トリカブトと手を繋ぐ
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いざ、当日。ベトベターと一緒に大量生産したてるてる坊主が利いたのか、空は朝からご機嫌だった。天気予報の番組もチェックしたけど、今日は1日中晴れだって。よっしゃ、とガッツポーズ。
昼にいつもみたいにおっさんの授業を受けて、「また後で」と手を振り合ってから一旦家に帰る。ジンコ、おっさんのこと内緒にするって約束してくれたし、お礼も兼ねていっぱい手伝わないとな。
鼻歌交じりに大鍋をかき回すジンコのサポートとして、野菜を出したり、庭の畑からきのみを摘んできたり、指示されるままくるくる動き回った。メニューはジンコ特製・きのみと野菜ごろごろポトフだ。キッチンがどんどんいい匂いで満たされていく。
オレンジ色の空が少しずつ藍色に染まってくる頃。原型に戻ってライドギアを装着したジンコに荷車を繋ぎ、大鍋2つと輪切りフランスパンをたっぷり詰めたバスケット2つを手分けして積み込む。うちの男衆は全体的にひょろっとしてるけど、やっぱりポケモンだからみんな力持ちだ。俺と父ちゃん、出る幕なし。
それにしてもジンコ、擬人化しててもでけえけど、こっちはもっとでっけえなあ。俺の身長の倍以上あるから、首をうんと反らさないと顔が見えない。ぶるる、と小さな笑い声が降ってきて、ジンコが鼻面を摺り寄せてきた。その拍子に三つ編みみたいなたてがみが頬や首を撫でる。ふさふさで気持ちいいけど、ちょっとくすぐったい。
『ルヒカちゃん~~忘れ物はない~~?』
「うん。星座早見盤、カイロ、ブランケット、デジカメ。全部持った」
とんとん、と背負ったリュックを揺らしてみせる。デジカメはジンコの案だ。『沢山お土産撮りましょうね~~』と微笑むジンコに頷いて鼻を撫でてやると、嬉しそうに耳をぴこぴこ動かした。
荷物を全て積み終えたら、仕上げとばかりにギナがつるで俺を抱き上げた。そのままジンコの背中に乗せられ、つる製の即席簡易ベルトで固定してもらう。ほんと汎用性高いな。
いつも見上げてるギナの顔が自分より低い位置にあるのが新鮮で、むくりと悪戯心が沸き上がる。「ありがと」と一緒に若葉色の頭をぽんぽん撫でてみた。
前に雑誌かなんかで「背の高い男は慣れてないから頭を撫でられるのに弱い」って読んだけど、こいつはどんな反応するかと思いきや……いつもみたいににこりと微笑んで、「どういたしまして」が返ってきた。さすが女誑し性悪ガエル、このくらいじゃ動じないか。ちぇっ。
ギナと入れ替わるように父ちゃんが寄ってきて、手綱の持ち方やバランスの取り方を教えてくれた。1人で乗るのは初めてだから、わくわくして心臓が跳ね回る。
「絶対離すなよ」
「うん」
「ジンコ、ルヒカ頼んだ。向こうの人らにもよろしく伝えてくれ」
『任せて~~』
父ちゃんは目元を和らげ、ジンコの首やら頭やらをわしゃわしゃかき混ぜた。ぶるるるる、と気持ちよさそうな声が漏れる。やっぱり付き合い長いとツボとかもわかるんだろうな。
4人分の「行ってらっしゃい」にジンコと声を揃えて「行ってきます」を返す。ヒヒウン、と大きくいなないて、ゆっくり歩き出した。
ゴトゴト、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴロゴロ。蹄が地面を蹴る音に紛れて鼻歌が聞こえてくる。普段よりずっと高い位置から見える景色にテンション上がりまくりだ。興奮しすぎて身を乗り出しそうになるのを、ギナのつる製ベルトにぐっと引き留められる。ああ、これも見越してたのかな。見透かされてんなあ。
『速さ、このくらいでいいかしら~~?』
「うん。ジンコは?重くない?」
『全然平気よ~~。むしろ軽いくらい~~』
そっか、バンバドロは10トンの荷物引きながら三日三晩休まずに山道を歩き続けられる、っていうもんな。すげえなあ、と息を吐くと、ジンコは得意げに鼻を鳴らした。
ゴトゴト、ゴロゴロ。いつもははずれの岬まで20分くらいかかるけど、ジンコの足ならあっという間だ。坂の手前で、足音を聞きつけたのか、ベトベターが出迎えてくれた。
「よく来たなァ、もう準備できてるぜェ」
そう笑って、荷車の上の鍋を見た瞬間ぱあっと目を輝かせる。ビシッと姿勢を正してジンコに向き合い、二ッと歯を見せた。
「どうも、ルヒカのダチのベトベターっす!今日はジンコさんのメシが食えるのを……じゃなくてェ、お会いできるのを楽しみにしてましたァ!」
本音が駄々洩れの挨拶に、ぶるる、と小さく笑い声を漏らすジンコ。たてがみを揺らしてにっこり微笑んだ。
『こちらこそ、会えて嬉しいわ~~。いつもルヒカちゃんと仲良くしてくれてありがとう~~。いっぱい作ってきたから、いっぱい食べてね~~』
「はい!あざっす!!」
元気よく返事をしたベトベターの口端からよだれが垂れている。お前、ずっと食いたいって言ってたもんな。ジンコも「お前のメシをめちゃくちゃ楽しみにしてる奴がいるんだ」って言ったらすげえ喜んでたし、こいつら絶対気が合う。
坂を上り始めたら、ふわりと漂ってきた匂いが鼻をくすぐる。このスパイシーで食欲をそそる匂いは。
『カレーね~~!』
俺より先にジンコが歓声を上げた。ベトベターが大きく頷いて胸を張る。
「そう!おかみさんがガラル在住のダチから教わったジューシーカレー!めっっっっちゃうめェ!!」
『すご~~い!わたし、ずっと作って食べてみたかったんだけど~~ボブの缶詰がなかなか手に入らなくて~~』
ジンコの耳がちぎれそうなくらい揺れまくっている。ボブって誰だよ、と思ったけど、はしゃぐふたりに水を差したくないから口を噤んだ。多分ガラルのシェフかなんかだろ。それにしても、腹減ったな~~。
☆
『は~~い到着~~」
坂を上り終えると、そう言いながらジンコが姿を変えた。ジンコの背中にいた俺は、いつの間にかジンコの腕の中に収まっている。ベルトを解き、下ろしてもらいながら「ありがと」を言うと、ブレイズヘアを揺らしながら「どういたしまして」が返ってきた。
「こんばんは~~、ジンコです~~。今日はお招きありがとうございます~~」
社長さんたちにぺこりとお辞儀したジンコにならい、俺も頭を下げる。作業着じゃないカラフルな色合いのひとたちは、多分擬人化したベトベトンたちだろう。当たり前だけど、種族は同じでも顔つきや服装、髪型は様々だ。
社長さんは快活な笑みと共に「こちらこそ!ようこそおいでなすった!」と手を差し出した。ごつごつした温かいその手をそれぞれ握る。
「挨拶はこのくらいにして、早速食いましょうや。食いしん坊どもが今か今かと待ち構えてましてね」
「ふふ、是非~~。焚火、お借りしてもいいかしら~~?」
「どうぞどうぞ。うちの連中もこき使ってやってください」
「は~~い」
はずれの岬の真ん中で、大きな鍋が2つ火にかけられている。その隣の、火がついていない焚火台に持ってきた鍋を1つずつ乗せた。すかさず近くにいた若いベトベトンがふうっと炎を吐き出す。
「ありがとう~~。火加減もばっちりよ~~」
「へへ、おかみさんに鍛えられてるんで!」
グッと親指を立てたベトベトンに、他のベトベトンたちから「別嬪さんの前だからってかっこつけてんじゃねーぞ」と野次が飛ぶ。いいだろ別に!と噛み付いたそのひとは、何となく、ギナにからかわれて突っかかるミバの姿が重なった。
ジンコと奥さんが鍋を温めている間、ベトベターたちと手分けしてコーヒーやパンを配って回る。その最中、こっそり摘まみ食いしようとしたベトベターの脇腹を小突いてやった。……つーか、今ここにベトベターいっぱいいるから、あいつをベトベターって呼ぶの紛らわしいな。まあ他に呼びようがないからそのまま呼ぶけど。
それが終わったら、今度は炊き立てご飯の上によそった熱々ジューシーカレーと、ほかほかのきのみと野菜ごろごろポトフを注いだ皿を配っていく。俺はあんまり食べる方じゃないから、カレーもポトフも小さめの器に1皿ずつ。これでも俺としてはいつもより多いけど、今日はいけそうな気がする。いや、いける!
昼にいつもみたいにおっさんの授業を受けて、「また後で」と手を振り合ってから一旦家に帰る。ジンコ、おっさんのこと内緒にするって約束してくれたし、お礼も兼ねていっぱい手伝わないとな。
鼻歌交じりに大鍋をかき回すジンコのサポートとして、野菜を出したり、庭の畑からきのみを摘んできたり、指示されるままくるくる動き回った。メニューはジンコ特製・きのみと野菜ごろごろポトフだ。キッチンがどんどんいい匂いで満たされていく。
オレンジ色の空が少しずつ藍色に染まってくる頃。原型に戻ってライドギアを装着したジンコに荷車を繋ぎ、大鍋2つと輪切りフランスパンをたっぷり詰めたバスケット2つを手分けして積み込む。うちの男衆は全体的にひょろっとしてるけど、やっぱりポケモンだからみんな力持ちだ。俺と父ちゃん、出る幕なし。
それにしてもジンコ、擬人化しててもでけえけど、こっちはもっとでっけえなあ。俺の身長の倍以上あるから、首をうんと反らさないと顔が見えない。ぶるる、と小さな笑い声が降ってきて、ジンコが鼻面を摺り寄せてきた。その拍子に三つ編みみたいなたてがみが頬や首を撫でる。ふさふさで気持ちいいけど、ちょっとくすぐったい。
『ルヒカちゃん~~忘れ物はない~~?』
「うん。星座早見盤、カイロ、ブランケット、デジカメ。全部持った」
とんとん、と背負ったリュックを揺らしてみせる。デジカメはジンコの案だ。『沢山お土産撮りましょうね~~』と微笑むジンコに頷いて鼻を撫でてやると、嬉しそうに耳をぴこぴこ動かした。
荷物を全て積み終えたら、仕上げとばかりにギナがつるで俺を抱き上げた。そのままジンコの背中に乗せられ、つる製の即席簡易ベルトで固定してもらう。ほんと汎用性高いな。
いつも見上げてるギナの顔が自分より低い位置にあるのが新鮮で、むくりと悪戯心が沸き上がる。「ありがと」と一緒に若葉色の頭をぽんぽん撫でてみた。
前に雑誌かなんかで「背の高い男は慣れてないから頭を撫でられるのに弱い」って読んだけど、こいつはどんな反応するかと思いきや……いつもみたいににこりと微笑んで、「どういたしまして」が返ってきた。さすが女誑し性悪ガエル、このくらいじゃ動じないか。ちぇっ。
ギナと入れ替わるように父ちゃんが寄ってきて、手綱の持ち方やバランスの取り方を教えてくれた。1人で乗るのは初めてだから、わくわくして心臓が跳ね回る。
「絶対離すなよ」
「うん」
「ジンコ、ルヒカ頼んだ。向こうの人らにもよろしく伝えてくれ」
『任せて~~』
父ちゃんは目元を和らげ、ジンコの首やら頭やらをわしゃわしゃかき混ぜた。ぶるるるる、と気持ちよさそうな声が漏れる。やっぱり付き合い長いとツボとかもわかるんだろうな。
4人分の「行ってらっしゃい」にジンコと声を揃えて「行ってきます」を返す。ヒヒウン、と大きくいなないて、ゆっくり歩き出した。
ゴトゴト、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴロゴロ。蹄が地面を蹴る音に紛れて鼻歌が聞こえてくる。普段よりずっと高い位置から見える景色にテンション上がりまくりだ。興奮しすぎて身を乗り出しそうになるのを、ギナのつる製ベルトにぐっと引き留められる。ああ、これも見越してたのかな。見透かされてんなあ。
『速さ、このくらいでいいかしら~~?』
「うん。ジンコは?重くない?」
『全然平気よ~~。むしろ軽いくらい~~』
そっか、バンバドロは10トンの荷物引きながら三日三晩休まずに山道を歩き続けられる、っていうもんな。すげえなあ、と息を吐くと、ジンコは得意げに鼻を鳴らした。
ゴトゴト、ゴロゴロ。いつもははずれの岬まで20分くらいかかるけど、ジンコの足ならあっという間だ。坂の手前で、足音を聞きつけたのか、ベトベターが出迎えてくれた。
「よく来たなァ、もう準備できてるぜェ」
そう笑って、荷車の上の鍋を見た瞬間ぱあっと目を輝かせる。ビシッと姿勢を正してジンコに向き合い、二ッと歯を見せた。
「どうも、ルヒカのダチのベトベターっす!今日はジンコさんのメシが食えるのを……じゃなくてェ、お会いできるのを楽しみにしてましたァ!」
本音が駄々洩れの挨拶に、ぶるる、と小さく笑い声を漏らすジンコ。たてがみを揺らしてにっこり微笑んだ。
『こちらこそ、会えて嬉しいわ~~。いつもルヒカちゃんと仲良くしてくれてありがとう~~。いっぱい作ってきたから、いっぱい食べてね~~』
「はい!あざっす!!」
元気よく返事をしたベトベターの口端からよだれが垂れている。お前、ずっと食いたいって言ってたもんな。ジンコも「お前のメシをめちゃくちゃ楽しみにしてる奴がいるんだ」って言ったらすげえ喜んでたし、こいつら絶対気が合う。
坂を上り始めたら、ふわりと漂ってきた匂いが鼻をくすぐる。このスパイシーで食欲をそそる匂いは。
『カレーね~~!』
俺より先にジンコが歓声を上げた。ベトベターが大きく頷いて胸を張る。
「そう!おかみさんがガラル在住のダチから教わったジューシーカレー!めっっっっちゃうめェ!!」
『すご~~い!わたし、ずっと作って食べてみたかったんだけど~~ボブの缶詰がなかなか手に入らなくて~~』
ジンコの耳がちぎれそうなくらい揺れまくっている。ボブって誰だよ、と思ったけど、はしゃぐふたりに水を差したくないから口を噤んだ。多分ガラルのシェフかなんかだろ。それにしても、腹減ったな~~。
☆
『は~~い到着~~」
坂を上り終えると、そう言いながらジンコが姿を変えた。ジンコの背中にいた俺は、いつの間にかジンコの腕の中に収まっている。ベルトを解き、下ろしてもらいながら「ありがと」を言うと、ブレイズヘアを揺らしながら「どういたしまして」が返ってきた。
「こんばんは~~、ジンコです~~。今日はお招きありがとうございます~~」
社長さんたちにぺこりとお辞儀したジンコにならい、俺も頭を下げる。作業着じゃないカラフルな色合いのひとたちは、多分擬人化したベトベトンたちだろう。当たり前だけど、種族は同じでも顔つきや服装、髪型は様々だ。
社長さんは快活な笑みと共に「こちらこそ!ようこそおいでなすった!」と手を差し出した。ごつごつした温かいその手をそれぞれ握る。
「挨拶はこのくらいにして、早速食いましょうや。食いしん坊どもが今か今かと待ち構えてましてね」
「ふふ、是非~~。焚火、お借りしてもいいかしら~~?」
「どうぞどうぞ。うちの連中もこき使ってやってください」
「は~~い」
はずれの岬の真ん中で、大きな鍋が2つ火にかけられている。その隣の、火がついていない焚火台に持ってきた鍋を1つずつ乗せた。すかさず近くにいた若いベトベトンがふうっと炎を吐き出す。
「ありがとう~~。火加減もばっちりよ~~」
「へへ、おかみさんに鍛えられてるんで!」
グッと親指を立てたベトベトンに、他のベトベトンたちから「別嬪さんの前だからってかっこつけてんじゃねーぞ」と野次が飛ぶ。いいだろ別に!と噛み付いたそのひとは、何となく、ギナにからかわれて突っかかるミバの姿が重なった。
ジンコと奥さんが鍋を温めている間、ベトベターたちと手分けしてコーヒーやパンを配って回る。その最中、こっそり摘まみ食いしようとしたベトベターの脇腹を小突いてやった。……つーか、今ここにベトベターいっぱいいるから、あいつをベトベターって呼ぶの紛らわしいな。まあ他に呼びようがないからそのまま呼ぶけど。
それが終わったら、今度は炊き立てご飯の上によそった熱々ジューシーカレーと、ほかほかのきのみと野菜ごろごろポトフを注いだ皿を配っていく。俺はあんまり食べる方じゃないから、カレーもポトフも小さめの器に1皿ずつ。これでも俺としてはいつもより多いけど、今日はいけそうな気がする。いや、いける!