Dear my cherry blossom/side:G
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殺すとは命をもらうこと。生きたものしか殺せないから、殺されるとは生きていたということ。
殺した分だけ命をもらえて、殺した数だけ「こんなにすてきなひとがいたんだよ」って世界とおれ自身に刻み付けられる。なんて、なんてすてきなんだろう。
あの日を境に誰かをすきになると同じだけ殺したいと思うようになった。おなかが空いたらごはんが食べたくなるのと同じように。ヤミカラスが光るものを集めるのと同じように。
だいすきなひとやすてきなひとを、たくさん殺 して、殺 して、殺 して、殺 した。
そうしているうちに、いつの間にか生きる力のつよいひとがきらきらして見えるようになっていた。あの輝きは「そのひとがこれまでもらってきた命の数」「どれだけ強く命を燃やしているか」だ。
いいな、いいな、きれいだな。自分のことはよくわからないけど、おれも他のひとの目で見たらきらきらしてるのかな?
あの輝きがほしい。もっときらきらになりたい。おれがきらきらになればなるほど、おれと一緒になったひとたちも一緒にきらきらになれる。
きらきらで溢れた世界はなんてきれいなんだろう。おかあさんが教えてくれた「命を繋ぐ」ってこういうことだったんだ。もっと、もっと、ちょうだい。
だけどある時気が付いた。おれが誰にも殺されずに死んだらおれの命は誰がもらってくれるんだろう。おれが命を繋げなかったら、これまでもらってきた命は、きらきらは、どこへ行くんだろう。泡みたいに溶けて消えて「生きていなかった」ことになっちゃうのかな。……そんなの、すごく、いやだ。
その時から、殺したいのと同じくらい殺されたくなった。せっかく殺されるなら殺したいひとがいいな。おれのこころに刻みつけたい命と、おれの命を刻みつけたいこころを持つようなひと。
どこかにいないかな。どこにいるのかな。会いたいなあ。
*
殺して殺して殺して殺して、不思議な穴をくぐってカントーに迷い込んでからも殺し続けて。ついに見つけたんだ。とびっきりのきらきらを。
あの日のことはよく覚えてる。タマムシシティとセキチクシティを繋ぐ長い道。女の子ひとり、おにいさんふたりの3人旅。そのうちのひとりに目を奪われて、思わず声をかけたんだ。
「こんばんは、おにいさんたち。月がきれいな夜だね」
突然姿を現したおれから庇うように、おにいさんたちが女の子を下がらせる。女の子も眼帯をしたおにいさんもそれなりにきらきらだけど、それらが霞むほどの輝きを持っているのは。
「そこのフシギバナのおにいさん、とってもきらきらしてるね。すごいよ、おれが今まで見てきた中で一番だ」
上擦った声で早口にまくし立てた。心臓がうるさいくらいどきどきしてる。
真紅の瞳がこっちを見る。瞬間、心臓が一際大きく跳ね上がった。けれどすぐに逸らされて、後ろに立つ女の子へ向けられた。
「ヴィーナス、先に宿へ戻っていてくれないか?彼は俺が狙いのようだ」
「でも……」
「お願いだ、彼は強い。君たちを巻き込まずに戦う自信がないんだ」
「……じゃあ、私からもお願い。あまり怪我しないでね」
「わかった。なるべく早く終わらせよう。トビー、ヴィーナスを頼んだよ」
「……チッ。待たせるんじゃねェぞ」
眼帯のおにいさんはおれを鋭く睨みつけ、女の子の手を引いて来た道を戻っていく。女の子は後ろ髪を引かれるように何度も振り返るけれど、おにいさんは一度も歩みを緩めなかった。
ふたりの足音が完全に聞こえなくなってから再び真紅がおれを映す。さっき女の子に向けていたものとは真逆の冷たいいろをしていて、ぞくりと背中が震えた。
なんでこんなにどきどきするんだろう。なんでこんなに体が熱いんだろう。よくわからないけどいやじゃない。むしろ。
なんだか無性に楽しくなって笑いながら口を開いた。
「おにいさんの嘘つき。ほんとはおれよりずっとずっと強いくせに」
「まあな。さっきのは方便だ。バトルならまだしも、それ以外 の姿を彼女に見せたくない」
「ふうん?」
おにいさんの言い分はよくわからないけど「今から行うのはバトルじゃない」と向こうもわかってくれてるらしい。それなら話は早い。
内側から湧き上がる熱を真っ赤なオーラとして解き放った。この不思議なオーラはカントーに来てから何故か使えるようになったものだ。どういうものなのかさっぱりだけど、力が湧いてくるので重宝してる。
おれを包み込むオーラにおにいさんは少しだけ眉を動かした。
「ほう、Fallか。話には聞いていたが実物に出会ったのは初めてだな」
「ふぉーる?」
聞き慣れない単語にオウム返し。おにいさんは「こちらの話だ。気にするな」とだけ答えた。気にならなくはないけど、それよりおにいさんのことの方がずっと気になるから気にしないことにしよう。
「ねえ、おにいさんってとっても長生きでしょ。おれわかるんだ、そういうの。どんな生き方したらそんなにきらきらになれるの?」
「さあな。何の話だ?」
「ふふ、嘘ばっかり。おにいさんのきらきらは色も輝きもたくさん殺してるひとのものだよ。ただ殺すだけじゃない、長い間、いっぱいいっぱい殺したでしょ。じゃないとこんなに強くて鮮やかなきらきらにならない」
おにいさんから表情が消えた。徐に伸ばした右腕につるがしゅるしゅる巻き付いていき、槍のように鋭い先端が鎌首をもたげる。
「……彼女にああ言った手前、早く戻りすぎると怪しまれるからな。時間稼ぎにと雑談に興じるつもりだったが……気が変わった。そろそろこちら で遊んでやろう」
真紅の冷たい眼差しに絶対零度の殺意が宿り、おれの真ん中を貫いた。ああ――ああ、きれい。
雷に打たれたような激しい熱と衝撃が全身をびりびりぞくぞく駆け巡る。ぜんぶの血が沸騰したみたいだ。熱くて熱くてたまらない。この熱をぶつけたら、あの冷たさをぶつけられたら。
ごくり、無意識に喉が鳴る。両腕の巨大な爪にありったけのオーラを纏わせ、全速力でおにいさんに飛びかかった。いつもより体が軽い。鳥ポケモンにでもなってみたい。
思いっきり振り下ろしたシャドークローは難なくつるで防がれた。パワーウィップどころかつるのムチ程度の細さなのに信じられないくらい硬い。そのまま弾かれ、横薙ぎに叩きつけられた。脇腹からベキッと鈍い音、同時に熱と痛みが走る。
「あはははッ、いったいなあ!」
地面にぶつかる前にサイコキネシスで宙に留まる。お返しに放ったヘドロばくだんもつるであっさり両断された。
これまで何度も強いひととやり合ってきた。だけど、たった一撃でこの威力。しかも全然本気じゃない。自然と口角が上がる。絶対、絶対、きみを殺したい。殺されるならきみがいい。
シャドーボール。シャドーダイブ。こごえるかぜ。ふいうち。イカサマ。はいよるいちげき。ほのおのパンチ。あくのはどう。マジカルシャイン。
どんな攻撃もおにいさんは眉ひとつ動かさず淡々とはね返した。鮮やかに舞うつるで何度も殴られ、絞められ、投げ飛ばされては木や地面に叩きつけられ。
右腕はとっくに動かない。頭だってぐらぐらするし、息をするだけであちこちに激痛が走る。だけど力がとめどなく漲ってくる。こころに灯ったともしびは激しい炎となり、ごうごう燃え盛っている。
ボロボロの体に鞭打って左手に漆黒のエネルギーを集中させた。溢れてやまない力と散々食らったダメージで体はとうに限界だ。たぶん、これがさいご。
ありったけのオーラとパワーをつめこんで作り上げた漆黒の爪。今度こそきみの心臓へ。
「アアアアアアアァァッッ!!」
獣の咆哮が喉から迸った。
欲しい。欲しい。きみの命が。他に何もいらない。おれのぜんぶをあげる。だから――だから。
ギィン!
やっぱり。心のどこかで独りごちた。決死の思いでぶつけたシャドークローでも、心臓どころかつる1本も引き裂けない。こっちはボロボロなのにおにいさんは無傷のまま。
あは、と笑みが零れる。文字通り手も足も出なかったくせに妙に満ち足りた気分だ。眼前に迫るつるの槍を迎えるように、動かないはずの右手を伸ばす。
それがだめなら、どうか。
殺した分だけ命をもらえて、殺した数だけ「こんなにすてきなひとがいたんだよ」って世界とおれ自身に刻み付けられる。なんて、なんてすてきなんだろう。
あの日を境に誰かをすきになると同じだけ殺したいと思うようになった。おなかが空いたらごはんが食べたくなるのと同じように。ヤミカラスが光るものを集めるのと同じように。
だいすきなひとやすてきなひとを、たくさん
そうしているうちに、いつの間にか生きる力のつよいひとがきらきらして見えるようになっていた。あの輝きは「そのひとがこれまでもらってきた命の数」「どれだけ強く命を燃やしているか」だ。
いいな、いいな、きれいだな。自分のことはよくわからないけど、おれも他のひとの目で見たらきらきらしてるのかな?
あの輝きがほしい。もっときらきらになりたい。おれがきらきらになればなるほど、おれと一緒になったひとたちも一緒にきらきらになれる。
きらきらで溢れた世界はなんてきれいなんだろう。おかあさんが教えてくれた「命を繋ぐ」ってこういうことだったんだ。もっと、もっと、ちょうだい。
だけどある時気が付いた。おれが誰にも殺されずに死んだらおれの命は誰がもらってくれるんだろう。おれが命を繋げなかったら、これまでもらってきた命は、きらきらは、どこへ行くんだろう。泡みたいに溶けて消えて「生きていなかった」ことになっちゃうのかな。……そんなの、すごく、いやだ。
その時から、殺したいのと同じくらい殺されたくなった。せっかく殺されるなら殺したいひとがいいな。おれのこころに刻みつけたい命と、おれの命を刻みつけたいこころを持つようなひと。
どこかにいないかな。どこにいるのかな。会いたいなあ。
*
殺して殺して殺して殺して、不思議な穴をくぐってカントーに迷い込んでからも殺し続けて。ついに見つけたんだ。とびっきりのきらきらを。
あの日のことはよく覚えてる。タマムシシティとセキチクシティを繋ぐ長い道。女の子ひとり、おにいさんふたりの3人旅。そのうちのひとりに目を奪われて、思わず声をかけたんだ。
「こんばんは、おにいさんたち。月がきれいな夜だね」
突然姿を現したおれから庇うように、おにいさんたちが女の子を下がらせる。女の子も眼帯をしたおにいさんもそれなりにきらきらだけど、それらが霞むほどの輝きを持っているのは。
「そこのフシギバナのおにいさん、とってもきらきらしてるね。すごいよ、おれが今まで見てきた中で一番だ」
上擦った声で早口にまくし立てた。心臓がうるさいくらいどきどきしてる。
真紅の瞳がこっちを見る。瞬間、心臓が一際大きく跳ね上がった。けれどすぐに逸らされて、後ろに立つ女の子へ向けられた。
「ヴィーナス、先に宿へ戻っていてくれないか?彼は俺が狙いのようだ」
「でも……」
「お願いだ、彼は強い。君たちを巻き込まずに戦う自信がないんだ」
「……じゃあ、私からもお願い。あまり怪我しないでね」
「わかった。なるべく早く終わらせよう。トビー、ヴィーナスを頼んだよ」
「……チッ。待たせるんじゃねェぞ」
眼帯のおにいさんはおれを鋭く睨みつけ、女の子の手を引いて来た道を戻っていく。女の子は後ろ髪を引かれるように何度も振り返るけれど、おにいさんは一度も歩みを緩めなかった。
ふたりの足音が完全に聞こえなくなってから再び真紅がおれを映す。さっき女の子に向けていたものとは真逆の冷たいいろをしていて、ぞくりと背中が震えた。
なんでこんなにどきどきするんだろう。なんでこんなに体が熱いんだろう。よくわからないけどいやじゃない。むしろ。
なんだか無性に楽しくなって笑いながら口を開いた。
「おにいさんの嘘つき。ほんとはおれよりずっとずっと強いくせに」
「まあな。さっきのは方便だ。バトルならまだしも、
「ふうん?」
おにいさんの言い分はよくわからないけど「今から行うのはバトルじゃない」と向こうもわかってくれてるらしい。それなら話は早い。
内側から湧き上がる熱を真っ赤なオーラとして解き放った。この不思議なオーラはカントーに来てから何故か使えるようになったものだ。どういうものなのかさっぱりだけど、力が湧いてくるので重宝してる。
おれを包み込むオーラにおにいさんは少しだけ眉を動かした。
「ほう、Fallか。話には聞いていたが実物に出会ったのは初めてだな」
「ふぉーる?」
聞き慣れない単語にオウム返し。おにいさんは「こちらの話だ。気にするな」とだけ答えた。気にならなくはないけど、それよりおにいさんのことの方がずっと気になるから気にしないことにしよう。
「ねえ、おにいさんってとっても長生きでしょ。おれわかるんだ、そういうの。どんな生き方したらそんなにきらきらになれるの?」
「さあな。何の話だ?」
「ふふ、嘘ばっかり。おにいさんのきらきらは色も輝きもたくさん殺してるひとのものだよ。ただ殺すだけじゃない、長い間、いっぱいいっぱい殺したでしょ。じゃないとこんなに強くて鮮やかなきらきらにならない」
おにいさんから表情が消えた。徐に伸ばした右腕につるがしゅるしゅる巻き付いていき、槍のように鋭い先端が鎌首をもたげる。
「……彼女にああ言った手前、早く戻りすぎると怪しまれるからな。時間稼ぎにと雑談に興じるつもりだったが……気が変わった。そろそろ
真紅の冷たい眼差しに絶対零度の殺意が宿り、おれの真ん中を貫いた。ああ――ああ、きれい。
雷に打たれたような激しい熱と衝撃が全身をびりびりぞくぞく駆け巡る。ぜんぶの血が沸騰したみたいだ。熱くて熱くてたまらない。この熱をぶつけたら、あの冷たさをぶつけられたら。
ごくり、無意識に喉が鳴る。両腕の巨大な爪にありったけのオーラを纏わせ、全速力でおにいさんに飛びかかった。いつもより体が軽い。鳥ポケモンにでもなってみたい。
思いっきり振り下ろしたシャドークローは難なくつるで防がれた。パワーウィップどころかつるのムチ程度の細さなのに信じられないくらい硬い。そのまま弾かれ、横薙ぎに叩きつけられた。脇腹からベキッと鈍い音、同時に熱と痛みが走る。
「あはははッ、いったいなあ!」
地面にぶつかる前にサイコキネシスで宙に留まる。お返しに放ったヘドロばくだんもつるであっさり両断された。
これまで何度も強いひととやり合ってきた。だけど、たった一撃でこの威力。しかも全然本気じゃない。自然と口角が上がる。絶対、絶対、きみを殺したい。殺されるならきみがいい。
シャドーボール。シャドーダイブ。こごえるかぜ。ふいうち。イカサマ。はいよるいちげき。ほのおのパンチ。あくのはどう。マジカルシャイン。
どんな攻撃もおにいさんは眉ひとつ動かさず淡々とはね返した。鮮やかに舞うつるで何度も殴られ、絞められ、投げ飛ばされては木や地面に叩きつけられ。
右腕はとっくに動かない。頭だってぐらぐらするし、息をするだけであちこちに激痛が走る。だけど力がとめどなく漲ってくる。こころに灯ったともしびは激しい炎となり、ごうごう燃え盛っている。
ボロボロの体に鞭打って左手に漆黒のエネルギーを集中させた。溢れてやまない力と散々食らったダメージで体はとうに限界だ。たぶん、これがさいご。
ありったけのオーラとパワーをつめこんで作り上げた漆黒の爪。今度こそきみの心臓へ。
「アアアアアアアァァッッ!!」
獣の咆哮が喉から迸った。
欲しい。欲しい。きみの命が。他に何もいらない。おれのぜんぶをあげる。だから――だから。
ギィン!
やっぱり。心のどこかで独りごちた。決死の思いでぶつけたシャドークローでも、心臓どころかつる1本も引き裂けない。こっちはボロボロなのにおにいさんは無傷のまま。
あは、と笑みが零れる。文字通り手も足も出なかったくせに妙に満ち足りた気分だ。眼前に迫るつるの槍を迎えるように、動かないはずの右手を伸ばす。
それがだめなら、どうか。