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「おはようございます!」
シアターでいつものように出迎えてくれた春香はちょっぴり照れて、「あの、今日……」と切り出した。長い付き合いだから、何の日かはお互いにわかっているし、でもやっぱり自分から今日が誕生日だと言うことは気恥ずかしいんだな、と微笑ましく思った。
春香はじっと私を見つめて期待するような様子を見せる。毎年、バレンタインもホワイトデーも、クリスマスにもこの顔をして、私に強請ってみせるのが可愛くて仕方ない。
「お誕生日だね。おめでとう」
「ありがとうございます!あの、プロデューサーさんも、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。毎年なんだか不思議な気持ちになるね」
「それで、あの……」
春香は一層顔を赤くして視線を逸らしてはまた私に戻した。
「プレゼントね、持ってきてるからそれはまた後で」
「ね、ねだったわけじゃないんですよ!ところでプロデューサーさん、今日の誕生日会は……」
「ごめんね、大阪に出張だから最初だけちょっと顔を出すくらいかな」
「やっぱり、そうなんですね……」
春香はしょんぼりして、私の隣に立って歩き出した。こつん、と手の甲同士がぶつかった。今日は低いヒールだから、春香と身長差がほとんどない。手を繋ぎたい、と思ったけどシアターだからやめておいた。
今年の誕生日会も、きっと盛大に開催されるだろうがあいにく2日連続の出張を入れてしまったので茜や伊織あたりは「せっかく(独り身でかわいそうな)(誕生日も仕事でかわいそうな)プロちゃん・アンタをこの茜ちゃん・伊織ちゃんが祝ってあげようと思ったのに!」と嫌な顔をするだろう。私だって、好きで出張を入れたわけじゃないんだけど。
「あ、そうだ。ケーキ買ってきたからあげるね。フルーツタルト、一個しかないからこっそり食べてね」
「プロデューサーさんのケーキは、ないんですか?」
「私?先週実家に帰った時、2つも食べちゃったからいいかな。胃が保たなくって2個目はさすがにきつかったな……年取るにつれてまじで胃もたれが深刻に……」
「け、ケーキ、要らなかったですか」
「え!?なんて!?」
「わ、わたし、ケーキ……」
さっきまでの紅潮した*はどこへやら、青ざめてぶるぶる震える春香の手には1つか2つしか入らなそうな紙の箱があって、かわいいペーパーとリボンが巻いてあった。春香らしい、可愛らしい飾り付けだ……え、春香らしい?
「えっ!うそ!」
「あの、ごめんなさい……」
「いや、私の方こそごめんなさい……頑張ってくれたのに、酷いこと言ったね」
今年は忙しかったから、手作りもらえるなんておもってなかった、なんて言い訳はさすがに言わなかった。昨日仕事の後駅に直行したのはこのためだったのだろうか。
「そんなこと、あの、私……」
悲しそうな顔の春香をくたびれたソファに座らせて隣に座って抱きしめた。本当にごめんね、ぎゅうと抱きしめると春香の両手が腰に回った。しばらく、吸って吐いての春香の息だけが響いた。背中を撫でると柔らかい体が強く押し付けられた。
「出張って、昨日ボード見て……プロデューサーさんがお誕生日会に出れなくても、お祝いしたかったんです……」
「春香……」
「出張、頑張ってくださいね!ベイクドケーキなので、おやつに食べてください」
「いい子すぎるよ……」
さらに強く抱きしめると春香は小さく息をついて耳元に口を寄せた。いい子じゃないです、と熱い吐息が耳を掠めた。私は慌てて顔をあげたが、春香は顔を伏せたままでいた。
「早起きして、抜け駆けしたんです。だから、今日プロデューサーさんをお祝いするの私だけです」
「春香……」
「ささ、プロデューサーさん!出張午前からでしたよね!遅れちゃいますよ」
春香は私の肩を押して、にっこり微笑んだ。
「春香、あのね」
「……?」
「私も、抜け駆け。今日そのまま駅に行こうと思ったけど、春香が来るって言うから早起きしてシアターに寄ったの」
「えっ」
「いちばんに会ってお祝いしたかったし、お祝いされたかったの……悪い大人でしょう?」
春香がびっくりして固まっているいるうちに、真っ赤になった頬に自分の頬を寄せて、行ってきますをした。
「い、行ってらっしゃい!」
びっくりしたままの赤い顔で、春香が叫んだ。なんて、かわいいんだろう。私は「ケーキ、ありがとう」ともう一度お礼を言って、今度こそ逃げるように事務所を出た。春香と同じくらい赤くなってるだろう顔が、シアターを出るまでに冷めることを祈るばかりだった。
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