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「あの~~苗字さん、新しい衣装のことなんですけど」
「?何か不具合ありました?」
「……大変申し訳ないのですが、このアイドルの衣装サイズを……」
「大河くん背が伸びました?それなら丈の調節しておきますね」
「あの、そうじゃなくて………」
「あっなら牙崎くんですかね。まあ18歳ならまだまだ伸びますよね」
「その二人でもなくて……」
「握野さんや木村さん、円城寺さんじゃあ、なさそうですよね。あの、まさかですけど」
「信玄誠司さんの胸囲と腕なんですけど……」
「ま、またですか!!!!!!」
こんにちは、苗字名前です。衣装を作るお仕事をしています。元は女の子アイドルの衣装を専門にしていましたが、ご贔屓の事務所から男性アイドルの仕事を手伝ってくれないかと頼まれて今では315プロさんのお仕事を主に引き受けています。
「最新の計測なんですけど……」
「拝見しますね」
身長や腕の長さ、背中の長さやら腹囲胸囲などなど。アイドルの皆さんが動きやすく、かつ美しく見える衣装を作るにはやっぱり計測は大事だ。女の子アイドルのドレスを作るときにはボディラインを見せるためにぴったり測ることが大事で、男の人の場合はもうちょっと余裕があってもいいんだけどそれでも無意味にダボついた服は美意識に反する。だから定期的に身体計測をしているんだけど……
「胸囲と、腕まわりが……だいぶ、お育ちになりましたね」
「す、すみません、トレーニングは適度にと話してるんですけど……」
「いやあ、いいんですよ。趣味なんですよね……これ以上はちょーっと、困りますけど……直しておきますね」
「よろしくお願いします……」
プロデューサーさんは申し訳なさそうに頭を下げて、資料を置いて帰っていった。いつ見ても、へろへろだなあと気の毒に思える。40人を超える事務所のプロデュースを一手に担う彼も大変なんだろうなあ。
さてさて、信玄誠司さん。彼は短期間でじわじわサイズアップしてくるので、事務所の中でも衣装が難しいアイドルの1人だ。成長期のアイドルたちは背が伸びれば丈を伸ばしたり、筋肉がちょっとついたので少し大きくしてくださいと頼まれることもあるけど、この人については話が違う。うっかりサイズをそのままにすると前はぴったり!くらいだった衣装がぴちぴち通り越してぱっつんぱっつんになってしまうのだ。筋肉って、すごい。
おかげで衣装は腕の太さをあまり気にしなくていいノースリーブや胸囲が増しても調整のきくフロントファスナーの衣装が多くなりがちだ。(ファスナーはサイズアップすると、胸元の開き具合が大きくなってしまう問題はあるんだけど……)毎回同じ系統じゃつまらないからと色々苦心してはいるけど、やっぱりスーツやきっちり着込んだタイプの衣装の時は人一倍気を使う。同じむきむき系アイドルでも円城寺道流さんは割と体型維持が得意なようで袖もあれこれしている。それでも鍛え上げた体は魅力のひとつなので露出は多いけど。
改めて最新結果を見る。腹囲やら腕周りやらはやっぱり今のままだと厳しいだろう。どうしようかなあ。
@@@
「衣装、いかがでしたか?」
「あっ苗字さん」
今日はバレンタインのお仕事に向けた衣装のお渡しだった。いつも打ち合わせはプロデューサーさんと2人の時が多いけど、衣装を届けて身につけてもらうこの時ばかりはアイドルの皆さんと少しだけ、直接対面する。
「あっ苗字さん!」
「岡村くん、どうかな。きつくなかった?」
「は、はい!どっちもぴったりです!」
「苗字さん、全員揃いました」
「はい!今行きますね」
岡村くんとプロデューサーさんの元に向かうとメンバーは全員揃っていた。硲道夫さん、猫柳キリオさん、岡村直央くん、円城寺道流さん、そして信玄誠司さん。
ピンクとブラウンのストライプのジャケットはなかなか似合ってるんじゃないだろうか。
「ジャケットとかどうしますか?」
「えっと猫柳さんと円城寺さんはボタンを止めないでいきましょう。他の皆さんは上だけ止めて……」
「猫柳さんはシャツのボタンも外した方がシルエットが綺麗だと思います」
プロデューサーさんと相談しながら個々の着こなしを決めていく。
「あと円城寺さん、信玄さんのシャツとネクタイをきっちりめにした代わりに開けてもいいと思います……若干きつくないですか?」
「そうしたらアクセサリーも用意します。ゴールド系がいいかな」
円城寺さんが苦笑して助かるっスとボタンを開け、信玄さんは居心地悪そうにネクタイを指で直した。その他硲さんのチーフや岡村くんのベストを詰めて完了だ。あとは本番まで衣装のメンテナンスだけ。
「うん、いい感じですね」
今回は肩周りやらなにやらの修正の多い円城寺さん、毎回入ってくれるかドキドキの信玄さんが夏ぶりの共演だったのでこちらも緊張しっぱなしだったけど無事終わってくれて安心した。
脱いだ衣装を回収して退散しようと衣装をまとめていると、影がかかった。後ろに誰か立ったらしい。
「あの、」
躊躇いがちな声に振り向くと紫色の目が2つ、困ったようにこっちを見ていた。信玄誠司さん。
「はあ、」
「……その、えっとだな」
落ち着かなそうに視線が左右に触れて、それから私に戻ってきた。なんだろう、やっぱり不具合があったかな。
「衣装のことで何か、」
「あっ、ああ!衣装のことなんだが」
「きつかったですか?時間があるから直せますけど着こなしについては……きっちり系の衣装あんまり慣れないかもしれないですけどお似合いですからどうか我慢していただいて……」
「そうじゃない!……あの、今回もぴったりだった。感謝している……」
腹の底から出てる大きな声に思わずびくり、と震えるも弱り切った様子の信玄さんを見て肩の力を抜いた。
「あの、まだ何か」
「そ、それがだな」
衣装のことじゃないなら何だろう、挙動不審な様子に思わずこちらも怪訝な顔をしてしまう。あ、そういえばあまり女性が得意じゃないんじゃなかったっけ。
「これ!いつもの礼だ。よかったら、受け取ってくれないか」
さすがもと自衛官、しかしキレよく差し出された箱はイメージと違って可愛らしいデコレーションをされていた。
「これって……?」
「いつも、自分の衣装はサイズやら何やらで手間をかけているだろう。自分も裁縫をするから苦労は多少はわかるつもりだ。だから、その……日頃の礼になれば、と……」
「えっ!そんな、それが私の仕事ですから!」
驚いて否定するも、大きな手が私に箱を掴ませ、そろそろと退いていく。かわいい白い箱にピンク色のリボンがかけられていた。大人のお兄さんだと思っていたから、予想以上にかわいくてちょっと意外だった。
「あの、開けて見てもいいですか」
「!ああ、中身には自信がある」
そっと開けると、中はチョコレートケーキにイチゴ、カラフルなアイシングが施されたクッキーが配置されてメルヘンでかわいいホールケーキだった。
「すごい!本当にお料理も上手なんですね。私、裁縫ならできるけど料理は全然だから……」
「喜んでもらえたならよかった」
大人の女性に贈るには少し可愛すぎるんじゃないかと思ったから、と信玄さんは頬をかいた。
「うわあ本当に全部がかわいい!でもどうしよう、これ食べきれるかな」
「あっ」
食べるのは女性1人、いくら小さめのホールケーキとはいえさすがに厳しい。そこまでは考えてなかったのか信玄さんは焦った表情を見せた。
「よかったら、一緒に食べませんか。半分こしましょう?」
「えっ、と……自分は」
「食事制限とか特にされてませんでしたよね?食べても運動すれば……まあ過度なサイズアップは控えていただけるとありがたいんですけど……」
「お言葉に甘えていただこう。フォークを取ってくるから少し待っていてくれ」
「…はい!」
私の言葉に信玄さんは笑って退室した。軽快な駆け足の音が廊下に響く。女性が苦手と聞いて近寄りがたいイメージがあったけど、実際はそんなことなかった。次はどんな衣装がいいかな。優しい紫の目が際立つようなメガネなんて、どうだろう。
「?何か不具合ありました?」
「……大変申し訳ないのですが、このアイドルの衣装サイズを……」
「大河くん背が伸びました?それなら丈の調節しておきますね」
「あの、そうじゃなくて………」
「あっなら牙崎くんですかね。まあ18歳ならまだまだ伸びますよね」
「その二人でもなくて……」
「握野さんや木村さん、円城寺さんじゃあ、なさそうですよね。あの、まさかですけど」
「信玄誠司さんの胸囲と腕なんですけど……」
「ま、またですか!!!!!!」
こんにちは、苗字名前です。衣装を作るお仕事をしています。元は女の子アイドルの衣装を専門にしていましたが、ご贔屓の事務所から男性アイドルの仕事を手伝ってくれないかと頼まれて今では315プロさんのお仕事を主に引き受けています。
「最新の計測なんですけど……」
「拝見しますね」
身長や腕の長さ、背中の長さやら腹囲胸囲などなど。アイドルの皆さんが動きやすく、かつ美しく見える衣装を作るにはやっぱり計測は大事だ。女の子アイドルのドレスを作るときにはボディラインを見せるためにぴったり測ることが大事で、男の人の場合はもうちょっと余裕があってもいいんだけどそれでも無意味にダボついた服は美意識に反する。だから定期的に身体計測をしているんだけど……
「胸囲と、腕まわりが……だいぶ、お育ちになりましたね」
「す、すみません、トレーニングは適度にと話してるんですけど……」
「いやあ、いいんですよ。趣味なんですよね……これ以上はちょーっと、困りますけど……直しておきますね」
「よろしくお願いします……」
プロデューサーさんは申し訳なさそうに頭を下げて、資料を置いて帰っていった。いつ見ても、へろへろだなあと気の毒に思える。40人を超える事務所のプロデュースを一手に担う彼も大変なんだろうなあ。
さてさて、信玄誠司さん。彼は短期間でじわじわサイズアップしてくるので、事務所の中でも衣装が難しいアイドルの1人だ。成長期のアイドルたちは背が伸びれば丈を伸ばしたり、筋肉がちょっとついたので少し大きくしてくださいと頼まれることもあるけど、この人については話が違う。うっかりサイズをそのままにすると前はぴったり!くらいだった衣装がぴちぴち通り越してぱっつんぱっつんになってしまうのだ。筋肉って、すごい。
おかげで衣装は腕の太さをあまり気にしなくていいノースリーブや胸囲が増しても調整のきくフロントファスナーの衣装が多くなりがちだ。(ファスナーはサイズアップすると、胸元の開き具合が大きくなってしまう問題はあるんだけど……)毎回同じ系統じゃつまらないからと色々苦心してはいるけど、やっぱりスーツやきっちり着込んだタイプの衣装の時は人一倍気を使う。同じむきむき系アイドルでも円城寺道流さんは割と体型維持が得意なようで袖もあれこれしている。それでも鍛え上げた体は魅力のひとつなので露出は多いけど。
改めて最新結果を見る。腹囲やら腕周りやらはやっぱり今のままだと厳しいだろう。どうしようかなあ。
@@@
「衣装、いかがでしたか?」
「あっ苗字さん」
今日はバレンタインのお仕事に向けた衣装のお渡しだった。いつも打ち合わせはプロデューサーさんと2人の時が多いけど、衣装を届けて身につけてもらうこの時ばかりはアイドルの皆さんと少しだけ、直接対面する。
「あっ苗字さん!」
「岡村くん、どうかな。きつくなかった?」
「は、はい!どっちもぴったりです!」
「苗字さん、全員揃いました」
「はい!今行きますね」
岡村くんとプロデューサーさんの元に向かうとメンバーは全員揃っていた。硲道夫さん、猫柳キリオさん、岡村直央くん、円城寺道流さん、そして信玄誠司さん。
ピンクとブラウンのストライプのジャケットはなかなか似合ってるんじゃないだろうか。
「ジャケットとかどうしますか?」
「えっと猫柳さんと円城寺さんはボタンを止めないでいきましょう。他の皆さんは上だけ止めて……」
「猫柳さんはシャツのボタンも外した方がシルエットが綺麗だと思います」
プロデューサーさんと相談しながら個々の着こなしを決めていく。
「あと円城寺さん、信玄さんのシャツとネクタイをきっちりめにした代わりに開けてもいいと思います……若干きつくないですか?」
「そうしたらアクセサリーも用意します。ゴールド系がいいかな」
円城寺さんが苦笑して助かるっスとボタンを開け、信玄さんは居心地悪そうにネクタイを指で直した。その他硲さんのチーフや岡村くんのベストを詰めて完了だ。あとは本番まで衣装のメンテナンスだけ。
「うん、いい感じですね」
今回は肩周りやらなにやらの修正の多い円城寺さん、毎回入ってくれるかドキドキの信玄さんが夏ぶりの共演だったのでこちらも緊張しっぱなしだったけど無事終わってくれて安心した。
脱いだ衣装を回収して退散しようと衣装をまとめていると、影がかかった。後ろに誰か立ったらしい。
「あの、」
躊躇いがちな声に振り向くと紫色の目が2つ、困ったようにこっちを見ていた。信玄誠司さん。
「はあ、」
「……その、えっとだな」
落ち着かなそうに視線が左右に触れて、それから私に戻ってきた。なんだろう、やっぱり不具合があったかな。
「衣装のことで何か、」
「あっ、ああ!衣装のことなんだが」
「きつかったですか?時間があるから直せますけど着こなしについては……きっちり系の衣装あんまり慣れないかもしれないですけどお似合いですからどうか我慢していただいて……」
「そうじゃない!……あの、今回もぴったりだった。感謝している……」
腹の底から出てる大きな声に思わずびくり、と震えるも弱り切った様子の信玄さんを見て肩の力を抜いた。
「あの、まだ何か」
「そ、それがだな」
衣装のことじゃないなら何だろう、挙動不審な様子に思わずこちらも怪訝な顔をしてしまう。あ、そういえばあまり女性が得意じゃないんじゃなかったっけ。
「これ!いつもの礼だ。よかったら、受け取ってくれないか」
さすがもと自衛官、しかしキレよく差し出された箱はイメージと違って可愛らしいデコレーションをされていた。
「これって……?」
「いつも、自分の衣装はサイズやら何やらで手間をかけているだろう。自分も裁縫をするから苦労は多少はわかるつもりだ。だから、その……日頃の礼になれば、と……」
「えっ!そんな、それが私の仕事ですから!」
驚いて否定するも、大きな手が私に箱を掴ませ、そろそろと退いていく。かわいい白い箱にピンク色のリボンがかけられていた。大人のお兄さんだと思っていたから、予想以上にかわいくてちょっと意外だった。
「あの、開けて見てもいいですか」
「!ああ、中身には自信がある」
そっと開けると、中はチョコレートケーキにイチゴ、カラフルなアイシングが施されたクッキーが配置されてメルヘンでかわいいホールケーキだった。
「すごい!本当にお料理も上手なんですね。私、裁縫ならできるけど料理は全然だから……」
「喜んでもらえたならよかった」
大人の女性に贈るには少し可愛すぎるんじゃないかと思ったから、と信玄さんは頬をかいた。
「うわあ本当に全部がかわいい!でもどうしよう、これ食べきれるかな」
「あっ」
食べるのは女性1人、いくら小さめのホールケーキとはいえさすがに厳しい。そこまでは考えてなかったのか信玄さんは焦った表情を見せた。
「よかったら、一緒に食べませんか。半分こしましょう?」
「えっ、と……自分は」
「食事制限とか特にされてませんでしたよね?食べても運動すれば……まあ過度なサイズアップは控えていただけるとありがたいんですけど……」
「お言葉に甘えていただこう。フォークを取ってくるから少し待っていてくれ」
「…はい!」
私の言葉に信玄さんは笑って退室した。軽快な駆け足の音が廊下に響く。女性が苦手と聞いて近寄りがたいイメージがあったけど、実際はそんなことなかった。次はどんな衣装がいいかな。優しい紫の目が際立つようなメガネなんて、どうだろう。
