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勉強に飽きて名前さんにちょっかいをかけようとしたら思いの外忙しかったらしく、適当な反応で済まされてしまう。
つまらないなあ、と思った。どんな人だって一度僕がにっこり笑って見せればたちまちかわいいね、翔太くんすてき!ってぼくの魅力にやられてしまう。小さい時からそうだった。家族に大事にされて、近所の人も学校の人も、僕が中心に回っていた。黒ちゃんのところでアイドルになって冬馬くんと北斗くんに出会って、765プロの子達と出会って、961プロを飛び出して、という過程でいろんな人に出会っていろんなことを知ったけど、結局みんな大人は僕に甘い。
名前さんも僕に甘い。というか、名前さんは事務所のみんなに甘い。年下だけでなく年上にも甘いし、プロデューサーさんにも甘い。疲れて帰ってきたり、ダメだったりしたとき名前さんが無言で仕事をしてるのを見るとなんだか安心する。そこにプロデューサーさんがいるとさらに安心する。ダメでも、この人たちが助けてくれるって感じがして。失敗しないほうがいいのは当然だけど、助けてくれる大人が、北斗くんじゃないジュピターの人じゃない大人がいるってだけでなんだか違う気がする。
「もー名前さんってば!」
「うんうん?」
話しかけても名前さんは全然構ってくれなくて、ついに名前さんが振り向いた時にはぷいっと顔をそらした。翔太、押してダメなら引いてみろ、だよ。北斗くんがそんなようなことを言ってたような気がするし。
クッションを掴みごろんと寝転がると名前さんが足音を殺して近寄ってきた気配がした。薄く目を開けたかったけど、今は引く時、と言い聞かせて自然に目を閉じる。ころん、とキャラメルが顔の前に置かれる。ごめんねと名前さんが言って手が離れていったとき、心臓がとくん、と鳴った。ちょっと痛いような気がしたのは気のせいだと思う。
身を閉じて体を丸めている中で、うとうとしながらいろんなことを考えた。名前さんのこととか、明日の仕事のこととか、今日の収録で何を話そうかなとか。淡々とお仕事してるけど両手両足じゃ数えられないくらいアイドルがいる事務所を数人で回していて、外の仕事を一手に担う名前さんは大変なんだろうなとか。構って欲しかっただけなのになんであんなことしちゃったんだろう、とか。振り向いて、大変だったね、全く北斗くんと冬馬くんには困っちゃうねって笑ってくれるだけでよかったのに。そして謝らなくちゃ、と体を起こす。
振り向いてデスクを見ると名前さんは潰れていた。
「名前、さん?」
寝てる、みたい。時間がそこそこ経っていたみたいで画面はしおりじゃなくなっていた。
足音を立てないように近づくと名前さんの髪がとろりと肩にこぼれた。綺麗な髪。いつも何もしてなくて、たまに1つに結んでるくらいだからもっとおしゃれすればいいのにと思っていた。
「名前さん、起きないといたずらしちゃうよ……?」
起きないと、という割に声は小さくて名前さんはすうすうと寝息を立てていた。右のひとふさをとり、それから左のひとふさをとる。つるんと滑らかな髪が手の中を流れていく。続けて髪の毛を編んで、ゴムでしばり、くるんと回して、ゴムを隠すように髪の束を巻きつけ、残りの髪も左右からとって細かく一本に編んだ。最後に髪の束をバランスを見ながら引き出しておしまい。出来映えに満足して頷く。やっぱり僕はなんでもできちゃう。
「翔太?仕事行くぞ」
「あっ冬馬くん」
制服姿のままの冬馬くんが顔を出した。気づいたらもうこんな時間。
「ごめん、すぐ行くから先行ってて……」
「はあ?」
冬馬くんは顔をしかめたけどすうすう眠る名前さんを見てすぐに顔を引っ込めた。相変わらず、というか冬馬くんは女の子がだめというより、女の子のそういうところを見るのに抵抗というか、気恥ずかしさを人一倍感じるタイプなんだと思う。冬馬くんは指摘したら嫌がるだろうけど。
きっと北斗くんとプロデューサーさんが車で待ってるだろうから急いでメモ帳にお手紙を、それからあめをひとつ。くるんと回したところに隙間ができてるからそこにそっとしまって、崩れたところをちょいちょいと直した。
「名前さん、お仕事行ってくるね」
「……」
肩をさすって声をかけたけど、名前さんは全く起きずに寝息をこぼすばかり。こんな大人の人が爆睡するなんて余程疲れてるんだろうなあってかわいそうになる。自分の荷物を適当にカバンに放り込んで、部屋を出る前にもう一度異常がないか確認。
「異常……ひとーつ」
名前さんはそんな僕に全く気付かずに寝こけている。起きたら、驚くかな。
階段を降りながらキャラメルの紙を開いて口に運ぶ。
「翔太?何食ってんだ?」
「……冬馬くんにはあーげない」
「なっ……寄越せっていってるわけじゃなくて……」
とんとんとんとリズムよく階段を降りて行く。明日事務所による予定は無かったけど、やっぱり寄ろうかな。なんでもない顔で会いに行ったら名前さんはきっと困った顔でごめんね、って言ってくれる。そしたら僕の方こそごめん、って仲直りして、今度こそ目一杯構ってもらおう。
つまらないなあ、と思った。どんな人だって一度僕がにっこり笑って見せればたちまちかわいいね、翔太くんすてき!ってぼくの魅力にやられてしまう。小さい時からそうだった。家族に大事にされて、近所の人も学校の人も、僕が中心に回っていた。黒ちゃんのところでアイドルになって冬馬くんと北斗くんに出会って、765プロの子達と出会って、961プロを飛び出して、という過程でいろんな人に出会っていろんなことを知ったけど、結局みんな大人は僕に甘い。
名前さんも僕に甘い。というか、名前さんは事務所のみんなに甘い。年下だけでなく年上にも甘いし、プロデューサーさんにも甘い。疲れて帰ってきたり、ダメだったりしたとき名前さんが無言で仕事をしてるのを見るとなんだか安心する。そこにプロデューサーさんがいるとさらに安心する。ダメでも、この人たちが助けてくれるって感じがして。失敗しないほうがいいのは当然だけど、助けてくれる大人が、北斗くんじゃないジュピターの人じゃない大人がいるってだけでなんだか違う気がする。
「もー名前さんってば!」
「うんうん?」
話しかけても名前さんは全然構ってくれなくて、ついに名前さんが振り向いた時にはぷいっと顔をそらした。翔太、押してダメなら引いてみろ、だよ。北斗くんがそんなようなことを言ってたような気がするし。
クッションを掴みごろんと寝転がると名前さんが足音を殺して近寄ってきた気配がした。薄く目を開けたかったけど、今は引く時、と言い聞かせて自然に目を閉じる。ころん、とキャラメルが顔の前に置かれる。ごめんねと名前さんが言って手が離れていったとき、心臓がとくん、と鳴った。ちょっと痛いような気がしたのは気のせいだと思う。
身を閉じて体を丸めている中で、うとうとしながらいろんなことを考えた。名前さんのこととか、明日の仕事のこととか、今日の収録で何を話そうかなとか。淡々とお仕事してるけど両手両足じゃ数えられないくらいアイドルがいる事務所を数人で回していて、外の仕事を一手に担う名前さんは大変なんだろうなとか。構って欲しかっただけなのになんであんなことしちゃったんだろう、とか。振り向いて、大変だったね、全く北斗くんと冬馬くんには困っちゃうねって笑ってくれるだけでよかったのに。そして謝らなくちゃ、と体を起こす。
振り向いてデスクを見ると名前さんは潰れていた。
「名前、さん?」
寝てる、みたい。時間がそこそこ経っていたみたいで画面はしおりじゃなくなっていた。
足音を立てないように近づくと名前さんの髪がとろりと肩にこぼれた。綺麗な髪。いつも何もしてなくて、たまに1つに結んでるくらいだからもっとおしゃれすればいいのにと思っていた。
「名前さん、起きないといたずらしちゃうよ……?」
起きないと、という割に声は小さくて名前さんはすうすうと寝息を立てていた。右のひとふさをとり、それから左のひとふさをとる。つるんと滑らかな髪が手の中を流れていく。続けて髪の毛を編んで、ゴムでしばり、くるんと回して、ゴムを隠すように髪の束を巻きつけ、残りの髪も左右からとって細かく一本に編んだ。最後に髪の束をバランスを見ながら引き出しておしまい。出来映えに満足して頷く。やっぱり僕はなんでもできちゃう。
「翔太?仕事行くぞ」
「あっ冬馬くん」
制服姿のままの冬馬くんが顔を出した。気づいたらもうこんな時間。
「ごめん、すぐ行くから先行ってて……」
「はあ?」
冬馬くんは顔をしかめたけどすうすう眠る名前さんを見てすぐに顔を引っ込めた。相変わらず、というか冬馬くんは女の子がだめというより、女の子のそういうところを見るのに抵抗というか、気恥ずかしさを人一倍感じるタイプなんだと思う。冬馬くんは指摘したら嫌がるだろうけど。
きっと北斗くんとプロデューサーさんが車で待ってるだろうから急いでメモ帳にお手紙を、それからあめをひとつ。くるんと回したところに隙間ができてるからそこにそっとしまって、崩れたところをちょいちょいと直した。
「名前さん、お仕事行ってくるね」
「……」
肩をさすって声をかけたけど、名前さんは全く起きずに寝息をこぼすばかり。こんな大人の人が爆睡するなんて余程疲れてるんだろうなあってかわいそうになる。自分の荷物を適当にカバンに放り込んで、部屋を出る前にもう一度異常がないか確認。
「異常……ひとーつ」
名前さんはそんな僕に全く気付かずに寝こけている。起きたら、驚くかな。
階段を降りながらキャラメルの紙を開いて口に運ぶ。
「翔太?何食ってんだ?」
「……冬馬くんにはあーげない」
「なっ……寄越せっていってるわけじゃなくて……」
とんとんとんとリズムよく階段を降りて行く。明日事務所による予定は無かったけど、やっぱり寄ろうかな。なんでもない顔で会いに行ったら名前さんはきっと困った顔でごめんね、って言ってくれる。そしたら僕の方こそごめん、って仲直りして、今度こそ目一杯構ってもらおう。
