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「ねー名前さん」
「うーん?」
「こないだの仕事の帰り道ね」
「うん」
「テレビ局で新幹少女の子達とすれ違ったんだけど」
「う~?」
「北斗くんが話しかけちゃったんだよね、当然っていえば当然なんだけど」
「うん」
「それでね、以前のギリギリグラビアすごく良かったよ、って言っちゃって」
「う~~ん」
「それを聞いた冬馬くん、思い出したのか真っ赤になっちゃって!もう一年?もっと前のことなのにちゃーんと覚えてたんだよ!僕もう面白くって!」
「うん」
「……名前さん全然聞いてないでしょ?」
「へー」
「もー名前さんてばぁ!」
「うんうん」
「……僕怒ったからね……」
「えっ翔太くん何!?」
「……しーらない!名前さんなんか、今度の海合宿でビキニ着せられてたぷたぷのお腹晒して笑われちゃえばいいんだ~~!」
「えっなんかすごい悪口!」
御手洗翔太くん、14歳、国民的弟アイドル。ちょっと小悪魔的なところがあって事務員の私にもよく話しかけてくれるいい子。私は朝から次から次へとやってくる書類仕事の山がようやく片付いてゆっくり事務所総出の海合宿のおしらせを作成していたところ。
翔太くんは学校が終わって、今日は冬馬くんと北斗くんが合流するまで事務所で待機していたみたい。事務所の学生の多くはお仕事のギリギリにくるよりは早めにきて宿題をしたりテスト勉強をしている。事務所にいれば誰かしらの大人が躓いたときにみてくれるからだ。翔太くんも速やかに課題を終わらせたり赤点回避して怒られたりなんだりするのを避けたいタイプなので、今日も机には教科書やらプリントやらが広げられていた。飽きたところで私で暇を潰そうとしたみたいだけどタイミングが悪かった。午前の怒涛の書類作業中だったらきっと忙しいんだろうなってほっといてくれただろうけどはたから見たらちんたらしおりを作ってるところ。それでも46人のアイドルを擁する事務所総出の合宿なんだから間違いがあったら各方面に迷惑がかかる。幸いゆっくりでよかったので確認しながらの作成だったのだ。
すっかり機嫌を損ねた翔太くんはクッションを抱きしめてソファにごろんと寝っ転がっている。ごめんね、ともう一度謝ったけどこっちを向かずにふて寝したままだ。ため息をこらえて、机の引き出しからキャラメルを取り出してお供えみたいにソファに載せておいた。顔の前にそっと置くと吐息が手にかかったけど、翔太くんは気づいていても目を閉じていた。
何時間たっただろう。はっとしてパソコンから目をそらし時計を見ると、外は空の色がすっかり変わっていた。しおりだけにとどまらず、途中で送られてきたメールやら書類の処理までしていたら集中しすぎた。机の端には付箋が貼られていて、内容は賢ちゃんからの仕事の引き継ぎだった。付箋を貼ったのだから多少は視界に入っただろうに全く気づかなかったのはいささかやりすぎた。おかげで目も肩も腰も痛い。
「そうだ、翔太くん!」
振り向いてソファを見るとすでに翔太くんはいなかった。冬馬くんなり北斗くんが迎えにきて仕事に行ったらしい。今日は確かラジオの収録の日だっけ。
「あれ、名前さん今日は髪型変えたの?」
事務所のドアを開けて悠介くんと享介くんが顔を出した。今日は雑誌の撮影のはずだけど台本が届きましたとメールを送っておいたので取りに来てくれたのだ。
「えっ?」
「自分でしたんじゃないの?」
「いや……」
「名前さん不器用だもんなあ」
「う、うるさいな……」
そっと後頭部に触れると綺麗に編まれている感触があった。鏡を取り出して見ると左右から持ってきた髪が綺麗に1つにまとめられてまた毛先まで編まれていた。不器用な上筋力のないわたしではここまで編む前に腕が限界を迎えただろう。
「なんか入ってない?アクセサリーじゃないよね」
「本当だ」
享介くんが左右から持ってきた髪をくるりんぱしたところに目をつけた。何か入ってる感触はあったけどアクセサリーじゃなかったらしい。
「取ってもらっていい?」
「任せて」
2人がそっと髪を崩さないように分けて髪に入った異物を回収してくれた。
「何これ?」
「おりがみじゃない?」
両端をねじって口の開かないようにしたそれを開くと中から飴がでてきた。
「何て書いてあったの?」
中身を確認した私に2人が身を乗り出して尋ねる。私はそっと紙を閉じて首を振った。
「……内緒」
「まさか名前さんがラブレターもらうなんて……」
「お昼は髪、こうなってなかったよね?ってことはうちの事務所か……」
「意外だよね……うちにこんなことする人いる?アイドルだろ?」
「うーん、社長はさすがに無いし……」
「こらこらこら勝手にラブレターって決めないでくださーい」
「名前さんが見せてくれないから~」
「はいはい終了~」
奪われはしないもの、身の危険を感じて私は紙をポケットに戻した。2人は不満そうなものの、無理に取り返したりはしなかった。
うちの事務所はプロデューサーさんにラブレターがきたりしようものなら大騒ぎで相手の特定に努めるだろうが外部の仕事を主にしている私にはそこそこの距離感で接してくれる。ランチやらカフェに誘ってくれるアイドルもいるけど、それは毎週決まった曜日に必ず、とかではなく単発だったりあらかじめ予定立てても仕事の具合やら何やらではお流れになることもしばしば、という程度。
「そうだ、台本これね。取りに来てもらったのに忘れるとこだったよ」
朝送られて来たばかりの台本を渡すと悠介くんと享介くんは早速ぱらぱらとめくり、「早く帰って読み合わせしよう!」とお揃いのカバンにそれをしまって2人は事務所を出た。
やれやれと机に戻るとスマホが連絡が入ったことを告げていた。プロデューサーさんからで、今日のプロデューサーさんは翔太くんたちの仕事に同行していたはずだから何かしら聞いて連絡をくれたらしかった。
そっとポケットに戻した飴を開封して口に入れる。青リンゴ味だった。それから紙を開いて今度こそ落ち着いて内容を見た。中身は短い一言、それでも嬉しくて頬が緩んだ。今日はこのまま直帰かなあ。それならアプリでメッセージを入れようか、それとも明日直接会う時までとっておこうか。明日にしよう、と決めてデータをしっかり保存してからパソコンの電源を落とした。
明日会えたら綺麗に編んでくれた髪とお疲れ様ってくれた飴のお礼を言って、そしたら私の方こそごめんねって言って仲直りをするのだ。
「うーん?」
「こないだの仕事の帰り道ね」
「うん」
「テレビ局で新幹少女の子達とすれ違ったんだけど」
「う~?」
「北斗くんが話しかけちゃったんだよね、当然っていえば当然なんだけど」
「うん」
「それでね、以前のギリギリグラビアすごく良かったよ、って言っちゃって」
「う~~ん」
「それを聞いた冬馬くん、思い出したのか真っ赤になっちゃって!もう一年?もっと前のことなのにちゃーんと覚えてたんだよ!僕もう面白くって!」
「うん」
「……名前さん全然聞いてないでしょ?」
「へー」
「もー名前さんてばぁ!」
「うんうん」
「……僕怒ったからね……」
「えっ翔太くん何!?」
「……しーらない!名前さんなんか、今度の海合宿でビキニ着せられてたぷたぷのお腹晒して笑われちゃえばいいんだ~~!」
「えっなんかすごい悪口!」
御手洗翔太くん、14歳、国民的弟アイドル。ちょっと小悪魔的なところがあって事務員の私にもよく話しかけてくれるいい子。私は朝から次から次へとやってくる書類仕事の山がようやく片付いてゆっくり事務所総出の海合宿のおしらせを作成していたところ。
翔太くんは学校が終わって、今日は冬馬くんと北斗くんが合流するまで事務所で待機していたみたい。事務所の学生の多くはお仕事のギリギリにくるよりは早めにきて宿題をしたりテスト勉強をしている。事務所にいれば誰かしらの大人が躓いたときにみてくれるからだ。翔太くんも速やかに課題を終わらせたり赤点回避して怒られたりなんだりするのを避けたいタイプなので、今日も机には教科書やらプリントやらが広げられていた。飽きたところで私で暇を潰そうとしたみたいだけどタイミングが悪かった。午前の怒涛の書類作業中だったらきっと忙しいんだろうなってほっといてくれただろうけどはたから見たらちんたらしおりを作ってるところ。それでも46人のアイドルを擁する事務所総出の合宿なんだから間違いがあったら各方面に迷惑がかかる。幸いゆっくりでよかったので確認しながらの作成だったのだ。
すっかり機嫌を損ねた翔太くんはクッションを抱きしめてソファにごろんと寝っ転がっている。ごめんね、ともう一度謝ったけどこっちを向かずにふて寝したままだ。ため息をこらえて、机の引き出しからキャラメルを取り出してお供えみたいにソファに載せておいた。顔の前にそっと置くと吐息が手にかかったけど、翔太くんは気づいていても目を閉じていた。
何時間たっただろう。はっとしてパソコンから目をそらし時計を見ると、外は空の色がすっかり変わっていた。しおりだけにとどまらず、途中で送られてきたメールやら書類の処理までしていたら集中しすぎた。机の端には付箋が貼られていて、内容は賢ちゃんからの仕事の引き継ぎだった。付箋を貼ったのだから多少は視界に入っただろうに全く気づかなかったのはいささかやりすぎた。おかげで目も肩も腰も痛い。
「そうだ、翔太くん!」
振り向いてソファを見るとすでに翔太くんはいなかった。冬馬くんなり北斗くんが迎えにきて仕事に行ったらしい。今日は確かラジオの収録の日だっけ。
「あれ、名前さん今日は髪型変えたの?」
事務所のドアを開けて悠介くんと享介くんが顔を出した。今日は雑誌の撮影のはずだけど台本が届きましたとメールを送っておいたので取りに来てくれたのだ。
「えっ?」
「自分でしたんじゃないの?」
「いや……」
「名前さん不器用だもんなあ」
「う、うるさいな……」
そっと後頭部に触れると綺麗に編まれている感触があった。鏡を取り出して見ると左右から持ってきた髪が綺麗に1つにまとめられてまた毛先まで編まれていた。不器用な上筋力のないわたしではここまで編む前に腕が限界を迎えただろう。
「なんか入ってない?アクセサリーじゃないよね」
「本当だ」
享介くんが左右から持ってきた髪をくるりんぱしたところに目をつけた。何か入ってる感触はあったけどアクセサリーじゃなかったらしい。
「取ってもらっていい?」
「任せて」
2人がそっと髪を崩さないように分けて髪に入った異物を回収してくれた。
「何これ?」
「おりがみじゃない?」
両端をねじって口の開かないようにしたそれを開くと中から飴がでてきた。
「何て書いてあったの?」
中身を確認した私に2人が身を乗り出して尋ねる。私はそっと紙を閉じて首を振った。
「……内緒」
「まさか名前さんがラブレターもらうなんて……」
「お昼は髪、こうなってなかったよね?ってことはうちの事務所か……」
「意外だよね……うちにこんなことする人いる?アイドルだろ?」
「うーん、社長はさすがに無いし……」
「こらこらこら勝手にラブレターって決めないでくださーい」
「名前さんが見せてくれないから~」
「はいはい終了~」
奪われはしないもの、身の危険を感じて私は紙をポケットに戻した。2人は不満そうなものの、無理に取り返したりはしなかった。
うちの事務所はプロデューサーさんにラブレターがきたりしようものなら大騒ぎで相手の特定に努めるだろうが外部の仕事を主にしている私にはそこそこの距離感で接してくれる。ランチやらカフェに誘ってくれるアイドルもいるけど、それは毎週決まった曜日に必ず、とかではなく単発だったりあらかじめ予定立てても仕事の具合やら何やらではお流れになることもしばしば、という程度。
「そうだ、台本これね。取りに来てもらったのに忘れるとこだったよ」
朝送られて来たばかりの台本を渡すと悠介くんと享介くんは早速ぱらぱらとめくり、「早く帰って読み合わせしよう!」とお揃いのカバンにそれをしまって2人は事務所を出た。
やれやれと机に戻るとスマホが連絡が入ったことを告げていた。プロデューサーさんからで、今日のプロデューサーさんは翔太くんたちの仕事に同行していたはずだから何かしら聞いて連絡をくれたらしかった。
そっとポケットに戻した飴を開封して口に入れる。青リンゴ味だった。それから紙を開いて今度こそ落ち着いて内容を見た。中身は短い一言、それでも嬉しくて頬が緩んだ。今日はこのまま直帰かなあ。それならアプリでメッセージを入れようか、それとも明日直接会う時までとっておこうか。明日にしよう、と決めてデータをしっかり保存してからパソコンの電源を落とした。
明日会えたら綺麗に編んでくれた髪とお疲れ様ってくれた飴のお礼を言って、そしたら私の方こそごめんねって言って仲直りをするのだ。
