ハロー・アコニタム/age.7
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同日。場所はナッシー・アイランド、時刻は丑三つ時。ほとんどの人間やポケモンが眠りにつき、夜行性のポケモンたちが活発に行動する時間帯。
月光に照らされて長く伸びる木々の影の中からひとりの男が現れた。左右に跳ねた紫色の髪、尖った耳に赤い瞳を持つ彼の名はゴーシュ。種族はゲンガーだ。影の中に潜って長距離を移動できる彼は、自身の靴の裏と地面が完全に触れ合ってから、ぐうっと伸びをして肩を回した。
「ふう。ウラウラ島からポ二島に来るのは流石にちょっと疲れるなあ」
おっとりした口調で呟き、影の外側へ足を踏み出す。月下の彼の肌は血が通っているとは思えないほど白いのに、瞳だけは全身の血液を凝縮したような色をしていた。
不意にゴーシュの目の前の空間に裂け目が生じ、強い輝きを放ちながら不思議な色合いの穴が開いた。そこから顔を出したのはクラゲのような少女のような姿をしたウルトラビースト──ウツロイド。じぇるるっぷ、と耳慣れない鳴き声のような音を発し、ゆらゆら揺らめきながら真っ赤なオーラを纏った。異様な空気を肌で感じたポケモンたちは我先にとウツロイドから離れていく。
一方、ゴーシュはさして驚いた様子もなく、むしろ嬉しそうに口端を吊り上げた。
「見ぃつけた」
その笑みは無邪気と言うにはあまりに凶暴で、声音は楽しげと言うには冷た過ぎる響きだった。ウツロイドはふるりと震え、じりじり後退し始める。
ゴーシュは笑みを浮かべたままウツロイドと同じように赤いオーラを纏う。右腕を黒紫色の巨大な爪へと変化させ、猛スピードでウツロイドに襲いかかった。シャドークローに切り裂かれた触手から青い鮮血が迸る。ウツロイドは甲高い悲鳴を上げ、パワージェムで反撃するが、命中する直前にゴーシュの姿がかき消えた。
次の瞬間、背後に現れたゴーシュのゴーストダイブが直撃し、ウツロイドは大きく体をしならせる。その隙を逃さずサイコキネシスで捕らえたウツロイドを地面に叩きつけ、続け様にシャドーボールを放った。砂埃がもうもうと舞う。
もう一発シャドーボールを撃ち込もうとして、砂埃に紛れて毒々しい紫に染まった触手──どくづきがビュッと左頬を掠めた。飛び散った雫がゴーシュの頬やシャツの襟に赤い染みを作る。
「いいね、そうこなくちゃ」
ゴーシュはギラリと笑みを深め、飛んできたヘドロばくだんを同じわざで相殺する。こごえるかぜで砂埃を吹き飛ばし、すばやさを下げられて動きの鈍ったウツロイドの体をシャドークローで抉るように大きく切り裂いた。至近距離で一際高い悲鳴と大量の血を浴び、恍惚とした表情でため息を吐く。ああ、あったかい。
これ以上の苦痛から逃れようとウツロイドがくり出したリフレクターもかわらわりで呆気なく粉砕した。もっとちょうだい、とねだるように何度も何度も爪を振るう。ウツロイドの悲鳴が徐々に小さく、弱々しくなっていく。ウツロイドがすっかり大人しくなった頃、とどめとばかりに頭部を貫こうとして──寸での所で動きを止めた。
「っ、危ない危ない……殺しちゃうところだった」
ゴーシュはオーラを収め、息も絶え絶えなウツロイドから心底名残惜しそうに離れた。逃亡と自決を防ぐため、くろいまなざしで動きを封じる。それから右腕をヒトの形に戻してハンカチで丁寧に血を拭い、ベストの内ポケットからライブキャスターを引っ張り出した。
「……もしもし。捕まえたよ、ギナ」
*
「また随分と散らかしたな」
青い絵の具を盛大にぶちまけたような草原、ゴーシュの服、ひび割れた地面を順に見やったギナが呆れた声で言う。それにゴーシュは上機嫌に答えた。
「青い血って珍しいから楽しくて。まあ俺は赤い方がすきなんだけど」
「もう見慣れただろうに。飽きないものだ」
「何色だろうとあったかくてきれいじゃない。〝外〟の存在っていってもやっぱり命は命なんだよね」
愛おしげにウツロイドに注がれるゴーシュの眼差しはご馳走を目の前にしたグラエナのようであり、宝物の玩具を見つめる少年のようでもあった。
ギナは「まあいい」と話を切り上げ、右腕を太く鋭い根のような形状に変え、慣れた様子でウツロイドの頭部を貫いた。ウツロイドは一度大きく痙攣し、完全に動かなくなる。すると、アゲハントが花の蜜を吸うように〝根〟はウツロイドから赤いオーラを吸い上げていった。
ギナは一連の作業を眉一つ動かさず淡々とこなし、ゴーシュはギナがウツロイドの命を絶つ瞬間を、ひどく残念そうな、羨ましそうな顔で眺めていた。
ゴーシュは懐を探ってやや潰れた長方形の紙製の箱を取り出し、1本引き抜いて口に咥えた。先端に人差し指を当てれば、ぼ、と青紫の炎が点る。ほのお技が使えてよかった、と思うのはこういう時だ。
肺に落ちた煙をゆっくりと吐き出す。どくタイプ且つ進化前がガスじょうポケモンであるゴーシュにとって、人間やポケモンの肺を蝕む煙はただの嗜好品でしかない。もっとも、彼が煙草を吸うのは体に染み付いた別の匂いを誤魔化すためなのだが。
──これ、体に悪いんでしょ?お医者さんが勧めていいの?
──君には効かないのだから問題ない。むしろ処方さ。ああ、とはいえヴィーナスの近くでは決して吸うなよ。主流煙より副流煙の方が有害なんだ。
随分前のやり取りを思い出して口元を綻ばせる。自分に煙草を勧めた張本人に箱を振ってみせた。
「ギナもどう?」
「結構だ」
素っ気ない返事に、相変わらず男にはつれないなあ、と笑いながら短くなった煙草を人差し指で軽く叩いた。灰の塊がほろりと落ちる。
そういえば、ギナが煙草吸ってるの見たことないし、そばで吸うなって言われたこともないや。くさタイプだから空気や水の質に敏感なはずだけど、どく複合だからあまり効かないのかな。などと考えながら紫煙をくゆらせる。カントーを旅していた頃は愛煙家仲間がいたから、よくふたりで喫煙所にこもったものだ。
「ねえ、彼の好きな銘柄は何だったっけ」
「さあな。忘れたよ。君の方が詳しいだろう」
「俺も忘れちゃった。薄情だね、俺たち」
「男の趣味嗜好など心底どうでもいい。今まで出会った全てのキティの好みなら幾らでも諳んじられるとも」
「あはは、歪みないねえ。きもちわる」
「何とでも言え」
他愛のない会話を交わすうちに〝根〟はウツロイドからオーラを全て吸い終え、今度は血液を吸い始めた。先程と違い、ぢゅる、ぢゅるる、と音を立てて飲み干していく。
ゴーシュが2本目の煙草に手を伸ばす前に、何もかも吸い尽くされて乾燥ワカメのようになったウツロイドからギナはようやく〝根〟を引き抜いた。そのまま〝根〟を伸ばしてゴーシュの頭に軽く巻き付け、赤いオーラを注ぎ込む。
どくん。自分という器が〝力〟で満たされていく感覚にゴーシュの心はぶわりと昂り、体中の血が沸騰したかのように熱を持つ。
この力を全て解放して、好きなだけ暴れ回りたい。砕いて、貫いて、引き裂いて、たくさん血を浴びたい。ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ殺 して殺 して殺 して殺 して──。
「ゴーシュ」
吹き飛びかけた理性が、ギナの声で引き戻された。2つの真紅の宝石が静かにこちらを見ている。……そうだ、まだ、今じゃない。猛っていた血と心が穏やかになっていく。
「ごめん。もう大丈夫。ちゃんと我慢する、できるよ」
「ああ」
〝根〟が離れたのを合図にゴーシュは本来の姿に戻る。通常のゲンガーより一回り大きな体を持つ彼は、すっかり縮んだウツロイドを嬉々として持ち上げ、頭からがぶりと齧り付いた。
むしゃむしゃ咀嚼するゴーシュをよそに〝根〟を腕に戻したギナがグラスフィールドを放つ。彼の足元を中心に真新しい草花が次々と芽吹き、ウツロイドの血で汚れた大地を覆っていく。ものの数分ですっかり元通りになったこの場所で、先程戦闘が行われたことなど誰も気付けはしないだろう。
ギナが後始末をしている間、ゴーシュは毛繕いも兼ねて体にこびりついた青い血を丁寧に舐めとった。気が済んでから擬人化すれば、彼の服の汚れは綺麗さっぱりなくなっていた。ポケモンが擬人化する際、皮膚や体毛などを服に変化させるタイプと、服は別途に調達するタイプに分けられるが、ゴーシュは完全に前者である。
「そら、次は君だ」
「うん。……さいみんじゅつ」
ゴーシュの目が妖しく輝き、彼を中心に不可思議な波動が放たれた。それは島全体に広がっていき、ここに暮らす全てのポケモンたちから意識と一緒に今夜の記憶を奪い取る。この〝後始末〟のお陰で、彼らが夜な夜なウルトラビーストを襲って回っていることは未だ誰にも知られていなかった。
全ての工程を終え、ゴーシュは近くの大木の影に足を踏み入れた。今日はもう少し暴れたい。
「それじゃ、次を探すついでに試運転してくるよ」
「あまり無駄遣いするなよ。馴染ませるためにオーラを浪費しては本末転倒だ。君は興が乗るとオーラを使い過ぎる悪癖がある」
「うん。〝殺すな・見つかるな・彼女の周りで騒ぎを起こすな〟でしょ」
「わかっているならいい。それさえ守ればあとは好きにしろ」
夜が明けるまでには戻れよ、という言葉に「はあい」と返して影の中に身を沈ませる。
さて、どこにあそびにいこうかな。
同日。場所はナッシー・アイランド、時刻は丑三つ時。ほとんどの人間やポケモンが眠りにつき、夜行性のポケモンたちが活発に行動する時間帯。
月光に照らされて長く伸びる木々の影の中からひとりの男が現れた。左右に跳ねた紫色の髪、尖った耳に赤い瞳を持つ彼の名はゴーシュ。種族はゲンガーだ。影の中に潜って長距離を移動できる彼は、自身の靴の裏と地面が完全に触れ合ってから、ぐうっと伸びをして肩を回した。
「ふう。ウラウラ島からポ二島に来るのは流石にちょっと疲れるなあ」
おっとりした口調で呟き、影の外側へ足を踏み出す。月下の彼の肌は血が通っているとは思えないほど白いのに、瞳だけは全身の血液を凝縮したような色をしていた。
不意にゴーシュの目の前の空間に裂け目が生じ、強い輝きを放ちながら不思議な色合いの穴が開いた。そこから顔を出したのはクラゲのような少女のような姿をしたウルトラビースト──ウツロイド。じぇるるっぷ、と耳慣れない鳴き声のような音を発し、ゆらゆら揺らめきながら真っ赤なオーラを纏った。異様な空気を肌で感じたポケモンたちは我先にとウツロイドから離れていく。
一方、ゴーシュはさして驚いた様子もなく、むしろ嬉しそうに口端を吊り上げた。
「見ぃつけた」
その笑みは無邪気と言うにはあまりに凶暴で、声音は楽しげと言うには冷た過ぎる響きだった。ウツロイドはふるりと震え、じりじり後退し始める。
ゴーシュは笑みを浮かべたままウツロイドと同じように赤いオーラを纏う。右腕を黒紫色の巨大な爪へと変化させ、猛スピードでウツロイドに襲いかかった。シャドークローに切り裂かれた触手から青い鮮血が迸る。ウツロイドは甲高い悲鳴を上げ、パワージェムで反撃するが、命中する直前にゴーシュの姿がかき消えた。
次の瞬間、背後に現れたゴーシュのゴーストダイブが直撃し、ウツロイドは大きく体をしならせる。その隙を逃さずサイコキネシスで捕らえたウツロイドを地面に叩きつけ、続け様にシャドーボールを放った。砂埃がもうもうと舞う。
もう一発シャドーボールを撃ち込もうとして、砂埃に紛れて毒々しい紫に染まった触手──どくづきがビュッと左頬を掠めた。飛び散った雫がゴーシュの頬やシャツの襟に赤い染みを作る。
「いいね、そうこなくちゃ」
ゴーシュはギラリと笑みを深め、飛んできたヘドロばくだんを同じわざで相殺する。こごえるかぜで砂埃を吹き飛ばし、すばやさを下げられて動きの鈍ったウツロイドの体をシャドークローで抉るように大きく切り裂いた。至近距離で一際高い悲鳴と大量の血を浴び、恍惚とした表情でため息を吐く。ああ、あったかい。
これ以上の苦痛から逃れようとウツロイドがくり出したリフレクターもかわらわりで呆気なく粉砕した。もっとちょうだい、とねだるように何度も何度も爪を振るう。ウツロイドの悲鳴が徐々に小さく、弱々しくなっていく。ウツロイドがすっかり大人しくなった頃、とどめとばかりに頭部を貫こうとして──寸での所で動きを止めた。
「っ、危ない危ない……殺しちゃうところだった」
ゴーシュはオーラを収め、息も絶え絶えなウツロイドから心底名残惜しそうに離れた。逃亡と自決を防ぐため、くろいまなざしで動きを封じる。それから右腕をヒトの形に戻してハンカチで丁寧に血を拭い、ベストの内ポケットからライブキャスターを引っ張り出した。
「……もしもし。捕まえたよ、ギナ」
*
「また随分と散らかしたな」
青い絵の具を盛大にぶちまけたような草原、ゴーシュの服、ひび割れた地面を順に見やったギナが呆れた声で言う。それにゴーシュは上機嫌に答えた。
「青い血って珍しいから楽しくて。まあ俺は赤い方がすきなんだけど」
「もう見慣れただろうに。飽きないものだ」
「何色だろうとあったかくてきれいじゃない。〝外〟の存在っていってもやっぱり命は命なんだよね」
愛おしげにウツロイドに注がれるゴーシュの眼差しはご馳走を目の前にしたグラエナのようであり、宝物の玩具を見つめる少年のようでもあった。
ギナは「まあいい」と話を切り上げ、右腕を太く鋭い根のような形状に変え、慣れた様子でウツロイドの頭部を貫いた。ウツロイドは一度大きく痙攣し、完全に動かなくなる。すると、アゲハントが花の蜜を吸うように〝根〟はウツロイドから赤いオーラを吸い上げていった。
ギナは一連の作業を眉一つ動かさず淡々とこなし、ゴーシュはギナがウツロイドの命を絶つ瞬間を、ひどく残念そうな、羨ましそうな顔で眺めていた。
ゴーシュは懐を探ってやや潰れた長方形の紙製の箱を取り出し、1本引き抜いて口に咥えた。先端に人差し指を当てれば、ぼ、と青紫の炎が点る。ほのお技が使えてよかった、と思うのはこういう時だ。
肺に落ちた煙をゆっくりと吐き出す。どくタイプ且つ進化前がガスじょうポケモンであるゴーシュにとって、人間やポケモンの肺を蝕む煙はただの嗜好品でしかない。もっとも、彼が煙草を吸うのは体に染み付いた別の匂いを誤魔化すためなのだが。
──これ、体に悪いんでしょ?お医者さんが勧めていいの?
──君には効かないのだから問題ない。むしろ処方さ。ああ、とはいえヴィーナスの近くでは決して吸うなよ。主流煙より副流煙の方が有害なんだ。
随分前のやり取りを思い出して口元を綻ばせる。自分に煙草を勧めた張本人に箱を振ってみせた。
「ギナもどう?」
「結構だ」
素っ気ない返事に、相変わらず男にはつれないなあ、と笑いながら短くなった煙草を人差し指で軽く叩いた。灰の塊がほろりと落ちる。
そういえば、ギナが煙草吸ってるの見たことないし、そばで吸うなって言われたこともないや。くさタイプだから空気や水の質に敏感なはずだけど、どく複合だからあまり効かないのかな。などと考えながら紫煙をくゆらせる。カントーを旅していた頃は愛煙家仲間がいたから、よくふたりで喫煙所にこもったものだ。
「ねえ、彼の好きな銘柄は何だったっけ」
「さあな。忘れたよ。君の方が詳しいだろう」
「俺も忘れちゃった。薄情だね、俺たち」
「男の趣味嗜好など心底どうでもいい。今まで出会った全てのキティの好みなら幾らでも諳んじられるとも」
「あはは、歪みないねえ。きもちわる」
「何とでも言え」
他愛のない会話を交わすうちに〝根〟はウツロイドからオーラを全て吸い終え、今度は血液を吸い始めた。先程と違い、ぢゅる、ぢゅるる、と音を立てて飲み干していく。
ゴーシュが2本目の煙草に手を伸ばす前に、何もかも吸い尽くされて乾燥ワカメのようになったウツロイドからギナはようやく〝根〟を引き抜いた。そのまま〝根〟を伸ばしてゴーシュの頭に軽く巻き付け、赤いオーラを注ぎ込む。
どくん。自分という器が〝力〟で満たされていく感覚にゴーシュの心はぶわりと昂り、体中の血が沸騰したかのように熱を持つ。
この力を全て解放して、好きなだけ暴れ回りたい。砕いて、貫いて、引き裂いて、たくさん血を浴びたい。ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ
「ゴーシュ」
吹き飛びかけた理性が、ギナの声で引き戻された。2つの真紅の宝石が静かにこちらを見ている。……そうだ、まだ、今じゃない。猛っていた血と心が穏やかになっていく。
「ごめん。もう大丈夫。ちゃんと我慢する、できるよ」
「ああ」
〝根〟が離れたのを合図にゴーシュは本来の姿に戻る。通常のゲンガーより一回り大きな体を持つ彼は、すっかり縮んだウツロイドを嬉々として持ち上げ、頭からがぶりと齧り付いた。
むしゃむしゃ咀嚼するゴーシュをよそに〝根〟を腕に戻したギナがグラスフィールドを放つ。彼の足元を中心に真新しい草花が次々と芽吹き、ウツロイドの血で汚れた大地を覆っていく。ものの数分ですっかり元通りになったこの場所で、先程戦闘が行われたことなど誰も気付けはしないだろう。
ギナが後始末をしている間、ゴーシュは毛繕いも兼ねて体にこびりついた青い血を丁寧に舐めとった。気が済んでから擬人化すれば、彼の服の汚れは綺麗さっぱりなくなっていた。ポケモンが擬人化する際、皮膚や体毛などを服に変化させるタイプと、服は別途に調達するタイプに分けられるが、ゴーシュは完全に前者である。
「そら、次は君だ」
「うん。……さいみんじゅつ」
ゴーシュの目が妖しく輝き、彼を中心に不可思議な波動が放たれた。それは島全体に広がっていき、ここに暮らす全てのポケモンたちから意識と一緒に今夜の記憶を奪い取る。この〝後始末〟のお陰で、彼らが夜な夜なウルトラビーストを襲って回っていることは未だ誰にも知られていなかった。
全ての工程を終え、ゴーシュは近くの大木の影に足を踏み入れた。今日はもう少し暴れたい。
「それじゃ、次を探すついでに試運転してくるよ」
「あまり無駄遣いするなよ。馴染ませるためにオーラを浪費しては本末転倒だ。君は興が乗るとオーラを使い過ぎる悪癖がある」
「うん。〝殺すな・見つかるな・彼女の周りで騒ぎを起こすな〟でしょ」
「わかっているならいい。それさえ守ればあとは好きにしろ」
夜が明けるまでには戻れよ、という言葉に「はあい」と返して影の中に身を沈ませる。
さて、どこにあそびにいこうかな。