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「お疲れ様です、今日のステージも素敵でした!」
「うんうん、もっと褒めて!」
「個人的な講評はまたどこか別のところで……ね?」
疲れた様子はあっても達成感を感じさせる表情で翔太くんと北斗さんはタオルとペットボトルを回収してステージ裏へ。軽い言葉だけで去って行ったのは余裕の現れでありながら、次にステージに上がる人たちの邪魔にならないようとの気遣いでもある。
「冬馬くんは二人と逆で下手からMC入ってね」
「……ああ」
2人と同じく冬馬くんもタオルと水を受け取った。
「冬馬くん?疲れちゃった?」
「いや、大丈夫だ。ありがとな」
口角を上げて、冬馬くんはひらひら手を振って下手へ歩いて行った。足取りはしっかりしていて、他の共演者からの声かけにも応対している。
「疲れてるわけじゃないんだと思うんだけど……出る前は元気だったし……」
上手の階段前に到着した翔太くんと北斗くん、下手に到着した冬馬くんがスタッフに迎えられたことを確認する。今回の大型ライブイベントは出演者が交代で司会も務めるから大忙しだ。
「プロデューサー!用意できたぜ!」
天道さんの声に振り向くと、ドラスタの3人が衣装を纏って揃っていた。そう、今回は315プロからも多くアイドルが参加している。ジュピターのことだけ見ているわけにはいかない。
「315さん!」
「ああ、765さん、お疲れ様です」
「聞きましたか、出演アイドルの到着が複数遅れているみたいなんです」
「えっ大変じゃないですか」
「順番を詰めたとしても時間が余ります。出せるユニットが追加出演するそうです」
「うちから出します!」
食い気味に告げていた。765プロのプロデューサーさんもわかっていたようで、そのようにディレクターさんに伝えておきましたと返される。出せるユニットは、出番に間隔があって音源など演出の用意に時間がとれること、何より体力に余裕があって突然打診しても動揺のないこと。
「会場のみんなーっ!!盛り上がってるーー!!」
翔太くんの大きな声が裏手にも聞こえて、ジュピターのMCが始まったことを知る。モニターに映った冬馬くんは元気そうでとりあえずの代役の打診に向かうことにした。
「では765さんから2曲315さんから3曲ほど出していただくということで、それでも間に合わなかったらトランシーバーで随時各プロダクションさんに対応について連絡します」
「はい!」
765さんとディレクターさん、他数名のスタッフさんとの打ち合わせを終えると事情を聞いたらしいジュピターの3人が合流した。
「プロデューサーさん、出番増えるって本当?」
「はい、間に合わない出演者さんがそれも複数名いるとのことでお願いしたいです。行けますか?正直MCとかトークとか他の出番を多く任せてしまったので、代打は他のユニットに振ってもいいと思ってます」
「大丈夫、会場のテンションあげてくるよ」
「求められるのなら体力の限界まで歌って踊ってやりますよ」
「任せろ、765プロのやつらにできて俺らにできないわけがねえ」
本当に頼もしいアイドルだ。互いに顔を確認すると冬馬くんの手がまっすぐ伸ばされ、翔太くんと北斗くんの手が重なる。
「……ほら、あんたも」
「そうだよ、プロデューサーさん!フォローよろしくね」
「演出、期待していますよ」
おそるおそる1番上に手を重ねる。他所の事務所や他のユニットがやっているのは見たことあるし、混ぜてもらうこともあったけどこの3人とやるのは初めてだった。
「掛け声どうする?」
「315プロ~ファイトーー!!でいいんじゃない?」
「丸かぶりじゃねぇかよ!」
「ほら、プロデューサーお願いします」
急ごしらえの円陣、3人のまっすぐな視線を受け止める。ステージに上がるのは3人とも慣れてるし、あとは彼らがいつも通りやれるよう私が頑張るだけ。覚悟は決めた。
「イベントとしてはピンチだけど、ジュピターとしては、315プロとしても大チャンスです。本気で行きましょうっ」
「315プロ~!」
キリッと決めたが翔太くんの大きな声で冬馬くんのこめかみがひくついた。北斗くんは楽しそうに笑い、私は苦笑いの表情になってしまう。
「ファイトーーッ!!」
それでも4本の手が一緒に上げられ、漏れたライトで視界がにじむ。
「翔太お前、やっぱりやったな!」
「結局冬馬くんの声が1番大きかったんだからいいじゃん」
「ほら、2人とも待機待機。出るのは翔太が1番遠いんだから」
北斗くんの誘導で翔太くんと冬馬くんが引き離される。
「プロデューサー、よろしくお願いしますね」
「心配しないで、やっぱり僕ら慣れてるしね!」
ステージ中央の北斗くんと反対側から出る翔太くんとはここでお別れだ。一番ステージに慣れてない私を気遣うことまでして、2人は移動してしまった。
「プロデューサー、さっきのことだけどな」
「うん、」
「大丈夫、うまくやるから見てろよ。さっきは……ステージから帰ってきてこうやって迎え入れてくれるやつが、仲間がいるのは大きく違うって考えてた、だけ……だから心配するなよ」
「冬馬くん、」
「見せてやるよ、プロデューサー。俺らの最高のステージ。会場にだけじゃなくて、他の事務所のやつらにも、出演者にも。もちろん、あんたにもな」
冬馬くんの手が再びまっすぐ伸ばされた。さっきとは違って手のひらが上で、握手を要求してるってすぐわかった。パンッと音のするほど勢いよく手を出すと、しっかり握られて、顔の前まで上げられる。
「信じてくれ、俺らのこと」
俺らもあんたのこと信じてステージ出てるんだぜ、とまっすぐ見つめられると意思よりさきに頷かざるをえなかった。
急場のステージということは、ライトもステージギミックも、音楽の聞こえ方さえぶっつけ本番になる。私が行うそれらの細かい打ち合わせも直前になる。
「極力、いつものステージと同じになるようにします。でも」
視線をずらせば向かいの袖でストレッチをする翔太くん、スタッフと打ち合わせをする北斗くんが目に入った。先ほど代打を依頼してきた他のユニットの皆も、動揺も少なくそれぞれ準備を始めた。皆今日のステージの成功のために一生懸命だ。
「最高のステージにします。引き受けてくれたあなたたちのために」
冬馬くんはその言葉に頷いて、私の手を解放した。
「315さん、照明打ち合わせお願いします!」
「はい、今行きます!」
走り出して照明ブースに上がる直前、冬馬くんをふりかえった。任せろ、というように握った手を突き出され頷いて梯子に手をかけた。すごい力だ。そんな顔をされたら信じないわけにはいかないし全力を尽くそうと決意せざるをえない。
「イントロ開始同時に全開お願いします。その後さげて、ライトはグリーンで。それから」
「315さんの曲は全部準備しました!」
「ありがとうございます!」
歌い終えた出演者が捌け始め、次はいよいよジュピターの番だ。照明ブースは冬馬くんの出る袖側ステージの斜め上方だから3人の姿がよく見えた。
暗転している舞台で冬馬くんが見上げた。真っ暗の中、照明ブースの私を見つけたようでもう一度握った手を高く突き上げる。任せろって口が動いて、私も同じように手をかざした。口の動きはきっと伝わらないけど、信じてるからよろしくお願いしますって気持ちを表すために。
「ライト全開行きます!」
いつも通り曲と同時に眩しいくらいのステージライト。冬馬くんはただまっすぐ前を見て、その目には客席で光るグリーンの海だけを映している。
「うんうん、もっと褒めて!」
「個人的な講評はまたどこか別のところで……ね?」
疲れた様子はあっても達成感を感じさせる表情で翔太くんと北斗さんはタオルとペットボトルを回収してステージ裏へ。軽い言葉だけで去って行ったのは余裕の現れでありながら、次にステージに上がる人たちの邪魔にならないようとの気遣いでもある。
「冬馬くんは二人と逆で下手からMC入ってね」
「……ああ」
2人と同じく冬馬くんもタオルと水を受け取った。
「冬馬くん?疲れちゃった?」
「いや、大丈夫だ。ありがとな」
口角を上げて、冬馬くんはひらひら手を振って下手へ歩いて行った。足取りはしっかりしていて、他の共演者からの声かけにも応対している。
「疲れてるわけじゃないんだと思うんだけど……出る前は元気だったし……」
上手の階段前に到着した翔太くんと北斗くん、下手に到着した冬馬くんがスタッフに迎えられたことを確認する。今回の大型ライブイベントは出演者が交代で司会も務めるから大忙しだ。
「プロデューサー!用意できたぜ!」
天道さんの声に振り向くと、ドラスタの3人が衣装を纏って揃っていた。そう、今回は315プロからも多くアイドルが参加している。ジュピターのことだけ見ているわけにはいかない。
「315さん!」
「ああ、765さん、お疲れ様です」
「聞きましたか、出演アイドルの到着が複数遅れているみたいなんです」
「えっ大変じゃないですか」
「順番を詰めたとしても時間が余ります。出せるユニットが追加出演するそうです」
「うちから出します!」
食い気味に告げていた。765プロのプロデューサーさんもわかっていたようで、そのようにディレクターさんに伝えておきましたと返される。出せるユニットは、出番に間隔があって音源など演出の用意に時間がとれること、何より体力に余裕があって突然打診しても動揺のないこと。
「会場のみんなーっ!!盛り上がってるーー!!」
翔太くんの大きな声が裏手にも聞こえて、ジュピターのMCが始まったことを知る。モニターに映った冬馬くんは元気そうでとりあえずの代役の打診に向かうことにした。
「では765さんから2曲315さんから3曲ほど出していただくということで、それでも間に合わなかったらトランシーバーで随時各プロダクションさんに対応について連絡します」
「はい!」
765さんとディレクターさん、他数名のスタッフさんとの打ち合わせを終えると事情を聞いたらしいジュピターの3人が合流した。
「プロデューサーさん、出番増えるって本当?」
「はい、間に合わない出演者さんがそれも複数名いるとのことでお願いしたいです。行けますか?正直MCとかトークとか他の出番を多く任せてしまったので、代打は他のユニットに振ってもいいと思ってます」
「大丈夫、会場のテンションあげてくるよ」
「求められるのなら体力の限界まで歌って踊ってやりますよ」
「任せろ、765プロのやつらにできて俺らにできないわけがねえ」
本当に頼もしいアイドルだ。互いに顔を確認すると冬馬くんの手がまっすぐ伸ばされ、翔太くんと北斗くんの手が重なる。
「……ほら、あんたも」
「そうだよ、プロデューサーさん!フォローよろしくね」
「演出、期待していますよ」
おそるおそる1番上に手を重ねる。他所の事務所や他のユニットがやっているのは見たことあるし、混ぜてもらうこともあったけどこの3人とやるのは初めてだった。
「掛け声どうする?」
「315プロ~ファイトーー!!でいいんじゃない?」
「丸かぶりじゃねぇかよ!」
「ほら、プロデューサーお願いします」
急ごしらえの円陣、3人のまっすぐな視線を受け止める。ステージに上がるのは3人とも慣れてるし、あとは彼らがいつも通りやれるよう私が頑張るだけ。覚悟は決めた。
「イベントとしてはピンチだけど、ジュピターとしては、315プロとしても大チャンスです。本気で行きましょうっ」
「315プロ~!」
キリッと決めたが翔太くんの大きな声で冬馬くんのこめかみがひくついた。北斗くんは楽しそうに笑い、私は苦笑いの表情になってしまう。
「ファイトーーッ!!」
それでも4本の手が一緒に上げられ、漏れたライトで視界がにじむ。
「翔太お前、やっぱりやったな!」
「結局冬馬くんの声が1番大きかったんだからいいじゃん」
「ほら、2人とも待機待機。出るのは翔太が1番遠いんだから」
北斗くんの誘導で翔太くんと冬馬くんが引き離される。
「プロデューサー、よろしくお願いしますね」
「心配しないで、やっぱり僕ら慣れてるしね!」
ステージ中央の北斗くんと反対側から出る翔太くんとはここでお別れだ。一番ステージに慣れてない私を気遣うことまでして、2人は移動してしまった。
「プロデューサー、さっきのことだけどな」
「うん、」
「大丈夫、うまくやるから見てろよ。さっきは……ステージから帰ってきてこうやって迎え入れてくれるやつが、仲間がいるのは大きく違うって考えてた、だけ……だから心配するなよ」
「冬馬くん、」
「見せてやるよ、プロデューサー。俺らの最高のステージ。会場にだけじゃなくて、他の事務所のやつらにも、出演者にも。もちろん、あんたにもな」
冬馬くんの手が再びまっすぐ伸ばされた。さっきとは違って手のひらが上で、握手を要求してるってすぐわかった。パンッと音のするほど勢いよく手を出すと、しっかり握られて、顔の前まで上げられる。
「信じてくれ、俺らのこと」
俺らもあんたのこと信じてステージ出てるんだぜ、とまっすぐ見つめられると意思よりさきに頷かざるをえなかった。
急場のステージということは、ライトもステージギミックも、音楽の聞こえ方さえぶっつけ本番になる。私が行うそれらの細かい打ち合わせも直前になる。
「極力、いつものステージと同じになるようにします。でも」
視線をずらせば向かいの袖でストレッチをする翔太くん、スタッフと打ち合わせをする北斗くんが目に入った。先ほど代打を依頼してきた他のユニットの皆も、動揺も少なくそれぞれ準備を始めた。皆今日のステージの成功のために一生懸命だ。
「最高のステージにします。引き受けてくれたあなたたちのために」
冬馬くんはその言葉に頷いて、私の手を解放した。
「315さん、照明打ち合わせお願いします!」
「はい、今行きます!」
走り出して照明ブースに上がる直前、冬馬くんをふりかえった。任せろ、というように握った手を突き出され頷いて梯子に手をかけた。すごい力だ。そんな顔をされたら信じないわけにはいかないし全力を尽くそうと決意せざるをえない。
「イントロ開始同時に全開お願いします。その後さげて、ライトはグリーンで。それから」
「315さんの曲は全部準備しました!」
「ありがとうございます!」
歌い終えた出演者が捌け始め、次はいよいよジュピターの番だ。照明ブースは冬馬くんの出る袖側ステージの斜め上方だから3人の姿がよく見えた。
暗転している舞台で冬馬くんが見上げた。真っ暗の中、照明ブースの私を見つけたようでもう一度握った手を高く突き上げる。任せろって口が動いて、私も同じように手をかざした。口の動きはきっと伝わらないけど、信じてるからよろしくお願いしますって気持ちを表すために。
「ライト全開行きます!」
いつも通り曲と同時に眩しいくらいのステージライト。冬馬くんはただまっすぐ前を見て、その目には客席で光るグリーンの海だけを映している。
