Café Parade
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「ただいま帰社でにゃんす~~!!」
キリオくんがばーんと事務所のドアを開けると事務所のみんなからおかえり、おかえりなさいと声がかかる。その後ろからそっと事務所に入るとキリオくんが私が目立たないようにさっと両手を上げてくれて、ありがとうと背中をつついてからこっそり後ろを通り抜ける。
それでもかのんさんが低姿勢の私を見とめてプロデュサーさん、おかえりなさい!と手を振ってくれた。ただいま、と手を振り返して部屋を出た。かのんさんはにこにこしてたけど私を追ってはこなかった。気を使わせてしまったかもしれない。
廊下では神谷さんとすれ違って「東雲なら給湯室にいたよ」と教えてくれた。バレバレというかさすがの察しの良さだと思う。神谷さんは東雲さんと付き合いが長いからそのせいだと思いたい。
私たちの関係はきっとばれていないはずなんだけどこうも気遣いのできる人が多いとちょっと不安だ。東雲さんは完璧に隠せているタイプというか顔に出ない人なのできっと私のせいだと思う。私もあんまり顔に出ないタイプのはずなんだけどな、と困ってしまう。
神谷さんのおかげですぐにたどり着いた目的地、給湯室ではシンクに寄りかかって東雲さんが休憩していた。
「お疲れさまです」
「ああ、おかえりなさい」
お茶でもどうぞ、って一杯お茶をいただいて一息。給湯室の棚のコーヒー豆や茶葉やドリンクの粉を見てどれをいれてくれたのだろうと考える。神谷さんや清澄さん、その道の人たちがいいものを安く買い付けたり譲ってもらったりした茶葉、山下先生がお徳用を買ったけどウチじゃ使い切れないからって持ってきてくれたコーヒーセット、熱心な方たちからのプロテインや美容に効果のあるドリンクのおすそ分けが棚にはところ狭しと並んでいる。
「はあ……落ち着きますね」
「えらいしみじみと言いますね」
「キリオくんの一泊二日で里帰り&温泉旅の収録に同行したんです。見てて楽しかったし、キリオくんも慣れてる人だから順調だったんですけど華村さんや清澄さんがいないとなると……まあやっぱり疲れましたね」
「それはそれは」
東雲さんはおかしそうに笑って手元の湯呑みを空けた。同じ茶色が入ってるけど、私の分は淹れなおしてくれたらしく、渋みのない柔らかなお茶の味がする。
「あ、それでですね。キリオくんからお土産をいただいて参りました」
「?私にですか」
「ええ、東雲さん専用です」
東雲さんはちょっと首をかしげて、失礼しますねと言ってから私の差し出した包みを開けた。大きなパックにやたらとでかいまんじゅうが5個押し合いへし合い串に刺さり、べたべたとタレが塗られている。
「これは……巨大まんじゅう?」
「みそまんじゅうっていう、酒まんじゅうに味噌だれをつけて焼いたやつです。他の皆さんには温泉まんじゅうをお土産にしたんですけど、東雲さんはあんこ苦手だからってキリオくんが」
「気を使ってもらってすみません」
「いえ、お礼はキリオくんに。帰りにお祭りをやってたのを見てキリオくんが教えてくれたんですよ。中身のないおまんじゅうなんて珍しいですけどキリオくんの地元のお祭りではよく売ってるそうで」
「まあ、あちらは味噌文化ですからね」
専用のお土産をありがとうございます、と東雲さんは穏やかに微笑んで私の方に差し出した。もしかして、餡子がないけどダメな部類だったか。
「食べないんですか?」
「さすがに私1人では食べませんよ。一緒にいかがですか?実は私も、プロデューサーさんに差し入れがあるんです」
「えっ?」
1日離れただけなのに帰りが待ち遠しくて、それを紛らわせるためにえらいたくさん作ってしまいました、とお菓子ののったトレーが差し出される。どれも凝ったものばかり、何種類もある。
「それこそ皆さんにお裾分けしたらどうですか」
「それがもう、皆さんには配った後なんです」
「それは……えらいたくさん作りましたね」
「ええ、作り終わってから恥ずかしくなりました。親の帰りを待つ子供じゃあるまいし……」
東雲さんはそう言ってちょっと嫌そうな顔をしたけど、冷静沈着な東雲さんが帰りを待ってそわそわしてたことが嬉しくて、トレーの上のお菓子をどれから食べようかなって考えていた。
どうぞと促されてひとつ小さなパイを口に運ぶ。おいしい!と目を輝かせると東雲さんも自分でひとつ口に運んで満足そうに頷いた。
「ところでプロデューサーさん、これはあっためて食べた方がいいんでしょうか」
「出来立てを食べる人もいるらしいですけど、串から外して冷めたやつに思いっきり食いつくのもまた乙だとか。キリオくんが言うには」
「どないしましょうね」
東雲さんは串から2つ外してお皿に1つずつのせて、箸を添えて差し出した。
「こんなに大きいまんじゅう、口に入りますかね」
「食いついたらまず間違いなく口につきますけど、猫柳さんが言うならそれが正しい作法なんでしょう」
ではいただきます、と東雲さんが思ったより躊躇なく食いついた。意外と豪快な。慌てて私も食いついた。甘いタレが具のない酒まんじゅうとからんで思いの外おいしい。
「お味はいかがですか?」
「おいしいですよ。普段洋菓子ばかり口にしてますが、たまにはこういうものもいいですね。何であってもやはり勉強になりますから」
いっぱい食べてくださいねと笑うと、ではあとひとついただくことにして、と東雲さんは小皿にもう1つ移動させた。私もおかわりを勧められたけど東雲さんのお土産だし、東雲さんの作ってくれたお菓子もあるので遠慮しておいた。
「残りは事務所にいる皆さんにお裾分けしましょうか。うちの人たちはみんなおいしいものがすきですし、分けあってこそよりおいしく食べられますからね」
「そうですね」
東雲さんはパックを輪ゴムで止め直すと、ふふっと笑い声をあげた。
「どうかしました?」
「プロデューサーさん、おおきに」
「お礼ならキリオくんに。私は持ってきただけです」
「もちろん猫柳さんにも。ですが、お茶もお菓子も1人で食べるよりずっとおいしかったですから」
「それは、よかったです!」
さて、私は配ってきますね。と言って東雲さんは給湯室を出て行った。
私はお茶を飲んでそれからもう1つ東雲さんの用意してくれたお菓子をつまむ。やっぱりため息が出るほどおいしかった。
このお茶を飲み終わったら仕事に戻ろうと思っていたところ、神谷さんが顔を出した。
「プロデューサーさん、東雲を見てないか?」
「東雲さんでしたらお土産のおすそ分けに行きましたよ」
「ああ、行き違いか」
事務所の廊下はいたって簡単な一本道、2人がどうやって行き違ったのか、どうにも理解できないけど曖昧に返事をしておく。
神谷さんがずらりと並んだお菓子に目を留めて、昨日の東雲がそわそわしていたのは聞いたかい?と尋ねられる。
「ええ、それでこんなにお菓子作ってくれたみたいで」
「東雲もあんな風に浮かれたり、悩んだりするなんてやっぱり恋はすごい力があるんだな。あんなに世界が鮮やかになるなら、俺も一度はとてつもなく幸せな恋をしてみたいと思うよ」
「えっ!?こ、恋ですか!」
「?俺だって恋の一度や二度したことはあるけど、あんな風にはならなかったから……」
「それも気になりますけど、し、東雲さんが恋ですか?」
「プロデューサーさんと東雲は恋人同士だろう?」
ば、ばれてる。完全にばれてるっていうかバレバレだ。神谷さんは優しくて人の気持ちに理解がある方だし、東雲さんと長い付き合いだとはいえ、そんなにわかりやすかっただろうか。東雲さんもこないだお付き合いしてること神谷には言ってませんよって言ってたはず。っていうか、東雲さんも浮かれたり、悩んだりしてたんだ。うわあ、なんだか想像つかない。まだ見せてくれない一面があるってことだから、とても気になる。そういえば東雲さんも神谷さんも落ち着き払ってすてきな男性だけどまだ21歳だもんなあ。っていうかそんなにバレバレだったらまずいのでは。
百面相するわたしを見て神谷さんは微笑み「紅茶を淹れるから、それを飲んで落ち着いてから戻ったらどうだろう?」と提案してくれた。
お湯が沸いて、熱いお湯で茶葉がジャンピングするのを見届けてからきれいな赤い色が注がれる。それに見とれていると、給湯室のドアが勢いよく開いて「神谷、一本道なのに擦れ違わないのは全くどういうことで?」と些かお怒りの東雲さん。
「プロデューサーさん?お茶、飲み終わったんじゃ……」
「東雲さん」
「?はい」
「わたしもお仕事頑張ってましたけど、ちゃんと東雲さんに会いたかったですよ」
「神谷!」
余計なことを、と普段冷静な東雲さんの顔色が変わるも神谷さんは「?俺は特に何も……」と困った顔をしてみせる。呆れた顔の東雲さんはため息をついて、それから神谷さんから紅茶を受け取り3人並んで紅茶を飲んだ。
そのあと神谷さんはお迎えが来て、また2人きりになる。
「名前さん」
「はい」
「浮かれたり落ち込んだり、取り乱したりしてますけど、実のところそんなに嫌じゃないんですよ。あなたのおかげですね。ほんま、おおきに」
そんな言葉と優しく微笑んでもらえるそれだけで、私はもう充分です。こちらこそおおきに、荘一郎さん。
