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魔女というのはとても気まぐれなもので、

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魔女というのはとても気まぐれなもので、そもそも彼をその姿に変えたのだって「この私がタイプじゃないなんて生意気よ!」というわがままからだったのです。


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わたし、『千夜田ちよだりね』は、クラスメイトの『城田千寿郎きたせんじゅうろう』さんと、ひとつ屋根の下で暮らしています。
でもわたしの家族はそれを知りません。
当然、高校生の私は、父と母と共に実家で暮らしています。

ではなぜ、それが可能なのかというと………。


「ひ、ひやああん!千寿郎さん!やめて!ああん!」

「ご、ごめんよ。そんなつもりは」


わたしと千寿郎さん以外は誰もいない、日曜の昼下がり。
リビングで寛いでいると、『それ』は突然わたしの目の前を横切ったのです。

わたしの手のひらに乗るほどの、あまり大きくはない、8本の脚を持つ、『それ』。
わたしは『それ』が大の苦手で、所謂、恐怖症でした。

なので、わたしは叫んで、素早くソファの後ろに逃げ込むのです。


「お、おねがいだから、千寿郎さん……!視界に入らないで…!」

「千夜田さん、ごめんね。すぐに見えないところに行くから」


わたしは『それ』を、千寿郎さんと呼びます。
何故なら、『それ』が、クラスメイトの『城田千寿郎』さんだからです。

もちろん、千寿郎さんは、はじめから『それ』だったわけではありません。
魔女の呪いで、『それ』に変えられてしまったのです。
悪い冗談のようですが、残念ながらわたしはその瞬間を見てしまい、そのため『それ』になった千寿郎さんを保護する形で我が家に匿うことにしたのですが…。


「もう、いない?大丈夫?」

「大丈夫だよ。千夜田さんの視界に入らないところで一緒にテレビを観てもいいかい?」

「え、ええ。構わないわ……」


声は震え、体も強張り、鼓動は速まっています。
わたしは『それ』がとても、恐怖症というほどには、嫌いなのです。
申し訳なさそうな千寿郎さんの声に、私もとても複雑な気持ちにはなるのですが、本当にわたしは『それ』が無理なのです。


それでも、わたしがあのとき千寿郎さんを保護したのは、『それ』が『城田千寿郎』さんだと解っていたから。
もし、『それ』をそのままにしていたら、自然界を彷徨うことになり命を落としていたかもしれません。
人間に駆除され、危うくは踏まれ、もしくは捕食者に狙われ…………とにかくわたしは放ってはおけませんでした。


幸いにも言葉は通じますし、人と会話するのと同じように千寿郎さんもお話ができます。
でも、お話をするときはけして千寿郎さんを見ませんし、千寿郎さんもわたしから見えないところで話しかけてくれます。

だって、千寿郎さんは『それ』なのですから。



そうした理由から、『城田千寿郎』さんは、ひっそりこっそりわたしの家で暮らしています。
現実の『城田千寿郎』さんは、なんと高校生にして独り暮らしをしています。
なんでも、高校進学のためにわざわざ親元を離れたのですって。
そのため幸いにもご両親に心配をかけることはないのですが……学校は、夏休みを目前に残念ながら欠席中です。
上手く誤魔化してはいるものの、ずっとこのまま休み続けるのは大変です。


千寿郎さんのごはんは、虫を食べるのかと思いきや、人間が食べられるものを食せるようで、わたしのごはんをわけています。
不思議なことはたくさんありますが、魔女の呪いですから、完全に本物の『それ』になることもないのでしょう。

ただ、わたしたちは虫の寿命や、今後の『城田千寿郎』の人生を心配しています。


「わたし、必ず千寿郎さんの呪いを解く」


わたしは千寿郎さんを我が家に匿ったあの日、恐怖に気が遠くなりながらも『それ』をしっかりと見詰めて宣言したのです。
そのあとすぐに、目視に耐えきれなくなって叫びながら逃げてしまいましたが、『それ』を『城田千寿郎』へと必ず戻すわたしの覚悟の表明でした。



それでも、やはり、わたしは、『それ』を………。



「………あっ」

「………え?……ひやあああああ!!!!!」

「ごめんごめんごめん天井に居れば間違いないと思ったんだ!足を滑らせるなんて思わなかった!!」

「わ、わたしの頭上禁止ですうううう!!!!あああああ!!!!いやああああああん!!!!」



なんと、足を滑らせた千寿郎さんは、わたしの膝の上に落ちてきました。
千寿郎さんたら、抜けてますね。

などと思う余裕は、わたしにはありません。


あっ、気が遠くなって来ました。



果たしてわたしは、このまま千寿郎さんとやっていけるのでしょうか?
このためにもはやく魔女の呪いを解かなくてはならないのでした。

がんばります。
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