カミサマの玩具箱
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ファイヤー編
【埋み火の在処】
ざらざらと、砂の零れる音がする。
――ファイヤー様。
夢を見る。顔も声も知らない女が私を呼ぶ。やわらかな笑みを湛えている。
この胸に横たわるものの名は、何といったか。
***
ぱち、電源を入れた機械のように微睡みから目が覚める。また、夢を見ていた。
あの女が何者なのかファイヤーは全く心当たりがなかった。まあ、どうでもいい。思い出そうとするのも億劫だ。いずれ夢を見ていたことすら忘れる。
寝床にしていた火山から気怠げに飛び立てば、薄紅色の塊がぽつぽつと大地を彩っていた。あの木は、花は、何といったか。何度も目にした気がするのにどうにも思い出せない。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
どうでもいいか、とファイヤーは思考を放棄した。我らは世界をつつがなく回すための機構 。余計なことを考える必要はない。目覚めた、すなわち使命 の時間だ。
山、川、森、村。あらゆる命が息づく大地の上をファイヤーが羽ばたく度、きらめく火の粉が舞い踊る。定められた使命のまま、ただ機械的に春の訪れを告げて回った。
不意にぐう、と妙な音がする。これは何だったか。
首を傾げたファイヤーの視界に黄金の花が映る。……ああ、ライコウだ。不機嫌なライコウがよくこの音を鳴らしていた、ような。
そういえば、前回眠りにつく際に〝空腹〟を停止し忘れたかもしれない。起動してしまった以上、停止させるには一度腹を満たさなくては。
ファイヤーはため息を吐き、徐々に下降していく。無造作に巡らせた視線の先になんとなく見覚えのある山があった。豊かな緑が生い茂っている。これ以上飛び続けるのも面倒で、狩場をそこと決めた。
突如降臨した火の神に山で暮らすポケモンたちは騒然とする。ある者は巣穴から飛び出し、ある者は獲物を放り捨て、一目散に逃げていく。
その喧噪を一切歯牙にもかけず、少し開けた場所へ降り立とうとしたファイヤーは、ふと自分を見上げる視線に気がついた。
眼下には人間の女がひとり。ぽかんと大きく口を開け、夕焼けと同じ色の瞳でまっすぐファイヤーを見つめている。
――ファイヤー様。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
脳裏に知らない景色が浮かぶ。薄紅色の舞う中で女が微笑んでいる。
「ファイヤー様」
ファイヤーの耳を震わせたのは先程と違う声だった。目の前の女が発したのだと思い至り、ファイヤーはゆっくり瞬きした。
あの光景は、あの女は、いったい何だ。
ファイヤーは女としばし見つめ合う。女の瞳に映る己の姿を見とめ、ふと「みだりに真の姿を見せてはならない」という言葉を思い出した。誰に言われたのだったか。……確か、サンダーだ。
ふわりと人の形を取り、音もなく地面に降り立つ。それもそのはず、ファイヤーの足は地面から数寸浮いていた。何故そうしているのか覚えていないが。
ついと視線だけ動かして女を見やる。白衣に緋袴、濡羽色の髪。どこにでもいる人間だ。ファイヤーは人間の区別がつかない。けれどこの女は、この眼差しは、どこかで。
不意にぐうう、と妙な音。そういえば、腹を満たすためにここへ来たのだった。ファイヤーは思考を放棄して女から視線を外した。
「あの、ファイヤー様。お腹が空いていらっしゃるのですか?」
遠慮がちな問いかけに再び視線を向ける。女は微笑み、抱えていたかごを差し出した。小さな赤い粒がぎっしり詰まっている。
「今朝摘んだばかりのヒメリの実です。よろしければお召し上がりください」
ファイヤーはゆっくり瞬きして女とかごを交互に見た。おもむろに右手を持ち上げ、じんつうりきでヒメリの実をひとつ口へ運ぶ。硬いそれに歯を立てれば、じゅわりと果汁が溢れた。
「いかがでしょうか?」
「覚えのある味だ」
ファイヤーの答えに女はほっと表情を緩ませた。ファイヤーは次々とヒメリの実をつまみ、あっという間にかごを空にする。満腹とまではいかずともそれなりに満たされた。忘れないうちに〝空腹〟を停止する。
目的は果たした。もう用はない。しかし何故か、ファイヤーはこの場から離れがたかった。
じっと立ち尽くしていると、女は控えめに「ファイヤー様」と呼んだ。祈るように両手を組み、恭しく跪く。
「ファイヤー様。春を運びし火炎の御神。再びこの地に訪れてくださったこと、心より感謝申し上げます」
「何の話だ」
「昔、このあたりは雪害がひどく、人もポケモンも飢えて凍えておりました。それをファイヤー様に救っていただいたのです」
「……そうだったか?」
「ええ。あなた様がお忘れになっても私たちは覚えています。こうしてお目にかかれたこと、幸甚の至りです」
女は薄紅色の頬にやわらかな笑みを湛え、深々と頭を垂れた。
ざあ、と風が吹く。木々が揺れる。花びらが舞う。ファイヤーは女の話に覚えがなかった。この地へ訪れたのも偶然だ。けれど。
――ファイヤー様。
――ありがとうございます、ファイヤー様。このご恩は一生忘れません。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
またも知らない女が頭をよぎる。これは何だ。何故こうも、胸の内がざわめく。
「女よ。名は」
口をついて出た言葉に女が答える。ファイヤーは人間の区別がつかない。けれど告げられた名は「違う」と悟り、首を傾げた。何と 違うというのか。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
この音がいつから聞こえるようになったかファイヤーは覚えていない。いいや、覚えていない、のではなく。
どうでもいい。ファイヤーは思考を放棄した。我らは機構 。ただ使命を果たすのみ。
「ファイヤー様、どうされたのですか?なんだかお顔の色が優れないような……」
「問題ない」
「そうは見えません。近くにファイヤー様を祀ったお社がございます。そちらで少しお休みになられては?」
気遣うような声音と憂いを帯びた眼差し。「不要だ。この身は傷病と無縁である」と答えるはずが、ファイヤーは何故か頷いていた。女はぱっと顔を輝かせ、ファイヤーをいざなう。
ファイヤーは再び思考を放棄して、女について行った。
案内されるがまま、森の中にひっそり佇む社へ足を踏み入れる。こぢんまりとしているがきちんと手入れが行き届いていた。
「こちらには人もポケモンもほとんどやってきません。どうぞごゆっくりおくつろぎください。私は掃除をしておりますので、ご用の際はお声がけくださいませ」
女の言葉に頷きを返す。ファイヤーは何をするでもなく、女が拝殿や境内を清掃するさまを、女の動きに合わせて束ねられた黒髪と白い袖が揺れるのを、ただ黙って眺めた。
やがて女は掃除を終え、はじめに持っていたかごを抱えて一礼すると、社を後にした。その背を見送ったファイヤーは濡れ縁に腰かけ、両手を腿の上に乗せ、ぼーっと空を見上げた。宙に浮いた裸の足を時折風が撫でていく。ファイヤーに睡眠は必要なく、また目覚めたばかりで〝眠気〟も停止しているため、一晩中そこで日が沈み月が昇るのを眺めて過ごした。
耳の奥ではずっと、ざらざらと、砂の零れる音がする。
*
日が昇ると女は再び現れた。
「おはようございます、ファイヤー様。昨日よりお顔の色がよくなっていらっしゃいますね」
安心しました、と微笑む女にまたも胸の内がざわめく。いったい何だというのか。ファイヤーはもはや疑問が浮かぶことすら面倒になりつつあったが、意に反して収まることはなかった。
女の抱えるかごは昨日と同じくヒメリの実が山のように積まれていて、これまた昨日と同じく差し出してくる。ファイヤーに食事は必要ない。また、既に〝空腹〟も停止した。故に食べる意味も理由もなかったが、何となく手を伸ばした。赤く染まった爪の先が同じ色のきのみを浮かせて口に運ぶさまを、女はひどく嬉しそうに見つめた。
女は毎日やってきてはファイヤーにヒメリの実を差し出し、社を掃除し、日が高いうちに帰っていく。ファイヤーも不思議と離れがたく、そのまま居座り続けた。離れがたい?何故?……どうでもいい。なおも浮かぶ疑問を思考ごと放棄し、日夜濡れ縁で女を待った。
やがて、ファイヤーが食事する傍ら、あるいは掃除の合間に女はぽつぽつと自身の身の上を語った。この山の近くの村に住んでいること。村はかつて雪害から救われたことで昔からファイヤーの信仰が盛んであり、村人は皆ファイヤーに感謝し、深く敬愛していること。畑で採れたヒメリの実を供え、社の掃除をするのが巫女たる己の日課であること。手持ちのケーシィとふたり暮らしであること。ケーシィはひどく臆病で、外出時はボールにこもり、社への道中で野生ポケモンの気配を察知するとすぐにテレポートで逃げていること。
ファイヤーは黙って女の話に耳を傾けた。我らは機構 。父なる大御神の定めし使命を果たすのみ。女は「救われた」と言うが、いつぞやの使命に則った行動が結果的にそう なったのだろう。ファイヤーの使命に〝救済〟は含まれていない。故にそこに意味も理由もない。祀られようとなかろうと、この在り方は変わらない。ただ、定められた通りに在るだけ。
それだけの、はずなのに。女の言葉で、仕草で、表情で、胸の内がざわめく。
――ファイヤー様。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
そのざわめきの名を思い出せないまま、ファイヤーは思考を放棄した。
*
その日、女が持ってきたかごの中身はいつもと違っていた。丸く平たい小麦色の代物で、中央の窪みから赤がつやりと覗いている。
「いつも同じものだと飽きてしまうかと思い、ヒメリの実のジャムをクッキーに挟んでみました。お口に合うとよいのですが」
差し出されるまま口に運ぶ。そういえば、この女はファイヤーに差し出すばかりで自分は一度も食べていない。
「汝は食べないのか」
ファイヤーの問いに女は微かに目を見開き、頬を薄紅に染めて「では、私もいただきますね」と微笑んだ。細い指先がクッキーをつまみ、白い歯で食む。
「ふふ、いつも食べているのに、今日はいちだんとおいしいです。ファイヤー様と一緒だからでしょうか」
確かに女の言う通り、昨日までと違う気がする。単に手を加えたからか、あるいは。
――ファイヤー様、いかがですか?今日は自信作なのですが。
――ああ。よい味だ。
――よかった!お好きなだけ召し上がってくださいね。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
ファイヤーはさほど食事に興味がなかったが、この味は好ましいと感じた。それをヒトは「おいしい」と呼ぶのだろう。けれど。もうひとつ、この味を表す言葉があった気がする。
そこまで巡らせた思考をファイヤーは投げ捨てた。どうでもいい。すぐに忘れる。
「こちらは代々村に伝わる伝統菓子なのです。お気に召されたのであれば、またお持ちしましょうか?」
「ああ」
新たに口にしたクッキーは、先程とはまた違う味がした。
それから女は日々異なるヒメリの実の菓子を持ってきた。パイ、マフィン、マドレーヌ、パウンドケーキ。曰く、村に残る古い手記に記されているらしい。
「著者の方は、ファイヤー様に喜んでいただきたくていろいろと試行錯誤したそうですよ。それがそのまま村の名菓となった……という流れですね。材料やお供え物がヒメリの実なのも、件の手記に〝ファイヤー様はヒメリの実がお好き〟と書かれていたからとか」
そんなことを言っただろうか。ぼんやり記憶をたどるが思い出せない。
以前も同じようなことがあった気がする。……ああ、雪害から救われた、という話か。そちらもとんと覚えていない。
――ファイヤー様、無礼を承知で申し上げます。どうか、どうか、私の村をお救いください……!
ざらざらと、砂の零れる音がする。
度々脳裏をよぎる女も一向に正体不明だ。……本当に?
どうでもいい。いつものように思考を投げ捨てたファイヤーは、ふと女の手に目を止めた。
「今日の汝は爪が赤いな」
「はい。ファイヤー様は爪に色を乗せていらっしゃるでしょう?実は、ずっと素敵だなと思っていて……私も真似てみました」
そう言ってはにかむ女を見て、胸の内がざわめいた。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
――今日は爪に色がついているな。
――ええ、先日いらした行商人に爪紅をいただいたんです!ロゼリアというポケモンの花で作ったそうで。
――そうか。よい色だ。……どれ。
――まあ!ファイヤー様の爪も赤く……!
――これで汝と揃いだな。
「染料はロゼリアの花か」
「はい。色も香りもよくて。ご存知だったのですか?」
「……いや、なんとなく、そうではないかと」
ファイヤーはゆっくり頭を振り、女の爪と顔を順に見やった。
「よい色だ」
「あ、ありがとうございます……!嬉しいです」
爪と同じように頬を赤く染めた女が笑う。
――ありがとうございます。嬉しいです。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
*
それは、ファイヤーが女と出会ってから初めてのことだった。
ファイヤーはいつも通り濡れ縁に腰かけて女を待っていたが、日が傾き始めてからようやく違和感を覚えた。
毎日同じ時間に訪れていた女が、まだ姿を見せていない。胸の内に知らないざわめきが立つ。
じんつうりきで山中の気配を探る。……いた。思いのほか近い。そのまま己の体を浮かせ、女の気配がする方へ向かう。人の姿をしていてもその身から放たれるプレッシャーは強大で、山に住むポケモンたちは間違っても出くわさぬよう迅速に距離を取った。
女は斜面の下でうずくまっていた。あちこち土で汚れ、細かい傷がついているが、最も重症なのは右足か。
「ファイヤー、様……?」
振り向いた女の表情が怯えと恐怖から安堵に変わる。ファイヤーは近くに生えていたクスリソウをじんつうりきで引き抜き、「足を出せ」と告げた。
あらわになった右の足首は赤く腫れ上がっていた。再びじんつうりきを用いてクスリソウを絞り、その液を数滴患部に垂らすと、静かに赤みが引いていく。
「まだ痛みはあるか」
「いいえ。ありがとうございます……!」
「何故ひとりでここにいる。伴 はどうした」
「……ケーシィは、昨晩から目を覚まさなくなってしまったのです。お医者様に診ていただいても原因不明で……。少しでもあの子に元気になって欲しくて、キングリーフを探していました」
女は視線を落として唇を噛みしめる。ファイヤーはゆっくり瞬きし、周囲に視線を巡らせた。
「ここで少し待て」
そう言うなり姿を消したファイヤーに女は唖然とするが、大人しく膝を抱えて待つ。やがて数分もしないうちに戻ってきたファイヤーは、女の足元に大量のオボンの実を落とした。
「食べろ。力がつく。……それから、これを」
じんつうりきでそっと膝の上に乗せられたのは、光り輝くハーブの王様――キングリーフ。女がどれだけ探しても見つからなかったものが、今目の前にあった。
「ああ……ありがとうございます、ありがとうございます……!」
肩を震わせて深く頭を下げる女にファイヤーは頷きを返す。胸の内の妙なざわめきはいつの間にか静まっていた。
女がキングリーフと食べきれなかったオボンの実を鞄に収めた頃、空は薄闇色に染まり始めていた。微かにポケモンの遠吠えが聞こえたが、隣を歩くファイヤーのおかげで少しも怖くはなかった。
太陽が沈みきる前に村へ続く道にたどりついた。女はほっと顔を緩め、ファイヤーに向き合う。
「ファイヤー様、こちらまでで十分です」
「そうか」
夕日を受けて朱に染まった女の頬がやわらかな笑みを湛える。
「ファイヤー様。助けていただき誠にありがとうございました。……また明日」
――さようなら、ファイヤー様。また明日。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
長い黒髪が舞い、夕焼けと同じ色の瞳が弧を描く。目の前の景色と覚えのない光景が朧げに重なり合う。
「ああ。……また、明日」
ファイヤーの言葉と表情に女は見開いた目を細め、深々と一礼してから帰路に着いた。
遠ざかる背を見送るなか、ふいに先程と異なる声が響く。
――君といいエンテイといい、たったひとりにいつまでもご執心とは随分まめだねえ。やはりほのおタイプだから情熱的なのかい?見習いたいものだよ。
冷やかすようなこの声は……そうだ、フリーザーのもの。
同胞たちの声は、名は、顔は、思い出せる。なのに何故、あの 声は、名は、顔は、思い出せないのだろう。
どうでもいい。巡りかけた思考を放棄して踵を返す。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
それはなんだか、いつもより大きく響いた。
*
翌朝、女が社を訪れたのはいつもより早い時間だった。乱れた呼吸を整えもせず、珍しく大きな声を出す。
「ファイヤー様!ケーシィが目を覚ましました!」
ぽろぽろと、夕焼け色から雨が降る。とめどなくあふれては頬を伝っていく。
「いただいたキングリーフを飲ませたら、ようやく……!まだ病み上がりで、引き続きお医者様のもとに預かっていただいているのですが……本当に、よかった……!」
それを私に伝えたいがために、まだ日も昇りきらないうちに、ポケモンも連れず、息を切らしてやってきたというのか。
胸の内が奥までざわめく。
「ファイヤー様のおかげです。何度お伝えしても尽きません。本当にありがとうございます……!」
そう言って笑う薄紅に染まる頬の、やわらかそうなこと。
触れたい。ごく自然に胸をよぎった。そのまま腕を伸ばし、赤を乗せた指先が女の頬に触れる。
――その途端、女の全身は瞬時に灰と化し、ざらりとファイヤーの足元に降り積もった。
微かに首を傾げてゆっくり瞬きしたファイヤーは、数拍置いて「ああ」と合点がいく。
「そういえば、ニンゲンは簡単に死ぬのだったな。脆いものだ」
焚き火で暖を取ることはできても、触れれば火傷をするのは至極当然のこと。ファイヤーがその身に宿す炎と熱は、人間にとって火傷程度で済むような代物ではなかった。故に。
気付けば胸のざわめきは凪いでいる。不思議な離れがたさも、もうない。
ファイヤーは人の姿を解いて上空へ飛び立った。羽ばたきの際に生じた風がかつて女の形をしていた灰を山中に吹き散らす。それにファイヤーは気が付かない。あるいは気にも留めない。
……はて。ニンゲンは簡単に死ぬ、と初めて知ったのはいつだったか。
ざらざらと、砂の零れる音がする。いいや、砂ではない、灰だ。この両手から零れている。あれは確か、遥か昔――。
記憶の糸を手繰ろうと伸ばしかけた手を、そのまま降ろした。
どうでもいい。どうせすぐに忘れてしまう。
気怠げに飛翔しながら大きく欠伸をする。翼で弾けた火の粉が一粒、羽ばたきの風圧に押し潰され、消えた。
Fin.
【埋み火の在処】
ざらざらと、砂の零れる音がする。
――ファイヤー様。
夢を見る。顔も声も知らない女が私を呼ぶ。やわらかな笑みを湛えている。
この胸に横たわるものの名は、何といったか。
***
ぱち、電源を入れた機械のように微睡みから目が覚める。また、夢を見ていた。
あの女が何者なのかファイヤーは全く心当たりがなかった。まあ、どうでもいい。思い出そうとするのも億劫だ。いずれ夢を見ていたことすら忘れる。
寝床にしていた火山から気怠げに飛び立てば、薄紅色の塊がぽつぽつと大地を彩っていた。あの木は、花は、何といったか。何度も目にした気がするのにどうにも思い出せない。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
どうでもいいか、とファイヤーは思考を放棄した。我らは世界をつつがなく回すための
山、川、森、村。あらゆる命が息づく大地の上をファイヤーが羽ばたく度、きらめく火の粉が舞い踊る。定められた使命のまま、ただ機械的に春の訪れを告げて回った。
不意にぐう、と妙な音がする。これは何だったか。
首を傾げたファイヤーの視界に黄金の花が映る。……ああ、ライコウだ。不機嫌なライコウがよくこの音を鳴らしていた、ような。
そういえば、前回眠りにつく際に〝空腹〟を停止し忘れたかもしれない。起動してしまった以上、停止させるには一度腹を満たさなくては。
ファイヤーはため息を吐き、徐々に下降していく。無造作に巡らせた視線の先になんとなく見覚えのある山があった。豊かな緑が生い茂っている。これ以上飛び続けるのも面倒で、狩場をそこと決めた。
突如降臨した火の神に山で暮らすポケモンたちは騒然とする。ある者は巣穴から飛び出し、ある者は獲物を放り捨て、一目散に逃げていく。
その喧噪を一切歯牙にもかけず、少し開けた場所へ降り立とうとしたファイヤーは、ふと自分を見上げる視線に気がついた。
眼下には人間の女がひとり。ぽかんと大きく口を開け、夕焼けと同じ色の瞳でまっすぐファイヤーを見つめている。
――ファイヤー様。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
脳裏に知らない景色が浮かぶ。薄紅色の舞う中で女が微笑んでいる。
「ファイヤー様」
ファイヤーの耳を震わせたのは先程と違う声だった。目の前の女が発したのだと思い至り、ファイヤーはゆっくり瞬きした。
あの光景は、あの女は、いったい何だ。
ファイヤーは女としばし見つめ合う。女の瞳に映る己の姿を見とめ、ふと「みだりに真の姿を見せてはならない」という言葉を思い出した。誰に言われたのだったか。……確か、サンダーだ。
ふわりと人の形を取り、音もなく地面に降り立つ。それもそのはず、ファイヤーの足は地面から数寸浮いていた。何故そうしているのか覚えていないが。
ついと視線だけ動かして女を見やる。白衣に緋袴、濡羽色の髪。どこにでもいる人間だ。ファイヤーは人間の区別がつかない。けれどこの女は、この眼差しは、どこかで。
不意にぐうう、と妙な音。そういえば、腹を満たすためにここへ来たのだった。ファイヤーは思考を放棄して女から視線を外した。
「あの、ファイヤー様。お腹が空いていらっしゃるのですか?」
遠慮がちな問いかけに再び視線を向ける。女は微笑み、抱えていたかごを差し出した。小さな赤い粒がぎっしり詰まっている。
「今朝摘んだばかりのヒメリの実です。よろしければお召し上がりください」
ファイヤーはゆっくり瞬きして女とかごを交互に見た。おもむろに右手を持ち上げ、じんつうりきでヒメリの実をひとつ口へ運ぶ。硬いそれに歯を立てれば、じゅわりと果汁が溢れた。
「いかがでしょうか?」
「覚えのある味だ」
ファイヤーの答えに女はほっと表情を緩ませた。ファイヤーは次々とヒメリの実をつまみ、あっという間にかごを空にする。満腹とまではいかずともそれなりに満たされた。忘れないうちに〝空腹〟を停止する。
目的は果たした。もう用はない。しかし何故か、ファイヤーはこの場から離れがたかった。
じっと立ち尽くしていると、女は控えめに「ファイヤー様」と呼んだ。祈るように両手を組み、恭しく跪く。
「ファイヤー様。春を運びし火炎の御神。再びこの地に訪れてくださったこと、心より感謝申し上げます」
「何の話だ」
「昔、このあたりは雪害がひどく、人もポケモンも飢えて凍えておりました。それをファイヤー様に救っていただいたのです」
「……そうだったか?」
「ええ。あなた様がお忘れになっても私たちは覚えています。こうしてお目にかかれたこと、幸甚の至りです」
女は薄紅色の頬にやわらかな笑みを湛え、深々と頭を垂れた。
ざあ、と風が吹く。木々が揺れる。花びらが舞う。ファイヤーは女の話に覚えがなかった。この地へ訪れたのも偶然だ。けれど。
――ファイヤー様。
――ありがとうございます、ファイヤー様。このご恩は一生忘れません。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
またも知らない女が頭をよぎる。これは何だ。何故こうも、胸の内がざわめく。
「女よ。名は」
口をついて出た言葉に女が答える。ファイヤーは人間の区別がつかない。けれど告げられた名は「違う」と悟り、首を傾げた。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
この音がいつから聞こえるようになったかファイヤーは覚えていない。いいや、覚えていない、のではなく。
どうでもいい。ファイヤーは思考を放棄した。我らは
「ファイヤー様、どうされたのですか?なんだかお顔の色が優れないような……」
「問題ない」
「そうは見えません。近くにファイヤー様を祀ったお社がございます。そちらで少しお休みになられては?」
気遣うような声音と憂いを帯びた眼差し。「不要だ。この身は傷病と無縁である」と答えるはずが、ファイヤーは何故か頷いていた。女はぱっと顔を輝かせ、ファイヤーをいざなう。
ファイヤーは再び思考を放棄して、女について行った。
案内されるがまま、森の中にひっそり佇む社へ足を踏み入れる。こぢんまりとしているがきちんと手入れが行き届いていた。
「こちらには人もポケモンもほとんどやってきません。どうぞごゆっくりおくつろぎください。私は掃除をしておりますので、ご用の際はお声がけくださいませ」
女の言葉に頷きを返す。ファイヤーは何をするでもなく、女が拝殿や境内を清掃するさまを、女の動きに合わせて束ねられた黒髪と白い袖が揺れるのを、ただ黙って眺めた。
やがて女は掃除を終え、はじめに持っていたかごを抱えて一礼すると、社を後にした。その背を見送ったファイヤーは濡れ縁に腰かけ、両手を腿の上に乗せ、ぼーっと空を見上げた。宙に浮いた裸の足を時折風が撫でていく。ファイヤーに睡眠は必要なく、また目覚めたばかりで〝眠気〟も停止しているため、一晩中そこで日が沈み月が昇るのを眺めて過ごした。
耳の奥ではずっと、ざらざらと、砂の零れる音がする。
*
日が昇ると女は再び現れた。
「おはようございます、ファイヤー様。昨日よりお顔の色がよくなっていらっしゃいますね」
安心しました、と微笑む女にまたも胸の内がざわめく。いったい何だというのか。ファイヤーはもはや疑問が浮かぶことすら面倒になりつつあったが、意に反して収まることはなかった。
女の抱えるかごは昨日と同じくヒメリの実が山のように積まれていて、これまた昨日と同じく差し出してくる。ファイヤーに食事は必要ない。また、既に〝空腹〟も停止した。故に食べる意味も理由もなかったが、何となく手を伸ばした。赤く染まった爪の先が同じ色のきのみを浮かせて口に運ぶさまを、女はひどく嬉しそうに見つめた。
女は毎日やってきてはファイヤーにヒメリの実を差し出し、社を掃除し、日が高いうちに帰っていく。ファイヤーも不思議と離れがたく、そのまま居座り続けた。離れがたい?何故?……どうでもいい。なおも浮かぶ疑問を思考ごと放棄し、日夜濡れ縁で女を待った。
やがて、ファイヤーが食事する傍ら、あるいは掃除の合間に女はぽつぽつと自身の身の上を語った。この山の近くの村に住んでいること。村はかつて雪害から救われたことで昔からファイヤーの信仰が盛んであり、村人は皆ファイヤーに感謝し、深く敬愛していること。畑で採れたヒメリの実を供え、社の掃除をするのが巫女たる己の日課であること。手持ちのケーシィとふたり暮らしであること。ケーシィはひどく臆病で、外出時はボールにこもり、社への道中で野生ポケモンの気配を察知するとすぐにテレポートで逃げていること。
ファイヤーは黙って女の話に耳を傾けた。我らは
それだけの、はずなのに。女の言葉で、仕草で、表情で、胸の内がざわめく。
――ファイヤー様。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
そのざわめきの名を思い出せないまま、ファイヤーは思考を放棄した。
*
その日、女が持ってきたかごの中身はいつもと違っていた。丸く平たい小麦色の代物で、中央の窪みから赤がつやりと覗いている。
「いつも同じものだと飽きてしまうかと思い、ヒメリの実のジャムをクッキーに挟んでみました。お口に合うとよいのですが」
差し出されるまま口に運ぶ。そういえば、この女はファイヤーに差し出すばかりで自分は一度も食べていない。
「汝は食べないのか」
ファイヤーの問いに女は微かに目を見開き、頬を薄紅に染めて「では、私もいただきますね」と微笑んだ。細い指先がクッキーをつまみ、白い歯で食む。
「ふふ、いつも食べているのに、今日はいちだんとおいしいです。ファイヤー様と一緒だからでしょうか」
確かに女の言う通り、昨日までと違う気がする。単に手を加えたからか、あるいは。
――ファイヤー様、いかがですか?今日は自信作なのですが。
――ああ。よい味だ。
――よかった!お好きなだけ召し上がってくださいね。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
ファイヤーはさほど食事に興味がなかったが、この味は好ましいと感じた。それをヒトは「おいしい」と呼ぶのだろう。けれど。もうひとつ、この味を表す言葉があった気がする。
そこまで巡らせた思考をファイヤーは投げ捨てた。どうでもいい。すぐに忘れる。
「こちらは代々村に伝わる伝統菓子なのです。お気に召されたのであれば、またお持ちしましょうか?」
「ああ」
新たに口にしたクッキーは、先程とはまた違う味がした。
それから女は日々異なるヒメリの実の菓子を持ってきた。パイ、マフィン、マドレーヌ、パウンドケーキ。曰く、村に残る古い手記に記されているらしい。
「著者の方は、ファイヤー様に喜んでいただきたくていろいろと試行錯誤したそうですよ。それがそのまま村の名菓となった……という流れですね。材料やお供え物がヒメリの実なのも、件の手記に〝ファイヤー様はヒメリの実がお好き〟と書かれていたからとか」
そんなことを言っただろうか。ぼんやり記憶をたどるが思い出せない。
以前も同じようなことがあった気がする。……ああ、雪害から救われた、という話か。そちらもとんと覚えていない。
――ファイヤー様、無礼を承知で申し上げます。どうか、どうか、私の村をお救いください……!
ざらざらと、砂の零れる音がする。
度々脳裏をよぎる女も一向に正体不明だ。……本当に?
どうでもいい。いつものように思考を投げ捨てたファイヤーは、ふと女の手に目を止めた。
「今日の汝は爪が赤いな」
「はい。ファイヤー様は爪に色を乗せていらっしゃるでしょう?実は、ずっと素敵だなと思っていて……私も真似てみました」
そう言ってはにかむ女を見て、胸の内がざわめいた。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
――今日は爪に色がついているな。
――ええ、先日いらした行商人に爪紅をいただいたんです!ロゼリアというポケモンの花で作ったそうで。
――そうか。よい色だ。……どれ。
――まあ!ファイヤー様の爪も赤く……!
――これで汝と揃いだな。
「染料はロゼリアの花か」
「はい。色も香りもよくて。ご存知だったのですか?」
「……いや、なんとなく、そうではないかと」
ファイヤーはゆっくり頭を振り、女の爪と顔を順に見やった。
「よい色だ」
「あ、ありがとうございます……!嬉しいです」
爪と同じように頬を赤く染めた女が笑う。
――ありがとうございます。嬉しいです。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
*
それは、ファイヤーが女と出会ってから初めてのことだった。
ファイヤーはいつも通り濡れ縁に腰かけて女を待っていたが、日が傾き始めてからようやく違和感を覚えた。
毎日同じ時間に訪れていた女が、まだ姿を見せていない。胸の内に知らないざわめきが立つ。
じんつうりきで山中の気配を探る。……いた。思いのほか近い。そのまま己の体を浮かせ、女の気配がする方へ向かう。人の姿をしていてもその身から放たれるプレッシャーは強大で、山に住むポケモンたちは間違っても出くわさぬよう迅速に距離を取った。
女は斜面の下でうずくまっていた。あちこち土で汚れ、細かい傷がついているが、最も重症なのは右足か。
「ファイヤー、様……?」
振り向いた女の表情が怯えと恐怖から安堵に変わる。ファイヤーは近くに生えていたクスリソウをじんつうりきで引き抜き、「足を出せ」と告げた。
あらわになった右の足首は赤く腫れ上がっていた。再びじんつうりきを用いてクスリソウを絞り、その液を数滴患部に垂らすと、静かに赤みが引いていく。
「まだ痛みはあるか」
「いいえ。ありがとうございます……!」
「何故ひとりでここにいる。
「……ケーシィは、昨晩から目を覚まさなくなってしまったのです。お医者様に診ていただいても原因不明で……。少しでもあの子に元気になって欲しくて、キングリーフを探していました」
女は視線を落として唇を噛みしめる。ファイヤーはゆっくり瞬きし、周囲に視線を巡らせた。
「ここで少し待て」
そう言うなり姿を消したファイヤーに女は唖然とするが、大人しく膝を抱えて待つ。やがて数分もしないうちに戻ってきたファイヤーは、女の足元に大量のオボンの実を落とした。
「食べろ。力がつく。……それから、これを」
じんつうりきでそっと膝の上に乗せられたのは、光り輝くハーブの王様――キングリーフ。女がどれだけ探しても見つからなかったものが、今目の前にあった。
「ああ……ありがとうございます、ありがとうございます……!」
肩を震わせて深く頭を下げる女にファイヤーは頷きを返す。胸の内の妙なざわめきはいつの間にか静まっていた。
女がキングリーフと食べきれなかったオボンの実を鞄に収めた頃、空は薄闇色に染まり始めていた。微かにポケモンの遠吠えが聞こえたが、隣を歩くファイヤーのおかげで少しも怖くはなかった。
太陽が沈みきる前に村へ続く道にたどりついた。女はほっと顔を緩め、ファイヤーに向き合う。
「ファイヤー様、こちらまでで十分です」
「そうか」
夕日を受けて朱に染まった女の頬がやわらかな笑みを湛える。
「ファイヤー様。助けていただき誠にありがとうございました。……また明日」
――さようなら、ファイヤー様。また明日。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
長い黒髪が舞い、夕焼けと同じ色の瞳が弧を描く。目の前の景色と覚えのない光景が朧げに重なり合う。
「ああ。……また、明日」
ファイヤーの言葉と表情に女は見開いた目を細め、深々と一礼してから帰路に着いた。
遠ざかる背を見送るなか、ふいに先程と異なる声が響く。
――君といいエンテイといい、たったひとりにいつまでもご執心とは随分まめだねえ。やはりほのおタイプだから情熱的なのかい?見習いたいものだよ。
冷やかすようなこの声は……そうだ、フリーザーのもの。
同胞たちの声は、名は、顔は、思い出せる。なのに何故、
どうでもいい。巡りかけた思考を放棄して踵を返す。
ざらざらと、砂の零れる音がする。
それはなんだか、いつもより大きく響いた。
*
翌朝、女が社を訪れたのはいつもより早い時間だった。乱れた呼吸を整えもせず、珍しく大きな声を出す。
「ファイヤー様!ケーシィが目を覚ましました!」
ぽろぽろと、夕焼け色から雨が降る。とめどなくあふれては頬を伝っていく。
「いただいたキングリーフを飲ませたら、ようやく……!まだ病み上がりで、引き続きお医者様のもとに預かっていただいているのですが……本当に、よかった……!」
それを私に伝えたいがために、まだ日も昇りきらないうちに、ポケモンも連れず、息を切らしてやってきたというのか。
胸の内が奥までざわめく。
「ファイヤー様のおかげです。何度お伝えしても尽きません。本当にありがとうございます……!」
そう言って笑う薄紅に染まる頬の、やわらかそうなこと。
触れたい。ごく自然に胸をよぎった。そのまま腕を伸ばし、赤を乗せた指先が女の頬に触れる。
――その途端、女の全身は瞬時に灰と化し、ざらりとファイヤーの足元に降り積もった。
微かに首を傾げてゆっくり瞬きしたファイヤーは、数拍置いて「ああ」と合点がいく。
「そういえば、ニンゲンは簡単に死ぬのだったな。脆いものだ」
焚き火で暖を取ることはできても、触れれば火傷をするのは至極当然のこと。ファイヤーがその身に宿す炎と熱は、人間にとって火傷程度で済むような代物ではなかった。故に。
気付けば胸のざわめきは凪いでいる。不思議な離れがたさも、もうない。
ファイヤーは人の姿を解いて上空へ飛び立った。羽ばたきの際に生じた風がかつて女の形をしていた灰を山中に吹き散らす。それにファイヤーは気が付かない。あるいは気にも留めない。
……はて。ニンゲンは簡単に死ぬ、と初めて知ったのはいつだったか。
ざらざらと、砂の零れる音がする。いいや、砂ではない、灰だ。この両手から零れている。あれは確か、遥か昔――。
記憶の糸を手繰ろうと伸ばしかけた手を、そのまま降ろした。
どうでもいい。どうせすぐに忘れてしまう。
気怠げに飛翔しながら大きく欠伸をする。翼で弾けた火の粉が一粒、羽ばたきの風圧に押し潰され、消えた。
Fin.
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