ!」
「で、誕生日ケーキ楽しみにしてるから!」
「もうっ!調子乗んな!」
箱根学園の精鋭と走った初めてのファンライドは散々で、それから私の成績低迷も悠人にとってはいい揶揄いのネタになっている。
悠人は笑って私の腕を躱し、颯爽と私の横をすり抜けて部室のドアまで辿りつく。身体能力に差がありすぎて追う気にもならないので、「葦木場さんにチクってやる」と呟くことしかできない。
悠人はドアに手をかけ、くるっと振り向いて。その顔はもう「頼れる1年生選手」の顔だった。
「じゃ、外練行ってきます」
「気をつけてね」
「はい」
ちゃんと部活の時は先輩後輩らしくしようと使い分ける姿勢はえらい。私は咄嗟に「悠ちゃん!?」とか叫んでしまう時があるので見習いたい。
外練に出ていくその背中を見送って。元気な悠人もさすがに最高気温が一桁にもなると長袖のジャージを着ている。去年、寒がりの隼人くんもあの長袖ジャージを愛用していた。
背が伸びたなあと思った。入学したてはまだまだ幼さを残したかわいい悠ちゃんだったのに、着々とガタイが良くなっているのを感じる。比喩ではなくその背中が大きくなったのを感じる。悠人も高校の3年でメキメキ伸びてイケメンに育つタイプだろうか。ちょっと寂しい。
さて、私も仕事に戻ろう。終業式を迎え、人の少ない校内は練習し放題。最近は悪天候の日も多いが、部員は張り切って外練に出掛けていく。オフシーズンの間に悪天候の環境での練習を積もうということで、頭に雪を積もらせてびしょ濡れで帰ってくる部員も多い。とりあえず、タオルを多めに出してそれからデータ収集に移ろう。
その時ピロンとスマホが鳴って。親からかとぎくっとしたが、もっと強敵だった。隼人くんから「来るだろ?」の一言。何がって、さっきまで話していた年末年始のことだ。寮には残れないし、この様子だとうちの両親が不在なことも知っているらしい。
隼人くんと悠人。色こそ違うが、顔のつくりはそっくりなふたりの顔を思い浮かべる。結託しているのか、偶然かはわからないが、全く厄介な幼馴染である。
「なんで?うちくればいいのに」
「いやー帰るよ、実家全然帰ってないし……」
当然来るよね?と言わんばかりに話題を振った悠人。私の断り文句を聞いて口を尖らせた。
「隼人くんも帰ってくるのに?」
「ちゃんと新年の挨拶には行きますよ」
「そうじゃなくて、泊まればいいのに」
「遠慮します」
「なんで!」
なんでって、それは。邪魔になるからだよ。
追い出しライドで、悠人と隼人くんの関係は少しばかり前進したらしかった。最前線で戦ったふたりに対して、私はふたりが飛び出すのを見送って早期離脱。
だから直接目にしたわけではないが、すっきりとした表情で悠人が戻ってきたことから事情は察せられた。「星」を取られたことには不満そうだったけど、ずいぶんと男前になって。私は安堵のあまりちょっと泣いた。もちろん陰で。
ほとんど会話のないような、距離感を探り合うような関係性は一度決着ついたらしい。せっかく兄弟ふたりで過ごせるのだから、ゆっくり話し合ったほうがいい。そう、たとえば朝晩仲良く自転車なんか乗ったりして。勉強見てもらったりして。
「名前ちゃんち、休みの間ママもいないって聞いたけど」
「情報が早いな」
「あったりまえでしょ。オレの方が名前ちゃんのママとラインしてるよ」
「うげっ!余計なこと言ってないよね!?」
「言ってないし。名前ちゃんは感謝が足りない」
「はい……」
そんなこと言ったら私の方が隼人くんのママと連絡取り合ってるけどね。しかし新開家の仲を取りもててるとは言い難いので大人しく黙る。
転勤続きで日本じゅう飛ばされている父は今現在京都にいる。母は「せっかくだから京都で正月を迎えたい」と年末年始は京都に行くことにしたらしい。私は……誰もいない実家で気楽に過ごすことを選んだ。不登校をめぐる言い争いが尾を引いて、我が家は家族全員揃うと未だギクシャクしている。なので、ひとりで過ごすことは全然問題ない。
「何が嫌?」
「な、何が嫌も何も……2年連続でお世話になるのはちょっと」
「えーオレこの1年ちょっと頑張ったと思うんだけど。それくらいご褒美があってもいいよね?」
「悠人の頑張りはそんなもんじゃなかったよ!」
「そう?」
悠人はそう、なんて気取って顔を逸らしたけど、その耳が赤いのはバレバレだった。多分、マジ?って食いつきそうになったのをなんとか押さえつけて。どんどん大人になって幼馴染離れしていく悠人にもまだまだかわいいところがある。
悠人の頑張りはちょっとどころではない。1年生ながら代表選手に選ばれインターハイを走り、代替わりの後は次期エース候補として立派にやっている。背も伸びたし、精神的にも成長して幼馴染としてはその成長ぶりを全力で褒めたい。こっそり悠人の活躍を隼人くんに送っているのは秘密だ。バレたら絶対怒るから。
だからこそ、今年の年末年始は兄弟ふたり、水入らずで……という思いがある。話したいこと、話すべきことがたくさんあるはずだから。
少し離れて座っていた悠人(これが常識的な男女の距離感らしい)は一気に距離を詰めて。赤い瞳がいたずらっぽくこっちを見ていた。室内灯の光を受けてきらりと光る。
「名前ちゃん、今年もうちで練習したほうがいいんじゃない?自転車」
「げっ」
「勉強も隼人くんに見て貰えば?」
「こらっ悠人っ!」
「で、誕生日ケーキ楽しみにしてるから!」
「もうっ!調子乗んな!」
箱根学園の精鋭と走った初めてのファンライドは散々で、それから私の成績低迷も悠人にとってはいい揶揄いのネタになっている。
悠人は笑って私の腕を躱し、颯爽と私の横をすり抜けて部室のドアまで辿りつく。身体能力に差がありすぎて追う気にもならないので、「葦木場さんにチクってやる」と呟くことしかできない。
悠人はドアに手をかけ、くるっと振り向いて。その顔はもう「頼れる1年生選手」の顔だった。
「じゃ、外練行ってきます」
「気をつけてね」
「はい」
ちゃんと部活の時は先輩後輩らしくしようと使い分ける姿勢はえらい。私は咄嗟に「悠ちゃん!?」とか叫んでしまう時があるので見習いたい。
外練に出ていくその背中を見送って。元気な悠人もさすがに最高気温が一桁にもなると長袖のジャージを着ている。去年、寒がりの隼人くんもあの長袖ジャージを愛用していた。
背が伸びたなあと思った。入学したてはまだまだ幼さを残したかわいい悠ちゃんだったのに、着々とガタイが良くなっているのを感じる。比喩ではなくその背中が大きくなったのを感じる。悠人も高校の3年でメキメキ伸びてイケメンに育つタイプだろうか。ちょっと寂しい。
さて、私も仕事に戻ろう。終業式を迎え、人の少ない校内は練習し放題。最近は悪天候の日も多いが、部員は張り切って外練に出掛けていく。オフシーズンの間に悪天候の環境での練習を積もうということで、頭に雪を積もらせてびしょ濡れで帰ってくる部員も多い。とりあえず、タオルを多めに出してそれからデータ収集に移ろう。
その時ピロンとスマホが鳴って。親からかとぎくっとしたが、もっと強敵だった。隼人くんから「来るだろ?」の一言。何がって、さっきまで話していた年末年始のことだ。寮には残れないし、この様子だとうちの両親が不在なことも知っているらしい。
隼人くんと悠人。色こそ違うが、顔のつくりはそっくりなふたりの顔を思い浮かべる。結託しているのか、偶然かはわからないが、全く厄介な幼馴染である。
