短いお話
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トリスタ駅前に珍しくフラワーワゴンが出ていた。帝都からの移動販売らしくトリスタの花屋にはない品種の花が多く取り揃えてあるらしい。
らしい、というのはユーシスが花に関しては明るく無く店先の看板にそう書いてあったのを見たからである。実家の中庭には色とりどりの季節の花が手入れされているが、ユーシスに花を愛でる趣味はない。
しかし、どうにも此処最近ピンク色の花を見ると彼女を思い出し目が惹かれる。
このピンクの花は『フリージア』というらしい。つい足を止め眺めているとニコニコした店員に話しかけられ、あれよあれよという間にユーシスの手にはフリージアのミニブーケが握られていた。
そんなつもりはなかったのに。
学院付近で自分が花束を持っているところ見られるのは些か恥ずかしいものがある。
ユーシスは足早に寮に戻りシャロンに頼んで食堂あたりに飾ろうかと考えたが、ふと、彼女に渡した時のことを考えた。
このピンク色のフリージアのように微笑む彼女。
ああ、自分は彼女の笑顔が好きなのか。
ユーシスはミニブーケに視線を落とし納得する。のであれば、このブーケの行くつく先など一つに決まっている。ユーシスは恥じらいを捨て彼女の姿を探した。
やはり学院の中にまで足を踏み入れると若干の好奇の目に晒されている感は否めないが仕方があるまい。要はさっさと見つけてさっさと渡してしまえばいいだけの話である。放課後アリアが居るであろう場所に目星をつけてユーシスは足早に移動する。
お目当ての薄桃は案外早く見つかった。しかしおまけ付きでだ。グラウンド入り口付近のベンチに腰掛けたアリア。近づくと先んじてアリアに話しかける別の影が視界に入り思わずユーシスは足を止めた。
「暇そうだな、アリア」
「失礼ね、暇じゃないわよ」
――クロウ
仲間だが、日頃からあまり面白くないと思っている男。
アリアとはやけに親しげでユーシスには分かり得ない何かが二人の間にはあるのだと思わせた。
「じゃあ、今日はだめか?」
「えと、随分急ね…」
「いいじゃん、そういうのって急だろ?」
なんの誘いかは分からないがあまりタイミングが良くないらしい。ユーシスは踵を返し足早にその場を立ち去った。そして寮へ戻るべく学院の門をくぐる。
やはりこの花はシャロンに頼んで食堂に飾ってもらおう。慣れないことをしようとするから不快な気持ちになるのだ。ユーシスは迷子になってしまったミニブーケを見下ろし重々しいため息を吐いた。
「かわいいお花ね。あなたが持っていると不思議だわ」
突然後ろから掛けられた声にユーシスはドキリと足を止める。鈴音のような声。
「……アリア?」
クロウと話していたはずの彼女がなぜ此処にいるのか。ユーシスは疑問だったが、少し息を切らせたアリアが走って追いかけてきてくれたと思わせユーシスの心がそれこそ花のように晴れやかになった。
「えっと、私に何かご用だった?のかなと思って…」
アリアが口元に指を添え促すように微笑む。
此処までアシストされて渡さないなど男が廃るというもの。ユーシスはグッと意気込んでアリアにミニブーケを差し出した。
「これをお前に」
「わあ、いいの?可愛い。ありがとう」
受け取ったアリアがふわりと微笑む。
思った通りミニブーケのフリージアのような優しい笑顔にユーシスの胸はドキドキと高鳴った。
「その花が…アリアのようだと思って」
無意識に思ったことを伝えてしまいユーシスはしまったと思ったが、アリアが目を見開き手元のフリージアより鮮やかに頬を染めているのを目撃して、まるごと全て愛らしい花束のようだと思うのだった。
【フリージア】親愛の情、あどけなさ
――――
背を向け遠ざかっていく金髪の姿に二人は気がつき会話が止まる。
「…! ごめんなさい、クロウ。また今度ね」
「……はいはい」
アリアが慌てた様子で金髪を追いかけていくのにクロウは素直に面白くないと思った。
別にアリアと情事に及べなかったからではない。自分より他を優先されたことに少し不服を感じたのだ。
これまでならこんなにあからさまにユーシスを優先することはなかった。いくら手にプレゼント用の花を持っていたとしてもだ。先着順、良くも悪くも平等が彼女の考えだった。
「やれやれ、実はあんまり似てねぇのか?」
アリアの座っていたベンチに腰掛けクロウは脱力する。
いや、間違いなく自分達は似ていた。ただ彼女が変わっているだけなのだろう。過去の憎悪から立ち直り、状況を受け入れ、新しい環境でできることを模索していく。
――復讐だけが全てではないと。
今日のアリアの行動にそう言われている気がしてクロウはバンダナを引っ張り目元を覆う。
目を瞑れば今まで失ってきた同胞の顔、無関係の命が鮮明に思い起こされる。この原動力は贖罪なのか。
いや違う。
オズボーンの策略に嵌り無惨にも散っていった祖父の命。そして帝国のいいようにされる故郷。
自分を突き動かすのは憎悪である。
「もう……戻れねえんだよ」
この茨の道に花でも咲いていれば少しは気が晴れるのにと何度も思い、クロウはもしかしたら花が芽吹くかもしれないと有らぬ期待をして彼女と身体を重ねた。
それが今日拒まれてしまった。どうやら荊に花は芽吹かないらしい。美しい花は何処ぞの白馬の王子様のもとで艶やかに咲くのが道理ということか。
「薔薇…って柄じゃねえか」
無い物ねだりか、とクロウは自嘲すると持て余してしまった時間を消化すべく技術部へと足を運ぶ。
【蒼の薔薇】不可能、奇跡
◆
フリージアは黄色のイメージが強いと思いますがここではピンクで…。
「あお」の漢字表記は彼にちなんでこの字で。
らしい、というのはユーシスが花に関しては明るく無く店先の看板にそう書いてあったのを見たからである。実家の中庭には色とりどりの季節の花が手入れされているが、ユーシスに花を愛でる趣味はない。
しかし、どうにも此処最近ピンク色の花を見ると彼女を思い出し目が惹かれる。
このピンクの花は『フリージア』というらしい。つい足を止め眺めているとニコニコした店員に話しかけられ、あれよあれよという間にユーシスの手にはフリージアのミニブーケが握られていた。
そんなつもりはなかったのに。
学院付近で自分が花束を持っているところ見られるのは些か恥ずかしいものがある。
ユーシスは足早に寮に戻りシャロンに頼んで食堂あたりに飾ろうかと考えたが、ふと、彼女に渡した時のことを考えた。
このピンク色のフリージアのように微笑む彼女。
ああ、自分は彼女の笑顔が好きなのか。
ユーシスはミニブーケに視線を落とし納得する。のであれば、このブーケの行くつく先など一つに決まっている。ユーシスは恥じらいを捨て彼女の姿を探した。
やはり学院の中にまで足を踏み入れると若干の好奇の目に晒されている感は否めないが仕方があるまい。要はさっさと見つけてさっさと渡してしまえばいいだけの話である。放課後アリアが居るであろう場所に目星をつけてユーシスは足早に移動する。
お目当ての薄桃は案外早く見つかった。しかしおまけ付きでだ。グラウンド入り口付近のベンチに腰掛けたアリア。近づくと先んじてアリアに話しかける別の影が視界に入り思わずユーシスは足を止めた。
「暇そうだな、アリア」
「失礼ね、暇じゃないわよ」
――クロウ
仲間だが、日頃からあまり面白くないと思っている男。
アリアとはやけに親しげでユーシスには分かり得ない何かが二人の間にはあるのだと思わせた。
「じゃあ、今日はだめか?」
「えと、随分急ね…」
「いいじゃん、そういうのって急だろ?」
なんの誘いかは分からないがあまりタイミングが良くないらしい。ユーシスは踵を返し足早にその場を立ち去った。そして寮へ戻るべく学院の門をくぐる。
やはりこの花はシャロンに頼んで食堂に飾ってもらおう。慣れないことをしようとするから不快な気持ちになるのだ。ユーシスは迷子になってしまったミニブーケを見下ろし重々しいため息を吐いた。
「かわいいお花ね。あなたが持っていると不思議だわ」
突然後ろから掛けられた声にユーシスはドキリと足を止める。鈴音のような声。
「……アリア?」
クロウと話していたはずの彼女がなぜ此処にいるのか。ユーシスは疑問だったが、少し息を切らせたアリアが走って追いかけてきてくれたと思わせユーシスの心がそれこそ花のように晴れやかになった。
「えっと、私に何かご用だった?のかなと思って…」
アリアが口元に指を添え促すように微笑む。
此処までアシストされて渡さないなど男が廃るというもの。ユーシスはグッと意気込んでアリアにミニブーケを差し出した。
「これをお前に」
「わあ、いいの?可愛い。ありがとう」
受け取ったアリアがふわりと微笑む。
思った通りミニブーケのフリージアのような優しい笑顔にユーシスの胸はドキドキと高鳴った。
「その花が…アリアのようだと思って」
無意識に思ったことを伝えてしまいユーシスはしまったと思ったが、アリアが目を見開き手元のフリージアより鮮やかに頬を染めているのを目撃して、まるごと全て愛らしい花束のようだと思うのだった。
【フリージア】親愛の情、あどけなさ
――――
背を向け遠ざかっていく金髪の姿に二人は気がつき会話が止まる。
「…! ごめんなさい、クロウ。また今度ね」
「……はいはい」
アリアが慌てた様子で金髪を追いかけていくのにクロウは素直に面白くないと思った。
別にアリアと情事に及べなかったからではない。自分より他を優先されたことに少し不服を感じたのだ。
これまでならこんなにあからさまにユーシスを優先することはなかった。いくら手にプレゼント用の花を持っていたとしてもだ。先着順、良くも悪くも平等が彼女の考えだった。
「やれやれ、実はあんまり似てねぇのか?」
アリアの座っていたベンチに腰掛けクロウは脱力する。
いや、間違いなく自分達は似ていた。ただ彼女が変わっているだけなのだろう。過去の憎悪から立ち直り、状況を受け入れ、新しい環境でできることを模索していく。
――復讐だけが全てではないと。
今日のアリアの行動にそう言われている気がしてクロウはバンダナを引っ張り目元を覆う。
目を瞑れば今まで失ってきた同胞の顔、無関係の命が鮮明に思い起こされる。この原動力は贖罪なのか。
いや違う。
オズボーンの策略に嵌り無惨にも散っていった祖父の命。そして帝国のいいようにされる故郷。
自分を突き動かすのは憎悪である。
「もう……戻れねえんだよ」
この茨の道に花でも咲いていれば少しは気が晴れるのにと何度も思い、クロウはもしかしたら花が芽吹くかもしれないと有らぬ期待をして彼女と身体を重ねた。
それが今日拒まれてしまった。どうやら荊に花は芽吹かないらしい。美しい花は何処ぞの白馬の王子様のもとで艶やかに咲くのが道理ということか。
「薔薇…って柄じゃねえか」
無い物ねだりか、とクロウは自嘲すると持て余してしまった時間を消化すべく技術部へと足を運ぶ。
【蒼の薔薇】不可能、奇跡
◆
フリージアは黄色のイメージが強いと思いますがここではピンクで…。
「あお」の漢字表記は彼にちなんでこの字で。