Dear my cherry blossom/side:G
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
07
旅がひと段落したおれたちは、ジョウト地方にやってきた。ポケモンドクター養成学校に通うために。
ご主人は小さい頃からポケモンドクターになりたくて、でもカントーには養成学校がないから、隣のジョウトにやってきたんだ。
ちなみに、入学するのはご主人だけじゃなくておれも。ギナが「この際君も医師免許を取っておけ」って。
「ギナが言うならもちろんやるけど。おれ、がっこうもべんきょうもはじめてだよ。ちゃんとできるかなあ」
「できるかできないかじゃない。やれ」
そう言って〝にゅうがくしけん〟まで読み書きを筆頭にいろんな知識を叩きこまれた。今まで教えてくれたのはバトルの修行 と一緒だったから覚えやすかったけど、じっと座ったまま頭に詰め込むのはむずかしい。
苦戦するおれを見かねたのか、珍しくギナがアドバイスをくれた。
「医学の勉強は君にとっても有益だ。生かすと殺すは表裏一体だからな」
言われてみれば、ギナがくれた本には生き物はどうすれば死ぬのか、どうすれば死なないのかがたくさん書いてあった。ギナから「殺しちゃだめ」って言われてるし、これを覚えたらうっかり殺しちゃうこともなくなりそうだ。それに、たくさん死なせ方を知っていれば、いつかギナを殺す時に役立つはず。
そこから苦手だったべんきょうも楽しくなって、どんどんいろんなことを覚えていった。おかげで〝にゅうがくしけん〟は一発合格。春からご主人とふたりで学校生活だ。まあ学校に行かないってだけでみんなも一緒なんだけど。
いっぱいいっぱいべんきょうして、気付けば5年経っていた。ご主人は18歳。ニンゲンでいう〝おとな〟なんだって。そういえば、出会った頃はずいぶん小さかったのに今は目線が近くなったかも。
一方おれはあんまり背が伸びなくて、ギナよりもトビーくんよりも低いままだった。いいなあ、大きい方がパワーが出やすいのに。
トビーくんと言えば。最近ふらっとどこへ行っちゃうことが増えたような。ひとりでいるのが好きみたいだから時々いなくなることはあったけど、今までと違う のは、死の匂いが濃くなっている。「死にたい」だけじゃない、「死が近付いてる」匂い。ご主人のきらきらは増す一方なのに、トビーくんのは少しずつ弱まっていた。このままどんどん弱く小さくなっちゃうなら、いっそ――。
じゅわりと滲んだよだれを飲み込む。だめだめ、がまんしなきゃ。みんな殺しちゃだめだけど、特にトビーくんはだめって言われてるしね。もったいないけど仕方ない。
次の春からおれとご主人は卒業してポケモンドクターになる。といってもまだまだ見習いで、3年の研修期間を経たら晴れて一人前なんだって。
先生に呼ばれて、研修先の病院を告げられた。場所はホウエン地方。おれはご主人の手持ちだから同じところにしてくれたらしい。
「ホウエンかあ。はじめてだから楽しみだな」
「私も!どんなポケモンに会えるかしら」
弾んだ声のご主人がふとおれを見上げた。蜂蜜色とまっすぐ視線が絡まる。
「頑張ろうね、ゴーシュ。たくさん、たくさん、たくさん助けよう」
「うん」
相変わらず、まっすぐ過ぎて前しか見えない眼差し。どれだけ危ない目に遭おうと、どんなにトビーくんや手持ち が止めようと、ご主人は止まることなくただひたすらに前だけを見ていた。いいなあ、とってもきらきらしてる。
ギナにとってご主人がトクベツなのはこのきらきらが理由なのかな。ご主人が前だけ見てるように、ギナの視線の先にいるのはいつだってご主人だ。ふふっ、いいなあ。
あっという間に春が来て、おれとご主人は卒業式を迎えた。来月からはホウエンだ。その前に、一旦トキワシティ に行くんだって。
「……うん、荷物はこれでいいかな」
最終確認を済ませたご主人がリストから顔を上げる。その背中に「おい」と低い声が呼びかけた。
「なあに、トビー」
「俺のボールよこせ」
唐突な申し出に戸惑いながら、細い手が褐色の手に紅白のボールを乗せる。トビーくんはじっと手の中を見つめ――バキン、粉々に砕いた。蜂蜜色がめいっぱい見開かれ、震えた唇からか細い声が零れ落ちる。
「と、トビー……?」
「俺ァ行かねェ」
「そ……んな、どうして、」
「もう子守りはウンザリだ。これ以上付き合いきれねェ」
冷たく吐き出された言葉にご主人の伸ばしかけた手がびたりと止まる。しんと静まり返った部屋の中、トビーくんはほんの一瞬苦しそうな顔をして、おれたちに背を向けた。
「あばよ。精々長生きしやがれ」
バタン。トビーくんは一度も振り返らずにドアの向こうへ消える。ご主人は床に散らばったボールの破片をひとつひとつ拾い集め、ぎゅうっと抱きしめた。震えるその肩をギナが遠慮がちに撫でる。
それっきり、二度とトビーくんに会うことはなかった。
*
トビーくんがいなくなってご主人はすっかり落ち込んじゃった。手持ち の前ではいつも通り振舞おうとするものの、ふとした時に暗い顔をする。ギナも励まそうとあれこれ頑張ってるけど当のご主人は「私は大丈夫」の一点張り。頑固だなあ。さみしいならさみしいって言えばいいのに。おれ?もちろんさみしいよ。トビーくんのことだいすきだから。
トビーくん、今どこで何してるんだろ。窓の外を見ると真っ青な空と海が広がっている。道行くヒトやポケモンを目で追うけど、見慣れた紫のマントは当然見つからない。
それにしても、ホウエンって暑いなあ。ジョウトも結構暑かったけどその比じゃない。とけちゃいそう。
おれ以上にとけちゃいそうなのはジュゴンのジュリエットちゃん。陸に打ち上げられたコイキングみたいな顔でぐったりしてるから、ピジョットのピョートルくんが翼で一生懸命あおいであげてる。
「ヴィーナス。カイナシティの南にビーチがあるそうなんだが、行ってみないかい?ジュリエット嬢もこの様子だし、海辺で涼むのも一興ではないかな」
ビーチと聞いてジュリエットちゃんが飛び起きた。コイキングから一変、散歩前のガーディみたいに目をきらきらさせてる。
ホウエンに来てから1週間、研修がまだ始まらないからってご主人は部屋にこもって勉強三昧だった。「自分の休息のため」じゃなくて「手持ち のため」ってところが効いたみたいで、ご主人は小さく笑って頷いた。ギナの赤がほっとしたように緩む。ずっと心配してたもんね。
下宿先のアパートから徒歩10分。ビーチは賑わっていて、ヒトもポケモンもたくさんいた。
ほんとはパラソルの下でのんびりしたかったんだけど、ジュリエットちゃんにぐいぐい引っ張られて波打ち際までやってきた。原型に戻ったジュリエットちゃんが勢いよく海に飛び込んだ拍子にばしゃーんと大きな飛沫が上がる。ギナがリフレクターで守ったのは当然のようにご主人だけで、おれとピョートルくんは頭から水を被ってずぶ濡れ。あー、涼しい。
「……ふ、ふふっ、あはははは!もう、ジュリエットったらはしゃぎすぎ!こんな近くで飛び込んだらみんな濡れちゃうでしょ!」
ツボに入ったのか声を上げて笑うご主人。なんだか久しぶりに見た気がする。ギナも嬉しそう。よかった。
「ギナ、守ってくれてありがとう。にほんばれでふたりを乾かしてあげて」
「仰せのままに、ヴィーナス」
原型のおれたちの上から燦々と陽射しが降り注ぐ。ホウエンの気温も手伝って、びしょびしょの体はすぐに乾いた。乾かしてくれんなら最初から俺らも守ってくれよ、というピョートルくんの抗議は華麗にスルー。
にほんばれでまた暑くなっちゃったから、ヒト型になって裸足を海に浸した。水も泥も冷たくてきもちいい。ピョートルくんも海面すれすれに飛びながら飛沫を立てて遊んでる。あ、ジュリエットちゃんのみずでっぽう。顔をずぶ濡れにされたピョートルくんは、笑いながら逃げるジュリエットちゃんを追いかけ回す。元気だなあ。ご主人もそんなふたりを見てくすくす笑ってて、ご主人を見守るギナの視線もやわらかい。
「……ありがとう、みんな」
潮風が小さな声と桔梗色の髪をさらう。ギナが口を開きかけると、不意にダカッ、ダカッ、と大きな音。振り向けばオレンジ色の大きな蹄をしたポケモンが走り抜け、勢いよく泥の中にダイブした。嬉しそうに転げ回る姿はさっきのジュリエットちゃんみたいだ。
「おいジンコ!勝手にどっか行くな!」
トレーナーらしい男の子が息切れしながら追いかけてくる。オレンジ色のもじゃもじゃ頭に海みたいな青い瞳。あれ?どこかで見たような……。
「……ホウヤ?」
「あ?」
ぽつり、ご主人の呟きに男の子がこっちを見る。ホウヤ。聞き覚えある気がするんだけど、なんだっけ。
訝しむような男の子の視線にご主人はあわてて頭を下げた。
「と、突然ごめんなさい。あの、人違いじゃなければ、あなたマリエシティのホウヤ……よね?」
「……そーだけど」
「やっぱり!私、あなたと子どもの頃にカントーで通信交換したんだけど、覚えてる?」
「……あ!!サニアか!ゲンガーの!」
「ええ!久しぶり!」
そのやりとりで思い出す。そうか、おれが進化してはじめてバトルしたひとだ。懐かしいなあ。
「まさかこんなとこでまた会うなんて。ケララッパとゴローニャは元気?」
「おう。今はケララッパじゃなくてドデカバシだけどな」
ホウヤくんが指笛を吹くと、大きな嘴の鳥ポケモンが舞い降りてきた。空色のきりっとした目がおれたちを見てまんまるになる。
『君たちは……以前カントーで会ったな。また会えたこと、嬉しく思う』
「おー、さすがよく覚えてんな」
『君があまりにもひとの顔を覚えないだけだろう!』
「いってえ!マジお前自分の嘴のデカさ考えろ!割れるわ!」
「ふふふ、相変わらず仲が良いのね」
トレーナーたちが盛り上がってるからジュリエットちゃんやピョートルくん、さっきの大きな蹄の子も寄ってきた。改めてお互いに自己紹介しあう。
実はホウヤくん(とドデカバシのミバくん)もポケモンドクター見習いで、研修先がカイナシティなんだって。
「なんか俺ら縁あるな。改めてよろしく」
「うん。こちらこそよろしくね」
ドクターのタマゴたちが笑顔で握手を交わす。この再会が〝あの夜〟へ繋がるなんて、当時のおれは思いもしなかった。
旅がひと段落したおれたちは、ジョウト地方にやってきた。ポケモンドクター養成学校に通うために。
ご主人は小さい頃からポケモンドクターになりたくて、でもカントーには養成学校がないから、隣のジョウトにやってきたんだ。
ちなみに、入学するのはご主人だけじゃなくておれも。ギナが「この際君も医師免許を取っておけ」って。
「ギナが言うならもちろんやるけど。おれ、がっこうもべんきょうもはじめてだよ。ちゃんとできるかなあ」
「できるかできないかじゃない。やれ」
そう言って〝にゅうがくしけん〟まで読み書きを筆頭にいろんな知識を叩きこまれた。今まで教えてくれたのは
苦戦するおれを見かねたのか、珍しくギナがアドバイスをくれた。
「医学の勉強は君にとっても有益だ。生かすと殺すは表裏一体だからな」
言われてみれば、ギナがくれた本には生き物はどうすれば死ぬのか、どうすれば死なないのかがたくさん書いてあった。ギナから「殺しちゃだめ」って言われてるし、これを覚えたらうっかり殺しちゃうこともなくなりそうだ。それに、たくさん死なせ方を知っていれば、いつかギナを殺す時に役立つはず。
そこから苦手だったべんきょうも楽しくなって、どんどんいろんなことを覚えていった。おかげで〝にゅうがくしけん〟は一発合格。春からご主人とふたりで学校生活だ。まあ学校に行かないってだけでみんなも一緒なんだけど。
いっぱいいっぱいべんきょうして、気付けば5年経っていた。ご主人は18歳。ニンゲンでいう〝おとな〟なんだって。そういえば、出会った頃はずいぶん小さかったのに今は目線が近くなったかも。
一方おれはあんまり背が伸びなくて、ギナよりもトビーくんよりも低いままだった。いいなあ、大きい方がパワーが出やすいのに。
トビーくんと言えば。最近ふらっとどこへ行っちゃうことが増えたような。ひとりでいるのが好きみたいだから時々いなくなることはあったけど、今までと
じゅわりと滲んだよだれを飲み込む。だめだめ、がまんしなきゃ。みんな殺しちゃだめだけど、特にトビーくんはだめって言われてるしね。もったいないけど仕方ない。
次の春からおれとご主人は卒業してポケモンドクターになる。といってもまだまだ見習いで、3年の研修期間を経たら晴れて一人前なんだって。
先生に呼ばれて、研修先の病院を告げられた。場所はホウエン地方。おれはご主人の手持ちだから同じところにしてくれたらしい。
「ホウエンかあ。はじめてだから楽しみだな」
「私も!どんなポケモンに会えるかしら」
弾んだ声のご主人がふとおれを見上げた。蜂蜜色とまっすぐ視線が絡まる。
「頑張ろうね、ゴーシュ。たくさん、たくさん、たくさん助けよう」
「うん」
相変わらず、まっすぐ過ぎて前しか見えない眼差し。どれだけ危ない目に遭おうと、どんなにトビーくんや
ギナにとってご主人がトクベツなのはこのきらきらが理由なのかな。ご主人が前だけ見てるように、ギナの視線の先にいるのはいつだってご主人だ。ふふっ、いいなあ。
あっという間に春が来て、おれとご主人は卒業式を迎えた。来月からはホウエンだ。その前に、一旦
「……うん、荷物はこれでいいかな」
最終確認を済ませたご主人がリストから顔を上げる。その背中に「おい」と低い声が呼びかけた。
「なあに、トビー」
「俺のボールよこせ」
唐突な申し出に戸惑いながら、細い手が褐色の手に紅白のボールを乗せる。トビーくんはじっと手の中を見つめ――バキン、粉々に砕いた。蜂蜜色がめいっぱい見開かれ、震えた唇からか細い声が零れ落ちる。
「と、トビー……?」
「俺ァ行かねェ」
「そ……んな、どうして、」
「もう子守りはウンザリだ。これ以上付き合いきれねェ」
冷たく吐き出された言葉にご主人の伸ばしかけた手がびたりと止まる。しんと静まり返った部屋の中、トビーくんはほんの一瞬苦しそうな顔をして、おれたちに背を向けた。
「あばよ。精々長生きしやがれ」
バタン。トビーくんは一度も振り返らずにドアの向こうへ消える。ご主人は床に散らばったボールの破片をひとつひとつ拾い集め、ぎゅうっと抱きしめた。震えるその肩をギナが遠慮がちに撫でる。
それっきり、二度とトビーくんに会うことはなかった。
*
トビーくんがいなくなってご主人はすっかり落ち込んじゃった。
トビーくん、今どこで何してるんだろ。窓の外を見ると真っ青な空と海が広がっている。道行くヒトやポケモンを目で追うけど、見慣れた紫のマントは当然見つからない。
それにしても、ホウエンって暑いなあ。ジョウトも結構暑かったけどその比じゃない。とけちゃいそう。
おれ以上にとけちゃいそうなのはジュゴンのジュリエットちゃん。陸に打ち上げられたコイキングみたいな顔でぐったりしてるから、ピジョットのピョートルくんが翼で一生懸命あおいであげてる。
「ヴィーナス。カイナシティの南にビーチがあるそうなんだが、行ってみないかい?ジュリエット嬢もこの様子だし、海辺で涼むのも一興ではないかな」
ビーチと聞いてジュリエットちゃんが飛び起きた。コイキングから一変、散歩前のガーディみたいに目をきらきらさせてる。
ホウエンに来てから1週間、研修がまだ始まらないからってご主人は部屋にこもって勉強三昧だった。「自分の休息のため」じゃなくて「
下宿先のアパートから徒歩10分。ビーチは賑わっていて、ヒトもポケモンもたくさんいた。
ほんとはパラソルの下でのんびりしたかったんだけど、ジュリエットちゃんにぐいぐい引っ張られて波打ち際までやってきた。原型に戻ったジュリエットちゃんが勢いよく海に飛び込んだ拍子にばしゃーんと大きな飛沫が上がる。ギナがリフレクターで守ったのは当然のようにご主人だけで、おれとピョートルくんは頭から水を被ってずぶ濡れ。あー、涼しい。
「……ふ、ふふっ、あはははは!もう、ジュリエットったらはしゃぎすぎ!こんな近くで飛び込んだらみんな濡れちゃうでしょ!」
ツボに入ったのか声を上げて笑うご主人。なんだか久しぶりに見た気がする。ギナも嬉しそう。よかった。
「ギナ、守ってくれてありがとう。にほんばれでふたりを乾かしてあげて」
「仰せのままに、ヴィーナス」
原型のおれたちの上から燦々と陽射しが降り注ぐ。ホウエンの気温も手伝って、びしょびしょの体はすぐに乾いた。乾かしてくれんなら最初から俺らも守ってくれよ、というピョートルくんの抗議は華麗にスルー。
にほんばれでまた暑くなっちゃったから、ヒト型になって裸足を海に浸した。水も泥も冷たくてきもちいい。ピョートルくんも海面すれすれに飛びながら飛沫を立てて遊んでる。あ、ジュリエットちゃんのみずでっぽう。顔をずぶ濡れにされたピョートルくんは、笑いながら逃げるジュリエットちゃんを追いかけ回す。元気だなあ。ご主人もそんなふたりを見てくすくす笑ってて、ご主人を見守るギナの視線もやわらかい。
「……ありがとう、みんな」
潮風が小さな声と桔梗色の髪をさらう。ギナが口を開きかけると、不意にダカッ、ダカッ、と大きな音。振り向けばオレンジ色の大きな蹄をしたポケモンが走り抜け、勢いよく泥の中にダイブした。嬉しそうに転げ回る姿はさっきのジュリエットちゃんみたいだ。
「おいジンコ!勝手にどっか行くな!」
トレーナーらしい男の子が息切れしながら追いかけてくる。オレンジ色のもじゃもじゃ頭に海みたいな青い瞳。あれ?どこかで見たような……。
「……ホウヤ?」
「あ?」
ぽつり、ご主人の呟きに男の子がこっちを見る。ホウヤ。聞き覚えある気がするんだけど、なんだっけ。
訝しむような男の子の視線にご主人はあわてて頭を下げた。
「と、突然ごめんなさい。あの、人違いじゃなければ、あなたマリエシティのホウヤ……よね?」
「……そーだけど」
「やっぱり!私、あなたと子どもの頃にカントーで通信交換したんだけど、覚えてる?」
「……あ!!サニアか!ゲンガーの!」
「ええ!久しぶり!」
そのやりとりで思い出す。そうか、おれが進化してはじめてバトルしたひとだ。懐かしいなあ。
「まさかこんなとこでまた会うなんて。ケララッパとゴローニャは元気?」
「おう。今はケララッパじゃなくてドデカバシだけどな」
ホウヤくんが指笛を吹くと、大きな嘴の鳥ポケモンが舞い降りてきた。空色のきりっとした目がおれたちを見てまんまるになる。
『君たちは……以前カントーで会ったな。また会えたこと、嬉しく思う』
「おー、さすがよく覚えてんな」
『君があまりにもひとの顔を覚えないだけだろう!』
「いってえ!マジお前自分の嘴のデカさ考えろ!割れるわ!」
「ふふふ、相変わらず仲が良いのね」
トレーナーたちが盛り上がってるからジュリエットちゃんやピョートルくん、さっきの大きな蹄の子も寄ってきた。改めてお互いに自己紹介しあう。
実はホウヤくん(とドデカバシのミバくん)もポケモンドクター見習いで、研修先がカイナシティなんだって。
「なんか俺ら縁あるな。改めてよろしく」
「うん。こちらこそよろしくね」
ドクターのタマゴたちが笑顔で握手を交わす。この再会が〝あの夜〟へ繋がるなんて、当時のおれは思いもしなかった。