Dear my cherry blossom/side:G
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09※
「ギナが殺したいもうひとりはどこにいるの?今から殺しに行こうよ」
弾んだ声で言うおれに、ギナは「まだ駄目だ」と首を振る。
「今の俺たちにあのひとを殺せる力はない。確実に殺せるようにならなくては。……あのひとを殺せるなら、俺も殺せる」
「ふふ、ギナの〝殺したい〟は全然楽しそうじゃないね」
「憎しみで殺意を抱くこともある。君にはわからないだろうがな」
そういうものなのかな。おれはこんなにドキドキふわふわしてるのに、ギナはそうじゃないみたい。
握った拳を見つめる赤い眼差しには濃く深い殺意。いいなあ、いいなあ。
「まずは力を蓄える。ここは……俺の血を撒きすぎたな。場所を変えよう」
ギナはちらりと足元を見下ろし、小さく息を吐いた。ボコボコになった地面をじならしで元の形に整えていく。あーあ、ギナの血の跡も消えちゃった。
影の中を通ってやってきたのはメモリアルヒル。アーカラ島 でよかった。いくらどこにでも行けるったって遠いところは疲れちゃうし。
ゴースやボクレーがちらほらいるだけで、人の気配はない。――いや。
ばっと見上げると空にひびが入っている。それは大きな穴になって、中から白いトゲトゲの塊が現れた。トゲトゲに束ねた黒いケーブルみたいなものが5つくっついている。
ざわざわざわっ、一気に肌が粟立つ。脳が、体が、これ と向き合うことを拒絶する。……けど、どこか、なつかしい気がするのは、なんでだろう。
「奴はデンジュモク。でんきタイプのウルトラビーストだ。こんなに早く会えるとはな」
でんじゅもく。うるとらびーすと。はじめて耳にする言葉たち。だけど聞いてる場合じゃないみたい。デンジュモクは「デンショック!!」と大きく吠え、真っ赤なオーラで身を包んだ。頭の中で鳴り響く警鐘がさらに喚き出す。
向こうはとっくに臨戦態勢で、手みたいな黄色のケーブルを突き出して青い火花をばちばちさせている。顔がないから表情はわからないけど、怯えてる。痛いくらい敵意と警戒心がむき出しだ。
「説明は後だ。生け捕りにしろ。くれぐれも殺すなよ」
「うん」
襲い来るほうでんをかわして、こごえるかぜを放つ。おれはじめん技が使えないからサポートに回ろう。
かなしばりでほうでんを封じ、その隙にギナのだいちのちからがデンジュモクを貫く。ケーブルの隙間からごぷりと青い液体があふれる。畳みかけるように投げたシャドーボールは、パワーウィップでまっぷたつにされた。あは、ギナみたいなことするなあ。
攻撃はギナに任せて、かなしばりとこごえるかぜを中心に妨害工作に専念する。デンジュモクはおれよりギナが怖いみたいで、執拗にギナを攻撃した。チャージビーム、10まんボルト、かみなり、でんじほう、でんげきは。常に一定の距離を保ち、少しでも近づこうものなら電撃で威嚇して近寄らせない。
ギナもいつもと少し様子が違う。やりづらそうというか、慎重すぎるというか。ひかりのかべを張り巡らせ、その上で襲ってくる電撃に技をぶつけて相殺してる。
2対1だし当然だけど、デンジュモクの動きがどんどん鈍ってきた。あと一押し、ふたりでヘドロばくだんを放とうとして――かなしばりとひかりのかべが同時に切れた。瞬きの間にデンジュモクのチャージビームがギナの右肩を射抜く。
「があッ……!」
でんき技はくさタイプに効果はいまひとつ。そのはずなのに。ギナは大きく顔を歪め、ぐらりと体勢を崩した。なんとか倒れずに踏ん張ったけど、呼吸は荒く乱れ、真っ赤に染まった右肩からどくどく大量の血があふれている。まるで効果抜群の技が直撃したみたいに。
「ギナ!」
「構うな!もう少しだ、早く仕留めろ!」
デンジュモクの両手がばちばち激しく鳴り響く。たった一撃であれだけ大ダメージなら、これ以上何もさせない。
スモッグで目くらましして、全身に赤いオーラをみなぎらせる。ギナにずっと「使うな」って言われてたけど、確実にとどめを刺すにはこれしかない。
「シャドークロー!」
巨大な漆黒の爪を振り下ろす。ビニールを引き裂くような感触、飛び散る青。自然と口端が吊り上がる。あったかい。もっとちょうだい。
もう一度爪を振るおうとして――「止まれ」というギナの声で踏みとどまった。
「殺すなと、言っただろう。もう十分だ」
ギナが右肩を抑えながらふらふらやってくる。足元に転がるデンジュモクはもう虫の息だ。深く息を吐いてオーラを中にしまう。
ギナもゆっくり呼吸を整え、右腕を太くて大きな根っこに変えた。先端が鋭くて、さっきギナを串刺しにしたやつとよく似てる。
「……順を追って話そう。彼らはウルトラビーストと呼ばれる、異世界の存在だ。俺と彼らは互いに天敵でな。例えるなら、ゴーストタイプの弱点がゴーストタイプであるようなものか。……ゆえに。俺とあのひとを殺すには、この力が必要だ」
ギナの視線が右肩に向けられる。まだ血が止まらないみたいで、どんどん赤が浸食していく。さっきはお腹に穴が開いてもすぐ塞がったのに。
「これ で確証を得た。俺に効くならあのひとにも有効だ。この力があれば……きっと、殺せる」
思いつめた表情の奥で殺意と憎悪が燃えている。ああ、きれいだ。
ギナの左手が根っこの腕にそっと触れた。ほんの少し、伏せられた眼差しに浮かぶいろが変わる。
「俺には相手の力を〝奪う力〟がある。これでウルトラビーストの力……オーラを奪い取る。奪って奪って奪い尽くして、殺せるだけの力を蓄える。そして、もうひとつの〝与える力〟で君にもオーラを与える。俺と君でオーラを奪い、使いこなし、殺す」
ギナの赤がおれを映す。それだけで心臓がうるさく跳ねた。
楽しみだなあ。きみを殺すのも、きみに殺されるのも。それに、ウルトラビーストと遊ぶ のも楽しかった。これからあの子たちとたくさん遊べる んだ。口が緩むのを止められない。
「もう一度言うが、殺すなよ。俺が〝奪う〟ことができるのは俺が殺した相手 だけだ。君が殺しては意味がない」
ニヤニヤしてたらしっかり釘を刺された。「事情が変わった」ってだけで〝彼女の前で殺すな 〟は有効だし、なんならもうひとつ殺しちゃいけない理由が増えた。まあいっか、それさえ守ればもっといいものが待ってるんだから。
「そういえば、おれもオーラ出せるけど、これもウルトラビーストの力なの?」
「そうだ。君はFallだから、彼らと同じ力を持っている。使いこなすのは容易だろう」
おれたちの世界とウルトラビーストの世界を繋ぐ穴――ウルトラホールを通ったひとのことを、Fallって呼ぶんだって。Fallはウルトラホールのエネルギーをたくさん浴びたから、ウルトラビーストを引き寄せる体質になったり、オーラをまとえるようになったりするらしくて、おれは両方だったみたい。
不意にぴく、と足元のデンジュモクが身じろぎする。瀕死だからそのまま転がしてたけど、逃げられたら困るしちゃんと縛っとけばよかった。次からそうしよう。
ギナも「喋り過ぎたな」と呟いて、ようやく傷の塞がった右腕を持ち上げた。槍のように鋭い腕でデンジュモクを一気に貫いた。デンジュモクは青を撒き散らしながらびくんと仰け反り、それきり動かなくなる。ギナの手つきも眼差しも、明らかに殺し慣れてる。ふふ、やっぱり。
誰かを殺す感触は久しく味わってない。それに、殺されるってどんな感じだろう。いいなあ、いいなあ、いいなあ。おれも殺したい。おれも殺されたい。
でも、しばらくがまんしよう。腹ぺこの時に食べるごはんがすっごくおいしいみたいに、がまんして、がまんして、やっと手に入れたなら――きっといちばん、きらきらしてる。
動かなくなった黒い体から赤いオーラをゆっくり吸い上げていく。途端にギナの顔がぐしゃりと歪み、低い声で呻いた。
「あ、あ゛あ゛あ゛ァ……!!ッうあ、ぁ、は、あ゛、あぐ、ぅ゛、うぅ、」
額や首筋は汗びっしりで、呼吸もひどく乱れている。咳き込んだ拍子に手のひらにごぼっと血があふれた。今にも崩れ落ちそうで、そっと肩を支えると、何か言いたげな視線が向けられたけど、無言のまま逸らされた。
体がこんなに拒絶してるのに、ギナはお構いなしに奪い続ける。ギナの瞳に映るのは、痛み、苦しみ、憎しみ。口の中であふれた熱をひっそり飲み下す。
やがてぜんぶ吸い尽くしたのか、ふっと赤い光が消えた。同時にギナがぐらりと傾いて、慌てて支え直す。
「お水とか持ってこようか?」
「ッはあっ、はあ……っ、……構うな。どうせ、すぐに治る」
ギナは口端に滲む血を乱暴に拭い、青く濡れた根っこをおれに巻き付けた。赤い光がギナからおれへ流れ込んでくる。
――どくん。心臓が大きく跳ね上がる。体が熱い。進化した時みたいに、ううんそれ以上に、力がどんどんあふれてくる。熱くてびりびりしてふわふわして楽しくて、殺 したい、殺 したい、殺 したい!!
パアンッ。高く乾いた音と頬に走る痛みで、はっと我に返る。
「悪いな。今は、少々……加減が利かない」
つるのムチをゆらゆらさせながら全然悪いと思ってない顔で言う。今日はずっと様子がおかしかったから、いつもみたいなふてぶてしい感じにちょっと安心する。
口の中が切れたのか、じわりと血の味がした。そしたらまた体が熱くなって――パアンッ。
散々ひっぱたかれたから、オーラを移し終わる頃には、おれの顔はマトマの実みたいに真っ赤になっていた。
「まったく、余計な手間をかけさせるな」
「ごめん……」
ため息まじりのギナは、オーラを半分手放したからか、少しだけ顔色がよくなった。それにほっと胸を撫で下ろす。
「ねえギナ、オーラもう少しもらおうか?」
「駄目だ。欲しければあてられても 自力で耐えられるようになれ。……それに、俺もこの力を使いこなさなくては」
根っこだった腕をヒト型に戻し、ぎゅっと握りしめる。赤く淡い光がギナの拳にまとい、すぐに弾けて消えた。ギナの眉間のしわが深くなる。
「どうしてギナはオーラが使えないの?ウルトラビーストでもFallでもないから?」
「いいや。……俺が、そういうもの だからさ」
ギナの視線が下に落ちる。表情は前髪で隠されて、「これ以上踏み込むな」って言われてるみたいだ。そんな顔、させたいわけじゃなかったんだけどな。
話題を変えようと、温度を失ったデンジュモクを抱え上げる。
「これ、どうするの?」
「ヘドロばくだんで跡形もなく溶かす。死体が見つかったら面倒だからな」
「じゃあ食べていい?おなかすいちゃった」
「構わない。残すなよ」
ゲンガーの主食は形あるものじゃないけど、おれは昔からお肉がすきだった。いただきます、とデンジュモクのトゲトゲにかぶりつく。
……?なんか、なんだろ、はじめてじゃない、ような。
「どうした」
「なんか、食べたことある味だなって。どこで食べたか思い出せないけど」
首を傾げながら答えると、ギナがはっと目を見開いた。
「……そうか。オーラの馴染みがやけに早いと思ったが……ウルトラビーストの細胞を摂取していたのか」
「よくわかんないけど、ギナも食べる?」
腕みたいなところを差し出すと、ギナは受け取りはしてもなかなか口をつけなかった。しばらくじっと見つめ合い、ようやく黒いケーブルをひとつ噛みちぎった。無言のまま咀嚼してごくりと飲み込む。
「……不味い」
不機嫌そうな顔と声がおかしくて思わずくつくつ笑うと、ジト目で睨まれた。これ以上笑ったらまたつるのムチが飛んできそうだから、デンジュモクを口いっぱい詰め込んで誤魔化す。
結局ギナが食べたのはひとくちだけで、残りはぜんぶおれが平らげた。よっぽど口に合わなかったみたい。
だけどオーラを使いこなすにはウルトラビーストを食べるのが近道らしくて、ギナが血を、おれが肉を食べることになった。死体も処理できて一石二鳥だって。
「これから毎夜、ウルトラビーストを探す。見つけ次第俺を呼べ。殺さなければ遊んで 構わん」
「うん」
上機嫌に頷く。遊ぶ のはもちろん、ギナの殺意に燃える眼差しも、血を吐きながらオーラを飲み込む姿も、楽しみでしかたない。
ギナのいろんな顔が見れて、殺す約束と殺される約束をして、はじめてウルトラビーストと遊んで 。今日はなんていい日だろう。なんでこうなったんだっけ。
いつの間にか、真上にいた月が随分傾いていた。そろそろ空の端が白み始める頃だ。まあいっか。〝約束〟のために頑張ることに変わりはない。
どぷん、影の中へ沈む。ちらりとギナの右肩を見れば、すっかり元通りだ。肩と一緒に穴が開いた着物も綺麗になっていて、染みひとつ残ってない。それが少し名残惜しい。
もっとたくさんオーラを集めて、もっと使いこなせるようになったら、おれもギナの血を浴びれるかな。ギナの殺意を向けてもらえるかな。
ふふ、楽しみだなあ。
「ギナが殺したいもうひとりはどこにいるの?今から殺しに行こうよ」
弾んだ声で言うおれに、ギナは「まだ駄目だ」と首を振る。
「今の俺たちにあのひとを殺せる力はない。確実に殺せるようにならなくては。……あのひとを殺せるなら、俺も殺せる」
「ふふ、ギナの〝殺したい〟は全然楽しそうじゃないね」
「憎しみで殺意を抱くこともある。君にはわからないだろうがな」
そういうものなのかな。おれはこんなにドキドキふわふわしてるのに、ギナはそうじゃないみたい。
握った拳を見つめる赤い眼差しには濃く深い殺意。いいなあ、いいなあ。
「まずは力を蓄える。ここは……俺の血を撒きすぎたな。場所を変えよう」
ギナはちらりと足元を見下ろし、小さく息を吐いた。ボコボコになった地面をじならしで元の形に整えていく。あーあ、ギナの血の跡も消えちゃった。
影の中を通ってやってきたのはメモリアルヒル。
ゴースやボクレーがちらほらいるだけで、人の気配はない。――いや。
ばっと見上げると空にひびが入っている。それは大きな穴になって、中から白いトゲトゲの塊が現れた。トゲトゲに束ねた黒いケーブルみたいなものが5つくっついている。
ざわざわざわっ、一気に肌が粟立つ。脳が、体が、
「奴はデンジュモク。でんきタイプのウルトラビーストだ。こんなに早く会えるとはな」
でんじゅもく。うるとらびーすと。はじめて耳にする言葉たち。だけど聞いてる場合じゃないみたい。デンジュモクは「デンショック!!」と大きく吠え、真っ赤なオーラで身を包んだ。頭の中で鳴り響く警鐘がさらに喚き出す。
向こうはとっくに臨戦態勢で、手みたいな黄色のケーブルを突き出して青い火花をばちばちさせている。顔がないから表情はわからないけど、怯えてる。痛いくらい敵意と警戒心がむき出しだ。
「説明は後だ。生け捕りにしろ。くれぐれも殺すなよ」
「うん」
襲い来るほうでんをかわして、こごえるかぜを放つ。おれはじめん技が使えないからサポートに回ろう。
かなしばりでほうでんを封じ、その隙にギナのだいちのちからがデンジュモクを貫く。ケーブルの隙間からごぷりと青い液体があふれる。畳みかけるように投げたシャドーボールは、パワーウィップでまっぷたつにされた。あは、ギナみたいなことするなあ。
攻撃はギナに任せて、かなしばりとこごえるかぜを中心に妨害工作に専念する。デンジュモクはおれよりギナが怖いみたいで、執拗にギナを攻撃した。チャージビーム、10まんボルト、かみなり、でんじほう、でんげきは。常に一定の距離を保ち、少しでも近づこうものなら電撃で威嚇して近寄らせない。
ギナもいつもと少し様子が違う。やりづらそうというか、慎重すぎるというか。ひかりのかべを張り巡らせ、その上で襲ってくる電撃に技をぶつけて相殺してる。
2対1だし当然だけど、デンジュモクの動きがどんどん鈍ってきた。あと一押し、ふたりでヘドロばくだんを放とうとして――かなしばりとひかりのかべが同時に切れた。瞬きの間にデンジュモクのチャージビームがギナの右肩を射抜く。
「があッ……!」
でんき技はくさタイプに効果はいまひとつ。そのはずなのに。ギナは大きく顔を歪め、ぐらりと体勢を崩した。なんとか倒れずに踏ん張ったけど、呼吸は荒く乱れ、真っ赤に染まった右肩からどくどく大量の血があふれている。まるで効果抜群の技が直撃したみたいに。
「ギナ!」
「構うな!もう少しだ、早く仕留めろ!」
デンジュモクの両手がばちばち激しく鳴り響く。たった一撃であれだけ大ダメージなら、これ以上何もさせない。
スモッグで目くらましして、全身に赤いオーラをみなぎらせる。ギナにずっと「使うな」って言われてたけど、確実にとどめを刺すにはこれしかない。
「シャドークロー!」
巨大な漆黒の爪を振り下ろす。ビニールを引き裂くような感触、飛び散る青。自然と口端が吊り上がる。あったかい。もっとちょうだい。
もう一度爪を振るおうとして――「止まれ」というギナの声で踏みとどまった。
「殺すなと、言っただろう。もう十分だ」
ギナが右肩を抑えながらふらふらやってくる。足元に転がるデンジュモクはもう虫の息だ。深く息を吐いてオーラを中にしまう。
ギナもゆっくり呼吸を整え、右腕を太くて大きな根っこに変えた。先端が鋭くて、さっきギナを串刺しにしたやつとよく似てる。
「……順を追って話そう。彼らはウルトラビーストと呼ばれる、異世界の存在だ。俺と彼らは互いに天敵でな。例えるなら、ゴーストタイプの弱点がゴーストタイプであるようなものか。……ゆえに。俺とあのひとを殺すには、この力が必要だ」
ギナの視線が右肩に向けられる。まだ血が止まらないみたいで、どんどん赤が浸食していく。さっきはお腹に穴が開いてもすぐ塞がったのに。
「
思いつめた表情の奥で殺意と憎悪が燃えている。ああ、きれいだ。
ギナの左手が根っこの腕にそっと触れた。ほんの少し、伏せられた眼差しに浮かぶいろが変わる。
「俺には相手の力を〝奪う力〟がある。これでウルトラビーストの力……オーラを奪い取る。奪って奪って奪い尽くして、殺せるだけの力を蓄える。そして、もうひとつの〝与える力〟で君にもオーラを与える。俺と君でオーラを奪い、使いこなし、殺す」
ギナの赤がおれを映す。それだけで心臓がうるさく跳ねた。
楽しみだなあ。きみを殺すのも、きみに殺されるのも。それに、ウルトラビーストと
「もう一度言うが、殺すなよ。俺が〝奪う〟ことができるのは
ニヤニヤしてたらしっかり釘を刺された。「事情が変わった」ってだけで〝
「そういえば、おれもオーラ出せるけど、これもウルトラビーストの力なの?」
「そうだ。君はFallだから、彼らと同じ力を持っている。使いこなすのは容易だろう」
おれたちの世界とウルトラビーストの世界を繋ぐ穴――ウルトラホールを通ったひとのことを、Fallって呼ぶんだって。Fallはウルトラホールのエネルギーをたくさん浴びたから、ウルトラビーストを引き寄せる体質になったり、オーラをまとえるようになったりするらしくて、おれは両方だったみたい。
不意にぴく、と足元のデンジュモクが身じろぎする。瀕死だからそのまま転がしてたけど、逃げられたら困るしちゃんと縛っとけばよかった。次からそうしよう。
ギナも「喋り過ぎたな」と呟いて、ようやく傷の塞がった右腕を持ち上げた。槍のように鋭い腕でデンジュモクを一気に貫いた。デンジュモクは青を撒き散らしながらびくんと仰け反り、それきり動かなくなる。ギナの手つきも眼差しも、明らかに殺し慣れてる。ふふ、やっぱり。
誰かを殺す感触は久しく味わってない。それに、殺されるってどんな感じだろう。いいなあ、いいなあ、いいなあ。おれも殺したい。おれも殺されたい。
でも、しばらくがまんしよう。腹ぺこの時に食べるごはんがすっごくおいしいみたいに、がまんして、がまんして、やっと手に入れたなら――きっといちばん、きらきらしてる。
動かなくなった黒い体から赤いオーラをゆっくり吸い上げていく。途端にギナの顔がぐしゃりと歪み、低い声で呻いた。
「あ、あ゛あ゛あ゛ァ……!!ッうあ、ぁ、は、あ゛、あぐ、ぅ゛、うぅ、」
額や首筋は汗びっしりで、呼吸もひどく乱れている。咳き込んだ拍子に手のひらにごぼっと血があふれた。今にも崩れ落ちそうで、そっと肩を支えると、何か言いたげな視線が向けられたけど、無言のまま逸らされた。
体がこんなに拒絶してるのに、ギナはお構いなしに奪い続ける。ギナの瞳に映るのは、痛み、苦しみ、憎しみ。口の中であふれた熱をひっそり飲み下す。
やがてぜんぶ吸い尽くしたのか、ふっと赤い光が消えた。同時にギナがぐらりと傾いて、慌てて支え直す。
「お水とか持ってこようか?」
「ッはあっ、はあ……っ、……構うな。どうせ、すぐに治る」
ギナは口端に滲む血を乱暴に拭い、青く濡れた根っこをおれに巻き付けた。赤い光がギナからおれへ流れ込んでくる。
――どくん。心臓が大きく跳ね上がる。体が熱い。進化した時みたいに、ううんそれ以上に、力がどんどんあふれてくる。熱くてびりびりしてふわふわして楽しくて、
パアンッ。高く乾いた音と頬に走る痛みで、はっと我に返る。
「悪いな。今は、少々……加減が利かない」
つるのムチをゆらゆらさせながら全然悪いと思ってない顔で言う。今日はずっと様子がおかしかったから、いつもみたいなふてぶてしい感じにちょっと安心する。
口の中が切れたのか、じわりと血の味がした。そしたらまた体が熱くなって――パアンッ。
散々ひっぱたかれたから、オーラを移し終わる頃には、おれの顔はマトマの実みたいに真っ赤になっていた。
「まったく、余計な手間をかけさせるな」
「ごめん……」
ため息まじりのギナは、オーラを半分手放したからか、少しだけ顔色がよくなった。それにほっと胸を撫で下ろす。
「ねえギナ、オーラもう少しもらおうか?」
「駄目だ。欲しければ
根っこだった腕をヒト型に戻し、ぎゅっと握りしめる。赤く淡い光がギナの拳にまとい、すぐに弾けて消えた。ギナの眉間のしわが深くなる。
「どうしてギナはオーラが使えないの?ウルトラビーストでもFallでもないから?」
「いいや。……俺が、
ギナの視線が下に落ちる。表情は前髪で隠されて、「これ以上踏み込むな」って言われてるみたいだ。そんな顔、させたいわけじゃなかったんだけどな。
話題を変えようと、温度を失ったデンジュモクを抱え上げる。
「これ、どうするの?」
「ヘドロばくだんで跡形もなく溶かす。死体が見つかったら面倒だからな」
「じゃあ食べていい?おなかすいちゃった」
「構わない。残すなよ」
ゲンガーの主食は形あるものじゃないけど、おれは昔からお肉がすきだった。いただきます、とデンジュモクのトゲトゲにかぶりつく。
……?なんか、なんだろ、はじめてじゃない、ような。
「どうした」
「なんか、食べたことある味だなって。どこで食べたか思い出せないけど」
首を傾げながら答えると、ギナがはっと目を見開いた。
「……そうか。オーラの馴染みがやけに早いと思ったが……ウルトラビーストの細胞を摂取していたのか」
「よくわかんないけど、ギナも食べる?」
腕みたいなところを差し出すと、ギナは受け取りはしてもなかなか口をつけなかった。しばらくじっと見つめ合い、ようやく黒いケーブルをひとつ噛みちぎった。無言のまま咀嚼してごくりと飲み込む。
「……不味い」
不機嫌そうな顔と声がおかしくて思わずくつくつ笑うと、ジト目で睨まれた。これ以上笑ったらまたつるのムチが飛んできそうだから、デンジュモクを口いっぱい詰め込んで誤魔化す。
結局ギナが食べたのはひとくちだけで、残りはぜんぶおれが平らげた。よっぽど口に合わなかったみたい。
だけどオーラを使いこなすにはウルトラビーストを食べるのが近道らしくて、ギナが血を、おれが肉を食べることになった。死体も処理できて一石二鳥だって。
「これから毎夜、ウルトラビーストを探す。見つけ次第俺を呼べ。殺さなければ
「うん」
上機嫌に頷く。
ギナのいろんな顔が見れて、殺す約束と殺される約束をして、はじめてウルトラビーストと
いつの間にか、真上にいた月が随分傾いていた。そろそろ空の端が白み始める頃だ。まあいっか。〝約束〟のために頑張ることに変わりはない。
どぷん、影の中へ沈む。ちらりとギナの右肩を見れば、すっかり元通りだ。肩と一緒に穴が開いた着物も綺麗になっていて、染みひとつ残ってない。それが少し名残惜しい。
もっとたくさんオーラを集めて、もっと使いこなせるようになったら、おれもギナの血を浴びれるかな。ギナの殺意を向けてもらえるかな。
ふふ、楽しみだなあ。