High×Joker
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「やっと始動したね」
「プロデューサーさん」
応接のソファで1人台本を読む旬くんを見かけたのが2時間前、そのあと仕事をしてまた通りがかるとぼんやりとした様子で2時間前と同じように座っていた。
休憩してないのかなと思ってお茶を入れて、一緒にお菓子を少しお盆に乗せてから出直した。声をかけようと近寄ったら机には資料がたくさん、それから見覚えのあるロゴが。それで、さっきような声のかけ方をしたというわけだ。
お茶を一口飲んでまだ熱かったので、2人同時に慌ててカップを下ろした。乾いたままお菓子に手をつけるのは何となく嫌でちらっと台本に視線を向けた。旬くんは、人気作の主演に浮かれきってる感じはしなくて、言葉を選ぶように指先を見つめていた。そして、口を開く。
「台本、一気に読んでしまいました」
「いい感じだった?」
「……とても、期待されてるなって感じはしました」
「そっか。ストーリーはどう?旬くんが共感できそうな感じかな」
まだ悩んでるというか考えがまとまりきっていないみたいだったので、声をかけるには早すぎたかなと内心顔を顰めた。顔には出さずに次の質問に切り替える。
「今は、まだそんなに……でも演じていったら、きっと……もっと理解できる気がします。今はまだ、そんな気がするだけですけど」
「うん、旬くんならきっとそうなんじゃないかな」
「そうだといいんですけど」
お上品にすました顔で旬くんはカップを取り上げ、熱さを確かめるみたいに少し待ってから口をつけた。まったくいつものことだけど、お上品で絵になる。今日は考え事しながらだからいっそう魅力が増している。
「プロデューサーさんや他の方はもう読みました?」
「私は広告の確認はしたけど、台本はまだ最後までいってないんだ。他のみんなは今顔合わせも兼ねてもらいに行ってるよ。台本を読むまではいかなくても説明は受けてるはず」
旬くんはちょっと頷いて、お菓子を食べそれから台本をちらっと見た。
「プロデューサーさんは、このストーリー好きでしたか?」
「うん、旬くんたちがどんな風にストーリーを立体的にするのか考えるだけでワクワクする」
「……プロデューサーとして、じゃなくてあなたは」
求めてる答えとズレていたらしく、旬くんは呆れたようにジト目になった。
確かにプロデューサーとしてストーリーよりも演じる彼らのキャラクターの組み立て方とかストーリーをどうやって消化するのかの方が気になっているから仕方ない。
旬くんは世界で初めて感情を持ったアンドロイドという難しい役とどうやって向き合うのか。
今回旬くんは自分のことばかりでなくて初めての組み合わせのメンバーをまとめながら主役としての演技をしなきゃだし、冬馬くんや華村さん、都築さんや東雲さんは主役を引き立てながらもストーリーを彩る魅力的な役を演じたくさんの視聴者に感動を与えて満足させなきゃいけない。
初めてのメンバーだから最初はちょっとぎくしゃくするかもしれない。でも、きっと若さゆえの熱さや年を重ねたからこその落ち着きで皆助け合ってよいものを作り上げてくれるだろう、いやそうに違いない。なんたってうちのアイドルたちのポテンシャルの高さと言ったら、毎回こちらが目を見張るほどのものがあるのだから。
そんな親馬鹿ならぬプロデューサー馬鹿な考えばかり先行していち視聴者として、どう思ったか、かはよく考えないと出てこない。
「えっと……私は割と、約束されたバッドエンドが好きらしいのだけどね」
「?変な言い回しですね」
「この間九十九先生に本をおすすめしてもらった時に指摘されたの。自分では自覚ないんだけど」
「ああ、よく変なタイトルの本で泣いてますよね」
「……でもね、九十九先生の選ぶ本って本当に的確なんだよ…今度旬くんもお願いするといいよ」
「で、約束されたバッドエンドっていうのは何なんですか」
「最初から結末が決まってる、っていうかだいたい予測がつくバッドエンド、のことかな。バッドエンドって悲しいでしょう。で、それが最初からわかりきってると終わりが近づくにつれていっそう悲壮感が増す。でも、結末が分かってるからこそ過程や最後が際立つし輝くんだと思う」
「そして、今回もそう思ったんですか」
「うん。それでね、私は旬くんのプロデューサーだけど旬くんのファンの1人でもあるから今回もどんな素敵な演技を見せてくれるんだろうってすごく楽しみになったよ」
「……なるほど」
うん、とかまあね、みたいな言葉を口ごもりながら発した。プロデューサーとしてのアドバイスもいつも苦労するけど、いち視聴者としての意見も難しいな。
「僕は、」
旬くんは顔を上げて指を組み直して、しっかりと私を見た。
「大きなお仕事を任されるたびに……夢じゃないかって思います。何度も確かめて、でもいつもプロデューサーさんが自分のことのように喜んでくれるから、」
「うん」
「これが、僕の今いる現実なんだなってそこではっきりして……すみません、まとまりませんね」
「ううん、旬くんの思ってること聞けるの私も嬉しいから」
旬くんはもう1つなにか言いたげにあの、と口を開いた。綺麗な目がまっすぐ私を捉えて、思わず息をのむ。
「それから」
「プロデューサー!台本もらってきたぞ!」
「わっ!冬馬くん、おかえりなさい」
「おう、ただいま」
なんともタイミングが悪く、興奮気味の冬馬くんがバンッとドアを開けた。
「結構時間かかったってことは、読んでから来たの?」
「ああ、詳しく読み込むのはこれからだけどな」
あらあら元気がいいねぇ、と華村さんや東雲さん、都築さんも戻ってきた。台本をもらって、説明を受けてその興奮のまま帰社したのだろう、華村さんたちもわくわくした様子だ。
「説明を受けてそのまま内容のことで盛り上がってたのですが、帰りの車内で冬美さんも交えて続きをしようということになったんです」
「そうだったんですか。場所あけますから、とりあえずみなさんは手洗いうがいしてきてくださいね」
その間にお菓子の補充でもしようかと腰をあげる。今回のメンバーは熱血漢に冷静沈着な人、マイペースな人など今までにない組み合わせ。どんな仕上がりになるのだろうか。
「ごめんね、旬くん、さっきの話は」
「……もういいです」
「えっ!ごめん、今度はちゃんと聞けるよ」
「今後の僕の仕事から、何を言おうとしたのか感じ取ってくれれば、それでいいです。何度も聞かないでください」
旬くんは打って変わってぶすっとした声音で、思わず顔を覗き込もうとしたら顔をぐいぐい押しのけられた。この旬くんを例えるなら気まぐれで気難しいネコさん、これは完全拒否のサインだ。
「お菓子、食べる?」
「……子供扱いするの、やめてくれませんか」
失敗したかなと思ったけど、文句を言いながらも旬くんは差し出したお菓子を食べてくれた。ぶすくれた様子ながら、そういうところはとても可愛く思えて思わず頬が緩んでしまう。
その様子を見たら、旬くんはきっと余計に機嫌を悪くするから見られないようにお菓子を取りに行くことにする。そして不機嫌そうな顔をしながらも私に黙って付いてくるところがまたかわいいのだ。
旬くんの色んな表情を引き出せるのはプロデューサーの仕事の楽しみのひとつだから、嫌がられないかな?と思いつつ絶妙な加減をやめられない。次は、どんな表情を見せてくれるか楽しみにしてるよって言ったら、どんな顔をしてくれるかな。
「プロデューサーさん」
応接のソファで1人台本を読む旬くんを見かけたのが2時間前、そのあと仕事をしてまた通りがかるとぼんやりとした様子で2時間前と同じように座っていた。
休憩してないのかなと思ってお茶を入れて、一緒にお菓子を少しお盆に乗せてから出直した。声をかけようと近寄ったら机には資料がたくさん、それから見覚えのあるロゴが。それで、さっきような声のかけ方をしたというわけだ。
お茶を一口飲んでまだ熱かったので、2人同時に慌ててカップを下ろした。乾いたままお菓子に手をつけるのは何となく嫌でちらっと台本に視線を向けた。旬くんは、人気作の主演に浮かれきってる感じはしなくて、言葉を選ぶように指先を見つめていた。そして、口を開く。
「台本、一気に読んでしまいました」
「いい感じだった?」
「……とても、期待されてるなって感じはしました」
「そっか。ストーリーはどう?旬くんが共感できそうな感じかな」
まだ悩んでるというか考えがまとまりきっていないみたいだったので、声をかけるには早すぎたかなと内心顔を顰めた。顔には出さずに次の質問に切り替える。
「今は、まだそんなに……でも演じていったら、きっと……もっと理解できる気がします。今はまだ、そんな気がするだけですけど」
「うん、旬くんならきっとそうなんじゃないかな」
「そうだといいんですけど」
お上品にすました顔で旬くんはカップを取り上げ、熱さを確かめるみたいに少し待ってから口をつけた。まったくいつものことだけど、お上品で絵になる。今日は考え事しながらだからいっそう魅力が増している。
「プロデューサーさんや他の方はもう読みました?」
「私は広告の確認はしたけど、台本はまだ最後までいってないんだ。他のみんなは今顔合わせも兼ねてもらいに行ってるよ。台本を読むまではいかなくても説明は受けてるはず」
旬くんはちょっと頷いて、お菓子を食べそれから台本をちらっと見た。
「プロデューサーさんは、このストーリー好きでしたか?」
「うん、旬くんたちがどんな風にストーリーを立体的にするのか考えるだけでワクワクする」
「……プロデューサーとして、じゃなくてあなたは」
求めてる答えとズレていたらしく、旬くんは呆れたようにジト目になった。
確かにプロデューサーとしてストーリーよりも演じる彼らのキャラクターの組み立て方とかストーリーをどうやって消化するのかの方が気になっているから仕方ない。
旬くんは世界で初めて感情を持ったアンドロイドという難しい役とどうやって向き合うのか。
今回旬くんは自分のことばかりでなくて初めての組み合わせのメンバーをまとめながら主役としての演技をしなきゃだし、冬馬くんや華村さん、都築さんや東雲さんは主役を引き立てながらもストーリーを彩る魅力的な役を演じたくさんの視聴者に感動を与えて満足させなきゃいけない。
初めてのメンバーだから最初はちょっとぎくしゃくするかもしれない。でも、きっと若さゆえの熱さや年を重ねたからこその落ち着きで皆助け合ってよいものを作り上げてくれるだろう、いやそうに違いない。なんたってうちのアイドルたちのポテンシャルの高さと言ったら、毎回こちらが目を見張るほどのものがあるのだから。
そんな親馬鹿ならぬプロデューサー馬鹿な考えばかり先行していち視聴者として、どう思ったか、かはよく考えないと出てこない。
「えっと……私は割と、約束されたバッドエンドが好きらしいのだけどね」
「?変な言い回しですね」
「この間九十九先生に本をおすすめしてもらった時に指摘されたの。自分では自覚ないんだけど」
「ああ、よく変なタイトルの本で泣いてますよね」
「……でもね、九十九先生の選ぶ本って本当に的確なんだよ…今度旬くんもお願いするといいよ」
「で、約束されたバッドエンドっていうのは何なんですか」
「最初から結末が決まってる、っていうかだいたい予測がつくバッドエンド、のことかな。バッドエンドって悲しいでしょう。で、それが最初からわかりきってると終わりが近づくにつれていっそう悲壮感が増す。でも、結末が分かってるからこそ過程や最後が際立つし輝くんだと思う」
「そして、今回もそう思ったんですか」
「うん。それでね、私は旬くんのプロデューサーだけど旬くんのファンの1人でもあるから今回もどんな素敵な演技を見せてくれるんだろうってすごく楽しみになったよ」
「……なるほど」
うん、とかまあね、みたいな言葉を口ごもりながら発した。プロデューサーとしてのアドバイスもいつも苦労するけど、いち視聴者としての意見も難しいな。
「僕は、」
旬くんは顔を上げて指を組み直して、しっかりと私を見た。
「大きなお仕事を任されるたびに……夢じゃないかって思います。何度も確かめて、でもいつもプロデューサーさんが自分のことのように喜んでくれるから、」
「うん」
「これが、僕の今いる現実なんだなってそこではっきりして……すみません、まとまりませんね」
「ううん、旬くんの思ってること聞けるの私も嬉しいから」
旬くんはもう1つなにか言いたげにあの、と口を開いた。綺麗な目がまっすぐ私を捉えて、思わず息をのむ。
「それから」
「プロデューサー!台本もらってきたぞ!」
「わっ!冬馬くん、おかえりなさい」
「おう、ただいま」
なんともタイミングが悪く、興奮気味の冬馬くんがバンッとドアを開けた。
「結構時間かかったってことは、読んでから来たの?」
「ああ、詳しく読み込むのはこれからだけどな」
あらあら元気がいいねぇ、と華村さんや東雲さん、都築さんも戻ってきた。台本をもらって、説明を受けてその興奮のまま帰社したのだろう、華村さんたちもわくわくした様子だ。
「説明を受けてそのまま内容のことで盛り上がってたのですが、帰りの車内で冬美さんも交えて続きをしようということになったんです」
「そうだったんですか。場所あけますから、とりあえずみなさんは手洗いうがいしてきてくださいね」
その間にお菓子の補充でもしようかと腰をあげる。今回のメンバーは熱血漢に冷静沈着な人、マイペースな人など今までにない組み合わせ。どんな仕上がりになるのだろうか。
「ごめんね、旬くん、さっきの話は」
「……もういいです」
「えっ!ごめん、今度はちゃんと聞けるよ」
「今後の僕の仕事から、何を言おうとしたのか感じ取ってくれれば、それでいいです。何度も聞かないでください」
旬くんは打って変わってぶすっとした声音で、思わず顔を覗き込もうとしたら顔をぐいぐい押しのけられた。この旬くんを例えるなら気まぐれで気難しいネコさん、これは完全拒否のサインだ。
「お菓子、食べる?」
「……子供扱いするの、やめてくれませんか」
失敗したかなと思ったけど、文句を言いながらも旬くんは差し出したお菓子を食べてくれた。ぶすくれた様子ながら、そういうところはとても可愛く思えて思わず頬が緩んでしまう。
その様子を見たら、旬くんはきっと余計に機嫌を悪くするから見られないようにお菓子を取りに行くことにする。そして不機嫌そうな顔をしながらも私に黙って付いてくるところがまたかわいいのだ。
旬くんの色んな表情を引き出せるのはプロデューサーの仕事の楽しみのひとつだから、嫌がられないかな?と思いつつ絶妙な加減をやめられない。次は、どんな表情を見せてくれるか楽しみにしてるよって言ったら、どんな顔をしてくれるかな。
