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翔真くんのお誕生日は8月24日。お祝いできるって楽しみにしていたのに、まさかの日本列島台風直撃。電車も昼頃から計画運休を発表して、いつも残業ばかりさせる会社も「なるべく休みなさい」なんて言い出して、テレビではアナウンサーが「今後の進路によっては都内に甚大な被害をもたらす可能性もあります。必要な備えを十分にしてください」と厳しい顔つきで繰り返し訴えて……
私は非常持ち出し袋とプレゼントとスマホをビニール袋で包んで、家を飛び出した。まだいける!まだ電車動いてる!まだ強風域にも差し掛かっていない!今ならまだ!翔真くんの家に「お誕生日おめでとう!」って言いに行ける!!今から行くねのリンクも送った。苗字名前、行きます!
止まりそうな電車に乗って、翔真くんの最寄り駅では流石に今日はタクシーも拾えなくて、歩いて、傘が飛ばされそうになって、ビニール袋はぐちゃぐちゃになって、なんとか翔真くんのお家のエントランスにたどり着いた。いつものように「開けて〜」とロック解除をお願いしたのに、解除の音がしない。おかしいなと思ったら、すぐさま手ぬぐい片手に翔真くんがエントランスまで飛んできた。そして私の「お誕生日おめでとう」より先に翔真くんの口から「馬鹿!!」が飛び出した。
「こんな日に、よりによって、こんな大荒れの日に……」
翔真くんはわなわなと唇を震わせて、いつもは置きっぱなしのことが多いスマホを握りしめていた。画面がついていてトーク画面がチラッと見えた。翔真くん側が何件もメッセージを送ったみたいだった。ビニール袋に入れちゃったから見てないけど、多分私宛だ。
「……だって年に一度の翔真くんの誕生日だから」
「だって、じゃないよ!まったく……飛ばされやしなかった?」
翔真くんが手拭いを取り出してびしょびしょの私の顔を拭った。いつもは「肌は触らない!擦らない!優しく!!」と美容に一過言ある翔真くんらしからぬ強さだ。
「全然平気だよ、むしろ風が強くなる前に着いてよかった」
「……これだけびゅうびゅう吹いてて、風が強くないって?」
翔真くんの声が途端に尖って、私は劣勢を感じとり、おとなしく黙った。翔真くんらしい紫地に白く蝶が染め抜かれた手拭いはすっかりびしょびしょになってしまった。翔真くんはいつもより強く私の腕を引いて、自分の部屋に戻る。
翔真くんは私を玄関口に立たせたまま、廊下の奥に消えていき、「お湯はりを開始します」の自動音声が遠くに聞こえた。そして、戻ってきた時にはバスタオルを手にしていた。
「かわいそうに、こんなに冷えきっちまって」
あれ、もう怒ってなさそう?私の頭にバスタオルをかける翔真くんの顔は心配そうだけど、声はちょっと嬉しそうだった。翔真くんには私が意味もなくコロコロ転がる子犬だとか、弱っちいくせに全然言うこと聞かない猫みたいに見える時があるらしくて、そういう時の目をしていた。大きい体に覗き込まれるとウェーブがかった金色の髪が溢れる。
「でも、私が来てくれて嬉しかったでしょう」
「ばか、名前が来るまで心配すぎて、こっちが死んじまいそうだった」
翔真くんはバスタオルごとギュッと私を抱きしめた。今日の翔真くんはちょっと、力が強い。香水だかシャンプーだか何かしらの、いい匂いがしたので思い切り吸う。あったかくて硬くて柔らかくて、翔真くんの全部が大好き。
「もうこんな思いをするのは嫌。一緒に住もうよ」
「ここ、会社から遠いんだよ」
「嫌。こればっかりは絶対譲らない」
翔真くんはぎゅうぎゅうに私を締め上げて、いつもと声のトーンが違ったので私は心配になって翔真くんを見上げた。こわい声のトーンと反対に緑色の瞳は優しく微笑む。私はこの緑色の目が晴れた日の下で、眩しく照らされる舞台の上で、きらきら光る時、何よりも美しいと思う。そうだ、この天気の中何しに来たか、すっかり忘れていた。
「お誕生日おめでとう」
「……そうだった。名前がとんでもないことしでかすから、すっかり忘れてた」
翔真くんは拍子抜けした様子で私を解放した。今度は私の方から抱きついて、ぎゅうぎゅうする。
「珍しいね、名前からくっついてくるなんて」
「……お誕生日だから」
ちょっと浮かれすぎたかな、私が距離を取ろうと身を引くと、翔真くんは「嬉しいねえ」と言って私を撫で回した。それから最後に、「本当に無事で良かった」と震える手で私の冷たい手を握る。
「心配かけてごめんね」
「本当に!そんなに冷えてちゃ風邪引いちまうからね」
「うん。お風呂借りてもいい?」
「勿論。早くお風呂であったまっておいで。アタシはお茶でも淹れて待ってるから、ゆっくり入りな」
明るい声で促されて、私はありがたくお風呂場を目指す。翔真くんのお家には私の着替えが一揃い用意してある。手ぶらで来ても化粧品コレクターの翔真くんは「なんでも好きなもの使いな」ってスキンケアの一式を貸してくれる。だから突然来たって大丈夫。
洗濯機も回させてもらって、素っ裸で大きなお風呂場の扉を開ける。お湯はまだ満杯じゃ無いけど、暖かな湯気が風呂場を満たしていた。
先ほどの「本当に無事で良かった」の声音が耳を離れない。手だけじゃなくて声も震えて、指摘しなかったけど泣きそうだった。もし来年また誕生日に台風が来ても無謀なことしない。なんなら本当に一緒に住まわしてもらった方がいいかもしれない。
お高いシャワーヘッドから放出される飛沫を堪能したあと、翔真くんに「もう無謀なことをしない」「お部屋に一緒に住まわせてくれるなら、とても嬉しいです」と告げたところ、頭を抱えた後に大笑いして、「あ〜笑った、笑った」と笑いすぎて浮かんだ涙を拭った。
「嬉しい。最高のプレゼントだよ」
緑色の瞳は、涙に濡れてもきれい。たとえ笑いすぎて浮かんだそれでも。翔真くんは散々笑った後にこわい顔で「撤回は認めないからね」と念を押した。
私は非常持ち出し袋とプレゼントとスマホをビニール袋で包んで、家を飛び出した。まだいける!まだ電車動いてる!まだ強風域にも差し掛かっていない!今ならまだ!翔真くんの家に「お誕生日おめでとう!」って言いに行ける!!今から行くねのリンクも送った。苗字名前、行きます!
止まりそうな電車に乗って、翔真くんの最寄り駅では流石に今日はタクシーも拾えなくて、歩いて、傘が飛ばされそうになって、ビニール袋はぐちゃぐちゃになって、なんとか翔真くんのお家のエントランスにたどり着いた。いつものように「開けて〜」とロック解除をお願いしたのに、解除の音がしない。おかしいなと思ったら、すぐさま手ぬぐい片手に翔真くんがエントランスまで飛んできた。そして私の「お誕生日おめでとう」より先に翔真くんの口から「馬鹿!!」が飛び出した。
「こんな日に、よりによって、こんな大荒れの日に……」
翔真くんはわなわなと唇を震わせて、いつもは置きっぱなしのことが多いスマホを握りしめていた。画面がついていてトーク画面がチラッと見えた。翔真くん側が何件もメッセージを送ったみたいだった。ビニール袋に入れちゃったから見てないけど、多分私宛だ。
「……だって年に一度の翔真くんの誕生日だから」
「だって、じゃないよ!まったく……飛ばされやしなかった?」
翔真くんが手拭いを取り出してびしょびしょの私の顔を拭った。いつもは「肌は触らない!擦らない!優しく!!」と美容に一過言ある翔真くんらしからぬ強さだ。
「全然平気だよ、むしろ風が強くなる前に着いてよかった」
「……これだけびゅうびゅう吹いてて、風が強くないって?」
翔真くんの声が途端に尖って、私は劣勢を感じとり、おとなしく黙った。翔真くんらしい紫地に白く蝶が染め抜かれた手拭いはすっかりびしょびしょになってしまった。翔真くんはいつもより強く私の腕を引いて、自分の部屋に戻る。
翔真くんは私を玄関口に立たせたまま、廊下の奥に消えていき、「お湯はりを開始します」の自動音声が遠くに聞こえた。そして、戻ってきた時にはバスタオルを手にしていた。
「かわいそうに、こんなに冷えきっちまって」
あれ、もう怒ってなさそう?私の頭にバスタオルをかける翔真くんの顔は心配そうだけど、声はちょっと嬉しそうだった。翔真くんには私が意味もなくコロコロ転がる子犬だとか、弱っちいくせに全然言うこと聞かない猫みたいに見える時があるらしくて、そういう時の目をしていた。大きい体に覗き込まれるとウェーブがかった金色の髪が溢れる。
「でも、私が来てくれて嬉しかったでしょう」
「ばか、名前が来るまで心配すぎて、こっちが死んじまいそうだった」
翔真くんはバスタオルごとギュッと私を抱きしめた。今日の翔真くんはちょっと、力が強い。香水だかシャンプーだか何かしらの、いい匂いがしたので思い切り吸う。あったかくて硬くて柔らかくて、翔真くんの全部が大好き。
「もうこんな思いをするのは嫌。一緒に住もうよ」
「ここ、会社から遠いんだよ」
「嫌。こればっかりは絶対譲らない」
翔真くんはぎゅうぎゅうに私を締め上げて、いつもと声のトーンが違ったので私は心配になって翔真くんを見上げた。こわい声のトーンと反対に緑色の瞳は優しく微笑む。私はこの緑色の目が晴れた日の下で、眩しく照らされる舞台の上で、きらきら光る時、何よりも美しいと思う。そうだ、この天気の中何しに来たか、すっかり忘れていた。
「お誕生日おめでとう」
「……そうだった。名前がとんでもないことしでかすから、すっかり忘れてた」
翔真くんは拍子抜けした様子で私を解放した。今度は私の方から抱きついて、ぎゅうぎゅうする。
「珍しいね、名前からくっついてくるなんて」
「……お誕生日だから」
ちょっと浮かれすぎたかな、私が距離を取ろうと身を引くと、翔真くんは「嬉しいねえ」と言って私を撫で回した。それから最後に、「本当に無事で良かった」と震える手で私の冷たい手を握る。
「心配かけてごめんね」
「本当に!そんなに冷えてちゃ風邪引いちまうからね」
「うん。お風呂借りてもいい?」
「勿論。早くお風呂であったまっておいで。アタシはお茶でも淹れて待ってるから、ゆっくり入りな」
明るい声で促されて、私はありがたくお風呂場を目指す。翔真くんのお家には私の着替えが一揃い用意してある。手ぶらで来ても化粧品コレクターの翔真くんは「なんでも好きなもの使いな」ってスキンケアの一式を貸してくれる。だから突然来たって大丈夫。
洗濯機も回させてもらって、素っ裸で大きなお風呂場の扉を開ける。お湯はまだ満杯じゃ無いけど、暖かな湯気が風呂場を満たしていた。
先ほどの「本当に無事で良かった」の声音が耳を離れない。手だけじゃなくて声も震えて、指摘しなかったけど泣きそうだった。もし来年また誕生日に台風が来ても無謀なことしない。なんなら本当に一緒に住まわしてもらった方がいいかもしれない。
お高いシャワーヘッドから放出される飛沫を堪能したあと、翔真くんに「もう無謀なことをしない」「お部屋に一緒に住まわせてくれるなら、とても嬉しいです」と告げたところ、頭を抱えた後に大笑いして、「あ〜笑った、笑った」と笑いすぎて浮かんだ涙を拭った。
「嬉しい。最高のプレゼントだよ」
緑色の瞳は、涙に濡れてもきれい。たとえ笑いすぎて浮かんだそれでも。翔真くんは散々笑った後にこわい顔で「撤回は認めないからね」と念を押した。
