林檎紅茶の余韻〜星降る夜の小品集〜

 修道院の廊下で讃美歌を歌い出した少女。
 この辺りは病室として使われている。病人だけでなく、世話をしている修道女たちも耳を傾ける。
「まるで、天使の歌声ね」
 修道女のひとりが言った。
 澄んだ繊細な声は、優しく癒やされるようだ。
「あの歌声を聴いてたら痛みがなくなったよ」
 身体のあちこちの痛みを訴えていた老人が言った。
「苦しいのが消えて、元気が出てきたの」
 胸の病を抱える子供が笑顔を見せた。
 それぞれの病室では、不思議なことが起きていた。聖女だ奇跡だと、ちょっとした騒ぎになったが、歌声の主は見当たらなかった。
「……思った以上に、治癒の力が出てしまったのですわ」
 病室の状況を察した騎士団長シラスに、外に連れ出された王太女リゼットが言った。身分を隠しての奉仕活動である。歌だけで、治癒までする目的はなかったのだが。
「まあ、神様がそうするようにされたのかも知れませんね」
 シラスはそう言って、リゼットの頭を撫でた。
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