SSまとめ

君とハロウィンナイト


 西陽が照りつける茜色の街並みを、大勢の人々が埋め尽くす。
 皆それぞれ色鮮やかな装束を身に纏い、手に提げるのは一部を切り抜かれたカボチャのランタン。
 今宵はハロウィン。怪物達の仮装をした者達が街を練り歩く不思議な日。
 賑わいを見せる中。フード付きの黒衣を羽織る少年――ヴェレットは一人、異世界にて巡回していた。
 その理由はただ一つ。祓魔師としての役目を果たすため。
 現世と彼岸の境目が曖昧になる今日こんにち。仮装を楽しむ生者に紛れ、『おいた』をする死霊は毎年少なからずいる。そんな悪霊を見つけ次第追い払うのがヴェレットの役目。料理人やらなんやらとよく間違われる彼だが、本業はこちら。

「「「トリックオアトリート!」」」

 かわいらしい二人の子供が声を揃えてお菓子をねだる。

「はい、どうぞ」

 ご自慢の腕前を存分に発揮したお菓子を分け与えれば、子供達は顔を見合わせきゃっきゃっと笑う。

「「「ありがとう、お兄さん!」」」

 そうして脇を通り過ぎた子供のひとりを、ヴェレットは捕まえる。
 二人の子供は何事もなく――まるで初めから二人だったように――別の大人に声を掛けていた。
 腕を掴まれた子供は無言でヴェレットを見上げる。

「……トリック?」

 ややあってヴェレットはふ、と笑みを讃えた。

「イタズラはほどほどに、ね」

 腕を解放されるや否や駆け出した子供は、どこに行ったのだろうか。
 目を細めたヴェレットはフードを深く被り、一番星が輝く空の下を歩み出す。
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