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付き合って二度目のクリスマスは、想楽がアイドルになって初めてのクリスマスだった。初めての時はお互い1万から2万円でお互いのほしいものを買おうって決めてクリスマスの前にデートに出かけた。私はコートを買ってもらって想楽は靴が欲しいって言ってあれこれ履いて似合うのを決めたのが懐かしい。
その次の年は想楽がアイドルのお仕事が詰まってて忙しくて一緒に買いには行けなかった。想楽が欲しいって言ったキャップを1人で買いに行って包んでもらって、忙しい中少しだけデートしてそれから想楽にプレゼントをあげた。私は想楽に大学生に人気のブランドのハンドバッグを頼んでいたけど、実際くれたのは価格帯が1つ上のブランドのものだった。
「僕も一応今年から社会人みたいなものだし、今年は名前に寂しい思いさせたからねー」忙しいのに気使わせて、ごめん。と返した私に想楽は「愛想つかされたら困るってこっちも必死なんだよー?」となんてことないみたいに笑った。お金なんていらない、時間があればいいなんて言ってた大学一年生の頃が懐かしい。想楽は普通の大学生よりずっと忙しくしてて、暇な分誘惑の多い私との付き合いやつなぎとめ方が本当に社会人と学生カップルみたいになって、想楽はまだほんとならただの学生なのに、私たち同級生なのにってそればかりがもどかしい。そうして、もうすぐ三年目のクリスマスがくる。
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自分の思うままに進まんとアイドルになったのに、たまに恋人のことを思って身動きがとれなくなる。
初めてのクリスマスは楽しかった。お互いのプレゼントは2人でどれが似合うか相談して、散々悩んで決めて帰りにケーキを食べた。去年12月はライブに出たり正月に向けての収録やら何やらで一緒に買い物に行けなかったし当日もずっと一緒というわけにはいかなかった。事務所のクリスマスパーティを少しだけ抜け出してプレゼントを渡したけど、罪滅ぼしみたいな気持ちとアイドルになった見栄でちょっと約束していた相場よりいいものを買った。名前は驚いて、焦ってたから予想外だった。だって普通の女子大生はそういう時喜ぶものだよね。
名前は、本当に普通の女子大生で付き合い始めたのも大学でなんとなく知り合って話があったからだった。髪を派手すぎない茶色に染めて前髪を綺麗に巻いて、周りの女の子たちから浮かないようなスカートと靴に鞄を持って大学に行って、そこそこ真面目に講義を受けて友達とランチをして週に3回座りっぱなしで楽だという中学生相手の個別教室でほとんどおしゃべりみたいなバイトをして、コーヒーショップの新作が出れば飲みに行って、人気のカフェに1時間並んでパンケーキを食べてはそれをインスタにあげる、どこにでも普通にいる女子大生だ。
初めて話したのは教養講義のグループワークで一緒になって「想楽くんてお家が俳人かなにかなの」と聞かれた時だった。「違うけどどうして?よく川柳よんでるから?」自分の話し方についてよく聞かれることがあるから棘のある言い方をしたかもしれない。いや、多分した。兄の姿や周りを見てどうやって自分らしく大人になろうと考えてた時期だったのでそっけない態度も取ったと思う。
「いや……名前が俳人っぽかったから、お家の人がそういうの好きなのかなって。気に障ったならごめん」
「……多分親も意識はしてると思うよー」
「あ、やっぱり?すごく綺麗だなって思ってた」
気に障ったはずがなかった。自分の名前も趣味も、特技も嫌いじゃない。気づいてもらえたことが嬉しくて彼女を見た。そこそこ遊んでるかわいい系の服装の割にサブバッグにはスーツが入っていた。意外と真面目系か。
「君、名前はー?」
「私?苗字名前。よろしくね」
名前くらいは知っていた。でも彼女の口から聞くと全然違って、短くない期間一緒にいるけどあの時の気持ちをまだ忘れられない。
「……綺麗な名前だねー」
「本当?私この名前好きだから嬉しい。よかったら名前って呼んで」
それから告白して付き合うまでは割とすぐだった。彼女が北村くんって呼んでたのを今のように想楽と変えるのはそれよりも少し後だったけど。
付き合って三度目のクリスマスを前に、僕は事務所のクリスマスライブへの参加が決まった。今年も12月は忙しくて名前と遊んではいられなそうだ。それを抜いても去年より格段に仕事は多く、着実に成長していることは嬉しくもあり、トップアイドルがまだまだ遠い先であることがなんだか怖くもあり。
そういえばアイドルのオーディションを受けたことは名前には言ってなくて正式に事務所への所属が決まってから報告した。
初めてどうしてアイドルになりたいのかを伝えた時に名前は黙って話を聞いて、それから「想楽はもう、どうなりたいか考えてるんだね。大学出てからじゃなくて、もう自分の将来動かしてるんだ」ってすごいことだって言った。褒めて欲しくて言ったわけじゃなくて、名前はそれでもすごいって言った。僕が眩しい、と名前は笑ってそれから「想楽さえよければ、周りの子には別れたってことにしとこうね。面倒だから」と持ちかけた。
世間にとっては恋愛なんて面白くて仕方ないネタの1つで、アイドルになる以上は排除したほうがいいのはわかってた。でも、そのあと大学で「名前北村くんと別れたんだって!?」と聞かれた名前が「やめてよぉ結構な振られ方でまだ傷心中なんだから」「どうして別れたの~?」「知らない。元々私みたいなキャーキャーした女子大生とかあんまり好きそうじゃないじゃん」「あーね。北村、インスタ映えとか嫌いそう。あっ今度ランチ行かない?ガレットなんだけどさ~」「行く行く!あと新しいリップほしいんだけど色みてよ」「どこの?デパコス?」「うーん金欠だから安くて落ちないやつで検討中」などとへらへらしてるのをみたときは普通にいい気はしなかった。確かに名前のしょっちゅう更新されるインスタには三回に一回しかいいねしないけど。別にそういうのを馬鹿にしてるんじゃなくて、全部見てるって思われるのがなんとなく子供っぽくて嫌なだけで。
クリスマスの話に戻ると、今年のプレゼントを何にしようか決めかねていた。僕は丈夫で普段もつけられるようなミリタリーウォッチをリクエストしたけど名前は決めかねた様子で「だめ、全然決まらないから想楽のセンスに任せた」とため息をついて雑誌を投げたのだった。それが、先月のおわりの話。
ライブが終われば少しだけお休みがもらえる予定だ。今年はクリスマスの前に一度会ってデートをしよう。
プロデューサーさんと出かけた時も名前にはあれが似合うだろうか、それともこっちがいいか、名前はゴールド系の方が似合う、ピンクも好きだし……とあちこちに目がいってしまってあとから少しだけからかわれてしまった。なんとなく気恥ずかしいから、雨彦さんたちには内緒にしてもらいたい。2人とも次のライブに向けてと自分のことで大忙しだからそんな余裕はないかもしれない。
結局買ったのは去年よりもずっと小さな箱におさまった。小さいのにこんなアクセサリーなんて重いと嫌がられてしまうかな。今年は本気だよって言ってしまってもいいのかな。
「お疲れ様でした!」
圧倒されるほどの観客、それでも無事にステージが終えられたのは皆のおかげだ。華やかな衣装を脱ぎ、年下組はプロデューサーさんの車で早々に帰され、九郎先生も用事がありますのでとスマホを確認ながら慌ただしく出ていった。
メッセージアプリを確認しても名前からのメッセージはきてなかった。うるさいやつだと思われたくなくてまめに連絡を取るのもなんだかはずかしくて、それなのに無意味に確認してしまう。恋人同士なのに、なぜだかこんなにももどかしい。
スマホをカバンに突っ込んで鏡で服装をちょっと見て、僕も慌ただしく会場を出た。頬にあたる風が冷たいけど体は寒くなかった。電車に乗ってもまだ連絡は来ない。
ステージに上がればきらきらのライトや音響、それからファンの歓声や笑顔で不思議な雰囲気になる。今までの人生で感じたことのない感覚でどこかふわふわしていて、体の熱が変に感覚を鈍くしてるのかもしれない。
ステージを思い出せば高揚した感覚まで蘇る。そう、名前、僕アイドルになったんだよ。何を今更と名前には笑われそうだけど今だけはその笑顔が見たかった。最寄りの駅でメッセージアプリが光って、いつものとこで待ってると短い通知。思わず走り出すと街路樹のイルミネーションがみるみる流れていく。
僕がばたばた走るのに合わせて上着のポケットに入れた箱が揺れる。遠くに一昨年のプレゼントのコートと去年のプレゼントのカバンが見える。息が上がったけど走るのをやめられなかった。
「名前!」
俯いてた名前が声に気づいて顔を上げて、笑う。こんなイベントに浮かれてるのが学生同士らしくてなんだかおかしかった。
