神速一魂
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>>秘密の特訓に励む玄武くんと番長さん
「ういんくのれんしゅう」
「ああ、朱雀もいないし次の仕事に備えてな」
期末テストのために玄武くんがうちに来て勉強をしていた。早すぎない?と思ったけどもともとちょっと早いらしいのとお仕事が入るからまとまった勉強時間が取れるときに復習を始めるらしい。
休憩すると言うので、高校二年生の化学って何やってるんだっけと覗き込んでから後悔した。理論のところの計算でノートが埋まっている。そこで、ウインクの話題。思わず片言で繰り返してしまう。
「私もうまくできないから助けになれないなあ……あっ鏡あるよ!鏡見て練習する?」
誕生日プレゼントにと昔友人からもらったスタンド式のミラーは色のないクリアなデザインだけどキラキラしていてリボンのモチーフとかが玄武くんにはちょっと不似合いだ。普通に開いて机に置くのにも玄武くんはちょっと戸惑って、結局角度の調整を私がした。
「やってみる……?」
「ああ、いくぜ……」
決意に満ちた声と顔とは裏腹に、できたのはやっぱりぎゅむっと恒例の可愛すぎるウインク未満で私は必死になって笑うのをこらえた。爆笑とかじゃなくて微笑ましいね、みたいな顔をしちゃうのをこらえる。
朱雀くんは性格にふさわしい勢いのついたウインクを決められる人で、事務所には御手洗さんのような使い分けのできる人もいる。
「片方だけぎゅってするの難しいよね」
「こればっかりはなかなかできねぇな。練習あるのみだとはわかってるんだが……」
玄武くんは眼鏡をノートにのせて人差し指で片目だけ閉じた。勢いをなくしてウインクする人はそのタイプだけど現時点でぎゅむっとしてしまう玄武くんには難しそうだ。
「あっわかった、ちょっとまって」
「あっ番長さん、あんまり近寄ると!」
鏡を取ろうと身を寄せようとしたら玄武くんが長い腕でパッと私を制した。
「……なにかまずかった?」
「それが、せっかく持って来たのに潰れちまうから……」
困った顔で玄武くんは小さな紙袋を私にくれた。
「くれるの?」
「ああ、番長さんには本当にいつも世話になってるからな」
本当に、のところに力がこもっていてくすぐったい。「私の方こそ、助けてもらってばっかりだよ」
綺麗にラッピングされた袋の中に、丸いチョコがいくつか並んでいた。トリュフチョコだ。
「手作り?本当になんでもできるねえ」
「味の保証はするぜ。なんたってアニさん方が手伝ってくれたからな」
「えっそれはすごい」
なんでもバレンタインイベントで忙しくなる前に東雲さんが手作りを用意したい人の面倒を見ると申し出てくれたのだそうだ。他にもその手のことが得意なメンバーと希望者を何人か集めて、大きな事故もなくそれぞれがチョコを作ったのだとか。
「番長さん、見たかったって顔に書いてあるぜ」
「それは……もう……めちゃめちゃ見たかった……でもあれだよね、サプライズでってことで東雲さんが内々に声かけて集めてくれたんだもんね」
せっかくなのでいただきますと一粒取って頬張る。甘すぎず、中のガナッシュがとろりと溶けておいしい。まず手でおいしいサインを出すと玄武くんは眼鏡もかけてないままなのに柔らかく笑って、それは良かったと満足そうに頷いてみせた。
