林檎紅茶の余韻〜星降る夜の小品集〜

 地平線に沈む夕日は、すべてのものを赤く染めていく。
「シラス君!」
 王都近くの村を魔獣が襲ったという急報を受け、単身先行した騎士団長を追ってきたのは、他ならぬ王太女だった。  
 馬から飛び降りたリゼットは、処々を血に染めたシラスと聖剣デュランダルのもとへ駆け寄る。辺りには彼が斬り伏せた魔獣たちが転がっていた。
「リゼット様……なぜ」  
 危険だから城で待っていてほしいと言ったのに。そう問う前に、血で汚れた身体にすがりつかれる。貴婦人なら卒倒しそうな現場だが、この少女はこれくらいのことでは怯まない。
「さすがシラス君。無事で良かったのですわ……怪我はなくて?」
「ご心配なく。全て返り血です」  
 無事に会えた安堵からリゼットの肩に触れかけて、シラスは手を止めた。血塗れた自分が、この綺麗な少女を汚すわけにはいかないと、申し訳なさそうに目を伏せる。
「……えいっ」  
 シラスの躊躇いを読んだのか、リゼットは自分から強く抱きついた。
「汚れることなど構わないのですわ……シラス君が無事なら」
「……リゼット様」  
 その体温に、シラスも諦めたように優しく抱き返した。 茜色に染まる大地の上で、重なり合う二人の影。
「もうすぐ日が沈みますわ。早く帰って休みましょう」
 単騎で城を飛び出した王太女を慌てて追いかけてきたのだろう、遠くに騎士団の馬車が見えた。
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