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大小問わず飲み会の時に私の隣は取り合いになる。みんなからモテモテ!とかでなく、たくさん飲まないように見張り役がつくのだ。みんな面白がって、隣に座る人の名前を取って「薫ブロック」とか「アスランブロック」とか呼んでいる。誠司と道流が両サイドに座った日など、「鉄壁」だなんだとみんなが盛り上がった。「別に今日の飲み会はたくさん飲まなくてもいいや」みたいな理由で、割と成人して久しいアイドルが座りがちなのだが。
今日は完全に「龍ブロック」が出来上がっている。事務所外の飲み会なので、下座周りを盛り上げつつもしっかり目を光らせている様子。今日は業界関係者に誘われた飲み会で、主催は人気の男性アイドルデュオの片割れ……通称「芸能界宴会部長のモモ」。アイドル関係だけでなく芸人もモデルも、音楽会社の社長も来るような個人開催にしては大きな会。始まる前に主催にお礼の挨拶をして、「今日はありがと!ここ座る?この後うちの相方も来るんだけどー」なんて元気よく言われたけど、周りはいわゆるいつメンが座るだろうからと断ってふたり、下座についた。龍はニコニコ笑って周りの人と話しながら、座る時に私を端に追いやった。こう、グイッと。
「ちょっと、今日は人脈拡大の目的できてるんだけど」
「プロデューサーさん酒乱だから、絶対ダメ」
「ぐぬぬ」
キラキラの大きい目をスッと細めて、声を落としてそう言われてしまうと黙らざるを得ない。相手は20歳、飲酒解禁してまだ1年も経ってない男の子なのに随分と厳しい。
「2人とも何飲む?」
「生で!あとウーロン茶お願いします!」
「オッケ!じゃんじゃん頼むね〜」
「はい!」
「あああ」
にっこり元気なアイドルスマイル、元気のいい注文。好感度は爆高間違いなし。しかし龍もまだ若く、事務所の飲み会での同い年トリオでかたまったりして「ほどほど飲み」する姿か、FRAMEの3人で家に集まって「浴びるほど宅飲み」する姿かどっちかしか見たことがない。大丈夫なのだろうか……
龍は周りの人を巻き込んで盛り上がりながら次々運ばれてくる生ビールをどんどん飲み干していく。
「木村くん、いい飲みっぷりだね。結構強いんじゃない?」
「そうですか?事務所の人と飲むことが多いから、あんまりわかんないですけど。うちのプロデューサーはあんまり飲まないし」
「みんなが飲む時に安心して飲んでられないんですよ。みんな飲み会好きだから」
「あはは、確かに315プロの人たちよく飲む印象あるよ」
「そーなんですよ!」
「苗字さんも生飲む?また来たよ」
「あ、俺もらいまーす!」
完璧な「龍ブロック」を前に一切ジョッキが回ってこない。料理も龍が「俺やりますね!どの辺食べたいですか?いっぱい食べてください!」て率先して取り分けるので、私と来たら空いた大皿を店員さんが回収しやすいようにまとめる以外のことをしていない。上座から流れてきたウーロン茶は私に回して、ビールは全て龍が勢いよく空にする。
「あ、これウーロン茶だった」
回ってきたグラスを一口飲んでから龍が私に回す。
「ちょっと、飲み過ぎじゃないですか」
ウーロン茶とビールの区別もつかなくなるほどに飲んでるのかと思って、声を低めて注意すると「ぜーんぜん平気!」と笑い飛ばされる。FRAME飲み終盤のぐでんぐでんした様子はかけらもなく、顔は若干赤いが平常時にほど近い。
本当に大丈夫なんでしょうね、と疑う私をよそに龍は周りを見渡す。それから顔を寄せて静かに一言。
「ただでさえ今日は俺しかいないのに、酔ってる余裕なんてないって」
「た、頼もし〜」
顔が近い。超絶好青年、カンカン照りの太陽、太平洋のサンセットの異名に相応しい端正な顔が近づけられて、思わず視線を逸らしてしまう。向こうは真剣そのものなので絶対言えないけど。
何を隠そう私は、社会に出て酒に鍛えられたタイプの下戸である。今回の飲み会も、結構ワイルドな飲みとして業界内で有名で、単身乗り込んだ初参加時は、ガンガン飲まされて死にそうになりながら帰った。私は二日酔いで翌日起きられなかったのに、主催のモモは翌朝10時には現場入りしたと噂に聞く。いつもそうらしい。根っからの体育会系なのだ。育った世界が違う……
今回の飲み会も、聞きつけた龍が「俺がついてってもいいかな」なんて真面目な顔で言って、FRAME宅飲みで鍛えられた龍ならば大丈夫だろうとありがたく着いてきてもらったのだ。
龍は役目を果たすかのようにガバガバという言葉がピッタリのすごい勢いで飲んで、ご飯もたくさん食べる。珍しく下座に来た人気司会者(主催のモモのツレだ)も「いいねえ、いいねえ」と楽しそうに見ている。彼はモモとズブズブに見せかけて、所属事務所同士はあんまり関係が良くないので、これを機になんとかお近づきになりたいところである。彼の持ってるバラエティ、うちのアイドルを呼んでくれないかな〜龍がニコニコとFRAMEが最近出たハードめなスポーツバラエティの話をして、その隙に空いたジョッキを片付ける。知らないうちに中ジョッキが4つも。今日は一体何杯飲んだんだろう……もうちょっと真剣に数えておくべきだった。
そのうち上座にいた超人気デュオがふたりして離席した。モモが主催の飲み会だが、相方も来ているのは珍しい。相方……ユキは繊細で気難しいが、懐に入れた相手には面倒見のいいタイプと聞く。私もそっと席を立つ。
酒も飲めないわ、すみっこに座っているわで役に立っていないから一つくらい仕事をしないと。そう、今日は人脈拡大のために来た。邪険にされたらお手洗いに行くフリをしてさっさと退散しよう。
2人はすぐに見つかった。夫婦漫才を持ちネタにしているふたりだからイチャイチャしてたらどうしようかと思ったが、スマホ片手に話しているだけだった。
「あれ?プロデューサーちゃんだ。ほら、ユキ。315プロの」
「315プロダクションの苗字です。百さん、千さん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
モモの相方のユキが先程までいた個室を振り返る。襖が閉じていて中は見えない。銀色の髪がさらりと揺れた。
「大丈夫?木村くん、結構飲んでるみたいだったけど」
「彼、結構飲める体質なので」
「そうなんだ〜」
「すごかったね。彼、全部プロデューサーちゃんの前で止めてた」
上座で飲んでても意外と見てるんだな。さすがだ。面白そうに目がキラッと光って。
「今度個人的に飲みに行っちゃおうかな」
「えー!なにそれ、おもしろそうすぎる!モモちゃんも着いてっちゃおうかな」
「え、ぜひ。うちのアイドルのこともよろしくお願いします」
「プロデューサーちゃんも来る?今度はウーロン茶以外も飲めるといいね」
「あ、そうですね……」
「プロデューサーさん?」
「あ、お迎えだ」
「騎士様が来たね」
龍は「もー急にいなくなるから……」とため息をついて、どうやらわたしを追ってきたらしかった。話が弾んでいたようだったので置いてきたのだけど。お目付け役の任務じゃ楽しく飲めなかったかな、悪いことをした。
「僕らももう帰っちゃおうか。どうせこの後もバカみたいに飲んでお開きだろう」
「そうだね、帰っちゃおうか」
2人はどうする?とモモの猫目が我々を捉える。面白そうに爛々と光り、テレビで見る時も局ですれ違う時もこの人はいつもこうだ。仕事が楽しいんだろうな。
「龍、お言葉に甘えて私たちも帰ろうか」
「え、はい」
「ダーリン珍しく着いてきてくれてありがと〜!」
「まあ、たまにはね。次は4年後くらいに行くよ」
「オリンピック並みじゃん!!」
ぽんぽん飛び交う軽口の応酬を横目に龍を促す。あんまり納得してない顔で「わかりました」と頷いた。
アイドル宴会部長に促されて私たちも早々に退散。人脈拡大の任務はあまり達成できなかったが、モモとその相方は「今度はサシで飲もうね」と最後にもう一度声をかけてくれて、事務所の車で颯爽と帰っていった。
私たちはタクシーを拾うべくとりあえず駅方面を目指す。11月の夜風は薄手のジャケットを容易く貫通する。そろそろコートを着るべきか、でも荷物が増えるんだよなあ……薫の「まったく君は……!」という怒りの顔が脳裏をよぎる。来週からは着るってば。
「はーー!緊張したー」
龍が気持ち良さそうに伸びをした。冬の酔っ払いはだいたい店を出た後の冷えた空気に快感を感じるものだが、龍もそうらしい。ハッとした様子で私を振り返る。凛々しい眉が寄って、子犬のような……この表現は成人男性に相応しくないか?
「具合悪くない?大丈夫?」
「うん、全然へーき。私は飲んでないし。龍こそ大丈夫?」
「俺?正直酔っ払ってる余裕なんてなかったよ……すっごくハラハラした……」
「それは悪かったよ……誠司さんちで飲み直す?龍が心配だったみたいで、誠司さんからすっごくLINK来てて……」
「……プロデューサーさん」
「はい」
酔っ払って潤んだ目が私をじっと見ている。絶対譲る気のない強い意志。一体何が言いたいのか、おそらく「あの飲み会行くのもうやめなよ」あたりだと思うが、龍は何も言わない。困り果ててこちらも黙っていると、やがて「……行こう」と諦めたように歩き出す。そう、タクシーを拾うならとにかく大通りに出なければ。誠司さんの「迎えは?」という提案は断って、次は龍が平和に飲めるような飲み会がいいですと送れば「実は、今日の龍はプロデューサーさんの護衛のつもりで行ったんだ。役目は果たせていただろうか?」と。ご、護衛……そんな大層な、と思うけど普段の私のアルコール耐性を見ている身としては心配だったのだろう。
駅前が近づき、流してるタクシーを呼び止める。龍は今日時間も遅いし、自宅に戻らずアイドル寮の空き部屋で寝るらしい。
「龍ブロック、完璧でした。ありがとう」
龍がわずかに目を見開いてこっちを見る。少し笑って。
「……プロデューサーさんってほんと、危なっかしくて目が離せないよ」
「それって」
昔……かなり昔、龍に同じようなことを言った覚えがある。今度は私に返ってきたか。思わず顔を顰めると満足そうに「また呼んでよ。護衛役でさ」と宣った。私はこの男の顔に弱いので、かろうじて「護衛役はもう良いけど」としか返せない。情けないことに、一番最初は顔(と中身)を理由に勧誘したので、とにかくどんな顔をされても頼み事を断れない。自分の顔が光り輝いていることをそろそろ自覚してほしい。程々にしてもらわないと、その顔を向けられるこっちはそろそろ焼かれてしまう。
「プロデューサーさん、ああいう人が好みなの?」
「ああいう、とは」
「ユキさんみたいな……」
「ないですね」
「うわ、断言」
「私の方からいうのも失礼ですけど、アイドルとしても人間としても私の手に負えないので、岡崎事務所でモモさんに面倒見てもらうのがベストだと思う。末長くお幸せに」
「わ〜……心配して損した」
「心配とは?私が見てないところで何かあった?」
「いや、こっちの話!じゃお疲れ様!」
A棟の電子錠を解除してやると(キーは寮に住んでいる子と私達社員しか知らず、遊びに来た時は誰かに開けてもらう必要があるのだ)、龍は声をひそめて「おやすみなさい」と去っていった。抑えた足音が遠ざかるのを聞いて、踵を返す。社長が建てた3つの寮はどれも内階段だから、建物内に入ってしまえば姿は見えない。珍しい客だし、アイドル寮A棟の主人こと恭二あたりが夜通しゲームに誘おうと待ち構えているんじゃないかな。さて、私も帰ろう。アルコールは1滴も摂取してないが、今日はよく眠れそうだ。
今日は完全に「龍ブロック」が出来上がっている。事務所外の飲み会なので、下座周りを盛り上げつつもしっかり目を光らせている様子。今日は業界関係者に誘われた飲み会で、主催は人気の男性アイドルデュオの片割れ……通称「芸能界宴会部長のモモ」。アイドル関係だけでなく芸人もモデルも、音楽会社の社長も来るような個人開催にしては大きな会。始まる前に主催にお礼の挨拶をして、「今日はありがと!ここ座る?この後うちの相方も来るんだけどー」なんて元気よく言われたけど、周りはいわゆるいつメンが座るだろうからと断ってふたり、下座についた。龍はニコニコ笑って周りの人と話しながら、座る時に私を端に追いやった。こう、グイッと。
「ちょっと、今日は人脈拡大の目的できてるんだけど」
「プロデューサーさん酒乱だから、絶対ダメ」
「ぐぬぬ」
キラキラの大きい目をスッと細めて、声を落としてそう言われてしまうと黙らざるを得ない。相手は20歳、飲酒解禁してまだ1年も経ってない男の子なのに随分と厳しい。
「2人とも何飲む?」
「生で!あとウーロン茶お願いします!」
「オッケ!じゃんじゃん頼むね〜」
「はい!」
「あああ」
にっこり元気なアイドルスマイル、元気のいい注文。好感度は爆高間違いなし。しかし龍もまだ若く、事務所の飲み会での同い年トリオでかたまったりして「ほどほど飲み」する姿か、FRAMEの3人で家に集まって「浴びるほど宅飲み」する姿かどっちかしか見たことがない。大丈夫なのだろうか……
龍は周りの人を巻き込んで盛り上がりながら次々運ばれてくる生ビールをどんどん飲み干していく。
「木村くん、いい飲みっぷりだね。結構強いんじゃない?」
「そうですか?事務所の人と飲むことが多いから、あんまりわかんないですけど。うちのプロデューサーはあんまり飲まないし」
「みんなが飲む時に安心して飲んでられないんですよ。みんな飲み会好きだから」
「あはは、確かに315プロの人たちよく飲む印象あるよ」
「そーなんですよ!」
「苗字さんも生飲む?また来たよ」
「あ、俺もらいまーす!」
完璧な「龍ブロック」を前に一切ジョッキが回ってこない。料理も龍が「俺やりますね!どの辺食べたいですか?いっぱい食べてください!」て率先して取り分けるので、私と来たら空いた大皿を店員さんが回収しやすいようにまとめる以外のことをしていない。上座から流れてきたウーロン茶は私に回して、ビールは全て龍が勢いよく空にする。
「あ、これウーロン茶だった」
回ってきたグラスを一口飲んでから龍が私に回す。
「ちょっと、飲み過ぎじゃないですか」
ウーロン茶とビールの区別もつかなくなるほどに飲んでるのかと思って、声を低めて注意すると「ぜーんぜん平気!」と笑い飛ばされる。FRAME飲み終盤のぐでんぐでんした様子はかけらもなく、顔は若干赤いが平常時にほど近い。
本当に大丈夫なんでしょうね、と疑う私をよそに龍は周りを見渡す。それから顔を寄せて静かに一言。
「ただでさえ今日は俺しかいないのに、酔ってる余裕なんてないって」
「た、頼もし〜」
顔が近い。超絶好青年、カンカン照りの太陽、太平洋のサンセットの異名に相応しい端正な顔が近づけられて、思わず視線を逸らしてしまう。向こうは真剣そのものなので絶対言えないけど。
何を隠そう私は、社会に出て酒に鍛えられたタイプの下戸である。今回の飲み会も、結構ワイルドな飲みとして業界内で有名で、単身乗り込んだ初参加時は、ガンガン飲まされて死にそうになりながら帰った。私は二日酔いで翌日起きられなかったのに、主催のモモは翌朝10時には現場入りしたと噂に聞く。いつもそうらしい。根っからの体育会系なのだ。育った世界が違う……
今回の飲み会も、聞きつけた龍が「俺がついてってもいいかな」なんて真面目な顔で言って、FRAME宅飲みで鍛えられた龍ならば大丈夫だろうとありがたく着いてきてもらったのだ。
龍は役目を果たすかのようにガバガバという言葉がピッタリのすごい勢いで飲んで、ご飯もたくさん食べる。珍しく下座に来た人気司会者(主催のモモのツレだ)も「いいねえ、いいねえ」と楽しそうに見ている。彼はモモとズブズブに見せかけて、所属事務所同士はあんまり関係が良くないので、これを機になんとかお近づきになりたいところである。彼の持ってるバラエティ、うちのアイドルを呼んでくれないかな〜龍がニコニコとFRAMEが最近出たハードめなスポーツバラエティの話をして、その隙に空いたジョッキを片付ける。知らないうちに中ジョッキが4つも。今日は一体何杯飲んだんだろう……もうちょっと真剣に数えておくべきだった。
そのうち上座にいた超人気デュオがふたりして離席した。モモが主催の飲み会だが、相方も来ているのは珍しい。相方……ユキは繊細で気難しいが、懐に入れた相手には面倒見のいいタイプと聞く。私もそっと席を立つ。
酒も飲めないわ、すみっこに座っているわで役に立っていないから一つくらい仕事をしないと。そう、今日は人脈拡大のために来た。邪険にされたらお手洗いに行くフリをしてさっさと退散しよう。
2人はすぐに見つかった。夫婦漫才を持ちネタにしているふたりだからイチャイチャしてたらどうしようかと思ったが、スマホ片手に話しているだけだった。
「あれ?プロデューサーちゃんだ。ほら、ユキ。315プロの」
「315プロダクションの苗字です。百さん、千さん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
モモの相方のユキが先程までいた個室を振り返る。襖が閉じていて中は見えない。銀色の髪がさらりと揺れた。
「大丈夫?木村くん、結構飲んでるみたいだったけど」
「彼、結構飲める体質なので」
「そうなんだ〜」
「すごかったね。彼、全部プロデューサーちゃんの前で止めてた」
上座で飲んでても意外と見てるんだな。さすがだ。面白そうに目がキラッと光って。
「今度個人的に飲みに行っちゃおうかな」
「えー!なにそれ、おもしろそうすぎる!モモちゃんも着いてっちゃおうかな」
「え、ぜひ。うちのアイドルのこともよろしくお願いします」
「プロデューサーちゃんも来る?今度はウーロン茶以外も飲めるといいね」
「あ、そうですね……」
「プロデューサーさん?」
「あ、お迎えだ」
「騎士様が来たね」
龍は「もー急にいなくなるから……」とため息をついて、どうやらわたしを追ってきたらしかった。話が弾んでいたようだったので置いてきたのだけど。お目付け役の任務じゃ楽しく飲めなかったかな、悪いことをした。
「僕らももう帰っちゃおうか。どうせこの後もバカみたいに飲んでお開きだろう」
「そうだね、帰っちゃおうか」
2人はどうする?とモモの猫目が我々を捉える。面白そうに爛々と光り、テレビで見る時も局ですれ違う時もこの人はいつもこうだ。仕事が楽しいんだろうな。
「龍、お言葉に甘えて私たちも帰ろうか」
「え、はい」
「ダーリン珍しく着いてきてくれてありがと〜!」
「まあ、たまにはね。次は4年後くらいに行くよ」
「オリンピック並みじゃん!!」
ぽんぽん飛び交う軽口の応酬を横目に龍を促す。あんまり納得してない顔で「わかりました」と頷いた。
アイドル宴会部長に促されて私たちも早々に退散。人脈拡大の任務はあまり達成できなかったが、モモとその相方は「今度はサシで飲もうね」と最後にもう一度声をかけてくれて、事務所の車で颯爽と帰っていった。
私たちはタクシーを拾うべくとりあえず駅方面を目指す。11月の夜風は薄手のジャケットを容易く貫通する。そろそろコートを着るべきか、でも荷物が増えるんだよなあ……薫の「まったく君は……!」という怒りの顔が脳裏をよぎる。来週からは着るってば。
「はーー!緊張したー」
龍が気持ち良さそうに伸びをした。冬の酔っ払いはだいたい店を出た後の冷えた空気に快感を感じるものだが、龍もそうらしい。ハッとした様子で私を振り返る。凛々しい眉が寄って、子犬のような……この表現は成人男性に相応しくないか?
「具合悪くない?大丈夫?」
「うん、全然へーき。私は飲んでないし。龍こそ大丈夫?」
「俺?正直酔っ払ってる余裕なんてなかったよ……すっごくハラハラした……」
「それは悪かったよ……誠司さんちで飲み直す?龍が心配だったみたいで、誠司さんからすっごくLINK来てて……」
「……プロデューサーさん」
「はい」
酔っ払って潤んだ目が私をじっと見ている。絶対譲る気のない強い意志。一体何が言いたいのか、おそらく「あの飲み会行くのもうやめなよ」あたりだと思うが、龍は何も言わない。困り果ててこちらも黙っていると、やがて「……行こう」と諦めたように歩き出す。そう、タクシーを拾うならとにかく大通りに出なければ。誠司さんの「迎えは?」という提案は断って、次は龍が平和に飲めるような飲み会がいいですと送れば「実は、今日の龍はプロデューサーさんの護衛のつもりで行ったんだ。役目は果たせていただろうか?」と。ご、護衛……そんな大層な、と思うけど普段の私のアルコール耐性を見ている身としては心配だったのだろう。
駅前が近づき、流してるタクシーを呼び止める。龍は今日時間も遅いし、自宅に戻らずアイドル寮の空き部屋で寝るらしい。
「龍ブロック、完璧でした。ありがとう」
龍がわずかに目を見開いてこっちを見る。少し笑って。
「……プロデューサーさんってほんと、危なっかしくて目が離せないよ」
「それって」
昔……かなり昔、龍に同じようなことを言った覚えがある。今度は私に返ってきたか。思わず顔を顰めると満足そうに「また呼んでよ。護衛役でさ」と宣った。私はこの男の顔に弱いので、かろうじて「護衛役はもう良いけど」としか返せない。情けないことに、一番最初は顔(と中身)を理由に勧誘したので、とにかくどんな顔をされても頼み事を断れない。自分の顔が光り輝いていることをそろそろ自覚してほしい。程々にしてもらわないと、その顔を向けられるこっちはそろそろ焼かれてしまう。
「プロデューサーさん、ああいう人が好みなの?」
「ああいう、とは」
「ユキさんみたいな……」
「ないですね」
「うわ、断言」
「私の方からいうのも失礼ですけど、アイドルとしても人間としても私の手に負えないので、岡崎事務所でモモさんに面倒見てもらうのがベストだと思う。末長くお幸せに」
「わ〜……心配して損した」
「心配とは?私が見てないところで何かあった?」
「いや、こっちの話!じゃお疲れ様!」
A棟の電子錠を解除してやると(キーは寮に住んでいる子と私達社員しか知らず、遊びに来た時は誰かに開けてもらう必要があるのだ)、龍は声をひそめて「おやすみなさい」と去っていった。抑えた足音が遠ざかるのを聞いて、踵を返す。社長が建てた3つの寮はどれも内階段だから、建物内に入ってしまえば姿は見えない。珍しい客だし、アイドル寮A棟の主人こと恭二あたりが夜通しゲームに誘おうと待ち構えているんじゃないかな。さて、私も帰ろう。アルコールは1滴も摂取してないが、今日はよく眠れそうだ。
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