神速一魂
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「番長さん、そろそろ起きねえとさすがに風邪引くぜ」
「うん……ん……うん…」
「はあ、こりゃダメだな」
お夕飯は2人で鍋を食べた。前々から体の基本は医食同源、と言っていた通りに玄武くんは私の食生活もすごく気にしてくれる。前はプロデューサーとして申し訳なさが勝っていたけど玄武くんとお付き合いするようになってからはたまにはご飯を一緒に作るようになった。バーやらゼリーを食べているところを見られたらしい。そんなんじゃ栄養が足りない、と彼は大分心配性だ。
2人でスーパーに行って仲良くエコバッグを下げて帰ってくるのも楽しかったけど、グツグツ煮えてるお鍋を玄武くんにあれも食べろこれも食べろとよそってもらうのもすごくよかった。大事にされてるんだなあって。世話焼きを楽しいと思ってくれるみたいで玄武くんの笑顔が見れるからわたしも家ではちょっとだらけてしまう。
玄武くんは今日もいつもにかわらず大サービスでデザートにはコタツでみかんを剥いてくれた。すじもちゃんと食べたほうがいいとは言いながらもみかんのすじは食べない派の私のために丁寧にひとつひとつ剥いでひと房ごとに分けてよこした。
「おいしいね」
「ならよかった……まだ食べるかい?」
「もういいかな……あ、潰れた」
悪くなっていたのか、私の力が強かったのか、ぶちゅっと嫌な音を立ててみかんのひと房が潰れた。
寄越しな、と玄武くんは言ってみかんをつかんだままの私の右手をとってそのまま口に運んだ。大きい口。照れもしない玄武くんの口に潰れたみかんが消えるのを呆然と見た。手に残った果汁を吸うのまで見た。じゅっていった……多分、聞き間違いでなければ……
「……大丈夫?悪くなってなかった?」
「ああ、うまいぜ」
目を細めて、ぺろりと指の果汁を舐めとった。その顔を正面から見られない。17歳とは思えない、その落ち着きに私の動揺が収まらない。誰か助けてほしい。
救いを求めてつけっぱなしのテレビを見ても凛々しい顔の玄武くんがいる。アイドルとして活動を積んでテレビのカメラや華やかな衣装、与えられた彼とはかけ離れた役にも物怖じしなくなった玄武くんは本当にかっこいい。テレビと本物、本格的に逃げ場がない。
お風呂を出た後だからいつものセットされた髪も崩れていて、色が白いから紅潮してるのがわかりやすくてセクシーで、どきどきする。珍しく頬杖ついて、「どうした?」って笑う顔も変な色気があって大人っぽく見える。私にも大人の余裕がほしい。せっかくなので取引先からもらったお酒を景気良く開けた。あしたはやすみだし、今日は飲もう。飲まなきゃこんなえっちな玄武くんと正面から向き合えない。17歳のくせに。あ、おいしい。時折こうして熱っぽい視線を向けてくるけど、手を出せない。17歳だから。あ、中々飲みやすい。そう、玄武くんはうちの大事なアイドルだから……
@@@
今日は番長さんと2人きりで買い物に行って夕食を作って、食べて片付けまでして、さすがに風呂は別々で、その後また一緒にコタツに入った。仕事も終わって、完全にオフだから名前で呼んだほうがいいかもしれない。名前さんは、まだ未成年でアイドルな俺の扱いに時折困っているようだからオフで番長さんと呼ぶと時折戸惑った素振りを見せる。申し訳なさが先に立つらしい。
湯上りの名前さんは大人っぽくてまさに英華発外、普段の仕事ぶりも相まって何ものにも代えがたい。
みかんを剥いてやると嬉しそうに食べるところが可愛らしい。何歳も年上の人のはずなのにどうしても世話を焼きたくなるし、決して埋まらない年齢差が恨めしくなることさえある。
「あ、潰れた」
剥いてやったみかんが、名前さんの手元で潰れていた。剥く時に少し力を入れ過ぎだかもしれねぇ。
「寄越しな」
名前さんはあ、と口を小さく開けたまま呆然と手元を見ていた。甘くて酸味もあって、旬だから栄養価も高い。じゅっと汁を吸って、掴んだ手越しひ顔を見ると真っ赤になっていた。年下相手にこんな赤くなって可愛い人だ、と自然と口元が歪む。
「どうした?」と、座ってもなお大きい身長差を生かして目と口だけで笑ってみせると恥ずかしそうに沈黙した。担当アイドルをこの世の誰より1番応援していると豪語するだけあってこの人は俺の些細な表情の変化さえ心に響くらしい。
もうみかんはいいです、としどろもどろになりながら名前さんは酒のボトルを出した。先日取引先からもらったやつだ。酒を嗜むアニさん方が大方引き取ったと思いきや自分の分もしっかり確保していたらしい。
体を大事にしてほしいと思うけれど、息抜きで楽しみの1つでもあるから強く止めることもできねぇ。難しい顔をしていた名前さんの顔が一口飲んで綻んだ。
@@@
結局一本足らずでむにゃむにゃいいながら寝落ちしてしまった名前さんを後ろから抱き上げてベッドに運ぶ。寝ぼけているままの名前さんの腕をしっかり首に回させるのも慣れたものだ。安定感なら任せてほしい。一度起きている時に名前さんの要望でやった時はあまりの高さに慄いていた。「玄武くん、いつもこんな高いところから世界を見てるの」目線が違うただそれだけなのにひどく驚いていた、そんなことも思い出して自然と頬が緩んでしまう。
俺が泊まりにくるからと足元が延長されたベッドに名前さんをそっと下ろす。
「玄武くん……?」
「ん?起こしちまったかい?」
「ごめん、寝た……」
「いいから寝てな。番長さんは、常々睡眠不足なんだからよ」
「玄武くんも、寝なきゃ」
寝ないと背が伸びないよって名前さんは風呂上がりでセットされていない俺の頭を嬉しそうに撫でた。これ以上伸びたって世間様からしたらあまり変わらないし服のサイズはより一層限られるだけなのに、この人にとって子どもはよく寝てよく食べて育つものらしい。
名前さん、とベッドに膝をついて力の抜けたまま横たわるその人の名前を呼んだ。なあに、と眠たげな様子でお酒が入ったからか、にこにこしている。玄武くんは本当にセクシーだねえってへらへらしている。こんなヤンキーを捕まえて何を言ってるんだって呆れたけれど、番長さんの持ってきた仕事にハズレはないからこの人の目は確かだと信頼したい気持ちもあって中途半端に歪めるようにして笑った。正直、複雑だ。
布団を捲り上げて隣に入るとすかさずぴたりと冷たい感触が脛に走る。
「ごめん、冷たかった?」
「湯冷めしちまったな。暖房の温度上げるか?」
「ううん、平気」
もぞもぞと動いて俺の体の曲線に沿うように名前さんは丸まった。そんな狭いところで、と思いながらも体に手をまわす。顔をぴたりと俺の胸に当てて「さすが、鍛えてるから暖かさが違うね」と笑う。そんなことねぇ、まだまだ鍛えないとなと柔らかい体を抱きしめて笑うと名前さんもうっとりと笑った。
明日目が覚めて、仕事に行くまでは2人きりで、この人を捕まえておける。朝が来なければずっとこの人を自分だけのものにしておけるのにと考えては、それを子供じみた考えだと振り払っている。
湿っぽいのは似合わないからな、と深く息をついた。彼女はついに寝てしまったらしい。明日の朝はきっと名前さんが寝坊するから、早めに起きて朝食とコーヒーを用意しよう。慌てて起きたところを笑って出迎えられるように。
「うん……ん……うん…」
「はあ、こりゃダメだな」
お夕飯は2人で鍋を食べた。前々から体の基本は医食同源、と言っていた通りに玄武くんは私の食生活もすごく気にしてくれる。前はプロデューサーとして申し訳なさが勝っていたけど玄武くんとお付き合いするようになってからはたまにはご飯を一緒に作るようになった。バーやらゼリーを食べているところを見られたらしい。そんなんじゃ栄養が足りない、と彼は大分心配性だ。
2人でスーパーに行って仲良くエコバッグを下げて帰ってくるのも楽しかったけど、グツグツ煮えてるお鍋を玄武くんにあれも食べろこれも食べろとよそってもらうのもすごくよかった。大事にされてるんだなあって。世話焼きを楽しいと思ってくれるみたいで玄武くんの笑顔が見れるからわたしも家ではちょっとだらけてしまう。
玄武くんは今日もいつもにかわらず大サービスでデザートにはコタツでみかんを剥いてくれた。すじもちゃんと食べたほうがいいとは言いながらもみかんのすじは食べない派の私のために丁寧にひとつひとつ剥いでひと房ごとに分けてよこした。
「おいしいね」
「ならよかった……まだ食べるかい?」
「もういいかな……あ、潰れた」
悪くなっていたのか、私の力が強かったのか、ぶちゅっと嫌な音を立ててみかんのひと房が潰れた。
寄越しな、と玄武くんは言ってみかんをつかんだままの私の右手をとってそのまま口に運んだ。大きい口。照れもしない玄武くんの口に潰れたみかんが消えるのを呆然と見た。手に残った果汁を吸うのまで見た。じゅっていった……多分、聞き間違いでなければ……
「……大丈夫?悪くなってなかった?」
「ああ、うまいぜ」
目を細めて、ぺろりと指の果汁を舐めとった。その顔を正面から見られない。17歳とは思えない、その落ち着きに私の動揺が収まらない。誰か助けてほしい。
救いを求めてつけっぱなしのテレビを見ても凛々しい顔の玄武くんがいる。アイドルとして活動を積んでテレビのカメラや華やかな衣装、与えられた彼とはかけ離れた役にも物怖じしなくなった玄武くんは本当にかっこいい。テレビと本物、本格的に逃げ場がない。
お風呂を出た後だからいつものセットされた髪も崩れていて、色が白いから紅潮してるのがわかりやすくてセクシーで、どきどきする。珍しく頬杖ついて、「どうした?」って笑う顔も変な色気があって大人っぽく見える。私にも大人の余裕がほしい。せっかくなので取引先からもらったお酒を景気良く開けた。あしたはやすみだし、今日は飲もう。飲まなきゃこんなえっちな玄武くんと正面から向き合えない。17歳のくせに。あ、おいしい。時折こうして熱っぽい視線を向けてくるけど、手を出せない。17歳だから。あ、中々飲みやすい。そう、玄武くんはうちの大事なアイドルだから……
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今日は番長さんと2人きりで買い物に行って夕食を作って、食べて片付けまでして、さすがに風呂は別々で、その後また一緒にコタツに入った。仕事も終わって、完全にオフだから名前で呼んだほうがいいかもしれない。名前さんは、まだ未成年でアイドルな俺の扱いに時折困っているようだからオフで番長さんと呼ぶと時折戸惑った素振りを見せる。申し訳なさが先に立つらしい。
湯上りの名前さんは大人っぽくてまさに英華発外、普段の仕事ぶりも相まって何ものにも代えがたい。
みかんを剥いてやると嬉しそうに食べるところが可愛らしい。何歳も年上の人のはずなのにどうしても世話を焼きたくなるし、決して埋まらない年齢差が恨めしくなることさえある。
「あ、潰れた」
剥いてやったみかんが、名前さんの手元で潰れていた。剥く時に少し力を入れ過ぎだかもしれねぇ。
「寄越しな」
名前さんはあ、と口を小さく開けたまま呆然と手元を見ていた。甘くて酸味もあって、旬だから栄養価も高い。じゅっと汁を吸って、掴んだ手越しひ顔を見ると真っ赤になっていた。年下相手にこんな赤くなって可愛い人だ、と自然と口元が歪む。
「どうした?」と、座ってもなお大きい身長差を生かして目と口だけで笑ってみせると恥ずかしそうに沈黙した。担当アイドルをこの世の誰より1番応援していると豪語するだけあってこの人は俺の些細な表情の変化さえ心に響くらしい。
もうみかんはいいです、としどろもどろになりながら名前さんは酒のボトルを出した。先日取引先からもらったやつだ。酒を嗜むアニさん方が大方引き取ったと思いきや自分の分もしっかり確保していたらしい。
体を大事にしてほしいと思うけれど、息抜きで楽しみの1つでもあるから強く止めることもできねぇ。難しい顔をしていた名前さんの顔が一口飲んで綻んだ。
@@@
結局一本足らずでむにゃむにゃいいながら寝落ちしてしまった名前さんを後ろから抱き上げてベッドに運ぶ。寝ぼけているままの名前さんの腕をしっかり首に回させるのも慣れたものだ。安定感なら任せてほしい。一度起きている時に名前さんの要望でやった時はあまりの高さに慄いていた。「玄武くん、いつもこんな高いところから世界を見てるの」目線が違うただそれだけなのにひどく驚いていた、そんなことも思い出して自然と頬が緩んでしまう。
俺が泊まりにくるからと足元が延長されたベッドに名前さんをそっと下ろす。
「玄武くん……?」
「ん?起こしちまったかい?」
「ごめん、寝た……」
「いいから寝てな。番長さんは、常々睡眠不足なんだからよ」
「玄武くんも、寝なきゃ」
寝ないと背が伸びないよって名前さんは風呂上がりでセットされていない俺の頭を嬉しそうに撫でた。これ以上伸びたって世間様からしたらあまり変わらないし服のサイズはより一層限られるだけなのに、この人にとって子どもはよく寝てよく食べて育つものらしい。
名前さん、とベッドに膝をついて力の抜けたまま横たわるその人の名前を呼んだ。なあに、と眠たげな様子でお酒が入ったからか、にこにこしている。玄武くんは本当にセクシーだねえってへらへらしている。こんなヤンキーを捕まえて何を言ってるんだって呆れたけれど、番長さんの持ってきた仕事にハズレはないからこの人の目は確かだと信頼したい気持ちもあって中途半端に歪めるようにして笑った。正直、複雑だ。
布団を捲り上げて隣に入るとすかさずぴたりと冷たい感触が脛に走る。
「ごめん、冷たかった?」
「湯冷めしちまったな。暖房の温度上げるか?」
「ううん、平気」
もぞもぞと動いて俺の体の曲線に沿うように名前さんは丸まった。そんな狭いところで、と思いながらも体に手をまわす。顔をぴたりと俺の胸に当てて「さすが、鍛えてるから暖かさが違うね」と笑う。そんなことねぇ、まだまだ鍛えないとなと柔らかい体を抱きしめて笑うと名前さんもうっとりと笑った。
明日目が覚めて、仕事に行くまでは2人きりで、この人を捕まえておける。朝が来なければずっとこの人を自分だけのものにしておけるのにと考えては、それを子供じみた考えだと振り払っている。
湿っぽいのは似合わないからな、と深く息をついた。彼女はついに寝てしまったらしい。明日の朝はきっと名前さんが寝坊するから、早めに起きて朝食とコーヒーを用意しよう。慌てて起きたところを笑って出迎えられるように。
