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帰り道に最近花屋さんができた。見たことのない花ばっかり売ってるので前々から気になっていた、切り花も売っているけど店先にたくさん並べたおしゃれな鉢植えが目をひくお店だ。そらから、店の壁に掛けられたドライフラワーやリースがかわいい。センスがいいなあと思っていつも横目に通り過ぎている。
北斗に帰り道に入ってみたい花屋さんがある、と申し出たところ「殺風景な名前さんの部屋に前々から何か飾るべきと思っていた」と言うので、私は北斗を引っ張って最近目をつけていた例の花屋さんへ足を運んだ。牛丼が無性に食べたい気分だったので吉牛に付き合わせた帰り道のことだ。カウンターに座る北斗の似合わなさはもう格別だったが、私の牛丼欲を満たすためだけに付き合わせたわけなので、その場でのコメントは控えた。
「ひとりじゃ入れないんですか?」
「特別な用事がないのに、花屋さんって入りにくくない?お金のことも、いくらかかるのかわかんないし、聞きづらいし……」
「用がなくても入ってみて何かお任せで作ってもらったり、気に入った1本を買って帰ればいいんじゃないですか」
「そっそれができたらこんなにびびってないよ……」
「そんなに難しくないですよ」
「北斗はそうだろうけど……あ、ここです」
「はいはい」
勝手にお花屋さんは閉まってしまうのが早いイメージがあったのだけど、ここはまだ店じまいの支度もしていない。元は駐車場だったのだろう店先のスペースにいくつも鉢植えが並んでいた。
北斗は鉢植えの奥の店内を見て「今度はここで頼んでみようかな」と言った。エンジェルちゃんとのデートの時には花の種類や色だけでなく、花言葉までしっかり考えて花束を作るのがこの、伊集院北斗という人間なので今更驚かないし北斗にも気に入ってもらえたようで私はすでに若干満足していた。
「鉢植えが多いですね」
「ね、お庭に植えたりそのままベランダに出しておけそうなおしゃれな感じのが多いから気になってたんだ。見て、ミモザの木かな、かわいいなー」
「そういえば新しく観葉植物がほしいと思ってて」
「いいじゃん、買っちゃいなよ。あ、ハーブもある!」
北斗が私そっちのけで真剣に部屋に置けそうな木を見繕い始めたので、私は鉢植えを眺めながら店内に向かって進んでいった。つるしてあるドライフラワーが気になっていたのだ。
どうやらスイッチが入って真剣に選んでいるらしい北斗は枝ぶりや大きさなんかをよく見てるようだけど、私は枝にひっかけられたタグの字ばっかり見てしまう。こういうところが違うんだよなあ、とため息が出た。 美術館に行っても説明文や来歴を読む私と、気に入った作品の前に何時間でも立ってられる北斗。そういう感じなので美術館とかに一緒に行ったことはない。
「その木、すてきですよね」
「は、はい!」
「いかがですか、何かお好きなものはありました?」
「す、すみません、あんまりわからなくて……でもどれもすてきだなって……」
「いえいえ、ゆっくり見てくださいね」 いつのまにか店の奥から出てきた店員さんが急に声をかけてきたので、私は飛び上がるほど驚いた。こういう小さいお店は店員さんに声をかけられやすく、それで声をかけられると何か買わなくちゃという焦りが生まれて結局いつもちゃんと見れない。そのために北斗を連れてきたのに、北斗は真剣に木を選んでいて全然役に立たないのだ。
「あ、あの鉢植え、かわいいですね」
「ああ、あれですか?小さくてかわいいですよね」
ぱっと目を惹く鉢植えを指差すと店員さんが持ち上げてくれた。片手で持てるくらいの小さい植木鉢に細い幹、尖った葉っぱが茂っている。月下美人に似てるような気もするけどなんの木だろう。タグはついていなかったが、透き通った白い蕾らしきものがひとつついているのがかわいらしい。
「これはね、おすすめですよ」
店員さんがニッコリ笑った。
「強い光が直接当たらないところ……たとえばベッドルームとかでも育ちやすいんですよ。お水もたまーに、でいいですし。それなのにちゃんと花が咲くんですよ」
「本当ですか?お水あげる加減って難しいんですよね」
「そうですよね、そういう方も多くてサボテンみたいなお水をあんまりあげなくていいタイプの植物が最近人気なんです!これも人気ですよ!可愛がってあげたら割とすぐにかわいいお花が咲くし、おすすめです!」
お花がすぐに咲くのはいいな、と思って私は店員さんの持つ鉢をじっと見つめた。花が咲くなら、上手に育てられたことがわかりやすくていい。ああいうのって根が腐ったりする悪い変化の方が見えやすかったりするんだよね。
「決めた!……これ買いま……んん?」
「……どうかされました?」
「いや、今この木、ちょっと動いたような……?気のせいかな、買います!」
「お買い上げありがとうございまーす!」
心配だったお値段は、相場がわからないからなんとも言えないけど、とりあえずワンコインで済んだので私はほっとした。枝がうにょんと動いた気がするのはきっと気のせい。北斗にこれ、買っちゃったと大満足でビニール袋に入った鉢を見せた。
「かわいい、花が咲くんですか?」
「うん、そうらしい。楽しみだね」
「枯らさないように頑張ってくださいね?」
「た、多分大丈夫だと思う……」
結局北斗はこの店ではビビッとくる木と出会えなかったらしい。また今度みのりさんに相談してみます、と言ったからいい木が見つかるのもきっとすぐだろう。元花屋さんみのりさんならきっと北斗の部屋にバッチリおさまるナイスな観葉植物を探してくれる。
北斗の部屋に着くと、北斗は靴を脱ぐのも待たずに私の腰に両腕を回した。待ちきれないと言葉にする代わりに熱い吐息を漏らし、私の名前を呼んだ。北斗が身を捩ると私の視界の隅でビニール袋ががさがさと音を立てた。 服の擦れた音かと思ったが、違う。私はびっくりしすぎて鉢を落とすかと思った。
「ま、待ってよ」
「もう待てません。牛丼も寄り道も、楽しかったですけどこれ以上のお預けはもうダメです」
「違うの、これ見て!」
「花、まだ咲いてませんよ」
「違う、これすごく、育ってない……?」
「言われてみれば、そんな気もしますけど……」
そんな気がするどころじゃない、明らかに葉が増えていてビニール袋の中で狭そうにしている。蕾は上から見える範囲だけでも2つ増えていた。
「ねえ、これいくらなんでも早すぎない?」
「すぐに花が見れますよ。よかったじゃないですか」
「ええっ!育てる楽しみが無いじゃん」
やっぱり蕾が増えている。枝も伸びたような気がするし、なんだか青臭い匂いもする。いくら育ちがいいにしてもなんでも、光合成には太陽光が必要じゃない?私はおおいに混乱した。 なにこれ?なにが起きてる?
「……俺ばっかり、あなたの事が好きで嫌になる」
混乱の中、暗い声音に驚いて蕾から北斗に視線を向けると、北斗は声音に反して羞恥に耐えるように唇を噛んでいた。「……見ないでください」なんて可愛い顔で言われても、そんなのは無理だ。
「ご、ごめん……」
「花にまで嫉妬してる自分の狭量さが本当に嫌だ……」
「いいよ、全然いいよ。むしろ可愛いよ」
「可愛いなんて言われても、ちっとも嬉しくないです」
「それは、ごめん……」
「……ごめんって言うくらいなら、キスして」
「うん……」
北斗の顔を私の方に向けると、北斗はちゃんと目を閉じていて綺麗な青い目は隠れてしまっていた。嫉妬深いところも可愛く思えるのは、惚れた欲目に違いない。北斗の唇を食む感覚に夢中になり、私は買ったばかりの鉢植えがなんだかごそごそ動いたような気がしたけれど、それは気にしないことにした。
玄関先からベッドへ移り、いつもより情熱的な(こういうと聞こえがいいけど、ストレートに言葉にすると今日はすごいしつこかった)北斗を相手にしたあとふたりともそのまま意識を落とした。
北斗の寝言だか呻き声を聞いたような気がしたのと、目蓋の向こうがなんだか薄明るいような気がして、目が覚めた。カーテンなら朝閉めたはずなのに、と薄目を開けてみれば心臓が止まるかと思った。
「え、え、え……?」
伸びまくった枝のいっぽん(最早枝というよりジャングルとかにいそうなツタみたくなっている)が、首筋に浮いた北斗の汗を吸っていた。嘘でしょ!?しかも他の枝は、シャワーさえもめんどくさくなったせいでかぴかぴになった下腹部の、アレを舐めている。嘘でしょ!?!?と叫び出したいのを堪えて目を擦る。寝ぼけているせいだと思いたいけど、マジのようだった。いや、黙って吸われてないで北斗も起きなよ!!変だなとか思いなよ!!明らかヤバいでしょ!?警戒心捨ててきちゃったの!?
意を決して飛び起きて北斗のからだに伸びるうねうねの枝を強めにグーで殴ると、枝は(枝は?)「アッ……バレちゃいました……?」とでも言わんばかりの動きで北斗から退いた。アッじゃないし!!!!何その態度!?!?混乱と怒りのままにもう一回殴りつけると、枝は渋々鉢植えに戻っていった。いやなんか鉢植えの本体もブクブクに肥大してるし。まさか北斗の体液吸って膨らみました?想像するだけでゾッとする……
「名前ちゃん……?」
意識が少しだけ覚醒した北斗が私に手を伸ばした。名前ちゃん……?じゃないわ、北斗は気付いてないけどさっき大変なことになってたんだよ!?怒りたいのに、北斗が寝ぼけて潤んでいる青い目で私を見るのでどうでもよくなった。
「何かあった?」
「……あったけど、明日でいいや……」
北斗の隣に戻り、首の後ろに手を回す。目尻にキスをして、瞬きで溢れた涙を舐めた。普段なら、こんなこと絶対しないし北斗にされてもやだ!って言うけど、ほっといたらまたあの草!草ごときが延びてきて吸うのは目に見えてるので今日だけはやった。北斗がへにゃっと笑ってまた寝たので私は大きいため息をついた。北斗には警戒心が足りない……
翌朝、北斗が起きる前に頑張って起きて、まず北斗の安全を確認した。寝てる間に北斗の尻に枝が大喜びで侵入してる最悪の夢を見て飛び起きたりもしたけど、北斗の尻はどうやら無事のようだった。
北斗に「長生きしたいならやめてください」と散々説得され、やめさせられたタバコの道具をクローゼットから出してきて火をつけた。久しぶりの苦いにおいに安堵することもなく、迷わず鉢植えに近づける。昨晩のあれはやっぱり夢だったのかと思うくらい動きもせず、葉が燃える青いにおいがした。
「な、にしてるんですか……タバコ、やめるって言ったのに……」
「吸ってない、コレ燃やしてんの」
「は?」
「燃やそうと思って。跡形もなく」
いいよね、北斗はなにも知らず寝てたんだから……北斗は昨晩のままの素っ裸で、不思議そうに窓際の私を見上げている。
北斗に帰り道に入ってみたい花屋さんがある、と申し出たところ「殺風景な名前さんの部屋に前々から何か飾るべきと思っていた」と言うので、私は北斗を引っ張って最近目をつけていた例の花屋さんへ足を運んだ。牛丼が無性に食べたい気分だったので吉牛に付き合わせた帰り道のことだ。カウンターに座る北斗の似合わなさはもう格別だったが、私の牛丼欲を満たすためだけに付き合わせたわけなので、その場でのコメントは控えた。
「ひとりじゃ入れないんですか?」
「特別な用事がないのに、花屋さんって入りにくくない?お金のことも、いくらかかるのかわかんないし、聞きづらいし……」
「用がなくても入ってみて何かお任せで作ってもらったり、気に入った1本を買って帰ればいいんじゃないですか」
「そっそれができたらこんなにびびってないよ……」
「そんなに難しくないですよ」
「北斗はそうだろうけど……あ、ここです」
「はいはい」
勝手にお花屋さんは閉まってしまうのが早いイメージがあったのだけど、ここはまだ店じまいの支度もしていない。元は駐車場だったのだろう店先のスペースにいくつも鉢植えが並んでいた。
北斗は鉢植えの奥の店内を見て「今度はここで頼んでみようかな」と言った。エンジェルちゃんとのデートの時には花の種類や色だけでなく、花言葉までしっかり考えて花束を作るのがこの、伊集院北斗という人間なので今更驚かないし北斗にも気に入ってもらえたようで私はすでに若干満足していた。
「鉢植えが多いですね」
「ね、お庭に植えたりそのままベランダに出しておけそうなおしゃれな感じのが多いから気になってたんだ。見て、ミモザの木かな、かわいいなー」
「そういえば新しく観葉植物がほしいと思ってて」
「いいじゃん、買っちゃいなよ。あ、ハーブもある!」
北斗が私そっちのけで真剣に部屋に置けそうな木を見繕い始めたので、私は鉢植えを眺めながら店内に向かって進んでいった。つるしてあるドライフラワーが気になっていたのだ。
どうやらスイッチが入って真剣に選んでいるらしい北斗は枝ぶりや大きさなんかをよく見てるようだけど、私は枝にひっかけられたタグの字ばっかり見てしまう。こういうところが違うんだよなあ、とため息が出た。 美術館に行っても説明文や来歴を読む私と、気に入った作品の前に何時間でも立ってられる北斗。そういう感じなので美術館とかに一緒に行ったことはない。
「その木、すてきですよね」
「は、はい!」
「いかがですか、何かお好きなものはありました?」
「す、すみません、あんまりわからなくて……でもどれもすてきだなって……」
「いえいえ、ゆっくり見てくださいね」 いつのまにか店の奥から出てきた店員さんが急に声をかけてきたので、私は飛び上がるほど驚いた。こういう小さいお店は店員さんに声をかけられやすく、それで声をかけられると何か買わなくちゃという焦りが生まれて結局いつもちゃんと見れない。そのために北斗を連れてきたのに、北斗は真剣に木を選んでいて全然役に立たないのだ。
「あ、あの鉢植え、かわいいですね」
「ああ、あれですか?小さくてかわいいですよね」
ぱっと目を惹く鉢植えを指差すと店員さんが持ち上げてくれた。片手で持てるくらいの小さい植木鉢に細い幹、尖った葉っぱが茂っている。月下美人に似てるような気もするけどなんの木だろう。タグはついていなかったが、透き通った白い蕾らしきものがひとつついているのがかわいらしい。
「これはね、おすすめですよ」
店員さんがニッコリ笑った。
「強い光が直接当たらないところ……たとえばベッドルームとかでも育ちやすいんですよ。お水もたまーに、でいいですし。それなのにちゃんと花が咲くんですよ」
「本当ですか?お水あげる加減って難しいんですよね」
「そうですよね、そういう方も多くてサボテンみたいなお水をあんまりあげなくていいタイプの植物が最近人気なんです!これも人気ですよ!可愛がってあげたら割とすぐにかわいいお花が咲くし、おすすめです!」
お花がすぐに咲くのはいいな、と思って私は店員さんの持つ鉢をじっと見つめた。花が咲くなら、上手に育てられたことがわかりやすくていい。ああいうのって根が腐ったりする悪い変化の方が見えやすかったりするんだよね。
「決めた!……これ買いま……んん?」
「……どうかされました?」
「いや、今この木、ちょっと動いたような……?気のせいかな、買います!」
「お買い上げありがとうございまーす!」
心配だったお値段は、相場がわからないからなんとも言えないけど、とりあえずワンコインで済んだので私はほっとした。枝がうにょんと動いた気がするのはきっと気のせい。北斗にこれ、買っちゃったと大満足でビニール袋に入った鉢を見せた。
「かわいい、花が咲くんですか?」
「うん、そうらしい。楽しみだね」
「枯らさないように頑張ってくださいね?」
「た、多分大丈夫だと思う……」
結局北斗はこの店ではビビッとくる木と出会えなかったらしい。また今度みのりさんに相談してみます、と言ったからいい木が見つかるのもきっとすぐだろう。元花屋さんみのりさんならきっと北斗の部屋にバッチリおさまるナイスな観葉植物を探してくれる。
北斗の部屋に着くと、北斗は靴を脱ぐのも待たずに私の腰に両腕を回した。待ちきれないと言葉にする代わりに熱い吐息を漏らし、私の名前を呼んだ。北斗が身を捩ると私の視界の隅でビニール袋ががさがさと音を立てた。 服の擦れた音かと思ったが、違う。私はびっくりしすぎて鉢を落とすかと思った。
「ま、待ってよ」
「もう待てません。牛丼も寄り道も、楽しかったですけどこれ以上のお預けはもうダメです」
「違うの、これ見て!」
「花、まだ咲いてませんよ」
「違う、これすごく、育ってない……?」
「言われてみれば、そんな気もしますけど……」
そんな気がするどころじゃない、明らかに葉が増えていてビニール袋の中で狭そうにしている。蕾は上から見える範囲だけでも2つ増えていた。
「ねえ、これいくらなんでも早すぎない?」
「すぐに花が見れますよ。よかったじゃないですか」
「ええっ!育てる楽しみが無いじゃん」
やっぱり蕾が増えている。枝も伸びたような気がするし、なんだか青臭い匂いもする。いくら育ちがいいにしてもなんでも、光合成には太陽光が必要じゃない?私はおおいに混乱した。 なにこれ?なにが起きてる?
「……俺ばっかり、あなたの事が好きで嫌になる」
混乱の中、暗い声音に驚いて蕾から北斗に視線を向けると、北斗は声音に反して羞恥に耐えるように唇を噛んでいた。「……見ないでください」なんて可愛い顔で言われても、そんなのは無理だ。
「ご、ごめん……」
「花にまで嫉妬してる自分の狭量さが本当に嫌だ……」
「いいよ、全然いいよ。むしろ可愛いよ」
「可愛いなんて言われても、ちっとも嬉しくないです」
「それは、ごめん……」
「……ごめんって言うくらいなら、キスして」
「うん……」
北斗の顔を私の方に向けると、北斗はちゃんと目を閉じていて綺麗な青い目は隠れてしまっていた。嫉妬深いところも可愛く思えるのは、惚れた欲目に違いない。北斗の唇を食む感覚に夢中になり、私は買ったばかりの鉢植えがなんだかごそごそ動いたような気がしたけれど、それは気にしないことにした。
玄関先からベッドへ移り、いつもより情熱的な(こういうと聞こえがいいけど、ストレートに言葉にすると今日はすごいしつこかった)北斗を相手にしたあとふたりともそのまま意識を落とした。
北斗の寝言だか呻き声を聞いたような気がしたのと、目蓋の向こうがなんだか薄明るいような気がして、目が覚めた。カーテンなら朝閉めたはずなのに、と薄目を開けてみれば心臓が止まるかと思った。
「え、え、え……?」
伸びまくった枝のいっぽん(最早枝というよりジャングルとかにいそうなツタみたくなっている)が、首筋に浮いた北斗の汗を吸っていた。嘘でしょ!?しかも他の枝は、シャワーさえもめんどくさくなったせいでかぴかぴになった下腹部の、アレを舐めている。嘘でしょ!?!?と叫び出したいのを堪えて目を擦る。寝ぼけているせいだと思いたいけど、マジのようだった。いや、黙って吸われてないで北斗も起きなよ!!変だなとか思いなよ!!明らかヤバいでしょ!?警戒心捨ててきちゃったの!?
意を決して飛び起きて北斗のからだに伸びるうねうねの枝を強めにグーで殴ると、枝は(枝は?)「アッ……バレちゃいました……?」とでも言わんばかりの動きで北斗から退いた。アッじゃないし!!!!何その態度!?!?混乱と怒りのままにもう一回殴りつけると、枝は渋々鉢植えに戻っていった。いやなんか鉢植えの本体もブクブクに肥大してるし。まさか北斗の体液吸って膨らみました?想像するだけでゾッとする……
「名前ちゃん……?」
意識が少しだけ覚醒した北斗が私に手を伸ばした。名前ちゃん……?じゃないわ、北斗は気付いてないけどさっき大変なことになってたんだよ!?怒りたいのに、北斗が寝ぼけて潤んでいる青い目で私を見るのでどうでもよくなった。
「何かあった?」
「……あったけど、明日でいいや……」
北斗の隣に戻り、首の後ろに手を回す。目尻にキスをして、瞬きで溢れた涙を舐めた。普段なら、こんなこと絶対しないし北斗にされてもやだ!って言うけど、ほっといたらまたあの草!草ごときが延びてきて吸うのは目に見えてるので今日だけはやった。北斗がへにゃっと笑ってまた寝たので私は大きいため息をついた。北斗には警戒心が足りない……
翌朝、北斗が起きる前に頑張って起きて、まず北斗の安全を確認した。寝てる間に北斗の尻に枝が大喜びで侵入してる最悪の夢を見て飛び起きたりもしたけど、北斗の尻はどうやら無事のようだった。
北斗に「長生きしたいならやめてください」と散々説得され、やめさせられたタバコの道具をクローゼットから出してきて火をつけた。久しぶりの苦いにおいに安堵することもなく、迷わず鉢植えに近づける。昨晩のあれはやっぱり夢だったのかと思うくらい動きもせず、葉が燃える青いにおいがした。
「な、にしてるんですか……タバコ、やめるって言ったのに……」
「吸ってない、コレ燃やしてんの」
「は?」
「燃やそうと思って。跡形もなく」
いいよね、北斗はなにも知らず寝てたんだから……北斗は昨晩のままの素っ裸で、不思議そうに窓際の私を見上げている。
