林檎紅茶の余韻〜星降る夜の小品集〜
中庭を見渡せるガゼボでは、ふたりきりのお茶会の準備が進んでいた。薔薇が見頃だからと、王太女リゼットの提案だ。
騎士団長シラスは、ポットに茶葉と湯を入れ蒸らしている。その姿を楽しそうに眺めるリゼットは、お気に入りの林檎と薔薇の紅茶の香りとは別の、控えめな清潔感のある匂いに気づいた。
「ねぇ、いい匂いがするのってシラス君よね?」
「薔薇……フィナンシェではなくて?」
シラスは、テーブルに置かれたリゼットが作ってきた焼き菓子を見た。
「薔薇のような香りではあるのだけれど……何というか甘さのない乾いた木のような……香辛料やベリーっぽさもあるかしら? シラス君の近くにいると、ふわっと」
一生懸命に例えるリゼットに、シラスはようやく思い当たった。
「……ああ、僕のつけてる香水ですね」
「香水、って貴婦人方がつけてるあのきついやつ!?」
リゼットには、貴族たちが好む濃厚な麝香や沈香のイメージしかない。香水と白粉で、お茶の香りがわからなくなる時もあった。
「あ、やっぱりこの匂い。だけど、不思議ね。あの、うっとなる匂いと全然違うのですわ」
シラスの手首に鼻を近づけて、香りを嗅ぐリゼット。
「これは植物性の香料が多いのでそう感じられるのかと。リゼット様が仰った通り、薔薇の花弁や香辛料、ラズベリー、パピルスなどが入っていますよ」
「ふぅん……薔薇やベリーというと女性的なイメージなのに、かっこいい感じなのね」
華やかではない、凛とした気品や孤高を感じさせる香りだ。
「同じ香水でも、その人の体温や肌の質で香り方も変わるそうです」
テーブルに置いた懐中時計を確認したシラスは、カップに紅茶を注ぐ。
「面白いのね。騎士って汗とか鉄の臭いがしてそうなのに、シラス君はそれがないんだもの」
「リゼット様のお傍にいるのに、汗臭いのは良くないですからね」
訓練後は風呂に入り清潔を保つなど、実は色々と気を配っているのだ。
「うふふ。シラス君の香り、強さや優しさがあって……落ち着いた大人な感じもして、とても似合ってるのですわ」
「ありがとうございます」
数年前の誕生日に、香水の嗜み方も覚えなさいなと、王妃エメから贈られた物だ。シラスも香水というとあまり良いイメージはなかったのだが、予想外の落ち着く香りに今も愛用している。
「わたくしも香水を使ってみたくなりましたわ。大人になったら素敵な香りを纏うの」
夢見る少女は大きな瞳を輝かせている。シラスは紅茶が入ったカップを置いて微笑む。
「……リゼット様は香水がなくてもいい匂いですけどね」
風に乗って、石鹸に林檎と花のような優しい甘い匂いがシラスに届いた。
騎士団長シラスは、ポットに茶葉と湯を入れ蒸らしている。その姿を楽しそうに眺めるリゼットは、お気に入りの林檎と薔薇の紅茶の香りとは別の、控えめな清潔感のある匂いに気づいた。
「ねぇ、いい匂いがするのってシラス君よね?」
「薔薇……フィナンシェではなくて?」
シラスは、テーブルに置かれたリゼットが作ってきた焼き菓子を見た。
「薔薇のような香りではあるのだけれど……何というか甘さのない乾いた木のような……香辛料やベリーっぽさもあるかしら? シラス君の近くにいると、ふわっと」
一生懸命に例えるリゼットに、シラスはようやく思い当たった。
「……ああ、僕のつけてる香水ですね」
「香水、って貴婦人方がつけてるあのきついやつ!?」
リゼットには、貴族たちが好む濃厚な麝香や沈香のイメージしかない。香水と白粉で、お茶の香りがわからなくなる時もあった。
「あ、やっぱりこの匂い。だけど、不思議ね。あの、うっとなる匂いと全然違うのですわ」
シラスの手首に鼻を近づけて、香りを嗅ぐリゼット。
「これは植物性の香料が多いのでそう感じられるのかと。リゼット様が仰った通り、薔薇の花弁や香辛料、ラズベリー、パピルスなどが入っていますよ」
「ふぅん……薔薇やベリーというと女性的なイメージなのに、かっこいい感じなのね」
華やかではない、凛とした気品や孤高を感じさせる香りだ。
「同じ香水でも、その人の体温や肌の質で香り方も変わるそうです」
テーブルに置いた懐中時計を確認したシラスは、カップに紅茶を注ぐ。
「面白いのね。騎士って汗とか鉄の臭いがしてそうなのに、シラス君はそれがないんだもの」
「リゼット様のお傍にいるのに、汗臭いのは良くないですからね」
訓練後は風呂に入り清潔を保つなど、実は色々と気を配っているのだ。
「うふふ。シラス君の香り、強さや優しさがあって……落ち着いた大人な感じもして、とても似合ってるのですわ」
「ありがとうございます」
数年前の誕生日に、香水の嗜み方も覚えなさいなと、王妃エメから贈られた物だ。シラスも香水というとあまり良いイメージはなかったのだが、予想外の落ち着く香りに今も愛用している。
「わたくしも香水を使ってみたくなりましたわ。大人になったら素敵な香りを纏うの」
夢見る少女は大きな瞳を輝かせている。シラスは紅茶が入ったカップを置いて微笑む。
「……リゼット様は香水がなくてもいい匂いですけどね」
風に乗って、石鹸に林檎と花のような優しい甘い匂いがシラスに届いた。
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