番外編・SS

【ヒザマとロギの出会い】
「ごきげんよう。お会いできて光栄ですわ、〝灰燼〟ロギ」「あなた、わたくしのペットになりませんこと?毎日三食殺戮おさんぽつきですわ。いい条件ではなくて?」
「何でもいい。オレを滾らせる者と戦えるならば、貴様のようなガキにも飼われてやる」
「うふふ、お利口ですわね」「どうぞよろしくお願いしますわ、わたくしのくだかけさん」


【ロギの最期】
 80を過ぎたあたりから男の肉体は急激に衰えた。目は霞み、足下が覚束無くなり、ついには自力で起き上がることもままならなくなった。全盛期はとうに過ぎたとはいえ、己の最強に果てはないと思い込んでいたのに。
 少女は甲斐甲斐しく男の世話を焼いた。最先端の医療器具に囲まれた、塵ひとつない清潔な部屋で。

「うふふ、自死なんて許しませんことよ、わたくしのくだかけさん。きちんと天寿を全うして死んでくださいな」

 男は黙ってされるがまま少女の献身を受け入れた。いつの間にか随分背が伸びた少女に支えられ、己の肉体がいかに脆く弱いものになったのか突きつけられては絶望する。
 それでも男はただの一度も「貴様でいいからオレを殺せ」と言わなかった。自死も餓死も介錯も全て敗北。そんな敗北は不要。戦場での敗北しか許さない、認めない、必要ない。たとえ無様に老いさらばえて、最強のまま死ねないとしても。

「おいガキ」
「なんですの、わたくしのくだかけさん」
オレが死んだら灰にしろ。後は貴様の自由だ」
「あら。それでは半分は空へ、半分は土へ。残ったひと握りはわたくしがいただきますわ」

 くすくす笑う少女へ好きにしろ、と返したつもりだが届いているかわからない。届かなくても構わない。無意味で無駄なやりとりだ。
 目を開けることすら面倒で微睡みの中へ沈んでいく。これで終わりか。このオレが。戦場以外でくたばるとは。

 ああ、なんと、渇きに満ちた生涯か。

「おやすみなさい。わたくしの可愛いくだかけさん」

 癒えぬ渇きを満たそうと砂漠であがき続け、ついぞ水に手が届かないまま息絶えた男のことを、少女はずっと覚えている。
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