紅茶の日のお茶会

(7つのカップと、たったひとつの特別なポットの為に)

「さあ皆さん、今日は年に一度の特別な日です。

たったひとつのティーポットの為のカップはきちんと持ってきましたか?
このカップを持つ皆さんは、ポットに選ばれた特別な存在。

何故ならば、このたったひとつのポットから注がれる唯一の紅茶を

浴びるほど飲むことができるのだから!!」


中性的な声の美男子が声たからかに発言する。
いつの時代の貴族の屋敷かと思うほどのアナクロな丸い部屋に、影が7つ。


「今年初めてこの特別な日に参加される方も居るみたいですね。
緊張なさらないで、きちんと皆さんに紹介しましょう。

さあ席に着いて。

どの席に誰が座るのか、それはカップが知っていますよ」


言われるがままに着席するが、果たしてカップの導きかは判らない。
この行事自体がカップの導きなのかもしれなかったが、どうして自分は此処にいるのだろう。

机は大きな円卓。
自分の席の前には甘そうなお菓子がところせましと並べられている。

参加者は皆顔を隠しローブをまとっている。
まるで何かの儀式事のように感じるが、あながち間違いではないのだろう。



「皆さん落ち着きましたか?

ではカップを机の上にあるコースターに置きましょう。
そうしたら順に、紹介させていただきます。


よろしいですね?


ではまずはひとつめのカップとひとりめのアナタ」


席から立ち上がった者は、顔を隠していた仮面を取りローブを脱ぐ。

これはまたアナクロで、物好きそうな・・・所謂アブナイ趣味を持ち合わせていそうな紳士だ。
四十路は越えただろうに整った顔立ちが、ますます妙な色気と嫌悪感を醸し出す。

そんなひとりめは、友好的にも舐め回すようにも見える視線と笑顔で参加者を見渡し会釈した。

彼の前にはどす黒いチョコレートケーキや胸焼けしそうな生クリームケーキが、ひと切れずつところせましと並んでいた。

「彼は今日で5回目になります。そろそろ慣れてきたでしょうか。

ではふたつめのカップとふたりめのアナタ」


ひとりめが着席すると、声たからかにふたりめを呼ぶ。

立ち上がった者はまるで故人を偲ぶようなベールで顔を隠していた。
ゆっくりそれを外すと、おっとりとした雰囲気にもねっとりとした雰囲気にもとれる笑顔を浮かべた綺麗な女性の顔が覗いた。

ひとりめに比べたら若い。
とても嬉しそうな、だが何かを企むような笑みで回りを見回し会釈する。

彼女の前には、カラフルなマカロンがまるで花畑のようにところせましと並んでいた。


「彼女は皆さんの中でも長い間参加してらっしゃる方です。
初めて参加された時は、まだ幼さなかったですね。
今では素敵なレディです」

ふたりめが照れたように笑うと、着席する。


「ではみっつめのカップとさんにんめのアナタ・・・おっと失礼、手を貸しましょう」

それから同じようにさんにんめが呼ばれた。
だがあの美男子がにやりと笑い、すぐさまさんにんめに歩み寄る。
おかげでさんにんめが座っている椅子が今まで背を向けていた事に今更気付いたのだった。

なぜだろう。
不思議に思うが、他の者は慣れたようすで大人しくしている。


ゆっくり椅子が回転し、現れた者は異様だった。

「彼女はこの中では最年長の参加者です。
わたしとも長い付き合いでして、今日という日が心の奥底から楽しみなのも、彼女に逢えるからだったりするのです」


さんにんめの彼女は、椅子に拘束されていた。
緊縛され、繋がれ、ぐったりしたように椅子に深く腰掛けている。
目元を隠す白い仮面があって表情をうかがい知れない。


まるでひとりめの手が及んだのではないかと邪推してしまうが、そのひとりめはいやらしくも畏怖する視線を彼女に送っている。
ふたりめは、幸せな夢を見たあとのように笑んでいる。

他の者はまだわからない。


ゆっくりと美男子が仮面をとると、眠るように瞳を閉じた女性の表情が浮かんだ。
そのまぶたをゆっくりと持ち上げ眠たそうな眼を覗かせていくと、空色の瞳が周囲を見遣った。

拘束された彼女は会釈など出来ない。
彼女の前にはところせましとあらゆるティーカップが並んでいる。
会釈する代わりに彼女は笑んだが、作り物のようにも冷めきっているようにも、アブナイ趣味に染められたかのようにも見える笑みだった。


それからよにんめ、ごにんめと紹介されたが、初めのさんにんほど濃い印象を受けなかった。
きっと自分もまわりからみたらそうだろう。

「それではむっつめのカップとろくにんめのアナタ」


ゆっくり立ち上がり、顔を隠していた面を外しローブを脱ぐ。
面を外したことにより痛いほどに視線を感じた。


「彼は今回初めての参加者です。
どうぞ皆さん、よくしてあげてください」

言われてから思い出したように会釈する。

ひとりめは値踏みするように、ふたりめは美味しそうなお菓子を眺めるように、さんにんめは人形のように、それぞれ笑んでこちらを見つめる。
他のふたりからはやはり特別な印象を受けなかった。

「どうぞアナタも気を張らず楽にして。今日という特別な日を一緒に楽しみましょう」

美男子が言った。
それから椅子に座り直す。

いよいよ最後のひとり、ななつめのカップとしちにんめが残った。


「では最後に、ななつめのカップとしちにんめにして、主催者の特別なわたしから改めてご挨拶させて頂きましょう!」

肩書きが多い。
たからかに告げる美男子の声を聴きながらそう思った。
何より、仕切っていたとはいえ彼が主催だとは思わなかった。

「今日は年に一度の特別な日、そう、紅茶の日です!
主催のわたしとポットに選ばれし者達だけの特別なお茶会!

特別なポットから注がれる紅茶は今日この日にしか飲めません。
ただし、今日この日ならば好きなだけ飲めるのです!

この日のうちならどうぞ飽きるまでお飲みください!!
これっきりかもしれませんから、遠慮なんて要らないのです!!

カップが手の内にある間、アナタにはその権利があるのだから。

さあ乾杯の音頭を!!」


どこからともなく現れた女給がカップに紅茶を注いでいく。
見た目は普通、香りも特に気になる点はない。

なぜこんなに特別扱いするのか。
年に一度のお茶会だから、という理由では腑に落ちない。

なにせ自分は初参加だ。

参加者も只者ではないだろう、だが今は大人しくこの儀式めいたお茶会に参加する他はないのだ。

各人カップを手に取る。
拘束された彼女はただただ人形のように微笑んで自分のカップをと、無数に並ぶティーカップを眺めていたが・・・。

そんな彼女の隣に立つと、人の良い笑みを浮かべて美男子は厳かに告げた。

「それでは、乾杯」



*。
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