林檎紅茶の余韻〜星降る夜の小品集〜

 冬も終わりが近いある日、午後の陽光が射し込む私室で読書をしていた騎士団長シラス。
「ハッピーヴァレンタイン!」
 少し開けておいた隣室との扉から、鈴を転がすような声が響いた。
 シラスが顔を上げると、軽い足取りで入ってきた王太女リゼットが可愛いらしい包みを差し出してきた。勢いで受け取ったシラスは、机の上の暦を見る。
「……ああ、聖ヴァレンティヌスの殉教日ですね」
 兵士の結婚が禁じられた時代、密かに恋人たちを結婚させていた司祭が処刑された日だ。
「その聖人と、この包みが関係あると?」
 修道院にいたことのあるシラスは宗教関連には詳しいが、世俗の行事には疎い。
「ヴァレンティヌスは恋人たちの守護聖人なのでしょう。今日はそれにあやかって、大切な人に贈り物をする日なのですわ。昔の宮廷では詩を贈ったそうだけど」
「大切な……ありがとうございます」
 リゼットの言う大切な人とはどのような意味なのか、シラスは敢えて聞かず素直に受け取ることにした。
 包みを開けると、甘い香りとアマンドを砕いて入れた一口サイズのショコラが見えた。
「ちょっと形が歪なのもあるけど、味は大丈夫……なはず」
 一生懸命作ったのだろう。厨房に立つリゼットの姿を想像したシラスは微笑む。
「今、紅茶を淹れますから一緒に」
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