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きっとはじめて見たときから恋をしていたのだ、私は。不相応と知ってはいても、恋に落ちずにはいられなかったのだ。
「名前ちゃんステージ上がります!5秒前、4……」
手袋越しにマイクをしっかり握れば背筋が伸びた。ばさばさの睫毛はやっぱり重たいけど目に力を込めれば、私の目はきらきら輝くだろう。上から差し込むライトが目を刺した。ステージには誰もいない。私のためだけのステージが、私を待っている。
笑え、笑顔を全力で振りまけ。真剣な顔も忘れてはいけない。涙は無駄うちしてはいけない。出さなすぎてもよくない。
私がトップアイドルになるんだ。恋を歌うためのくちびるを、意識して引き上げた。
ステージの向こうの群衆が、現れた私の姿に歓声を上げる。待っててくれ、今から笑顔にさせて見せるから。彼のように、君たち全員笑顔にしてやるから。
@@@
「名前ちゃん、お疲れさま!」
「ありがとう。春香ちゃんもお疲れさまです」
「いいんだよ、敬語なんてなくて」
本番を終えてステージ裏の廊下でスポドリを飲んでいると、765プロダクションの天海春香ちゃんが声をかけてくれた。765プロみたいな大きな事務所のアイドルが仲良くしてくれるなんて、昔の私が聞いたら卒倒するだろう。
「名前ちゃんのステージ、見ててドキドキしちゃった。私たちも負けないように頑張らないとって話してたんだよ」
「いや、私も765さんのステージで、いつも勉強させてもらっている立場だよ。春香ちゃんたちのパフォーマンスは皆が笑顔になるから」
春香ちゃんの言葉に甘え、いつも通りの話し方になる私を、春香ちゃんは咎めない。中々敬語の抜けない私が普通に話すようになって、春香ちゃんはとても喜んでくれた。名前ちゃんは私より一つ下だけど、私は名前ちゃんのスタイルを尊敬しているよ、と。今日も敬語をやめ、堅苦しいと言われがちな話し方に戻った私ににっこり笑いかけ、手を取る春香ちゃんはとてつもなくかわいい。平凡な女の子、と称されることのある春香ちゃんだが、私からすれば彼女のどこが平凡なのか全く理解しかねる。人を幸せにする笑顔、誰かを大事に思う気持ち、春香ちゃんはアイドルに必要な魅力を誰よりもたくさん持ってる。
ステージと客席を映すテレビから歓声と拍手の音がした。はっとしてテレビを見上げれば、暗闇の中にわずかな緑の光。
「あ、春香ちゃん、私はもう行かないと」
「うん、行ってらっしゃい。またお話ししようね」
「春香ちゃんのお仕事の話を聞けるのを楽しみにしてるよ」
「ありがとう」
春香ちゃんに背を向けて階段を駆け上がる。彼らの登場よりも早く袖に着けるだろうか。ダンスの足を引っ張るハイヒールも今は気にならなかった。
名前が走り去って、春香は振っていた手を静かに止めた。中継のテレビに映るのは、大歓声の中登場した961プロのジュピターだった。765プロを執拗に敵視する天ヶ瀬冬馬が、春香たちには決して向けることのない甘い声で歌っていた。パフォーマンスの姿は真剣そのもので春香はひそかに詰めていた息を吐き出した。
名前が天ヶ瀬冬馬に好意を持っているのは鈍い春香でも察していた。ただ、それが恋なのかトップを目指す彼女の憧れなのかは春香にはわからなかった。普通の女の子とは違う名前の固まった話し方からは特定できないし、事務所の鋭い面々に尋ねても皆困った笑みを浮かべるばかりだ。
照明の絞られていた一曲目が終わり、一気にステージが明るくなる。慕ってくれる後輩のアイドルのことに頭を悩ませる春香と対照的に、冬馬の投げキッスに会場が湧いた。
「名前ちゃんステージ上がります!5秒前、4……」
手袋越しにマイクをしっかり握れば背筋が伸びた。ばさばさの睫毛はやっぱり重たいけど目に力を込めれば、私の目はきらきら輝くだろう。上から差し込むライトが目を刺した。ステージには誰もいない。私のためだけのステージが、私を待っている。
笑え、笑顔を全力で振りまけ。真剣な顔も忘れてはいけない。涙は無駄うちしてはいけない。出さなすぎてもよくない。
私がトップアイドルになるんだ。恋を歌うためのくちびるを、意識して引き上げた。
ステージの向こうの群衆が、現れた私の姿に歓声を上げる。待っててくれ、今から笑顔にさせて見せるから。彼のように、君たち全員笑顔にしてやるから。
@@@
「名前ちゃん、お疲れさま!」
「ありがとう。春香ちゃんもお疲れさまです」
「いいんだよ、敬語なんてなくて」
本番を終えてステージ裏の廊下でスポドリを飲んでいると、765プロダクションの天海春香ちゃんが声をかけてくれた。765プロみたいな大きな事務所のアイドルが仲良くしてくれるなんて、昔の私が聞いたら卒倒するだろう。
「名前ちゃんのステージ、見ててドキドキしちゃった。私たちも負けないように頑張らないとって話してたんだよ」
「いや、私も765さんのステージで、いつも勉強させてもらっている立場だよ。春香ちゃんたちのパフォーマンスは皆が笑顔になるから」
春香ちゃんの言葉に甘え、いつも通りの話し方になる私を、春香ちゃんは咎めない。中々敬語の抜けない私が普通に話すようになって、春香ちゃんはとても喜んでくれた。名前ちゃんは私より一つ下だけど、私は名前ちゃんのスタイルを尊敬しているよ、と。今日も敬語をやめ、堅苦しいと言われがちな話し方に戻った私ににっこり笑いかけ、手を取る春香ちゃんはとてつもなくかわいい。平凡な女の子、と称されることのある春香ちゃんだが、私からすれば彼女のどこが平凡なのか全く理解しかねる。人を幸せにする笑顔、誰かを大事に思う気持ち、春香ちゃんはアイドルに必要な魅力を誰よりもたくさん持ってる。
ステージと客席を映すテレビから歓声と拍手の音がした。はっとしてテレビを見上げれば、暗闇の中にわずかな緑の光。
「あ、春香ちゃん、私はもう行かないと」
「うん、行ってらっしゃい。またお話ししようね」
「春香ちゃんのお仕事の話を聞けるのを楽しみにしてるよ」
「ありがとう」
春香ちゃんに背を向けて階段を駆け上がる。彼らの登場よりも早く袖に着けるだろうか。ダンスの足を引っ張るハイヒールも今は気にならなかった。
名前が走り去って、春香は振っていた手を静かに止めた。中継のテレビに映るのは、大歓声の中登場した961プロのジュピターだった。765プロを執拗に敵視する天ヶ瀬冬馬が、春香たちには決して向けることのない甘い声で歌っていた。パフォーマンスの姿は真剣そのもので春香はひそかに詰めていた息を吐き出した。
名前が天ヶ瀬冬馬に好意を持っているのは鈍い春香でも察していた。ただ、それが恋なのかトップを目指す彼女の憧れなのかは春香にはわからなかった。普通の女の子とは違う名前の固まった話し方からは特定できないし、事務所の鋭い面々に尋ねても皆困った笑みを浮かべるばかりだ。
照明の絞られていた一曲目が終わり、一気にステージが明るくなる。慕ってくれる後輩のアイドルのことに頭を悩ませる春香と対照的に、冬馬の投げキッスに会場が湧いた。
