神速一魂
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さわさわと朱雀が自分の唇を触って、全然勉強に集中してないのは明らかだった。
今日は事務所にいたアイドルみんなで咲ちゃんおすすめのリッププランパーを塗ってみて、その効果に大騒ぎしたらしい。朱雀はその違和感に耐えかねてすぐにティッシュで拭いたはずだが、気になって仕方ないようだった。
一方宿題監督役のはずの私は、にゃこの冬毛に夢中だ。しかし、撫で方がしつこすぎたのかにゃこは「もう撫でさせてやらん」とばかりにするりと私の腕の中から抜け出した。引き止める間もなく、隣の部屋に逃げていく。
「そうだ、あれもう見たか?」
「あれって?」
「H@NDMANだよ」
「はんどまん……」
朱雀が見せてくれたのは3体のマスコット。3人揃ってH@NDMAN。……なんだこれ?私は言葉に詰まり、それから朱雀に視線を合わせた。
「愛嬌が……あるね?」
「だろォ!?」
朱雀が鼻息荒く頷いて見せた。私に言い聞かせるような強い語調に、私は恐る恐る(ないだろうな)と思いつつ尋ねてみた。
「朱雀が描いたの?」
「いやオレは……イラストはあんまりだろ?描き起こしたのは百々人さん」
「へ〜百々人くんって絵も上手なんだね」
「そうなんだよ!百々人さんは頭もいいし、教えるのも上手いしすげぇんだ!」
そう力説するが、朱雀も相当器用だ。何か工作する時はろくに測りもせず作り始めてピッタリサイズに仕上げることごできる。絵もうまくて、昔提灯に絵を描いたのを褒めまくったら、ロケで作った工芸品(蝋燭とか皿みたいな絵付けものから、吹きガラスのコップ、陶芸……)なんかを色々持ってくるようになった。贔屓目抜きに本当に上手で、このままいくと将来私が家を建てた時に新築祝いで玄関にステンドグラスを作ってくれそうな勢いである。
玄武がキッチンから頭を出して、「鍋出すから早く片付けろ」と声をかけた。玄武の視線が朱雀を通り越し、私を見て目配せしたので、私はわずかに頷いた。キッチンにいても、私たちの会話はしっかり聞こえていたらしい。訳をつけるなら「これはガッカリの顔だぜ」「わかっています」と言ったところ。私はもっと……もっとH@NDMANなるマスコットを褒めるべきだったということ。朱雀を喜ばせるのは結構難しい。私はもう一度タブレットに映し出されたH@NDMANを見る。うん、確かに愛嬌はある。間違ってない。
昔、朱雀が事務所でバク宙講習会を受けた時のことを思い出す。朱雀は講習会でバク宙を見事に習得して、その様子を動画に収めて持ち帰ってきた。しかし「そうだ!これ見てくれよ」と動画を見せてウキウキの朱雀に対し私は「ヒッ……(絶句)」という期待はずれの反応しかできなかった。
言い訳をするならば、事前説明もなしに見せられた宙返りはあまりにも心臓に悪かった。玄武が「朱雀は褒めてもらえると思ってその動画を見せたんだよ」とネタバラシをした時の、朱雀の恨めしそうな、「キャ♡かっこいい♡って喜ぶと思ったんだけどな〜」と言いたげな後ろ姿を覚えている。見れば今回も同じようなへの字口をしている。ごめんね、次はもっとうまく褒めるよ。
今日は玄武が食事当番の日。近頃玄武はスーパーの白菜とネギが高騰して大変ショックを受けていた。スーパーで立ち尽くす背中がかわいそうで、私はその日のうちに実家に連絡してネギや他の野菜を山ほどを送ってもらった。だから、今日の野菜は苗字家産のものばかり。しかし仕送りあるあるだけど、これは送料の方が高くついた気がするな……
さて、本日玄武が作ったのは塩ベースに鶏肉と野菜と油揚げに蒲鉾、なんでもありの鍋だ。私はこれで充分だけどふたりはこれを白米で食べる。好きなところを山盛りよそって、アチィアチィと騒ぎながら食べるのが神速流だ。
食事中の話題はもちろん開催の迫ったライブ、事務所の人たちのこと、それから飯のこと。次の食事当番は私で、毎回成長期の若者たちに何を食べさせるべきか悩んでいる。ここはひとつリクエストを募るか。
「次の夕飯、何がいい?」
「茶碗蒸し」
「……お前たちバケツみたいな量食べるじゃん。デカいと蒸すのが難しいんだよ、あれは!」
「プリンと一緒だな!」
「そうだよ。回転ずし屋さんの茶碗蒸しとプリンはちゃんとマニュアルに則って蒸してるからどっちも美味しいんだよ」
「なあ、いいだろ。寿司はまた今度にしよう。俺も手伝うからさ」
玄武がそう言って、鍋からおかわりをよそった。視線は頑なに鍋に向けられている。「いいだろ」と言う声のトーンが思いの外甘く、私と朱雀はこっそり顔を見合わせる。珍しい、玄武のおねだりだ。
「家でするなら肉か何か焼かないと足りなそ〜」
「オレも手伝うぜ。デカいと時間がかかるってんならよ、小さいのをいくつも並べて蒸したらどうだ?」
「となると茶碗蒸しパーティだな」
家で茶碗蒸しをするとなると、鍋ものとは違って1人分ずつ作らなくちゃいけないし、出汁作って、具の下準備をして、更にはそれだけじゃ足りない人のために違うおかずも作って、手がかかって仕方ない。朱雀も玄武も回転ずし屋さんでは絶対食べるのに、茶碗蒸しをリクエストしたことなんてなかった。昔は。
うちで初めて茶碗蒸しを出した時、玄武は本当に嬉しそうにしていて、大きめの椀(あの頃はふたりが大どんぶりじゃなきゃ足りないなんて知らなかったのだ)をぺろっと食べて、朱雀と一緒にうまいうまいって喜んだ。こんなにはしゃぐなんて、きっと言わないだけで大好物なんだろうとその時思った。
それから、玄武が風邪を引いた時にも作ってやった。栄養があって、柔らかくて、風邪の時にはピッタリだと思ったから。「味が分からなくて勿体ない」と、嬉しそうに手元の椀を見下ろしたのを覚えている。こんな甘い茶碗蒸しは初めて食ったと、嗄れた声で打ち明けたのは、一体もう何年前のことか。
「じゃあ次は茶碗蒸しね。朱雀の時は何する?」
「あ?焼きそば」
「自分だけラクしようとしてる?ずるい!」
「あんかけつけるから文句言うな!名前の好きな海鮮、豚入りだ!な、玄武もいいだろ?」
「今からそんなのばっかり食べてたら、真冬は何を食べればいいんだ」
「キムチ鍋と鍋焼きうどんのローテーション」
「勘弁してよ!」
「なんでだよ!どっちも好きだろ!」
「好きだけどローテーションは嫌!」
「……お前ら静かに食え!」
まだ今夜の鍋も途中だと言うのに、今後の夕飯のことでわあわあ言い合う私と朱雀。それを見て玄武がため息をつく。勘弁してよ!「やれやれ仕方ないな」の顔をしていいのはとっくに隣室に逃げ込んだにゃこだけでしょう。
今日は事務所にいたアイドルみんなで咲ちゃんおすすめのリッププランパーを塗ってみて、その効果に大騒ぎしたらしい。朱雀はその違和感に耐えかねてすぐにティッシュで拭いたはずだが、気になって仕方ないようだった。
一方宿題監督役のはずの私は、にゃこの冬毛に夢中だ。しかし、撫で方がしつこすぎたのかにゃこは「もう撫でさせてやらん」とばかりにするりと私の腕の中から抜け出した。引き止める間もなく、隣の部屋に逃げていく。
「そうだ、あれもう見たか?」
「あれって?」
「H@NDMANだよ」
「はんどまん……」
朱雀が見せてくれたのは3体のマスコット。3人揃ってH@NDMAN。……なんだこれ?私は言葉に詰まり、それから朱雀に視線を合わせた。
「愛嬌が……あるね?」
「だろォ!?」
朱雀が鼻息荒く頷いて見せた。私に言い聞かせるような強い語調に、私は恐る恐る(ないだろうな)と思いつつ尋ねてみた。
「朱雀が描いたの?」
「いやオレは……イラストはあんまりだろ?描き起こしたのは百々人さん」
「へ〜百々人くんって絵も上手なんだね」
「そうなんだよ!百々人さんは頭もいいし、教えるのも上手いしすげぇんだ!」
そう力説するが、朱雀も相当器用だ。何か工作する時はろくに測りもせず作り始めてピッタリサイズに仕上げることごできる。絵もうまくて、昔提灯に絵を描いたのを褒めまくったら、ロケで作った工芸品(蝋燭とか皿みたいな絵付けものから、吹きガラスのコップ、陶芸……)なんかを色々持ってくるようになった。贔屓目抜きに本当に上手で、このままいくと将来私が家を建てた時に新築祝いで玄関にステンドグラスを作ってくれそうな勢いである。
玄武がキッチンから頭を出して、「鍋出すから早く片付けろ」と声をかけた。玄武の視線が朱雀を通り越し、私を見て目配せしたので、私はわずかに頷いた。キッチンにいても、私たちの会話はしっかり聞こえていたらしい。訳をつけるなら「これはガッカリの顔だぜ」「わかっています」と言ったところ。私はもっと……もっとH@NDMANなるマスコットを褒めるべきだったということ。朱雀を喜ばせるのは結構難しい。私はもう一度タブレットに映し出されたH@NDMANを見る。うん、確かに愛嬌はある。間違ってない。
昔、朱雀が事務所でバク宙講習会を受けた時のことを思い出す。朱雀は講習会でバク宙を見事に習得して、その様子を動画に収めて持ち帰ってきた。しかし「そうだ!これ見てくれよ」と動画を見せてウキウキの朱雀に対し私は「ヒッ……(絶句)」という期待はずれの反応しかできなかった。
言い訳をするならば、事前説明もなしに見せられた宙返りはあまりにも心臓に悪かった。玄武が「朱雀は褒めてもらえると思ってその動画を見せたんだよ」とネタバラシをした時の、朱雀の恨めしそうな、「キャ♡かっこいい♡って喜ぶと思ったんだけどな〜」と言いたげな後ろ姿を覚えている。見れば今回も同じようなへの字口をしている。ごめんね、次はもっとうまく褒めるよ。
今日は玄武が食事当番の日。近頃玄武はスーパーの白菜とネギが高騰して大変ショックを受けていた。スーパーで立ち尽くす背中がかわいそうで、私はその日のうちに実家に連絡してネギや他の野菜を山ほどを送ってもらった。だから、今日の野菜は苗字家産のものばかり。しかし仕送りあるあるだけど、これは送料の方が高くついた気がするな……
さて、本日玄武が作ったのは塩ベースに鶏肉と野菜と油揚げに蒲鉾、なんでもありの鍋だ。私はこれで充分だけどふたりはこれを白米で食べる。好きなところを山盛りよそって、アチィアチィと騒ぎながら食べるのが神速流だ。
食事中の話題はもちろん開催の迫ったライブ、事務所の人たちのこと、それから飯のこと。次の食事当番は私で、毎回成長期の若者たちに何を食べさせるべきか悩んでいる。ここはひとつリクエストを募るか。
「次の夕飯、何がいい?」
「茶碗蒸し」
「……お前たちバケツみたいな量食べるじゃん。デカいと蒸すのが難しいんだよ、あれは!」
「プリンと一緒だな!」
「そうだよ。回転ずし屋さんの茶碗蒸しとプリンはちゃんとマニュアルに則って蒸してるからどっちも美味しいんだよ」
「なあ、いいだろ。寿司はまた今度にしよう。俺も手伝うからさ」
玄武がそう言って、鍋からおかわりをよそった。視線は頑なに鍋に向けられている。「いいだろ」と言う声のトーンが思いの外甘く、私と朱雀はこっそり顔を見合わせる。珍しい、玄武のおねだりだ。
「家でするなら肉か何か焼かないと足りなそ〜」
「オレも手伝うぜ。デカいと時間がかかるってんならよ、小さいのをいくつも並べて蒸したらどうだ?」
「となると茶碗蒸しパーティだな」
家で茶碗蒸しをするとなると、鍋ものとは違って1人分ずつ作らなくちゃいけないし、出汁作って、具の下準備をして、更にはそれだけじゃ足りない人のために違うおかずも作って、手がかかって仕方ない。朱雀も玄武も回転ずし屋さんでは絶対食べるのに、茶碗蒸しをリクエストしたことなんてなかった。昔は。
うちで初めて茶碗蒸しを出した時、玄武は本当に嬉しそうにしていて、大きめの椀(あの頃はふたりが大どんぶりじゃなきゃ足りないなんて知らなかったのだ)をぺろっと食べて、朱雀と一緒にうまいうまいって喜んだ。こんなにはしゃぐなんて、きっと言わないだけで大好物なんだろうとその時思った。
それから、玄武が風邪を引いた時にも作ってやった。栄養があって、柔らかくて、風邪の時にはピッタリだと思ったから。「味が分からなくて勿体ない」と、嬉しそうに手元の椀を見下ろしたのを覚えている。こんな甘い茶碗蒸しは初めて食ったと、嗄れた声で打ち明けたのは、一体もう何年前のことか。
「じゃあ次は茶碗蒸しね。朱雀の時は何する?」
「あ?焼きそば」
「自分だけラクしようとしてる?ずるい!」
「あんかけつけるから文句言うな!名前の好きな海鮮、豚入りだ!な、玄武もいいだろ?」
「今からそんなのばっかり食べてたら、真冬は何を食べればいいんだ」
「キムチ鍋と鍋焼きうどんのローテーション」
「勘弁してよ!」
「なんでだよ!どっちも好きだろ!」
「好きだけどローテーションは嫌!」
「……お前ら静かに食え!」
まだ今夜の鍋も途中だと言うのに、今後の夕飯のことでわあわあ言い合う私と朱雀。それを見て玄武がため息をつく。勘弁してよ!「やれやれ仕方ないな」の顔をしていいのはとっくに隣室に逃げ込んだにゃこだけでしょう。
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