Ⅱ 陰謀の影と偽物の亡霊
庭園から続く、城内の広大な森を歩くリゼットとシラス。
「風が気持ちいい……緑も鮮やかで最高の散歩日和なのですわ」
「そうですね」
ふたりは時折立ち止まり、冬眠から目覚めたハリネズミや、地面を埋め尽くす青紫のブルーベルの花を眺める。
「あの可愛い花、星みたいな形をしてますわ。この指輪みたい」
リゼットは、ペンダントにしている玩具の指輪を手にした。星か花のような形をした金色の枠に、淡い紫色の石。
「そういえば、指輪の内側にある綺麗な模様ってシラス君が刻んだのよね? 何て書いてあるのかしら?」
朝食の時にレオンが、シラスが夜なべをして『おまじない』を掛けたと言っていた。この不思議な模様のことだろう。
無邪気に訊ねるリゼットに、シラスは困ったように微笑する。この指輪に刻まれた文様と文字は、特定の魔力がある者でないと見えないようにしてあるのだ。
「……いつでもリゼット様をお守りするようにと、おまじないの文字です」
「うふふ、相変わらず心配性ね……あら? 何だか石の色が……」
淡い紫から黒ずんだような色に変わっていく。
「――」
同時に何かを察したシラスは、リゼットを背後に庇うようにし右手を剣帯に掛け、森の奥を見据えていた。
「シラス君?」
何か起こるのかと不安そうにシラスのマントを掴むリゼット。
「リゼット様、僕から離れないでください」
木々が揺れ、飛び出して来たのは――。
「ピエェー! やっぱり鳥さんたちが怖い話してるピエーッ」
そのまま勢いよくシラスの肩に止まったのは、真っ白な神鳥 だった。
「……」
「えっ、ピーちゃん!? どうしましたの?」
「ピェ……森が騒がしい気がしたから、見に行ってきましたピエ。そしたら、皆が怖い話をしてたピエー」
「皆って鳥さんかしら?」
シラスがリゼットの指輪を見ると、石は元の綺麗な色に戻っていた。
「命に関わるような危険ではない、か」
シラスが呟くと同時に、一歩前に出るリゼット。
「リゼット様」
「確かめるのですわ! 鳥さんたちの言葉なら、わたくし解りますし」
言うと思ったと、シラスは指で額を抑えた。しかし、リゼットの言う通り確認した方が良いだろう。
「……僕の言うことを聞いてくださいね?」
「もちろんなのですわ」
「ピエッ」
森の奥へと進むと、小鳥たちの鳴き声が聞こえてきた。リゼットは耳を澄ませる。
『――ねぇ、お姫様にお婿さんが来るんだって』
『――死んだはずの、王子様が帰ってきたの?』
「お姫様にお婿さん、死んだはずの王子様……何のことかしら」
おとぎ話かと、リゼットは首を傾げる。
さらに進むと、森の陰が濃くなり気温が下がったように感じる。木の上で黒い鳥たちが警告するように鳴いていた。
『――ちがうよ。あれは、悪い人間が作った、糸のついたお人形』
『――気をつけろ。城に、悪い人間たちの足音が聞こえる……』
「……なかなか物騒な話なのですわ。お婿さんは本物ではない?」
中央にある大樹に佇み、こちらを見つめる一羽の梟がいた。
「あの梟さんが、この森の主かしら」
『――亡霊は……』
梟が、厳かに告げるように鳴き出した。
「……ッ」
「リゼット様、あの梟は何と?」
鳥の言葉は解らないが、梟のただならぬ気配と自分を見ていると感じたシラスが聞いた。
「『亡霊は光の中では生きられぬ。偽物 の亡霊は、本物の光の前で滅びる。だが、本物の亡霊よ。お前が名前を捨てて影に潜み続けるなら、偽物 の影がその光を奪い去るであろう』と言ってますわ」
梟の言葉をそのまま伝えるリゼット。
「ね、怖い話だピエッ」
身震いしたピーちゃんは、シラスのマントに潜り込んだ。
「……亡霊にまやかし、ですか」
シラスが思案した一瞬の隙に、リゼットはドレスの裾を翻して走り出していた。
「リゼット様!?」
「――城に戻るのですわっ!」
「風が気持ちいい……緑も鮮やかで最高の散歩日和なのですわ」
「そうですね」
ふたりは時折立ち止まり、冬眠から目覚めたハリネズミや、地面を埋め尽くす青紫のブルーベルの花を眺める。
「あの可愛い花、星みたいな形をしてますわ。この指輪みたい」
リゼットは、ペンダントにしている玩具の指輪を手にした。星か花のような形をした金色の枠に、淡い紫色の石。
「そういえば、指輪の内側にある綺麗な模様ってシラス君が刻んだのよね? 何て書いてあるのかしら?」
朝食の時にレオンが、シラスが夜なべをして『おまじない』を掛けたと言っていた。この不思議な模様のことだろう。
無邪気に訊ねるリゼットに、シラスは困ったように微笑する。この指輪に刻まれた文様と文字は、特定の魔力がある者でないと見えないようにしてあるのだ。
「……いつでもリゼット様をお守りするようにと、おまじないの文字です」
「うふふ、相変わらず心配性ね……あら? 何だか石の色が……」
淡い紫から黒ずんだような色に変わっていく。
「――」
同時に何かを察したシラスは、リゼットを背後に庇うようにし右手を剣帯に掛け、森の奥を見据えていた。
「シラス君?」
何か起こるのかと不安そうにシラスのマントを掴むリゼット。
「リゼット様、僕から離れないでください」
木々が揺れ、飛び出して来たのは――。
「ピエェー! やっぱり鳥さんたちが怖い話してるピエーッ」
そのまま勢いよくシラスの肩に止まったのは、真っ白な
「……」
「えっ、ピーちゃん!? どうしましたの?」
「ピェ……森が騒がしい気がしたから、見に行ってきましたピエ。そしたら、皆が怖い話をしてたピエー」
「皆って鳥さんかしら?」
シラスがリゼットの指輪を見ると、石は元の綺麗な色に戻っていた。
「命に関わるような危険ではない、か」
シラスが呟くと同時に、一歩前に出るリゼット。
「リゼット様」
「確かめるのですわ! 鳥さんたちの言葉なら、わたくし解りますし」
言うと思ったと、シラスは指で額を抑えた。しかし、リゼットの言う通り確認した方が良いだろう。
「……僕の言うことを聞いてくださいね?」
「もちろんなのですわ」
「ピエッ」
森の奥へと進むと、小鳥たちの鳴き声が聞こえてきた。リゼットは耳を澄ませる。
『――ねぇ、お姫様にお婿さんが来るんだって』
『――死んだはずの、王子様が帰ってきたの?』
「お姫様にお婿さん、死んだはずの王子様……何のことかしら」
おとぎ話かと、リゼットは首を傾げる。
さらに進むと、森の陰が濃くなり気温が下がったように感じる。木の上で黒い鳥たちが警告するように鳴いていた。
『――ちがうよ。あれは、悪い人間が作った、糸のついたお人形』
『――気をつけろ。城に、悪い人間たちの足音が聞こえる……』
「……なかなか物騒な話なのですわ。お婿さんは本物ではない?」
中央にある大樹に佇み、こちらを見つめる一羽の梟がいた。
「あの梟さんが、この森の主かしら」
『――亡霊は……』
梟が、厳かに告げるように鳴き出した。
「……ッ」
「リゼット様、あの梟は何と?」
鳥の言葉は解らないが、梟のただならぬ気配と自分を見ていると感じたシラスが聞いた。
「『亡霊は光の中では生きられぬ。
梟の言葉をそのまま伝えるリゼット。
「ね、怖い話だピエッ」
身震いしたピーちゃんは、シラスのマントに潜り込んだ。
「……亡霊にまやかし、ですか」
シラスが思案した一瞬の隙に、リゼットはドレスの裾を翻して走り出していた。
「リゼット様!?」
「――城に戻るのですわっ!」