Dear my cherry blossom/side:G
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このひとはおれをどう殺すんだろう。おれはこのひとにどう殺されるんだろう。
心臓を貫かれる?それとも頭を潰される?首を落とされる?
考えるだけで背骨が溶けてしまいそうな熱くて甘い痺れが走り抜ける。心臓も待ちきれないと言わんばかりにどきどきバクバク高鳴って――けれど、つるが捕らえたのは俺の胴。しゅるりと巻き取られ、背中から地面に叩きつけられた。ガハッと口から生ぬるい液体が飛び出す。朦朧とする脳が真っ先に感じたのは痛みではなく、困惑。
「……ど、して……」
掠れた声で呆然と呟く。心臓を貫かなくても、頭を潰さなくても、今ので確実に殺せた。
わざと気付かないふりをしていた事実を改めて突きつけられる。このひとはずっと、おれが死なない程度に 加減している。
「なんで……?なんで殺してくれないの……!?おれはきみに殺されたいのに!!」
「こちらにはこちらの事情がある。君の都合など知ったことか」
おれの絶叫を淡々と切り捨てる。「もう気が済んだろう。ではな」と背を向けてしまった。
手を抜かれたのは構わない。おれの強さがこのひとに及ばなかった、ただそれだけ。
でも、だけど、いやだ、まって、こんなの、ねえ、おねがい。きみを殺せないならきみが殺してよ。
「……しつこいぞ」
足を止めた――否、止めさせられたおにいさんが不機嫌そうに首だけ振り向く。くろいまなざしを発動したまま微かに首を振った。
「ここで殺してくれないなら……おれ、きみのこと追いかけるよ。ずっとずっと、どこまでも。きみを殺すか、きみに殺されるまで」
おれの言葉におにいさんの眉間のしわが深くなる。
「何故俺に拘る。俺でなくともいいだろう」
「きみがいいんだよ。きみじゃなきゃいやだ」
眉間のしわを更に深くして、「まったく、面倒な奴に目をつけられたな……」と大きなため息を吐いた。完全に呆れ返っている。
なんでもいい。なんだっていい。きみを殺せるのなら。きみが殺してくれるなら。
しばらく沈黙を貫いていたおにいさんは、とうとう諦めたように口を開いた。
「……仕方がない。もう少し待てば殺してやる、と言ったら?」
「もう少し……って、いつまで?」
「彼女――俺のトレーナーが無事に生涯を終えるまで。……そうだな、およそ70年か。君はゴーストタイプだからヒトより寿命は長いだろう。それまで待てるなら殺してやってもいい」
「わかった。いつまでも待つよ」
即座に頷けばおにいさんは「交渉成立だな」と薄く笑みを浮かべた。
70年。短くはないけれど、それと引き換えにこのひとが殺してくれるなら躊躇う理由はどこにもない。
「絶対、絶対だよ。約束だからね」
「ああ」
おにいさんが頷いたのを見届け、ゆっくり瞬きしてくろいまなざしを解除する。
「えへへ、楽しみだなあ。けど、殺されたいのと同じくらいきみのことも殺したいな」
「ならば俺を殺せるくらい強くなることだ」
「そうだね。全然歯が立たなかった。もっともっと強くならなきゃ」
生まれて初めて負けた。しかも完敗だ。おれはおれのことそれなりに強い方だと思ってたけど全然そんなことないや。世界にはもっと強いひとが――もっときらきらしたひとがたくさんいるんだね。
……そういえば、きょうだいの誰かが言ってたっけ。俺はいつか〝とれーなー〟と旅に出て〝じむ〟に挑戦するんだ、とかなんとか。
「ねえ、おにいさんはさっきのあの子と旅をしてるの?」
「ああ」
「ならおれも連れてって。おれ、もっと強くなりたい。〝とれーなー〟って〝じむ〟とかいう強いひとたちがいる所を巡るんでしょ?ただ待つより強くなりながら待つ方がずっといい」
それに、その時 が来たらすぐ殺し合えるように。
最後の一言は口に出さなかったけど、きっとおにいさんにはバレてるんだろう。おにいさんは「……ふむ」と思案するように長い指で顎をつまんだ。
「男を囲う趣味はないが手駒には男一択。彼女のための盾も多いに越したことはない……か。いいだろう、精々役に立て」
「うん。おれ、がんばるよ」
「まあ、最終的に決めるのは俺ではなくヴィーナスだがな。彼女がノーと言えば置いていく」
「えー」
断られちゃったらどうしようかな。「いいよ」って言ってもらえるまでついて行けばいいか。どのみち70年待つんだし。
血塗れでひっくり返ったまま動けないおれをおにいさんがちらりと一瞥する。
「ところで、ギガドレインは使えるか?その状態の君をヴィーナスのもとへ連れて行くわけにはいかないんだが」
「ううん。使ったことない」
「ならばこの場で今すぐ覚えろ。手本は見せてやる」
「あは、早速スパルタだねえ」
どうすればいいの?と尋ねれば、おにいさんは近くの木に手のひらを向けた。
「ギガドレイン」
その言葉と同時に3本の太い光のつるが飛び出して木に絡みついた。ぎゅうっと絞め上げられた木はみるみるうちに萎れていき、幾つもの光の玉がつるを伝っておにいさんの手のひらに吸い込まれていく。
「コツは……そうだな、君がよく使うシャドークロー、あれを遠くへ伸ばすようにやってみろ」
すっかり枯れた木を解放し、その隣を指し示した。どうにか動く左手を持ち上げて見様見真似で手のひらを前に。
「……ギガ、ドレイン」
シャドークローを遠くへ。頭の中で思い描くと、しゅるり、光のつるが顔を出した。1本だけだしおにいさんのより細いけど、どうにか形は保てている。頭の中のイメージはそのままにゆっくり伸ばしていき――捕まえた。
1つ、2つと光の玉が触れる度にほんの少しだけ痛みが和らぐ。枯れ果てるまで吸い尽くせば、ちょっぴりお腹も満たされた。
おにいさんは「一度で覚えるとはなかなか筋がいいな」と微かに微笑んだ。思いがけない言葉に目を見開くおれの前へ白い腕が差し出される。
「次はここだ。動けるようになるまで吸い取れ」
言われるがままギガドレイン。さっきよりも太いつるが出せた。それをそっとなめらかな腕に巻き付けていく。
えへへ、おれ、筋がいいんだって。なんだがくすぐったくて自然と口が緩む。
「何故ニヤニヤしている。気色が悪い」
「んー?ふふ、なんでだろ……!?」
おにいさんから吸い取った光の玉が触れた瞬間、どくん、全身が大きく跳ねた。あっという間に体の隅々まで灼熱に支配される。なにこれ、なにこれ、なにこれ。
「う、ぐ……ぅあ、が、」
ばちっ、ばちっ、目の奥で白い火花が爆ぜる。弓なりにのけ反った体が勝手にガクガク震えて止まらない。あつい。くるしい。煮え滾ったスープを無理矢理口から胃へ流し込まれてる、みたいな。そのくせすっごくおいしくて、焼け爛れるのも構わずにありったけ飲み干したい。
頭の中はぐちゃぐちゃのどろどろで、もうわけがわからなくて――ぶつん。何かがちぎれた音と同時におれの中で暴れ回っていた熱が急激に大人しくなっていった。は、は、と浅い呼吸で必死に酸素を求める。
グラスフィールド。不意に涼やかな声が鼓膜を揺らした。火照った体をさあっと爽やかな風が撫でていく。
「そういえば君はFallだったな。失念していたよ」
ぐらぐらする意識の中でぼんやり2つの赤い宝石を眺めた。おにいさんの腕はいつの間にか自由になっている。数秒後、おにいさんがギガドレインを止めた んだ、とようやく思い至った。
「……あ、れ?」
思わずがばっと身を起こせばあっさり起き上がれた。あちこち傷は残ってるけど、体が軽い。どこも痛くない。ついさっきまで左腕を動かすのがやっとだったのに。
「回復したようで何よりだ。行くぞ」
おにいさんはそれだけ言うとさっさと歩き出した。タマムシシティへ向かう背中を慌てて追いかける。ポニーテールが揺れる度に白い首筋がちらちら覗き、思わず生唾を飲んだ。さっきのアレ、すっごくおいしかったなあ。
ふと、真紅の瞳が肩越しに振り返る。足は止めないまま艶やかな唇が持ち上がった。
「念のため釘を刺しておくが、余計なことは言うなよ。先程の〝約束〟もその傷も他言無用だ」
「わかった。きみがだめって言うことはしない」
「いい心掛けだな」
「おにいさんこそ、約束守ってね」
「俺の言いつけを破らない限りはこちらも筋を通そう」
「うん」
弾んだ声で頷いた。体もこころもふわふわしてる。このまま風に乗ったらワタッコみたいに飛んでいけるんじゃないかな。
なんとなく空を見上げると雲ひとつない闇夜でまんまるお月さまがきらきら輝いていた。小さい頃、おかあさんに月が欲しいって言ったような気がする。
だけど、もういらない。もっときれいなものを見つけたから。
ねえおにいさん。はやくおれのものになって。それか、きみのものにして。
心臓を貫かれる?それとも頭を潰される?首を落とされる?
考えるだけで背骨が溶けてしまいそうな熱くて甘い痺れが走り抜ける。心臓も待ちきれないと言わんばかりにどきどきバクバク高鳴って――けれど、つるが捕らえたのは俺の胴。しゅるりと巻き取られ、背中から地面に叩きつけられた。ガハッと口から生ぬるい液体が飛び出す。朦朧とする脳が真っ先に感じたのは痛みではなく、困惑。
「……ど、して……」
掠れた声で呆然と呟く。心臓を貫かなくても、頭を潰さなくても、今ので確実に殺せた。
わざと気付かないふりをしていた事実を改めて突きつけられる。このひとはずっと、
「なんで……?なんで殺してくれないの……!?おれはきみに殺されたいのに!!」
「こちらにはこちらの事情がある。君の都合など知ったことか」
おれの絶叫を淡々と切り捨てる。「もう気が済んだろう。ではな」と背を向けてしまった。
手を抜かれたのは構わない。おれの強さがこのひとに及ばなかった、ただそれだけ。
でも、だけど、いやだ、まって、こんなの、ねえ、おねがい。きみを殺せないならきみが殺してよ。
「……しつこいぞ」
足を止めた――否、止めさせられたおにいさんが不機嫌そうに首だけ振り向く。くろいまなざしを発動したまま微かに首を振った。
「ここで殺してくれないなら……おれ、きみのこと追いかけるよ。ずっとずっと、どこまでも。きみを殺すか、きみに殺されるまで」
おれの言葉におにいさんの眉間のしわが深くなる。
「何故俺に拘る。俺でなくともいいだろう」
「きみがいいんだよ。きみじゃなきゃいやだ」
眉間のしわを更に深くして、「まったく、面倒な奴に目をつけられたな……」と大きなため息を吐いた。完全に呆れ返っている。
なんでもいい。なんだっていい。きみを殺せるのなら。きみが殺してくれるなら。
しばらく沈黙を貫いていたおにいさんは、とうとう諦めたように口を開いた。
「……仕方がない。もう少し待てば殺してやる、と言ったら?」
「もう少し……って、いつまで?」
「彼女――俺のトレーナーが無事に生涯を終えるまで。……そうだな、およそ70年か。君はゴーストタイプだからヒトより寿命は長いだろう。それまで待てるなら殺してやってもいい」
「わかった。いつまでも待つよ」
即座に頷けばおにいさんは「交渉成立だな」と薄く笑みを浮かべた。
70年。短くはないけれど、それと引き換えにこのひとが殺してくれるなら躊躇う理由はどこにもない。
「絶対、絶対だよ。約束だからね」
「ああ」
おにいさんが頷いたのを見届け、ゆっくり瞬きしてくろいまなざしを解除する。
「えへへ、楽しみだなあ。けど、殺されたいのと同じくらいきみのことも殺したいな」
「ならば俺を殺せるくらい強くなることだ」
「そうだね。全然歯が立たなかった。もっともっと強くならなきゃ」
生まれて初めて負けた。しかも完敗だ。おれはおれのことそれなりに強い方だと思ってたけど全然そんなことないや。世界にはもっと強いひとが――もっときらきらしたひとがたくさんいるんだね。
……そういえば、きょうだいの誰かが言ってたっけ。俺はいつか〝とれーなー〟と旅に出て〝じむ〟に挑戦するんだ、とかなんとか。
「ねえ、おにいさんはさっきのあの子と旅をしてるの?」
「ああ」
「ならおれも連れてって。おれ、もっと強くなりたい。〝とれーなー〟って〝じむ〟とかいう強いひとたちがいる所を巡るんでしょ?ただ待つより強くなりながら待つ方がずっといい」
それに、
最後の一言は口に出さなかったけど、きっとおにいさんにはバレてるんだろう。おにいさんは「……ふむ」と思案するように長い指で顎をつまんだ。
「男を囲う趣味はないが手駒には男一択。彼女のための盾も多いに越したことはない……か。いいだろう、精々役に立て」
「うん。おれ、がんばるよ」
「まあ、最終的に決めるのは俺ではなくヴィーナスだがな。彼女がノーと言えば置いていく」
「えー」
断られちゃったらどうしようかな。「いいよ」って言ってもらえるまでついて行けばいいか。どのみち70年待つんだし。
血塗れでひっくり返ったまま動けないおれをおにいさんがちらりと一瞥する。
「ところで、ギガドレインは使えるか?その状態の君をヴィーナスのもとへ連れて行くわけにはいかないんだが」
「ううん。使ったことない」
「ならばこの場で今すぐ覚えろ。手本は見せてやる」
「あは、早速スパルタだねえ」
どうすればいいの?と尋ねれば、おにいさんは近くの木に手のひらを向けた。
「ギガドレイン」
その言葉と同時に3本の太い光のつるが飛び出して木に絡みついた。ぎゅうっと絞め上げられた木はみるみるうちに萎れていき、幾つもの光の玉がつるを伝っておにいさんの手のひらに吸い込まれていく。
「コツは……そうだな、君がよく使うシャドークロー、あれを遠くへ伸ばすようにやってみろ」
すっかり枯れた木を解放し、その隣を指し示した。どうにか動く左手を持ち上げて見様見真似で手のひらを前に。
「……ギガ、ドレイン」
シャドークローを遠くへ。頭の中で思い描くと、しゅるり、光のつるが顔を出した。1本だけだしおにいさんのより細いけど、どうにか形は保てている。頭の中のイメージはそのままにゆっくり伸ばしていき――捕まえた。
1つ、2つと光の玉が触れる度にほんの少しだけ痛みが和らぐ。枯れ果てるまで吸い尽くせば、ちょっぴりお腹も満たされた。
おにいさんは「一度で覚えるとはなかなか筋がいいな」と微かに微笑んだ。思いがけない言葉に目を見開くおれの前へ白い腕が差し出される。
「次はここだ。動けるようになるまで吸い取れ」
言われるがままギガドレイン。さっきよりも太いつるが出せた。それをそっとなめらかな腕に巻き付けていく。
えへへ、おれ、筋がいいんだって。なんだがくすぐったくて自然と口が緩む。
「何故ニヤニヤしている。気色が悪い」
「んー?ふふ、なんでだろ……!?」
おにいさんから吸い取った光の玉が触れた瞬間、どくん、全身が大きく跳ねた。あっという間に体の隅々まで灼熱に支配される。なにこれ、なにこれ、なにこれ。
「う、ぐ……ぅあ、が、」
ばちっ、ばちっ、目の奥で白い火花が爆ぜる。弓なりにのけ反った体が勝手にガクガク震えて止まらない。あつい。くるしい。煮え滾ったスープを無理矢理口から胃へ流し込まれてる、みたいな。そのくせすっごくおいしくて、焼け爛れるのも構わずにありったけ飲み干したい。
頭の中はぐちゃぐちゃのどろどろで、もうわけがわからなくて――ぶつん。何かがちぎれた音と同時におれの中で暴れ回っていた熱が急激に大人しくなっていった。は、は、と浅い呼吸で必死に酸素を求める。
グラスフィールド。不意に涼やかな声が鼓膜を揺らした。火照った体をさあっと爽やかな風が撫でていく。
「そういえば君はFallだったな。失念していたよ」
ぐらぐらする意識の中でぼんやり2つの赤い宝石を眺めた。おにいさんの腕はいつの間にか自由になっている。数秒後、おにいさんが
「……あ、れ?」
思わずがばっと身を起こせばあっさり起き上がれた。あちこち傷は残ってるけど、体が軽い。どこも痛くない。ついさっきまで左腕を動かすのがやっとだったのに。
「回復したようで何よりだ。行くぞ」
おにいさんはそれだけ言うとさっさと歩き出した。タマムシシティへ向かう背中を慌てて追いかける。ポニーテールが揺れる度に白い首筋がちらちら覗き、思わず生唾を飲んだ。さっきのアレ、すっごくおいしかったなあ。
ふと、真紅の瞳が肩越しに振り返る。足は止めないまま艶やかな唇が持ち上がった。
「念のため釘を刺しておくが、余計なことは言うなよ。先程の〝約束〟もその傷も他言無用だ」
「わかった。きみがだめって言うことはしない」
「いい心掛けだな」
「おにいさんこそ、約束守ってね」
「俺の言いつけを破らない限りはこちらも筋を通そう」
「うん」
弾んだ声で頷いた。体もこころもふわふわしてる。このまま風に乗ったらワタッコみたいに飛んでいけるんじゃないかな。
なんとなく空を見上げると雲ひとつない闇夜でまんまるお月さまがきらきら輝いていた。小さい頃、おかあさんに月が欲しいって言ったような気がする。
だけど、もういらない。もっときれいなものを見つけたから。
ねえおにいさん。はやくおれのものになって。それか、きみのものにして。