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翔真くんはイベントごとには熱心な方だと思う。私のお誕生日やクリスマス、お付き合いから何ヶ月記念日、1周年、私の就職祝いと何かあるごとに翔真くんはお金も手間も惜しまずにお祝いしてくれて、場を設けてくれるのはもちろん向かい合った翔真くんが我が事のようによかったねおめでとうと喜んでくれるのが嬉しかった。男の人はそういうのは面倒臭がるものと今まで付き合った人たちからそう思っていたからお付き合いひと月記念の日、ケーキ屋さんに連れていってもらった時にはものすごく驚いた。翔真くんは私からそのことを聞いて「……アタシも思ってた以上に浮かれてるのかもねえ」とケーキ屋さんのショーウィンドウの前で困った顔をした。
翔真くんがアイドルになってからは、事務所でケーキをいただくので私の仕事は専ら翔真くんのためにとびきりのディナーを予約することだった。私が学生の頃はお洒落なお店を予約するのも大変で翔真くんは快活に笑って手料理がいちばん嬉しいよと言ってくれたり、オトナなんだからこれくらいさせておくれねとウインクをして自分の誕生日なのにお会計を勝手に済ませたりしていた。早く大人になりたいと事あるごとに口にする私をみて翔真くんはいつも「名前はきっとすぐに大人になっちゃうんだから、今だけは大人ぶらせてほしい」と困った顔をしていたけど、晴れて社会人になってお給料を手にした時は本当に嬉しかった。やっと翔真くんと同じ大人のラインに立てたと思って。
「翔真くんはどこにいても、ほんとうにかっこいいよね」
「そう?役者でアイドルなんだからどこを見られても恥ずかしくないようにしてるのは当然だろうよ」
「その答えがまずかっこいいよ」
「そう?」
翔真くんの上等なお着物は、ドレスコードのあるお店だって簡単に入れてしまう。
今年はホテルのレストランで夜景を見ながらディナーはどうかと聞いたら嬉しそうな顔をしたので珍しく洋食でお祝いすることとなった。夏物の涼しそうな色合いのお着物に柔らかな羽織ものを重ね、目立ってしょうがない金髪は変装のために前髪を無造作に下ろして垂らし、後ろ髪は首の後ろでゆるく結んでいた。あまりにも様になっているから、ホテルのロビーでしゃんと背を伸ばして立っている翔真くんを見つけた時にはドキッとした。
「……名前にそうやって褒めてもらえるのが2番目に嬉しいよ」
「でも今のいちばんはプロデューサーさんなんでしょ」
「そうさ。アタシたちを売り出す人なんだからその人に認められるのがいちばんに嬉しい。こればっかりは職業病だから悪いね」
「前はお師匠さんがいちばんだったし散々聞いてるから今更なんとも思わないよ」
「とうとう嫉妬もされなくなったときたら、今度こそ泣いちまうよ」
「そんな事ちっとも思ってないくせに」
「怒らないでったら。カワイイ顔が台無しじゃないか」
向かい合った翔真くんはお酒を飲んでいるからかいつもより赤い顔でからからと笑った。
「去年は懐石、その前は寿司、そのひとつ前は料亭だっけね」
「うん。去年は夜にお仕事っていうからお昼だったけど」
「そうそう、昼だから庭が綺麗に見えたねえ」
翔真くんは上機嫌で私が今までに設けた翔真くんのお誕生日の席を思い出す。
大事な時にはお金を惜しみなく使うタイプの翔真くんから送られる誕生日プレゼントは、毎年凝っていて長く使えて、可愛らしいものよりは少し背伸びしたもののことが多い。オトナの余裕を見せられているようで私は翔真くんへの毎年プレゼント選びにも苦心するけど、お祝いの席とは違って翔真くんがいつも私に求めるのは次のお休みは一歩も外に出ないで一緒にいようとか、毎日帰ったら抱きしめてくれるっていう約束だとか、両親に挨拶に行こうだとか、私からしてみればそんなことでいいのかというようなものばっかりだった。テーブルの上で両の手の指を絡めると、指輪がキラリと光った。これもいつかの誕生日プレゼントだ。
「その指輪、やっぱりよく似合ってる」
「本当?もらった時は大人っぽくてつけられなかったけどようやく、かな」
「チビちゃんだった時もおもちゃの指輪してるみたいで可愛かったよ」
「チビちゃんっていつ!」
「うーん2年くらい前?」
「そんなに2年じゃ変わらないでしょ」
「いーや、変わったよ。知らないうちに大人になっちゃって」
弱めの照明に照らされて指輪のガーネットが鈍く光る。そろそろかなと私はクラッチバッグの蓋を静かに開けて手探りで目的のものを探した。
「翔真くん、プレゼントなんだけどね」
「焦らすから今年は無いのかと思ったよ」
「そんなわけないでしょ」
「それで?」
翔真くんはお酒で蕩けた視線で私を見て、私は翔真くんから目を逸らさないままクラッチバッグから手を引き抜いた。
もったいぶって取り出した四角いカードキーを翔真くんに押しやる。常日頃飄々としている翔真くんが目を丸くしてカードキーを見て、それから私に視線を戻した。
「今夜は帰」
「えっこれやっぱりルームキーなのかい!?」
「ああもう、あのセリフ言いたかったのに!」
本当は透明なプラスチックの四角いやつのついた鍵が良かったんだけど、今時はホテルの部屋の鍵といえばカードタイプなのが少し残念だった。今夜は帰さないよ、ってイケメンが言って鍵を取り出し、ヒロインが驚くあのシーンをやって見たかったのに。
「……ゴホン、ということで、今夜は帰しません」
「……かっこつけちゃって」
「だって翔真くん明日午後からでしょ?」
「そうだけどさ」
「それに翔真くんこういうの好きでしょ?」
「嫌いじゃ無いけどもさあ!」
そうだけど、それはそうなんだけど、と翔真くんは納得いかなそうにぐちぐち言って薄いプラスチックカードを手に取った。
「こういうのはアタシから言いたかったんだよ」
「私も言ってみたかったんだよね」
「……明日お仕事おやすみもらったって言ってたっけね」
「うん」
「それで、今夜は帰さないよって言ったわけだ」
「そうです」
翔真くんはやれやれと言わんばかりの顔で立ち上がり、カードキーも忘れずに持った。追いていかれないよう慌ててお水を飲み干して私も席を立つ。
「変なところで大人ぶらなくたっていいのにねえ」
そう言って翔真くんは苦笑い、結んだところから溢れた髪をかきあげた。そういう何気ない仕草が雑誌の1ページみたいに綺麗だった。
翔真くんはそのままどんどん敷かれた絨毯を踏みしめ、お店を出て行こうとする。背筋が伸びてて歩幅も大きくて、私は小走りで翔真くんを追いかける。
「まって、翔真くん、まだお会計」
「ああ、もう済ませちゃったよ」
「なんで!?いつ!?私が払う日なのに!」
ウエイターさんや入り口で待機している黒服の人たちに次々と頭を下げられる中、翔真くんは臆せずエレベーターホールに向かって突き進んでいった。ちょうど止まったエレベーターに手を引かれて押し込まれ、翔真くんの長い指がすぐさま閉じるボタンを押した。
「……なんでだと思う?」
とん、と優しく翔真くんの掌が壁をたたく。翔真くんの壁ドンなら、お仕事の写真やCMで散々見てきた。意地悪な顔をしたり、かっこよさそうな顔をしたり、そういう顔を求められて、そういう要求にたやすく応えた姿なら何度も見てきた。ただ、今日はなんの意地悪の気持ちも、戸惑う私をからかう気持ちもいっぺんたりとも見えない優しい顔で私に迫った。エレベーターという密室で、華やかな中に形容の難しい不思議な匂いがする、翔真くんのいつもの香水の匂いがした。
「ひとつ歳をとったんだから、アタシにもちょっとくらい大人ぶらせて頂戴」
翔真くんがそう言って私を抱きしめた。それから、「名前があんまり早く大人になっていくから、いつかアタシなんかいらないって言われるんじゃないかと考えて気が気じゃない」とため息をつく。
「翔真くん、私一生、翔真くんに追いつける気がしないよ……」
それでいいんだよ、と翔真くんはまた苦笑いをして、エレベーターが目的の階に着くまでぎゅうと抱きしめたままでいた。私はエレベーターの壁に寄っかかったまま階数表示を眺めて、途中で人が入ってきたらどうしようと考えていたけど翔真くんがあんまりきつく抱きすくめてくるものだから考えるのをやめて肩口にかかる金髪に顔を埋めた。
翔真くんがアイドルになってからは、事務所でケーキをいただくので私の仕事は専ら翔真くんのためにとびきりのディナーを予約することだった。私が学生の頃はお洒落なお店を予約するのも大変で翔真くんは快活に笑って手料理がいちばん嬉しいよと言ってくれたり、オトナなんだからこれくらいさせておくれねとウインクをして自分の誕生日なのにお会計を勝手に済ませたりしていた。早く大人になりたいと事あるごとに口にする私をみて翔真くんはいつも「名前はきっとすぐに大人になっちゃうんだから、今だけは大人ぶらせてほしい」と困った顔をしていたけど、晴れて社会人になってお給料を手にした時は本当に嬉しかった。やっと翔真くんと同じ大人のラインに立てたと思って。
「翔真くんはどこにいても、ほんとうにかっこいいよね」
「そう?役者でアイドルなんだからどこを見られても恥ずかしくないようにしてるのは当然だろうよ」
「その答えがまずかっこいいよ」
「そう?」
翔真くんの上等なお着物は、ドレスコードのあるお店だって簡単に入れてしまう。
今年はホテルのレストランで夜景を見ながらディナーはどうかと聞いたら嬉しそうな顔をしたので珍しく洋食でお祝いすることとなった。夏物の涼しそうな色合いのお着物に柔らかな羽織ものを重ね、目立ってしょうがない金髪は変装のために前髪を無造作に下ろして垂らし、後ろ髪は首の後ろでゆるく結んでいた。あまりにも様になっているから、ホテルのロビーでしゃんと背を伸ばして立っている翔真くんを見つけた時にはドキッとした。
「……名前にそうやって褒めてもらえるのが2番目に嬉しいよ」
「でも今のいちばんはプロデューサーさんなんでしょ」
「そうさ。アタシたちを売り出す人なんだからその人に認められるのがいちばんに嬉しい。こればっかりは職業病だから悪いね」
「前はお師匠さんがいちばんだったし散々聞いてるから今更なんとも思わないよ」
「とうとう嫉妬もされなくなったときたら、今度こそ泣いちまうよ」
「そんな事ちっとも思ってないくせに」
「怒らないでったら。カワイイ顔が台無しじゃないか」
向かい合った翔真くんはお酒を飲んでいるからかいつもより赤い顔でからからと笑った。
「去年は懐石、その前は寿司、そのひとつ前は料亭だっけね」
「うん。去年は夜にお仕事っていうからお昼だったけど」
「そうそう、昼だから庭が綺麗に見えたねえ」
翔真くんは上機嫌で私が今までに設けた翔真くんのお誕生日の席を思い出す。
大事な時にはお金を惜しみなく使うタイプの翔真くんから送られる誕生日プレゼントは、毎年凝っていて長く使えて、可愛らしいものよりは少し背伸びしたもののことが多い。オトナの余裕を見せられているようで私は翔真くんへの毎年プレゼント選びにも苦心するけど、お祝いの席とは違って翔真くんがいつも私に求めるのは次のお休みは一歩も外に出ないで一緒にいようとか、毎日帰ったら抱きしめてくれるっていう約束だとか、両親に挨拶に行こうだとか、私からしてみればそんなことでいいのかというようなものばっかりだった。テーブルの上で両の手の指を絡めると、指輪がキラリと光った。これもいつかの誕生日プレゼントだ。
「その指輪、やっぱりよく似合ってる」
「本当?もらった時は大人っぽくてつけられなかったけどようやく、かな」
「チビちゃんだった時もおもちゃの指輪してるみたいで可愛かったよ」
「チビちゃんっていつ!」
「うーん2年くらい前?」
「そんなに2年じゃ変わらないでしょ」
「いーや、変わったよ。知らないうちに大人になっちゃって」
弱めの照明に照らされて指輪のガーネットが鈍く光る。そろそろかなと私はクラッチバッグの蓋を静かに開けて手探りで目的のものを探した。
「翔真くん、プレゼントなんだけどね」
「焦らすから今年は無いのかと思ったよ」
「そんなわけないでしょ」
「それで?」
翔真くんはお酒で蕩けた視線で私を見て、私は翔真くんから目を逸らさないままクラッチバッグから手を引き抜いた。
もったいぶって取り出した四角いカードキーを翔真くんに押しやる。常日頃飄々としている翔真くんが目を丸くしてカードキーを見て、それから私に視線を戻した。
「今夜は帰」
「えっこれやっぱりルームキーなのかい!?」
「ああもう、あのセリフ言いたかったのに!」
本当は透明なプラスチックの四角いやつのついた鍵が良かったんだけど、今時はホテルの部屋の鍵といえばカードタイプなのが少し残念だった。今夜は帰さないよ、ってイケメンが言って鍵を取り出し、ヒロインが驚くあのシーンをやって見たかったのに。
「……ゴホン、ということで、今夜は帰しません」
「……かっこつけちゃって」
「だって翔真くん明日午後からでしょ?」
「そうだけどさ」
「それに翔真くんこういうの好きでしょ?」
「嫌いじゃ無いけどもさあ!」
そうだけど、それはそうなんだけど、と翔真くんは納得いかなそうにぐちぐち言って薄いプラスチックカードを手に取った。
「こういうのはアタシから言いたかったんだよ」
「私も言ってみたかったんだよね」
「……明日お仕事おやすみもらったって言ってたっけね」
「うん」
「それで、今夜は帰さないよって言ったわけだ」
「そうです」
翔真くんはやれやれと言わんばかりの顔で立ち上がり、カードキーも忘れずに持った。追いていかれないよう慌ててお水を飲み干して私も席を立つ。
「変なところで大人ぶらなくたっていいのにねえ」
そう言って翔真くんは苦笑い、結んだところから溢れた髪をかきあげた。そういう何気ない仕草が雑誌の1ページみたいに綺麗だった。
翔真くんはそのままどんどん敷かれた絨毯を踏みしめ、お店を出て行こうとする。背筋が伸びてて歩幅も大きくて、私は小走りで翔真くんを追いかける。
「まって、翔真くん、まだお会計」
「ああ、もう済ませちゃったよ」
「なんで!?いつ!?私が払う日なのに!」
ウエイターさんや入り口で待機している黒服の人たちに次々と頭を下げられる中、翔真くんは臆せずエレベーターホールに向かって突き進んでいった。ちょうど止まったエレベーターに手を引かれて押し込まれ、翔真くんの長い指がすぐさま閉じるボタンを押した。
「……なんでだと思う?」
とん、と優しく翔真くんの掌が壁をたたく。翔真くんの壁ドンなら、お仕事の写真やCMで散々見てきた。意地悪な顔をしたり、かっこよさそうな顔をしたり、そういう顔を求められて、そういう要求にたやすく応えた姿なら何度も見てきた。ただ、今日はなんの意地悪の気持ちも、戸惑う私をからかう気持ちもいっぺんたりとも見えない優しい顔で私に迫った。エレベーターという密室で、華やかな中に形容の難しい不思議な匂いがする、翔真くんのいつもの香水の匂いがした。
「ひとつ歳をとったんだから、アタシにもちょっとくらい大人ぶらせて頂戴」
翔真くんがそう言って私を抱きしめた。それから、「名前があんまり早く大人になっていくから、いつかアタシなんかいらないって言われるんじゃないかと考えて気が気じゃない」とため息をつく。
「翔真くん、私一生、翔真くんに追いつける気がしないよ……」
それでいいんだよ、と翔真くんはまた苦笑いをして、エレベーターが目的の階に着くまでぎゅうと抱きしめたままでいた。私はエレベーターの壁に寄っかかったまま階数表示を眺めて、途中で人が入ってきたらどうしようと考えていたけど翔真くんがあんまりきつく抱きすくめてくるものだから考えるのをやめて肩口にかかる金髪に顔を埋めた。
