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「またダメだったよぉ~!!」
「……すいません、オムライス追加で」
人目もはばからずわんわん泣く私をよそに冬馬くんはマスターにオムライスを頼んだ。穏やかなマスターも心得たというように手を上げて奥へ消えていく。765プロと961プロのちょうど間らへんにあるこのそこそこに静かでご飯もドリンクも美味しい喫茶店は961プロにいた頃から冬馬くんの行きつけの1つらしい(過去にここで765プロの子達とちょっとした諍いになったこともあるらしいのだけど、765プロの子達と遭遇するリスクを鑑みても冬馬くんはここに来る価値があると言う)。冬馬くんはそっとクリームソーダと紅茶を私の近くから遠ざけて、私を呆れた顔で見た。
「で?また振られたのか?こないだの銀行員か?」
「うっうっうっ振られたんじゃないもん合コンでうまくいかなかっただけなんだもん……ちなみにあの銀行員とは1週間で別れました」
「……また懲りずに合コンいってるのかよ……」
「だって彼氏ほしくて……」
「先月はもう合コンなんて行かない!運命の出会いを待つの!!って言ってたじゃねぇか」
「待ってたって来ないもん……でもね合コンね、結構好感触だったんだよ、今度こそいけそうだったんだよ……」
顔を覆って泣く私をよそに冬馬くんはクルクルとストローをまわし、細いスプーンでアイスをすくった。
「何が悪かったんだよ」
「当日は大人しくにこにこしてたよ。翌朝一番イケメンからメッセージがきたの。しかも超優良物件。嬉しくてお返事したけど一緒に行った子がね……ゆ、譲ってって……」
「はあ!?」
「でもね?その子も滅多にそういうの言わないんだよ?だ、だから……」
譲っちゃった、としょんぼりして視線を落とすと反対に冬馬くんは天を仰いだ。
「お前なあ……あれだけ彼氏がほしい彼氏がほしいって騒いでるくせにどうして、いざという時になるとそう……まあ、飲めよ」
「だって友情も大事なんだもん……ありがとう」
遠ざけられていた紅茶を前に戻されて私はまだ熱いカップを手に取った。
「ほら上着も着ろよ……つーか、なんでそんなに薄着なんだよ」
落ち着かなそうに冬馬くんは視線を逸らして自分で持ってきてたらしいグレーのパーカーを貸してくれた。冷房が結構きいてたからありがたく借りた。
「サークル行ってきた帰りなの。夏休みなのにね。あ、この服今年買ったんだけどやっぱりカワイイよね?」
「摘むな!」
ヒラヒラしたノースリーブのトップスを摘んで見せる。これは合コンにも着ていったことのあるテッパン勝負服なのだ。あまりやる気の入りすぎた露出の服は合コン受けは悪いけどヒラヒラが肩を隠してかわいいし下にはかわいすぎないシルエットのスカートを合わせて嫌味感を減らしてみた。結果は先述の通り、合コンでマグロの一本釣りの如く見事にイケメンを釣り上げたのだ。
冬馬くんは一喝したあとそれから打って変わって消え入りそうな声で「は、はやく着ろよ……」と続けた。年下のくせにすごくかっこいいのに、なんだかんだで中身は年相応というか初心というか。アイドル活動をして美女やら美少女に会う機会も多いだろうに失われないこのど………いや純情さはある意味国宝級だと思う。
あんまり意地悪するのも本意ではないので大人しくパーカーを借りてまた紅茶に口をつけた。
「わあ冬馬くんの匂いがするねー」
「だっ……」
紅茶よりよっぽどわかりやすいのは柔軟剤の匂いだろうか?カップを持ち上げた時にするいつもの匂いに思わず感想を口にしたら冬馬くんは今度こそ撃沈した。別に今のは意地悪をしようとしたわけでは……いやちょっとからかおうとは思ったけど。
「……なんで、そんなにできもしない彼氏にこだわるんだよ」
「うーん……なんでかな……優しくしてくれる人が欲しいのかも。甘やかしてくれる人」
「だったら、」
「ん?」
言葉を切った冬馬くんを紅茶の入ったカップから目線を剥がして見る。耳にかけていた髪が落ちたので、掛け直した。そんなどうでもいい仕草なのに冬馬くんは私に負けじとこっちを見てる。
「……にしとけば………ろ」
「エッごめん、難聴かも」
「だからッ!そんなに甘やかしてくれる人がいいなら俺にしとけばいいだろ!」
「……それ次のドラマの練習?また恋愛モノ出るの?今度はいけそう?キスシーンある?ベッドシーンは……あっ17歳ってそういうのまだダメなんだっけ」
衝撃的なセリフを言い放った冬馬くんの顔があまりにかっこよかったので私は脳を通さずに喋った……のだと思う。
315プロには恋愛ドラマで人気獲得中のアイドルがすでに何人かいて、私はこないだの月9に不倫を持ちかける若手社長役でちょっと出てた神谷幸広とか最近キュンキュン系恋愛映画に引っ張りだこの若里くんとかが結構好きだ。かっこいいよね。あっそういえば次の木曜の医療ドラマに桜庭薫が出るらしい……あの人も綺麗な顔してるよね。恋愛要素は薄そうだったなあ。
「……ごめん現実逃避してた。本気だった?」
「……もういい」
「ごめん!オムライスもうくるからからオムライス食べて!!」
ジト目で席を立とうとした冬馬くんを身を乗り出して止めると冬馬くんは黙って腰を下ろした。
タイミングよくオムライスが運ばれてきて冬馬くんの前に下される。さすがマスター。いただきます、とちゃんと手を合わせてから冬馬くんは黄色い卵にスプーンをいれた。ここのオムライスは卵がとろとろのタイプだ。
「さっきはごめん……私、びっくりして……」
「そういう対象に見られてねぇってよーくわかった」
「ほんとごめん……あの、あまりに顔が良くてつい現実逃避を……」
淡々とオムライスを口に運び、返事も声が低い。完全不機嫌モードだけど自業自得だ。いつもからかいこそすれ、一世一代の告白を蹴ったも同然……いやでも普通に考えて天ヶ瀬冬馬が?本気の告白?すごいウソっぽい。こんなこと言うから冬馬くんに怒られるんだよね。
「別に好きでもねぇやつの振られた話わざわざ毎回聞きにくるほど優しくねーよ」
「……うん、ありがとう」
素直にお礼を言うと冬馬くんは顔をちょっと赤くしてオムライスをまた口に運んだ。
「で、返事は……」
「やだあなんかこういうの恥ずかしいね……」
「……俺の方が恥ずかしかった」
「か、かっこよかったよ?かっこよすぎて固まるくらいには……」
吐き捨てるような言い方に慌ててフォローを入れ、気まずさを回避しようとカップに口をつけたけど中身はすぐ飲みきってしまった。カップを下ろすと「貸せ」と冬馬くんが保温されたポットを手にとってお代わりをくれる。
「あ、ありがとー」
確かに世話なら焼かれまくってるしこの上なく甘やかされている。年下のスーパーハイスペック甘やかし上手一見俺様系実際ツンデレ系熱血イケメン天才アイドル……今まで合コンやら何やらで出会った男たちの誰にも負けない優良物件だ。
そんなことを思いながらじーーーっと見つめる私に気づいて冬馬くんは視線を上げた。お皿のオムライスは付け合わせの野菜も米粒も1つ残らずきれいに完食している。
「あ?どうした」
「冬馬くんってさ……」
「?おう」
「ちょっと前のめりなってもらっていい?」
「……えっ」
ほっぺに米粒つけてるのは気づいてないみたい。この上なくかっこいいのにこういうところは完璧にかわいいんだから困ってしまう。
真っ赤になって、それでも私の言ったり通りに顔を近づける。目線が泳いで、動揺しきっているのがまたかわいい。私はそーっと手を伸ばして米粒を拾った。
「はい、取れました~戻っていいよ」
「えっ、?」
肩を押して座らせると冬馬くんは口をパクパクさせて口元に手をやって完全に困惑してる。ま、まさかキスされると思った?なんて言ったら本気ですねてしまうかも。ど……また間違えた、その純粋さが本気でかわいくて困ってしまう。
「……ぜってー……に……てやる」
「えっ?」
困惑していたはずの冬馬くんは私の視界に入ってきたときには雑誌で見るみたいな落ち着いたかっこいい表情をしていて見惚れてしまう。次の瞬間には逃げようとする腕を捕まえられて生ぬるくてちょっとカサついた感覚が触れ合って、あっと声を上げる間も無く別れた。身を乗り出していた冬馬くんは、俯いて顔を真っ赤にしてさっきまで私と触れていた唇を指で触っている。
「そんなに照れるなら無理しなくていいのにー」
「う、うるせー!そのうちできるようになんだよ!これくらい、か、簡単に……」
テレビや雑誌で見る冬馬くんは熱くて、リードしてくれる感じがしてすごくかっこいい。それと比べたらオフの冬馬くんはかっこいいよりかわいいなんだけど、ドキドキさせてくれるから今に見てろよ、と呟いてクリームソーダのストローに指をかける仕草さえ目が離せなかった。
カランカランとドアベルが鳴って、三人でーす!と元気な声がして私は入り口に目をやった。ふわりふわりと揺れる銀髪のミステリアス美少女、颯爽と歩くスレンダー美少女、元気よく先頭を歩くポニーテール美少女……仲良く言葉を交わす3人に冬馬くんは本当についてねぇな、と悪態をついて私は思わず笑ってしまう。
「あっお前!」
「あら……」
「またお会いしましたね」
「んだよ、いちゃ悪いかよ……」
いつになく態度が悪いので冬馬くん、と小さく呼ぶと美少女たちの視線が一斉に向けられて居心地が悪い。
「一般人だよ。構うな」
冬馬くんの棘のある態度にポニーテール美少女は怒り出しそうな雰囲気だったけど銀髪美少女が「響、ますたぁにも迷惑をおかけますから退散しましょう」と促して喧嘩は避けられた。「もー今日は食べて食べて食べまくるぞ!ね、ハム蔵!」「それならわたくしも……」「……貴音はほどほどにした方がいいぞ」と2人はお店の離れた席に去っていき、スレンダー美少女も軽く頭を下げて颯爽と席を離れた。ひえー本物の歌姫……と見惚れていると冬馬くんは「店変えるぞ……あいつらに聞かれたら面倒だろ」と荷物を持った。
「そうだね、人前でキスはさすがにレベル高いもんね」「ばっ……馬鹿、お前……」まとめてお金を払おうとしたけど冬馬くんが伝票をさらっていってしまう。クリームソーダ400円、それから紅茶とオムライス。全部でいくらになるのかな。
「……すいません、オムライス追加で」
人目もはばからずわんわん泣く私をよそに冬馬くんはマスターにオムライスを頼んだ。穏やかなマスターも心得たというように手を上げて奥へ消えていく。765プロと961プロのちょうど間らへんにあるこのそこそこに静かでご飯もドリンクも美味しい喫茶店は961プロにいた頃から冬馬くんの行きつけの1つらしい(過去にここで765プロの子達とちょっとした諍いになったこともあるらしいのだけど、765プロの子達と遭遇するリスクを鑑みても冬馬くんはここに来る価値があると言う)。冬馬くんはそっとクリームソーダと紅茶を私の近くから遠ざけて、私を呆れた顔で見た。
「で?また振られたのか?こないだの銀行員か?」
「うっうっうっ振られたんじゃないもん合コンでうまくいかなかっただけなんだもん……ちなみにあの銀行員とは1週間で別れました」
「……また懲りずに合コンいってるのかよ……」
「だって彼氏ほしくて……」
「先月はもう合コンなんて行かない!運命の出会いを待つの!!って言ってたじゃねぇか」
「待ってたって来ないもん……でもね合コンね、結構好感触だったんだよ、今度こそいけそうだったんだよ……」
顔を覆って泣く私をよそに冬馬くんはクルクルとストローをまわし、細いスプーンでアイスをすくった。
「何が悪かったんだよ」
「当日は大人しくにこにこしてたよ。翌朝一番イケメンからメッセージがきたの。しかも超優良物件。嬉しくてお返事したけど一緒に行った子がね……ゆ、譲ってって……」
「はあ!?」
「でもね?その子も滅多にそういうの言わないんだよ?だ、だから……」
譲っちゃった、としょんぼりして視線を落とすと反対に冬馬くんは天を仰いだ。
「お前なあ……あれだけ彼氏がほしい彼氏がほしいって騒いでるくせにどうして、いざという時になるとそう……まあ、飲めよ」
「だって友情も大事なんだもん……ありがとう」
遠ざけられていた紅茶を前に戻されて私はまだ熱いカップを手に取った。
「ほら上着も着ろよ……つーか、なんでそんなに薄着なんだよ」
落ち着かなそうに冬馬くんは視線を逸らして自分で持ってきてたらしいグレーのパーカーを貸してくれた。冷房が結構きいてたからありがたく借りた。
「サークル行ってきた帰りなの。夏休みなのにね。あ、この服今年買ったんだけどやっぱりカワイイよね?」
「摘むな!」
ヒラヒラしたノースリーブのトップスを摘んで見せる。これは合コンにも着ていったことのあるテッパン勝負服なのだ。あまりやる気の入りすぎた露出の服は合コン受けは悪いけどヒラヒラが肩を隠してかわいいし下にはかわいすぎないシルエットのスカートを合わせて嫌味感を減らしてみた。結果は先述の通り、合コンでマグロの一本釣りの如く見事にイケメンを釣り上げたのだ。
冬馬くんは一喝したあとそれから打って変わって消え入りそうな声で「は、はやく着ろよ……」と続けた。年下のくせにすごくかっこいいのに、なんだかんだで中身は年相応というか初心というか。アイドル活動をして美女やら美少女に会う機会も多いだろうに失われないこのど………いや純情さはある意味国宝級だと思う。
あんまり意地悪するのも本意ではないので大人しくパーカーを借りてまた紅茶に口をつけた。
「わあ冬馬くんの匂いがするねー」
「だっ……」
紅茶よりよっぽどわかりやすいのは柔軟剤の匂いだろうか?カップを持ち上げた時にするいつもの匂いに思わず感想を口にしたら冬馬くんは今度こそ撃沈した。別に今のは意地悪をしようとしたわけでは……いやちょっとからかおうとは思ったけど。
「……なんで、そんなにできもしない彼氏にこだわるんだよ」
「うーん……なんでかな……優しくしてくれる人が欲しいのかも。甘やかしてくれる人」
「だったら、」
「ん?」
言葉を切った冬馬くんを紅茶の入ったカップから目線を剥がして見る。耳にかけていた髪が落ちたので、掛け直した。そんなどうでもいい仕草なのに冬馬くんは私に負けじとこっちを見てる。
「……にしとけば………ろ」
「エッごめん、難聴かも」
「だからッ!そんなに甘やかしてくれる人がいいなら俺にしとけばいいだろ!」
「……それ次のドラマの練習?また恋愛モノ出るの?今度はいけそう?キスシーンある?ベッドシーンは……あっ17歳ってそういうのまだダメなんだっけ」
衝撃的なセリフを言い放った冬馬くんの顔があまりにかっこよかったので私は脳を通さずに喋った……のだと思う。
315プロには恋愛ドラマで人気獲得中のアイドルがすでに何人かいて、私はこないだの月9に不倫を持ちかける若手社長役でちょっと出てた神谷幸広とか最近キュンキュン系恋愛映画に引っ張りだこの若里くんとかが結構好きだ。かっこいいよね。あっそういえば次の木曜の医療ドラマに桜庭薫が出るらしい……あの人も綺麗な顔してるよね。恋愛要素は薄そうだったなあ。
「……ごめん現実逃避してた。本気だった?」
「……もういい」
「ごめん!オムライスもうくるからからオムライス食べて!!」
ジト目で席を立とうとした冬馬くんを身を乗り出して止めると冬馬くんは黙って腰を下ろした。
タイミングよくオムライスが運ばれてきて冬馬くんの前に下される。さすがマスター。いただきます、とちゃんと手を合わせてから冬馬くんは黄色い卵にスプーンをいれた。ここのオムライスは卵がとろとろのタイプだ。
「さっきはごめん……私、びっくりして……」
「そういう対象に見られてねぇってよーくわかった」
「ほんとごめん……あの、あまりに顔が良くてつい現実逃避を……」
淡々とオムライスを口に運び、返事も声が低い。完全不機嫌モードだけど自業自得だ。いつもからかいこそすれ、一世一代の告白を蹴ったも同然……いやでも普通に考えて天ヶ瀬冬馬が?本気の告白?すごいウソっぽい。こんなこと言うから冬馬くんに怒られるんだよね。
「別に好きでもねぇやつの振られた話わざわざ毎回聞きにくるほど優しくねーよ」
「……うん、ありがとう」
素直にお礼を言うと冬馬くんは顔をちょっと赤くしてオムライスをまた口に運んだ。
「で、返事は……」
「やだあなんかこういうの恥ずかしいね……」
「……俺の方が恥ずかしかった」
「か、かっこよかったよ?かっこよすぎて固まるくらいには……」
吐き捨てるような言い方に慌ててフォローを入れ、気まずさを回避しようとカップに口をつけたけど中身はすぐ飲みきってしまった。カップを下ろすと「貸せ」と冬馬くんが保温されたポットを手にとってお代わりをくれる。
「あ、ありがとー」
確かに世話なら焼かれまくってるしこの上なく甘やかされている。年下のスーパーハイスペック甘やかし上手一見俺様系実際ツンデレ系熱血イケメン天才アイドル……今まで合コンやら何やらで出会った男たちの誰にも負けない優良物件だ。
そんなことを思いながらじーーーっと見つめる私に気づいて冬馬くんは視線を上げた。お皿のオムライスは付け合わせの野菜も米粒も1つ残らずきれいに完食している。
「あ?どうした」
「冬馬くんってさ……」
「?おう」
「ちょっと前のめりなってもらっていい?」
「……えっ」
ほっぺに米粒つけてるのは気づいてないみたい。この上なくかっこいいのにこういうところは完璧にかわいいんだから困ってしまう。
真っ赤になって、それでも私の言ったり通りに顔を近づける。目線が泳いで、動揺しきっているのがまたかわいい。私はそーっと手を伸ばして米粒を拾った。
「はい、取れました~戻っていいよ」
「えっ、?」
肩を押して座らせると冬馬くんは口をパクパクさせて口元に手をやって完全に困惑してる。ま、まさかキスされると思った?なんて言ったら本気ですねてしまうかも。ど……また間違えた、その純粋さが本気でかわいくて困ってしまう。
「……ぜってー……に……てやる」
「えっ?」
困惑していたはずの冬馬くんは私の視界に入ってきたときには雑誌で見るみたいな落ち着いたかっこいい表情をしていて見惚れてしまう。次の瞬間には逃げようとする腕を捕まえられて生ぬるくてちょっとカサついた感覚が触れ合って、あっと声を上げる間も無く別れた。身を乗り出していた冬馬くんは、俯いて顔を真っ赤にしてさっきまで私と触れていた唇を指で触っている。
「そんなに照れるなら無理しなくていいのにー」
「う、うるせー!そのうちできるようになんだよ!これくらい、か、簡単に……」
テレビや雑誌で見る冬馬くんは熱くて、リードしてくれる感じがしてすごくかっこいい。それと比べたらオフの冬馬くんはかっこいいよりかわいいなんだけど、ドキドキさせてくれるから今に見てろよ、と呟いてクリームソーダのストローに指をかける仕草さえ目が離せなかった。
カランカランとドアベルが鳴って、三人でーす!と元気な声がして私は入り口に目をやった。ふわりふわりと揺れる銀髪のミステリアス美少女、颯爽と歩くスレンダー美少女、元気よく先頭を歩くポニーテール美少女……仲良く言葉を交わす3人に冬馬くんは本当についてねぇな、と悪態をついて私は思わず笑ってしまう。
「あっお前!」
「あら……」
「またお会いしましたね」
「んだよ、いちゃ悪いかよ……」
いつになく態度が悪いので冬馬くん、と小さく呼ぶと美少女たちの視線が一斉に向けられて居心地が悪い。
「一般人だよ。構うな」
冬馬くんの棘のある態度にポニーテール美少女は怒り出しそうな雰囲気だったけど銀髪美少女が「響、ますたぁにも迷惑をおかけますから退散しましょう」と促して喧嘩は避けられた。「もー今日は食べて食べて食べまくるぞ!ね、ハム蔵!」「それならわたくしも……」「……貴音はほどほどにした方がいいぞ」と2人はお店の離れた席に去っていき、スレンダー美少女も軽く頭を下げて颯爽と席を離れた。ひえー本物の歌姫……と見惚れていると冬馬くんは「店変えるぞ……あいつらに聞かれたら面倒だろ」と荷物を持った。
「そうだね、人前でキスはさすがにレベル高いもんね」「ばっ……馬鹿、お前……」まとめてお金を払おうとしたけど冬馬くんが伝票をさらっていってしまう。クリームソーダ400円、それから紅茶とオムライス。全部でいくらになるのかな。
