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魔女がいったい何処に住んでいるのかですって?

ΟΟΟΟΟΟΟ


魔女がいったい何処に住んでいるのかですって?
だめよ、あまりそういうことを気にすると、魔女に見つかってしまうから。

言ってる意味、わかるかしら?


ΟΟΟΟΟΟΟ



今日は一段と日差しが強い、そんな夏真っ盛りのとある日です。


わたし、『千夜田りね』は、魔女の呪いで8本の脚を持つ『それ』に変えられてしまったクラスメイトの『城田千寿郎』さんの呪いを解くべく、毎日のように調べものをしていました。
それでも素人のすることですから、どうしてもめぼしい情報は手に入りません。

そもそも、『魔女』というのも不可解なものです。
わたしはけして、そのようなファンタジーワールドに住んでいるわけではありませんし、でも、魔法やファンタジーがあったらいいな…と夢想したことはたくさんあります。


でも、千寿郎さんを『それ』に変える瞬間を見てしまった私は、嫌でも信じざるを得ませんし、何よりもあれを『魔女』と称さずしてなんと呼べばいいのかわたしにはわかりませんでした。


わたしははじめ、図書館や本屋さんなどを活用していましたが、千寿郎さんの提案でインターネットなども活用しています。
が、史実や伝説、オカルトチックな話題ばかりで、わたしが知りたいことはいまひとつでした。
それでも何かの参考になるかも、と、眉唾な話から本格的な話まできちんと目を通すようにしていますが…。


夏休みまでもうあと数日なので、夏休みが始まったらもっと遠いところへも調べに行こうと思っています。



そうなのです。そんなこんなで、夏休みまでもう指折りなのです!
授業も午前授業に切り替わり、いつもより早い帰路を歩んでいました。



今日は一段と日差しが強い、そんな夏真っ盛りのとある日。

そのはずだったのですが……。


「……おかしい」


いつも通りの帰り道のはずなのに、知らない場所に出てしまいました。
暑さにやられたのでしょうか、それにしてはここはどこか涼しい…。

そこはどこかの庭園のようで、腰くらいの高さの生け垣には薔薇の花が咲き連なっていました。
でも、住宅街を歩いていたはずなのでそれはおかしいのです。
帰り道にこのような場所はありません。


やっぱり暑さにやられて道を誤ったのか、幻覚でも見ているのかしらと、引き返そうと振り返りました。



「え……」


振り返ると、背後にも庭園が広がっていました。
わたしは、住宅街を、歩いていたのです。

どういうことなのでしょう。
仕方なしに、来た道とは違うけれどそのまままっすぐ歩いて行きます。
もしも知らず知らずに迷い込んだなら、きっともとの道に出る。
そんなことを思ったのですが、もとの道に出ることはありませんでした。


「どうしよう…」


急激に心細くなります。
鞄の中には、千寿郎さんがいます。
小さな箱に『それ』が入っているのです。
なので、わたしは千寿郎さんを取り出すという発想はありませんでした。
そのために一人で途方にくれていると、背後から声がかかります。


「あらぁ?」

わたしは反射的に振り返りました。
するとそこには………お姫様………でしょうか。
長く細い縦ロールの金髪を結い上げリボンで飾り、白くてふわふわのサマードレスと、きっとそれに合わせた白い日傘を持った女の子…。


「珍しいわぁ、こんなところで人に会うなんて…」

たおやかでゆったりねっとりとした、可愛らしい声でした。


「あ、あの、わたし、道に迷ってしまったみたいで」

「そうなの?どうしてかしらぁ…」


ゆっくりゆっくり彼女は近付いてきます。
ふんわりと、薔薇の香りがします。

目の前で立ち止まられ、じっと見つめられます。
わたしは戸惑い、照れながらも、目を逸らせませんでした。


「……あらぁ、あなた、面白いものを持っているのねぇ」


不意に小首を傾げてそう言います。
果たして何のことなのか、いまひとつ判りませんでした。


「あなたのお名前は?」

「わたしは、千夜田りねと申します」

「そう…」


それきり彼女は黙ってしまいました。
ええと、名乗ってはくれないのでしょうか…。


「あの、あなたは……」

「知らない方がいいわぁ。これ以上、こっちに来てはいけないもの…。魔女の仕業でしょう?りねちゃん、面白いものを鞄に隠してるもの」

「えっ」


驚きました。
千寿郎さんのことがバレていました。

「経緯はわからないけれど……ダメよぉ?そんなものを持って歩いたら……それに、最近魔女に近付こうとしているのでしょう?」

彼女はまるでわたしに口付けをするかのごとく、頬に手を添えて、近付いてきて言いました。
思わずドキリとします。


「だからこんなところに迷い混んだのよぉ…」

まるで私を慈しむかのように頬を撫で始めます。
そして耳元で、そう囁かれました。
くすぐったさと気恥ずかしさからも逃げ出したくなりましたが身体が動きません。


「知ろうとすればするほど、こういうことでは済まなくなるわよぉ?いいの?」

「……っ」

耳に吐息がかかります。
何故でしょう、なんだかぼんやりとしてきました。
彼女がわたしに触れ、囁く声だけがしっかりと感じられます。


「あ……あの……」

「なあに?」

「あなたは……魔女なの……?」

「あらん…ダメよぉ…」


わたしは、彼女に抱き寄せられてしまいました。
彼女の身体は冷たくて、夏の暑さにはありがたく思えそうです。
それとは裏腹に、わたしはたいへんどぎまぎしてきました。


「ダメ………りねちゃん、そんなこと訊いては、ダメよぉ……?」


今までよりもねっとりと、可愛らしく、彼女は言いました。


「でも、わたしは、千寿郎さんを……千寿郎さんをもとに戻したいの……」

「せんじゅろうさん、ていうのねぇ?その鞄の中のオトコノコ」

「はい…」

「どうしても?」

「どうしても……」

「ふうん」


ゆっくりゆっくり、彼女は離れました。
離れてはいますが、抱き寄せられたままなので、十分距離は近いのですけれど。


「りねちゃんの力になることはできないと思うけれど、少しだけ力を貸してあげるわぁ…」

「え…?」


彼女が可憐に笑うと、片手でわたしの目をおおいました。
それから間もなく、彼女の唇がわたしの唇に軽く触れました。
こ、これは───!


「もう会うことがないとよいのだけれど。だって、可愛らしい女の子が危険な目に遭うなんて嫌ですものぉ……」

そう囁きながら、ゆっくりと彼女が離れていきます。
尾を引くようにくすくすと笑い声がしました。

照れと驚きから、身体はぎこちなかったのですが、目を開けるとそこには彼女の姿も、薔薇の庭園もなく、いつの間にか自宅前なのでした。


「……白昼夢、だった?」


夏の暑さは変わらず、けれど、どこか背筋の凍る気持ちのままわたしは家に帰りました。

千寿郎さんには、何故だかこのことを、話せませんでした…。

あの女の子は、きっとわたしに忠告をしてくれました。
それでもわたしは、大嫌いな『それ』と化した千寿郎さんを、救いたいのです。


あの女の子は、一体何者だったのでしょう。
そしてなぜ、わたしに、キスを……。



「千夜田さんどうしたの?ぼーっとして、顔が赤いけど、熱中症?」

「えっ、あっ、なんでもないの…………って千寿郎さああああああんんんん!!いやあああ!!!見えるところに居ないでえええ!!!」

「ごめん!!つい気になって!!」


ええ、わたしはきっと、千寿郎さんを……ああ、前途多難とはこのことですね。
わたしなりにがんばります。
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