あなたとわたし ※短編集
─No side
用意された椅子に座り、背筋をぴんと伸ばしては微動だにしない少女に向けられる数多の視線。
むかしむかしの【コスモス軍】拠点。とある異世界から──のちに『サクラ』と名付けられる──少女を連れ出したナナは、三人の仲間達と頭を悩ませることに。
「……なーんも言わないな」
腕を組むベータが目を細め、妹のセレも手のひらを頬に当てる。
「自分が置かれた状況を理解していない……とか?」
「この際感情なんて二の次よ。ひとまず【神王】の力を捕獲できればそれで」
クレアは溜め息混じりに手を軽く振り、ナナは困ったように眉を八の字に曲げた。
「せっかくならもっと感情を知ってほしいけど……」
「……」
「……すぐには無理っぽいかー」
半身であるはずのナナにもこの
場に流れる微妙な雰囲気を変えるべく、「よし!」とナナは息盛んに掌と拳を打ちつけた。
「一緒に楽しいことをしよう! 私が教えてあげるっ」
座る少女の手を引き何処へと連れ去るナナ。
彼女の背にベータが「おい」と手を伸ばすも、クレアに引き止められる。
「放っておきなさいな」
「しかしだな……」
「きっと大丈夫よ。あの子なら」
信頼を滲ませる親友の言葉に。
「……だと言いけどよ」
不安を抱きつつも、ベータは押し黙った。
「ここが私の部屋! ……と言っても、他のみんなほど物はないけどね」
ナナが真っ先に連れてきたのは自室。少女から手を離し、部屋の中心でくるりと一回転。
「君の部屋も用意してあるからあとで案内するね。何か気になるものはない?」
入口で佇む少女は視線を動かしもしない。あはは、と愛想笑いするナナは少女をベッド縁に座らせる。
「これ知ってる? 漫画、っていうんだけど、一枚一枚にイラストと文字があってお話になってるの! ……あ、でもまだ文字が読めないんだよね。それなら本もダメかー」
何か楽しめるものはないかなと棚という棚から物を取り出しては投げ、取り出しては投げる。
ようやく見つけたのは、いつぞやに手に入れたお手玉。
「これは簡単だから君にもできるよ! こうやって……投げて遊ぶの。やってみて!」
スルー。
こちらを見ようともしない少女に、ナナは笑顔で伸ばした手をすっと引っ込めた。
「そうだよね、これはその……アレだもんね、うん」
あまりの温度差に自分で自分に引く。彼女だっていい歳(?)だ。子供っぽいのは好まないかもしれない。
うーんと首を捻ね、頼みの綱はないものかと部屋中を忙しなく見渡す。
視界に入った『それ』に、ナナは再び笑顔を取り戻した。
「えへへ、お隣失礼しまーす」
少女の体がスプリングで揺れる。隣に座り、徐に『それ』の表紙を開いた。
「これはね、写真だよ。風景を手元に残しておけるの」
ナナが持ってきたのは一冊の『アルバム』。自身が旅した異世界の景色を現像し、丁寧にまとめたものだ。
「似たり寄ったりかもしれないけど、これを見るたびにその世界の思い出が蘇るんだ」
愛おしげに目尻を落とすナナが優しく手を触れる。
そこで遂に──少女が、ナナの太ももに置かれたアルバムを見遣る。
写真に目を奪われていたナナが気づいたのは、少女の手が自身の手と重ね合わせるかのように触れ合ったとき。
驚き見れば、虚な瞳に色鮮やかな風景を映し出されている。
「……し、てる……」
「……『知ってる』って言いたいの?」
こくんと頷き返した少女に、目を潤ませ「そっか」と破顔する。
「今度は一緒に現物を見に行こうね!」
「──なーんてこともあったわけよ」
「……」
「いや〜ほんとーにあの時は(今もだけど)、可愛かったな〜うんうん」
「や、やめてよ、ナナ。恥ずかしいじゃない……!」
「……」
わざとらしく頭を振りかぶり当時の思い出をいやらしく語る片割れに、当の本人は頬を紅潮させている。
のを、目の前で見せつけられているのは。惜しくもその場面に遭遇しなかったケイスであった。
チラチラと『羨ましいでしょ』と勝ち誇った笑みで視線を向けるナナに、舌を鳴らしたい気持ちを押し殺し半目でココアを啜る。
「実はこの話には続きがあって……」
「あ、あの話をするつもりならやめてよね!」
「なら、今の服になった経緯について……」
「もっとダメーっ!」
「え〜? 話したいのにな〜⁇」
(うっっっっっざ。マジうざい。話す気ないなら振るなし)
飲み干したカップを机に置き、嘆息。部屋に戻ろうと席を立ったケイスに「どこ行くのさ」と声がかかる。
「僕は『邪魔』みたいだから帰る」
強調された言葉は知らんぷり。ナナは「ああそう」とローブの裾を翻し立ち去るケイスを見送った。
「怒らせちゃったかな……」
「んー、サクラは気にしなくていいよ。私に対して怒ってるだけだから」
「そ、そう……? あとでちゃんと謝るんだよ」
「気が向いたらね」
もう、と眦を釣り上げたサクラに、ナナは優しく目尻を落とす。
「昔の話、されるの嫌?」
サクラは胸元をそっと握りしめ、首を横に振る。
「そうじゃないの。ただ……」
「ケイスには知ってほしくない?」
無言で頷いた片割れを、温かな眼差しで見つめる。
「……自分でもよく分からないのだけれど」
「大丈夫。きっと分かってるよ」
サクラは僅かに綻んだ後、ナナと目線を合わせた。
「昔の話をしたくないのは……ナナもでしょう?」
軽く瞠目したナナが誤魔化そうと口を開く前に──サクラが踏み込んだ。
「王様達もきっとナナを待ってるよ。だから」
「──サクラ!」
かつてない“拒絶”の声音に肩を大きく震わせる。
沈黙を重ね、平静さを取り戻したナナは椅子から立ち上がった。
「さて、そろそろ行かなきゃ。まだ《エターナルスター》見つかってないし、急がないとね」
物言いたげなサクラを置き去りに談話室から退室。
閉めた扉に凭れ、湧き上がる感情を堪えるように奥歯を噛み締める。
(私はもうあの国に必要ないの)
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