ゆるミリ

滑舌勝負


「古代語ってさ、結構言いづらいよね」
「そうか?」

 首を傾げるアステルに、リアムはぎこちなく口を動かす。

「そうだよ! エメス、エルラとか」
「エメスエルラ」
「ダグラシルートとか……いやこれは言えるな。テフュブ……」
「テフュブトール・クテフェフ。あ、じゃあエンリテェデは?」
「えんりてぇーで」
「伸ばさない」
「……えんりてて!」
「なんで言えないんだ?」
「君達が滑舌良すぎるの‼︎」

 すらすらとリアムが口にした単語を繰り返してきたアステルは、どうやらピンとこない様子。

「そう言われてもあんま気にしたことねぇしなー……」
「それじゃあゲームしようよ! 炙りカルビゲーム!」
「おう! やろうぜ!」
「なんのゲームか知ってるの?」
「全く! 説明してくれ」
「炙りカルビゲームはね……」


 まずお題を決めます。ここでは例として「炙りカルビ」にします。
 次に先攻後攻を決めます。
 先攻の人が「炙りカルビ」と言ったら、後攻の人は「炙りカルビ」「炙りカルビ」と先攻の人が言った回数を一個増やして繰り返します。逆も然りです。
 これをどちらかが噛むまで繰り返します。


「理解した?」
「……多分」
「一回やってみようか。とりあえず僕が先攻ね」
「わかった」

 リアムはすうっと息を吸い込み、真剣な目付きで先攻する。

「炙りカルビ」
「炙りカルビ炙りカルビ」
「炙りカルビ炙りカルビ炙りカルビ」
「炙りカルビ炙りカルビ炙りカルビ炙りカルビ」

「くっ……。炙りカルビ炙ッッ……。噛んだあああああ!」
「これは……俺が勝ったってことか?」
「そうだよ! もっと喜んでいいんだよ! ってか喜べ!」
「わ、わーい」
「雑ぅ‼︎」

 勢いよく指を指すリアムに、アステルは苦笑い。
 本人にしては朝飯前程度のようだ。

「簡単過ぎて喜べねぇ。あ、でもルールは理解した!」
「ちゃんとルール通りに出来てたしね」
「違うのねぇの?」
「んー……あるけど僕じゃ相手にならないのばっかりだな……」
「そんじゃあルシャント呼んでくる!」
「え、あ、うん……めんどくさいって言いそうだけd。来たああああ……」
「リアムリアム! もう一回説明して!」

 アステルが何処からか連れてきたルシャントにも、同様にルールを説明する。……終始ジト目だったが。

「理解した?」
「した」
「けどあれでしょ。くっだらなって思ってんでしょ」
「思った」
「このやろっ」
「僕、リアムとやりたいこれ」
「やだ。そうやって虐める気なの分かってんだからね!」

 ふんっとそっぽ向くリアムに対し、アステルはなあとルシャントに話しかける。

「俺はルシャントとやりたい! ダメか?」
「ダメじゃないけど……虐め甲斐無いし」
「今小声で虐め甲斐無いって言ったなお前ぇ!」
「えーやろうぜー。はっ。もしかして俺に勝てないと思ってんのか?」
「へぇ……そこまで言うなら受けて立ってあげようじゃない」

 珍しいアステルの煽りにルシャントが乗せられたところで。アステルはリアムを見遣る。

「よしっ! じゃあ……リアム、なにかお題出してくれ」
「はーい」

 リアムはインターネットで二人に相応しいお題を検索し始めた。
 うーんと暫く悩んだが、とあるお題を見つけると、思わずにやけてしまうのを堪えて携帯電話の画面を二人に見せる。

「決めた! お題はこれね」
「「『ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ』?」」

(ニャンコってなんだろう)
(ニャンコってなんだ?)

「おー、早速言えてる」

 感心したようにリアムは言うが、頬がひくひくと動いてしまっている。
 アステルは「意味は理解出来ないが言いにくそうだな」とやる気に満ち溢れていた。

「……なに笑ってんの」
「いや別に? じゃあ先攻はアステルね。さっき後攻だったから」
「おう!」
「行くよー? よーい……スタート!」

「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」
「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコ」

「っ……」
 アステルの攻勢に、ルシャントの顔が僅かに歪んだ。

「ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコ子ニャンコ孫ニャンコニャンコニャンニャン」

「あっはははははは!」
「っしゃああああああ‼︎」

 惜しくもルシャントは間違えてしまい、アステルの勝利となった。
 笑いを堪えていたリアムは盛大に吹き出し、アステルは勢いよくガッツポーズを決めた。

「ニャンニャンだって、ニャンニャンだって(二回目)」
「煽りだと判断していいそれ? ねえ⁇」
「攻撃しないで」
「すっげー嬉しい! マジで嬉しい! さっきより数百倍嬉しい‼︎」
「……ちょっと傷付く」

 リアムの呟きをスルーし、アステルはルシャントに話しかける。

「最後きつかったか? 間が少し空いてたけど」
「君がすらすら言うからだよ」
「ルシャントもなかなか良い勝負だったよな。あっぶねーってなったもん俺」
「うん。良い勝負だったよね。じゃあ次は……」

 ぎくっと逃げ出そうとしていたリアムの肩が跳ねる。

「ぎゃああああああ‼︎」
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