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名前さんがそっと取り出した桐の箱を見て僕はなんだろうと首をかしげた。さくらんぼが入っているには少し小さく、高価なイチゴを一粒入れるには大きすぎる。
「名前さん、それ何?」
「ああ、これね」
心臓が、入ってるの、と言って名前さんは優しく箱を撫でた。心臓?僕は心臓といったら身体に入ってるそれしか知らない。
「心臓って……あの心臓?どうして?誰の心臓が入ってるの」
困惑する僕に名前さんは笑って私のだよ、と言った。
「どうして……どうしてだろうね。でもここに私の心臓はなくて、この箱に入ってるんだよ」
ここ、と言って名前さんは自分の胸に手を当てた。普通ここから太い血管が伸びて頭と全身に続くんだけどね、本当にどうなってるんだろうねと名前さんは本当に不思議そうな様子だった。嘘をついているように見えなくて僕は困った。
「どんなに走っても緊張してもドキドキしないの。不思議でしょう……あっ信じてないね?聞いてみる?」
「えっ」
名前さんはまず僕の指をとって首筋に当てた。僕や冬馬くんや北斗くんと同じ脈打つ感覚がした。
「血、流れてるよ」
「うん、でもね……」
ここに耳当ててみて。名前さんは困ったみたいな顔で僕を呼んで、僕は素直に片方の耳を名前さんの心臓のあるだろう位置に当てた。
「…………何にも、音がしないね」
「でしょう?何にもないのに身体中に血は送り出されてるの。なんで生きてるんだろうね?っていうかなんで体じゃなくて箱に心臓があるんだろうね?」
箱も貸してあげる、と名前さんは僕に桐の箱を渡した。どきどきしながら箱を受け取るとそれはずっしり重たくてどくんどくんと脈打っていた。
「あ、開けてみてもいい?」
「いいよお」
何が入ってるんだろう?僕は怖いようなわくわくするような不思議な気持ちになった。本物の心臓?もしかしたら僕を騙すための機械かもしれない。これは、もしかしたらテレビの企画で、冬馬くんと北斗くんも影から見てて騙される僕を見守ってるのかも。
そっと開けると隙間から敷き詰められた柔らかい白い布が見えた。「あっ」「うふふ」思い切って箱を外した僕は思わず声を上げてそれに名前さんは面白そうに笑った。
「ほ、ほんもの?」
「うん、ほんもの……多分ね」
箱の中身は理科の教科書に乗っていた丸々として真っ赤な心臓じゃなかった。ひからびて、ちいさく萎びているそれは乾燥した果物みたいな見た目をしている。
「でもなんとなくわかるよね。これじゃあ体にあっても意味がないんだろうな」
「小さい時からずっとこうなの?」
「うん。翔太くらいの時はもうちょっと生っぽかったかも。どんどんひからびてちいさくなってると思う」
名前さんはそう言って萎びた心臓を突いた。ひからびたそれはどくんどくんと、体から切り離されているのに名前さんの身体に血を送っている。
「これ力尽きたら私死んじゃうのかなあ」
「……それは困るよ」
「そうは言ってもねえ、もうこの状態で生きてるのがびっくりじゃない?」
「じゃあさ、僕がなればいいんじゃない?」
「な、何に?」
「名前さんのぶんも僕の心臓が働けばいいんじゃないかなあ。僕若いし元気だし……名前さんの心臓もからだを離れて働いてるしどうにかならないかな?」
「う、うーん……どうなんだろ……」
名前さんは驚いたみたいで本気で頭を抱えて悩んでいた。結構いいと思ったんだけど。名前さんがいなくなったら、僕たち困るしさ。
「でも、さ」
「うん?」
名前さんが伏せていた顔を上げた。パソコン仕事の時にかけているメガネがちょっとずり落ちて、綺麗に巻かれている前髪がちょっと崩れていて、僕はちょっとどきどきした。
「翔太がいっぱいステージで踊って走り回ったら私もすごくどきどきするってことでしょ?なんか大変そう」
「……確かに。そしたら僕たち本当に一心同体だね」
「……そうだねえ」
でもさ、そんなことしたら翔太の心臓疲れちゃうよ。2倍も働くんだよ。大変だね、翔太が大変なの私はやだなあ、と名前さんは優しく笑って僕の髪を撫でた。子供扱いしないでよ、と怒りたかったのに次から次へと涙が溢れて声にならなかった。
僕だって名前さんが死んじゃう方が嫌だよと言ったら、名前さんはすぐじゃないよ、ごめんね、翔太は優しいねと穏やかに笑っていた。すぐじゃないって、それはいつ来る?そんな死にそうな心臓が、いつまでもつかわからないのにどうして笑ってられるの。名前さんは落ち着けるみたいにゆっくり髪を撫でてくれた。死なないよって一言言ってくれれば僕は満足するのに名前さんは何も言わなかった。僕の左手ではひからびた心臓が元気にどこかへ血を送っている。
「名前さん、それ何?」
「ああ、これね」
心臓が、入ってるの、と言って名前さんは優しく箱を撫でた。心臓?僕は心臓といったら身体に入ってるそれしか知らない。
「心臓って……あの心臓?どうして?誰の心臓が入ってるの」
困惑する僕に名前さんは笑って私のだよ、と言った。
「どうして……どうしてだろうね。でもここに私の心臓はなくて、この箱に入ってるんだよ」
ここ、と言って名前さんは自分の胸に手を当てた。普通ここから太い血管が伸びて頭と全身に続くんだけどね、本当にどうなってるんだろうねと名前さんは本当に不思議そうな様子だった。嘘をついているように見えなくて僕は困った。
「どんなに走っても緊張してもドキドキしないの。不思議でしょう……あっ信じてないね?聞いてみる?」
「えっ」
名前さんはまず僕の指をとって首筋に当てた。僕や冬馬くんや北斗くんと同じ脈打つ感覚がした。
「血、流れてるよ」
「うん、でもね……」
ここに耳当ててみて。名前さんは困ったみたいな顔で僕を呼んで、僕は素直に片方の耳を名前さんの心臓のあるだろう位置に当てた。
「…………何にも、音がしないね」
「でしょう?何にもないのに身体中に血は送り出されてるの。なんで生きてるんだろうね?っていうかなんで体じゃなくて箱に心臓があるんだろうね?」
箱も貸してあげる、と名前さんは僕に桐の箱を渡した。どきどきしながら箱を受け取るとそれはずっしり重たくてどくんどくんと脈打っていた。
「あ、開けてみてもいい?」
「いいよお」
何が入ってるんだろう?僕は怖いようなわくわくするような不思議な気持ちになった。本物の心臓?もしかしたら僕を騙すための機械かもしれない。これは、もしかしたらテレビの企画で、冬馬くんと北斗くんも影から見てて騙される僕を見守ってるのかも。
そっと開けると隙間から敷き詰められた柔らかい白い布が見えた。「あっ」「うふふ」思い切って箱を外した僕は思わず声を上げてそれに名前さんは面白そうに笑った。
「ほ、ほんもの?」
「うん、ほんもの……多分ね」
箱の中身は理科の教科書に乗っていた丸々として真っ赤な心臓じゃなかった。ひからびて、ちいさく萎びているそれは乾燥した果物みたいな見た目をしている。
「でもなんとなくわかるよね。これじゃあ体にあっても意味がないんだろうな」
「小さい時からずっとこうなの?」
「うん。翔太くらいの時はもうちょっと生っぽかったかも。どんどんひからびてちいさくなってると思う」
名前さんはそう言って萎びた心臓を突いた。ひからびたそれはどくんどくんと、体から切り離されているのに名前さんの身体に血を送っている。
「これ力尽きたら私死んじゃうのかなあ」
「……それは困るよ」
「そうは言ってもねえ、もうこの状態で生きてるのがびっくりじゃない?」
「じゃあさ、僕がなればいいんじゃない?」
「な、何に?」
「名前さんのぶんも僕の心臓が働けばいいんじゃないかなあ。僕若いし元気だし……名前さんの心臓もからだを離れて働いてるしどうにかならないかな?」
「う、うーん……どうなんだろ……」
名前さんは驚いたみたいで本気で頭を抱えて悩んでいた。結構いいと思ったんだけど。名前さんがいなくなったら、僕たち困るしさ。
「でも、さ」
「うん?」
名前さんが伏せていた顔を上げた。パソコン仕事の時にかけているメガネがちょっとずり落ちて、綺麗に巻かれている前髪がちょっと崩れていて、僕はちょっとどきどきした。
「翔太がいっぱいステージで踊って走り回ったら私もすごくどきどきするってことでしょ?なんか大変そう」
「……確かに。そしたら僕たち本当に一心同体だね」
「……そうだねえ」
でもさ、そんなことしたら翔太の心臓疲れちゃうよ。2倍も働くんだよ。大変だね、翔太が大変なの私はやだなあ、と名前さんは優しく笑って僕の髪を撫でた。子供扱いしないでよ、と怒りたかったのに次から次へと涙が溢れて声にならなかった。
僕だって名前さんが死んじゃう方が嫌だよと言ったら、名前さんはすぐじゃないよ、ごめんね、翔太は優しいねと穏やかに笑っていた。すぐじゃないって、それはいつ来る?そんな死にそうな心臓が、いつまでもつかわからないのにどうして笑ってられるの。名前さんは落ち着けるみたいにゆっくり髪を撫でてくれた。死なないよって一言言ってくれれば僕は満足するのに名前さんは何も言わなかった。僕の左手ではひからびた心臓が元気にどこかへ血を送っている。
